『ドリーム』(2016年米国/セオドア・メルフィ監督)

 「NASAでは、誰でも小便の色は一緒だ。これからは近くのトイレに入れ」
 アメリカ航空宇宙局(NASA)ラングレー研究所のハリソン本部長は、トイレに掲げている「COLORED ONLY」(有色人種専用)の看板をハンマーで叩き落して、こう言った。米国がソ連との熾烈な宇宙開発競争を展開していた1961年。バスの座席は前方が白人、後方が黒人と明確に分けられ、街中では水飲み場でさえ、「WHITE ONLY」(白人専用)と区別される時代を生きた黒人女性たちの物語である。
 学校も飛び級で進んだ天才的な数学頭脳をもつキャサリンは白人男性の数学者ばかりのラングレー研究所に加わるが、白人と黒人が勤務する建物は分けられているため、彼女は用を足しに雨の日も隣の建物のトイレに駆け込まなくてはならなかった。
 冒頭で紹介したシーンは、我慢の限界を超えたキャサリンが人種差別の理不尽を訴えたことに対する本部長の答えだった。
 同僚のドロシーとメアリーも様々な壁にぶつかる。ドロシーは長らく人事マネージメントを担っているにもかかわらず、昇格が認められない。エンジニアをめざすメアリーは、その資格を取るために必要な大学での受講が黒人であるがゆえに許されなかった。さらに加わる女性差別。二重、三重のハンデを彼女たちがいかに乗り越えたかは本作品を見ていただきたい。国家的な一大プロジェクトを成功させるという大目標を盾に、周囲を変えていく彼女たちの知恵と勇気と行動力を学べるはずだ。
 オリジナルタイトルは『HIDDEN FIGURES』(直訳すると「隠された人々」)。当時の宇宙飛行士たちと孤高のパイロットを描いた名作『ライト・スタッフ』(1983年製作/フィリップ・カウフマン監督)の裏面史のようだが、同作品と同様、映画全体の基調は明るく、アップテンポ。国民の多くが未来に希望を抱ける前向きな時代だった。
 邦題の『ドリーム』は、ニュース映像で何度か挿入される黒人の公民権運動の指導者、マルティン・ルーサー・キング牧師が演説で繰り返す「I have a dream」から取られたのだろう。

 I have a dream that one day this nation will rise up and live out the true meaning of its creed: “We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal.” 
 私には夢がある。 「万人は生まれながらにして平等である。これが自明の理であることをここに保証する」というこの国家の基本理念を真の意味で実現する日が来ることを。

 ちなみにそのなかの一節「All men are created equal」をもじった「All men are colored all」(万人はすべてカラードである)というコピー付きのポスターを1980年代末のベルリンで見たことがある。そんないかしたセンスの持ち主がいたことを付記しておこう。

(芳地隆之)

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