横浜のみどりを未来につなごう。3万6千人の思いをさらなる力に(田端 薫)

 横浜市磯子区に位置する円海山周辺は、私の大好きな散策エリアだ。尾根伝いに鎌倉まで続くハイキングコースもあれば、家族づれにぴったりの自然観察の森や公園などの遊び場もある。とりわけ気に入っているのは、横浜最大の蛍の生息地として知られる瀬上沢に抜けるコース。杉木立の急斜面を下り、樹林に囲まれた瀬上池を過ぎると急に視界が開け、瀬上沢に至る。小さなアップダウンを繰り返しながら、この明るい谷戸にたどり着いたときの充実感、解放感は格別だ。この「瀬上市民の森」からバス停へ向かう道のわきは、金網塀に囲まれた雑木生い茂る一画になっていて、いつも気になっていた。立ち入り禁止となっているけれど、何かできるのかしら。ここも市民の森になればいいのに、まさかマンションとか、できるわけじゃないよね……。

 その不安が的中しそうだと知ったのは、本サイトの「つるちゃん&やっすんの『横浜6万人住民投票』奮闘記」を読んでから。あの緑豊かな一画の樹木が伐採され、谷が埋め立てられ、宅地・商業施設として開発する計画案が、2017年度内に決定される予定という。そこに待ったをかけたのが「横浜のみどりを未来につなぐ実行委員会」の住民投票条例の制定を求める署名活動だ。開発計画の賛否を住民投票で問おうという画期的な試みである。

 私のまわりでも署名用紙が回された。横浜の自然を守ろう、緑を残したいという趣旨には即賛成してくれるけれど、いざ署名となると筆が止まることも。「えーっ? 生年月日まで書くの?」「判子持ってないわ。拇印? なんだかいやだわ」「港北区じゃなくちゃだめなの? 横浜市民なのに」などなど、ためらう人が続出。くわしくは「つるちゃん&やっすん〜」をお読みいただきたいのだが、今回の署名は、街頭や集会でよく行われている改憲反対とか脱原発などのふつうの署名とはちょっと事情が異なる。住民投票を求める法定署名というもので、氏名、住所はもちろん捺印、生年月日まで記さなければならない。しかもとりまとめる「受任者」とおなじ区民でなければならない、などなどややこしい。署名をお願いする側も法定署名の仕組みについて十分理解しているわけでもなく、短い時間に説明するのもしどろもどろ。とにかくそういう決まりなのよ、で押し通すのも、なんだかなあ……。必要な署名数は市民有権者の50分の1以上、今回で言えば約6万2000人、それを2ヶ月で集めなければいけないという。果たして結果はいかに。
 
 さる12月19日、署名活動の結果報告会があった。集まった署名は35978人。必要数に達しなかったので、住民投票条例の制定を請求することはできないという。残念な結果ではあるが、今回の「横浜のみどりを未来につなぐ実行委員会」の活動には感謝と敬意の気持ちでいっぱいだ。署名活動を通じて、横浜市の緑地政策への関心はどれほど高まったことか。住民投票を求めるという大胆な発想は全国の自然保護運動にも大きな影響を与えるだろう。

 会見場の机の上には苦労して集めた署名簿が山と積まれていた。さらに段ボール箱にもいっぱい。これらは市民の意思として、今後の運動に生かすことも考えられるが、個人情報にかかわる文書なので最終的には廃棄されてしまう運命にあるという。残念無念、ああ無情。個人情報をさらしてまで署名してくれた一人ひとりの小さな勇気、ささやかな覚悟を無駄にしてはなるまい。市民の思いを形にし、力にする努力はまだまだ続く。
 
 法定署名なるものをしたのは、今回初めてだった。そこから連想するに、来るべき? 国民投票も初めての経験となる。わけがわからないうちにことがどんどんすすみ、あれよあれよというまに憲法が変わり……という流れだけはごめん被りたい。国民投票って、直接民主主義っぽくてよさそうに思われがちだが要警戒。しかと勉強したい。

(田端 薫)

記者会見では、つるちゃん(右)とやっすん(左)にもお会いできました