第128回:“原発ゼロ法案” 審議入りを阻む、悪しき慣習を取っ払おう!(南部義典)

 私たちは、一日も早く原発ゼロを実現するための法案を3月11日までに提出する予定で、これから全国で、ボトムアップ型のタウンミーティングを開催するなど、精力的に準備を進めています。(中略)立憲民主党提案の法案審議の際には、党内議論を済ませているわが党議員の質疑時間は極々短時間で結構ですので、自民党の皆さんは納得いくまで、50時間でも、100時間でもどうぞ、質問していただきたいと思います。

 立憲民主党の枝野幸男代表は1月24日の衆議院本会議代表質問で、このように発言しました(原発ゼロ基本法案骨子についてはこちら)。国会の会期は6月20日までなので、原発ゼロ法案を審議する時間は十分にあります。私のような外野の立場からは、法案が衆議院に提出された後、速やかに審議入りすることを祈るしかありません。
 しかし、各方面からひんしゅくを買うことをあえて申し上げますが、原発ゼロ法案が審議入りする可能性は現状、ほぼ「ゼロ」です。法案審議を阻む、悪しき慣習が残っているからです。

審議入りに“待った”をかける慣習

 「法案審議を阻む慣習とは、一体何だ」と、思われたかもしれません。国会審議のルールをたどるべく、国会法の条文を見てみましょう。

 国会法56条2項には、「(法案が)提出されたときは、議長は、これを適当の委員会に付託し、その審査を経て会議に付する」とあります。原発政策は、経済産業省が所管する事項に当たります。そこで原発ゼロ法案が衆議院に提出された場合、大島議長は、「適当の委員会」である経済産業委員会に付託するという手続きを取ることになります(「付託」とは、法案の審査を任せるという意味で捉えてください)。

 この規定だけみると、①原発ゼロ法案の提出→②衆議院経済産業委員会への付託、審査→③衆議院本会議の審議、という流れになります。
 他方、国会法には、56条の2という別の条文で、「(衆議院に提出された法案について)議院運営委員会が特にその必要を認めた場合は、(衆議院の本会議において、その法案の)趣旨の説明を聴取することができる」と規定しています。原発ゼロ法案について、衆議院の議院運営委員会がその必要を認めた場合は、経済産業委員会に付託する前に、本会議(議員全員が対象となります)の場で、法案提出者がその趣旨説明を行うことになるわけです。

 そこで先ほどの流れを修正すると、①原発ゼロ法案の提出→②衆議院本会議での趣旨説明の聴取→③衆議院経済産業委員会への付託、審査→④衆議院本会議の審議、となります。②をもう少し詳しく説明すると、この本会議では、法案提出者による趣旨説明の後、自民党をはじめとする会派が質疑を行い、法案提出者が答弁を行います。所要は長くても2時間程度です。

 修正後の流れですが、②の段取りが増えるだけで大した問題ではないのではないか、せいぜい一回の本会議、2時間のセレモニーではないか、との声が聞こえてきそうです。しかし、これこそ、審議入りを阻む、悪しき慣習なのです。

自民党は、審議入りの判断をずっと「保留」する

 立憲民主党が原発ゼロ法案を提出した場合、自民党はほぼ間違いなく、②本会議の趣旨説明聴取・質疑を行うよう、要求してきます。この要求に対し、議院運営委員会が速やかにその必要性の判断をすれば影響はありませんが、この点が手続上、ネックになるのです。

 衆議院議院運営委員会・委員名簿をご覧ください。自民党が委員長ポストを押さえつつ、理事・委員合わせて14名(過半数)を占めています。自民党はここで、数の力を背景に、陰湿で、意地の悪い作戦を仕掛けてきます。
 それは何かというと、原発ゼロ法案の趣旨説明聴取・質疑を行うかどうか「判断を保留する」という作戦です。法案は、その会期中に議決されなければ原則「廃案」になってしまいます。「保留」にしておけば、会期末に向けて審議スケジュールは日に日に窮屈になっていき、廃案の可能性が高まります。言わば、時間切れを狙うわけです。そもそも、原発ゼロ政策は、自民党にとって受け入れ難いものであるだけでなく、法案を審議入りさせれば、ライバル政党に目玉政策をPRする“見せ場”を与えることになるだけで、何の得もありません。あまりにも分かりやすい党利党略といえるでしょう。

 もともと、本会議における趣旨説明聴取・質疑という制度は、すべての議員(とりわけ少数会派に所属する議員)にその法案の内容を周知徹底するために設けられたものです(昭和30年の国会法改正)。原発ゼロ法案が付託される経済産業委員会には、自由党、社会民主党・市民連合に所属する議員は入っていません。法案が提出されても、両会派の議員には質疑をする機会がないうえ、内容がよく分からないまま、本会議でいきなり採決を迎えることになってしまうのです。このような不都合を避けるため設けられたのが、本会議における趣旨説明・質疑という制度で、当初はその目的に適った運用がなされていました。しかし、だんだんと本来の目的を離れ、現在のように法案審議に待ったをかけることが主目的になってしまっています。

与党も野党も、無意味な要求合戦は止めよう

 冒頭、「法案審議を阻む、悪しき慣習が残っている」という言い方をしました。外野から見ると、与党も野党も長年、慣れ切ってしまっていて、どっちもどっちと言わざるを得ません。与党が、野党の議員立法に対して趣旨説明要求を行う一方、野党も負けじと、安倍内閣が提出した法案(閣法と呼ばれます)に対し趣旨説明要求を行うことが日常茶飯事になっているからです。相手方が提出した法案の委員会付託を遅らせたいがために、貴重な日程、審議時間を潰し合っているのです。

 ちなみに、野党が閣法に対して趣旨説明要求を行った場合、議院運営委員会は先ほどとは真逆の対応を取ります。要求どおり本会議で趣旨説明・質疑を行うかどうか、法案審議がスムーズに運ぶよう、事速やかに決定していきます。自民党が持つ数の力を最大限に発揮させるわけです。何というご都合主義でしょうか。

 私は、悪しき慣習と化している「趣旨説明要求合戦」を、いい加減止めたほうがいいと考えています。与党に要求を止めてもらう分、野党からも要求することを止めることが必要です。そうすれば、議院運営委員会の判断を一切絡めることなく、効率的、効果的に法案審議を進めることが可能で、貴重な会期に日程上の空白が生じることはなくなります。

 原発ゼロ法案はまさに、草の根立法の試金石といえます。提出しておしまいではあまりにも勿体ないのです。その後の審議を通じて、少数意見を多数意見に変えていく――これこそ、草の根の国会改革ではないでしょうか。

●イベントのお知らせ

【トークライブ】「南部さんに聞いてみよう! 『国民投票法』の いいトコ、ダメなトコ」
・日時 2月24日(土)18:30~20:30 開場18:15
・場所 かながわ県民活動サポートセンター711ミーティングルーム(JR横浜駅徒歩5分)
・参加費 500円
・主催 市民グループ みんなで決めよう「原発」国民投票
・申し込み方法はサイトをご覧ください

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院・参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所、2017年)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社、2007年)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書、2018年)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店、2018年)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会、2017年)、などがある。(2018年4月現在)(写真:吉崎貴幸)