第126回「2017年国会を象徴する、8回の“慣例破り”」(南部義典)

第126回「2017年国会を象徴する、8回の“慣例破り”」

 一年を振り返るにはまだ早い気もしますが、今回が年内最後の掲載となることから、「2017年国会」を総括します。国会が開かれたのは1月20日~6月18日(通常国会)、9月28日(臨時国会)、11月1日~12月9日(※閉会予定、特別国会)の計190日間です。前半は共謀罪法案が、年間をほぼ通じて、森友・加計問題が焦点となりました。
 
 ところで国会には、委員会の運営などに関する取極めとして、長く「慣例」とされてきたものがあります。似た用語に「先例」がありますが、先例が生まれて、その内容に従って長年、継続的な運用がなされたとき、その先例は「慣例」となります。衆議院には衆議院の慣例があり、参議院には参議院の慣例があります。両議院でその内容が共通するものもあります。慣例は、国会法、衆参の議院規則に明文で規定されているわけではないものの、必要不可欠な「不文のルール」として、すべての議員、会派が尊重してきたものです。

 タイトルで示したとおり、2017年国会を象徴するのは、多発した“慣例破り”です。慣例は、一年間で8回、破られました。どんな慣例破りがあったのか、改めて思い起こしておきましょう。

慣例破りのケース

 第一に、法案審議を「先入先出」で行うという慣例が破られました。
 先入先出とは、工業簿記・原価計算を学んだ方なら馴染みがありますが、国会用語としては、先に提出された法案から順に審議を進めていくという原則と理解してください。
 時系列を整理すると、内閣は3月7日、性犯罪に対する厳罰化などを内容とする刑法改正案を衆議院に提出し、その2週間後の21日、共謀罪法案を提出しました。先入先出の慣例に従えば、衆議院では刑法改正案を先に審議し、これが議了した後に共謀罪法案の審議を始めるべきだったところ、4月6日の衆議院本会議では、刑法改正案を後回しにし、共謀罪法案の審議を始めてしまったのです。

 第二に、政府参考人の招致を、全会一致で決めるという慣例が破られました。
 委員会で法案審議を行う際、議員が行う質疑のすべてに対し、大臣が答弁するわけではなく、専門的・技術的な事項に関しては、政府参考人(局長、審議官といったポストの官僚)が対応します。政府参考人を委員会に招致するには、その都度、与野党すべての会派が一致して決定するという全会一致原則の慣例があります。しかし、共謀罪法案を審議する衆議院法務委員会は4月19日、この全会一致原則によらないで、法務省刑事局長を政府参考人として招致することを「多数決」で決しました。
 
 第三に、政府参考人の招致は、その都度、委員会で決するという慣例が破られました。
 政府参考人は、委員会が開かれるたびに、必要に応じて招致すべきものであり、その決定は、委員会の冒頭で行うことが慣例となっています。しかし、衆議院法務委員会は第二の慣例破りの2日後(4月21日)、法務省刑事局長を「常時出席」させることを多数決で決しました。

 第四に、参議院で、第二・第三の慣例破りがまとめて行われたことです。
 参議院法務委員会は5月30日、衆議院から送られてきた共謀罪法案の審議を行うに当たり、法務省刑事局長を政府参考人として「常時出席」させることを「多数決」で決しました。法案審議の初回冒頭での出来事でした。

 第五に、参議院で、「中間報告」という異例の審議打切りが行われたことです。
 中間報告とは、端的にいえば、委員会の法案審議の経過を、委員長が本会議で報告することです。国会法に直接の根拠規定があり、衆議院、参議院でそれぞれ行われた例があります。委員長が野党会派に所属する場合が典型ですが、委員会の法案審議が順調に進まないような状況で、本会議において委員長に状況報告を求め、議決するという“早道の奇策”といえます。
 しかし、6月15日の参議院本会議では、与党会派(公明党)に属する法務委員長より、共謀罪法案の中間報告の聴取が行われました。繰り返しますが、委員長は野党会派ではなく、与党会派の所属です。採決の結果、共謀罪法案は可決、成立しました。

 第六は、衆議院、参議院が同日、同一人物の証人喚問を行ったことです。
 これは、慣例破りというより、先例にないことをやってしまったという方が正確かもしれませんが、3月23日の午前・午後、参議院予算委員会、衆議院予算委員会がそれぞれ開かれ、籠池康博氏(当時・学校法人森友学園理事長)の証人喚問が行われました。
 籠池氏喚問の日程をめぐっては、与党と野党との間、衆議院と参議院との間で複雑な綱引きがありました。衆議院が3月23日午後の日程を先に抑えてしまったために、参議院は面目を保つために、当日午前の日程を押し込まざるをえなかったのです(思えば当時、参議院予算委員会は政府予算案の審議中であり、しかも3月16日には小学校建設予定地の現地視察を行っており、籠池氏の証人喚問を行うとすれば参議院側にプライオリティを置くべきでした)。衆議院、参議院が同日、同一の証人を奪い合うような構図になってしまいました。
 
 第七は、党首討論が一度も行われなかったことです。
 制度がスタートした2000年には、8回行われました。以後、2001年7回、2002年5回、2003年6回、2004年5回、2005年5回、2006年4回、2007年2回、2008年3回、2009年2回、2010年3回、2011年4回、2012年3回、2013年2回、2014年1回、2015年2回、2016年2回と、頻度はかなり低下しつつも実施されてきました。2017年は初めて、「開催ゼロ」の年になってしまいました。

 第八は、委員会における質疑時間の配分が、与党側に手厚く変更されたことです。
 委員会における与野党会派の質疑時間の配分は、一律に決まったものはなく、衆議院予算委員会の集中審議であれば近年、与党:野党=1:4という配分比が維持されてきました。ところが、11月の特別国会の召集後は、配分比を見直し、与党側を手厚くすべきであるとする議論が急浮上し、事実、そのような変更が行われました。加計学園問題に関する質疑が行われた衆議院文部科学委員会(11月15日)では、与党:野党=1:2(1時間20分:2時間40分)という配分になりました。また、11月27日・28日の両日に行われた衆議院予算委員会(すべての大臣が出席する基本的質疑)では、与党:野党=5:9(5時間:9時間)となっています。じわじわと、与党寄りの配分が進んでいます。

 以上のとおり、2017年国会は「“慣例破り”が慣例化していた」といえます。

慣例破りの原因は?

 一年間でなぜ、これほどの慣例破りが進んだのでしょうか。
 何より、内閣の都合ないし安倍総理個人の願望に基づいていることは、疑う余地もないでしょう。
 第一は、共謀罪法案の審議が参議院で時間切れとなることを避けたもの、第二から第五までは金田法務大臣(当時)をできるだけ答弁させないようにする「金田隠し」、第八は「モリ・カケ隠し」の一環として行われたと考えます。
 
 この点、第八の質疑時間配分の見直しは、自民党の若手議員の発案、取り組みによる成果だと見る向きもありますが、その背景は冷淡に分析する必要があります。
 10月27日の昼、自民党2・3回生議員有志が森山国対委員長のもとを訪れ、与党議員の質疑時間を増やすよう要請を行いました。しかし、同日午後1時30分すぎには、萩生田幹事長代行が総理官邸を訪れ、質疑時間配分の見直しに関して安倍総理から直接、指示を受けています。たった数時間内の出来事ですが、タイミングがあまりにも良過ぎるのではないでしょうか。官邸主導の見直しと批判されることを避けるため、一部の若手に「言わせた」のではないかと、私はいまだに疑念を持っています。

 非難されるべきは、「永遠の与党」思想から脱却できない自民党です。現在は多数派を占めているので、多数派に有利な運営ルールを築き上げていきたいという動機が単純に作用しています。しかしそれは、多数派である間だけの、有利な状況に過ぎません。多数派から少数派に転じた場合、自分たちが与党時代に築き上げたルールの下、不利な立場に逆に追い込まれてしまうことが想像できていないのです。議会人としてあまりにも浅はかです。議会制民主主義の健全な発展を阻害するばかりです。

 第七の党首討論「開催ゼロ」は、野党側に原因があると考えます。
 党首討論はそもそも、与党側から野党側に対して「党首討論を実施して下さい」とお願いする類のものではありません。野党側から与党側に対して、その開催を要求する必要があります。また、党首討論は、衆議院、参議院の国家基本政策委員会が合同して行われる委員会という枠組みである以上、野党側からの要求は、衆議院側だけ、参議院側だけというわけにはいかず、衆参の方針を一致させてから揃って、与党側に示す必要があります。
 しかし、前回(第125回)指摘したところですが、現在、議院運営の主導権の一翼を担う野党第一会派が、衆議院は「立憲民主党・市民クラブ」、参議院は「民進党・新緑風会」と分かれて(ねじれて)しまっています。希望の党合流騒動(9月)の余波もあり、衆参の意趣合わせが上手くいっていません。
 1回45分間の党首討論よりも、半日(3時間)、一日(7時間)という長さで行われる予算委員会(集中審議)の方が、安倍総理を追及するには効果的であるという意見も、野党には見られます。もちろん、そういう効果的側面もあるものの、政治家どうしの丁丁発止の討議の機会はどこで確保されるのか、国会の存在意義にも関わる議論がなおざりにされてはなりません。

立憲政治のイノベーションを

 慣例破りによって、立憲政治のイノベーションが実現するのであれば何も文句はありません。しかし、現実に繰り広げられているのは、前世紀的な、数の力がむき出しになった多数派政治です。憲法を改正しさえすれば政治が良くなるという夢物語も語られていますが、もっと低位の、リアルな政治の動きに着目し、是正していく作業に力を込めなければ、すべてが掛け声倒れに終わります。

 「平成」のカウントダウンが始まりました。新しい元号に替わった後まもなく、国会は第200回の節目を迎えます。制度を活かすも殺すも、人次第です。2018年は、破られた慣例を元に戻す作業を通じて、国会を復興させる年にしなければなりません。

◎私の講演会のお知らせです。ご関心のある方は、ぜひお越しください。
・テーマ「国民投票のルールと憲法改正論議のいま」
・2017年12月9日(土) 13時30分~15時30分
・昭島市公民館 学習会議室(東京都昭島市つつじが丘3-7-7、JR昭島駅[北口]から徒歩約8分)
・参加料500円(学生無料)
・主催 昭島まち楽会
・お申込み方法等はこちら

◎イミダスに寄稿しました(2017年11月17日付け)。ご高覧いただければ幸いです。
「それでも、改憲論議は進まない ――立ちはだかる5つの問題」

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) 写真:吉崎貴幸