第110回:商店街決戦! インターネットとの戦い(松本哉)

 お店も長くやっていると、売れ行きの傾向やら流行りやら色々変わってくる。うちの店も2005年にオープンなので、気づいたらもうすぐ13年。こんなインチキな手法で店やっててよくもまあこんなに続くとつくづく思う。
 さて、この13年でも色々と変わってくる。ま、どこでも言われていることだが、ここ10年はネットでの消費行動が相当浸透した。ものを買う時は、新品はアマゾンや楽天で買い、中古品はヤフオクやメルカリなどで探す。ちなみにうちはゲストハウスもやってるんだけど、こっちもそうで、民泊サイトのairbnbで宿泊先を決める人が急速に増えている。もちろんこれが後戻りすることはないので、今後はより生活の中に入ってくるはずだ。もちろん、自分自身色々ネットも使いながら商売やコミュニケーションをとっているので、別にネット社会を否定して山奥で原始時代のような生活をするつもりもない。
 しかし! 全てをネットに依存していくのもコミュニケーションが薄っぺらくなり、危ういところはたくさんあるので、自分自身、商店街での実店舗や顔の見える形でのゲストハウスの集客などを大事にしている。そう、これは実際の社会環境と同じだ。社会や政治が良くない時に民衆が抵抗し続けるからこそ改善も現状維持もできる。ところが「別に今のままでいいよ」と、なすがままに身を任せていると、権力者はどんどん勝手なことをやり始め、民衆の権利や環境は後退していって、あっという間に社会はどんどん悪くなる。我々は常にプロテスターとしての意識を、心の片隅にでもいいから持ち続けなければいけないのだ。我々は奴隷ではない。
 ネット社会もそうで、油断していると、ものすごい管理社会になったり、結局大企業のみがもうけを吸収できるようになったりする。こうなっては我々貧乏人は大変だ。ここは敢然と立ち向かって、我々の人間らしさの余地を防衛する必要がある。まず、苦戦を強いられながらも果敢に最前線で戦う強豪たちを少し紹介してみよう。

ラーメン屋の戦い

 少し前まであった、うちの店の近くのラーメン屋店主のおじいさんは、なんと株のデイトレーダー。と言っても常にパソコンに向かっているようなスタイルではなく、短波放送のラジオと黒電話という、完全に戦うスタイルだ。昔、たまたまご飯を食べに言った時もそんな感じで、お客さんがいなかったようで、カウンターに座って短波放送を聞き入り、時々証券会社に電話して「あれ今どうなってる?」などとやりとりしていた。で、突如立ち上がって疾風のごときスピードで小走りで黒電話に向かい、ジーコ、ジーコと急いでダイヤルを回す! そして、○×さんいますか、と担当者を呼び出し「あれは全部売って! で、△△を買う!」などと迅速に指示を出す。ところが、どうも思い通りにいかなかったのか、電話を切ったあと、「まったく、ネットのやつらは素早いんだよなあ。まったくあいつら、ちきしょう~」と、恨めしげに席に戻る。そしてまた短波放送を聞き入る。何かが動いているような気配を感じているらしく、それは様子でわかる。俺がさっき頼んだ餃子とチャーハンを作る気配は一切ない。しかしそれは仕方ない、よほど緊迫した状況に違いない。そして、今度は逆に黒電話がジリリリリ…、と、けたたましく鳴る! もちろんベルの音量は最大だ。何かが動いたか!? マスター、素早く駆け寄り電話に出るが、単に「墓を買いませんか?」みたいな営業電話。マスター激怒して「バカヤロー、こんな時に何考えてんだ! 墓なんか買わねーって言っただろ。二度と電話してくんな!!」と、ガチャリと黒電話を叩きつける!
 ちなみに、このマスターの奥さんも相当な戦士で、まだ全自動洗濯機の機能を知らずに、たらいと洗濯板で服を洗っていた。彼女も頼もしい抵抗勢力の一人だ。

中古インターネットの戦い

 インターネットとの激しい戦闘が続いているこのご時世、最前線に立つ人々の中には強大な敵の存在を目の当たりにして、動揺を隠せない人もいる。ある時リサイクルショップの素人の乱5号店にふらっと立ち寄った、定年後ぐらいの年頃のオッサンもその一人だ。店に入って来るなりやたらでかい声で「おうっ、インターネット探してるんだけど、ねえかい?」という。こっちが何も答える前に、矢継ぎ早に話して来る。「俺、知ってんだよ、最近はインターネットだろ? あれありゃ、なんでもわかるんだよ。最近の人はみんな、インターネットでチャチャっとやってんだよな! おれ今まで忙しかったからさぁ、やってなかったけど、最近時間できたからちょっとそろそろ買おうかなと思って。インターネット」と、ネット社会に乗り遅れてないことを全開でアピールして来るが、どうも様子がおかしい。また手ごわい人が現れた! とりあえずネットをやりたいんだろうということで、偶然その時中古のパソコンがあったので、「とりあえず、このパソコン買えば、あと契約したらネットはできますよ」と説明すると、「いや、パソコン要らねえんだよ。インターネットだけ欲しいんだよ。ほら、俺手書き派だから」という。これはやばい、どうしよう。「インターネットだけはないですよ」というと、「ねえ訳ねえじゃねえか、どっかにはあるだろう。新品は電気屋とかにあるんだろうけど、意外と高えからな。中古のインターネットでいいんだよ」とのこと。この手の人に色々説明しても怒るだけだ。仕方ない。「いや~、今インターネットちょうど品切れなんですよ」と誤魔化すと、「なんだよ、ねえのかい。さっき別のところ行っても、ねえって言いやがるし、一体どこに売ってんだい、インターネットは!」と、ちょっと不機嫌気味。意外としぶといので、ほっといたら「ちょっとアンタの使ってるインターネット見せてくれ」とか言い出しそうで、そんなことになったら余計ややこしくなるから、これは危険だと思い「そういえば、あっちの通りにもリサイクルショップあるから、そっちならあるかもしれませんねえ~。あの店はその辺もっと詳しいと思いますよ」(同業者の方すいません)と、完全に流し、オッサンまんまと「あ、そうかい。じゃ、そっち行って聞いてみるわ。わりいな!」と、颯爽と向かって行った。
 彼も人間味あふれる非ネット社会で長年生きてきたが、突如現れた謎の勢力の前に、かなり動揺しているに違いない。しかし、ここで敵の軍門に下っても、彼には悲惨な将来が待ち受けているはずだから、ここはこちらの陣営に踏みとどまって手書き派を貫き通してもらいたい。

蕎麦屋の戦い

 うちの店の所属する北中通り商店街の長老、藪蕎麦のオヤジは揺るぎない強硬な反インターネット派の戦士だ。以前も紹介したと思うが、商店街のイベントの準備の時も「早く宣伝を始めろ」とうるさいので、「今ネットでは結構宣伝してますよ」というと、「バカヤロー、ネットの奴らに伝える前に近所の人たちに宣伝しろ!」と激怒! 完全に近所にいる現実の人と、ネットという謎の世界からやって来る人を分離して考えている。さらには「ネットの奴らなんかには絶対教えてやらないからな!」と意地を張り、手書きの巨大な看板を自ら作り始めたりする。最近では、完全に敵視しているようで、「あ、藪さん、そういえばネットで」というや否や「嘘だ!」という勢い。この藪さんの善戦のおかげで、北中通り商店街では、各店舗間の情報伝達手段はいまだに回覧板のみ。緊急の確認事項なんかが発生すると大急ぎで回覧板が回るのだが、寝坊した人が回すのを遅れたり、休業の店やうっかりした人で止まっちゃったりしてなかなか進まない。さらには、郵便受けの隙間に引っかかっちゃって回覧板がどこ回ってるかわからなくなっちゃったりする事もあるが、こうなると「回覧板がなくなった!」と、町をあげての大混乱に。敵側の例でいうと緊急事態で全サーバーが落ちたぐらいの大ダメージだ。そんな時は商店会長が即座に全店舗を回って「回覧板回ってきましたか!? 何曜日に?」と聞いて歩く。そして、どこまで回ったかを解明し、そこから回覧板再スタートするという手順だ。そして、みんな「いやあ、良かった良かった」と、胸をなでおろし、一件落着。いやー、心強い。この万全な体制が整っていれば、超アナログ社会も安泰だ。

町内の人たち。そこにはインターネットはない

 さて、余談はさておき、我々の戦いを紹介していこう。上で紹介したような、最前線での激しい戦いも尊敬に値するが、これはイスラム国の陥落寸前の村みたいなもんで、なかなか未来がない。実際には情報の交換やイベントや店の宣伝もSNSでやるし、売買や集客だって絶対にネットを使う。ただ、街で活動し、商店街で店を開く自分として心がけたいのは、やはり直接的なコミュニケーションとの接点を絶対に作ることだ。それは商店街の店主としての最大の任務だ。
 こちらとしては、いかにオフラインの実社会で収益を上げるかを考えているので、極力ネット上での収益の割合を上げて行きたくはない。ところが、時代の流れを考えるとなかなかそれを維持するにも大変で、何か策を打たなければならない。
 そこで、次はリサイクルショップやゲストハウスでの現場での壮絶な戦いを少し紹介してみよう。

飲み歩き作戦

 例えばゲストハウス。宿泊の予約サイトで、こぎれいな写真や和気あいあいとした気持ち悪いパーティー写真載せて集客するのなんか嫌だ! ちゃんと信頼した強固な人脈で集客したい! ということで、数年前から世界飲み歩き作戦を開始! 毎月のように海外に飛び、そこで友達に会いまくって死ぬほど飲み歩く! すると、さらに友達もどんどん増えまくるし、海外特にアジア圏は歓迎文化が半端ないので、結構おごってくれたり、家に泊めてくれたりしてすごいもてなしてくれる! すると、案の定仲良くなった人とか、その友達とか現地の人脈で確実にお客さんが増えて来るではないか! おお、すごい! ザマアミロ、ネットを頼らなくたって集客できるんだよ、残念だったなインターネットの諸君(やばい、長老たちの口癖が移ってきた)。

ゲストハウスのリビングでは、連日各地からのお客さんたちの交流が行われている

 …しかし、そうなると今度はもてなしてあげたくなってきて、結局もらった宿泊代以上の酒おごっちゃったりして、意味のわからないことに。さらには、向こうで泊めてもらったお礼に、「いいよいいよ、うち泊まって行きなよ」と泊めてあげたり、挙げ句の果てには、うちのゲストハウスに泊まらずに「今回はairbnbで宿取ったよ」と言いながら連絡して来る友達も増えてきて「おー、久しぶり! 飲みに行くしかないね~」と、またおごってあげたり。
 で、結果なんだか知らないが金は減る一方。おい、おかしいじゃねーか! ま、でも楽しい友達がたくさん増えたからいいや。よし、作戦失敗だ!

瓶ライト作戦

 リサイクルショップもメルカリなどに押され、実店舗売上の戦況は芳しくない。同業の中古品店でも実店舗を諦めて敵の軍門に降り、ネット販売のみに切り替えるところは多い。もちろんうちの店でもネットを使って売ったりするけど、ネット上での売り上げは極力10%程度にはしておきたい。もう少し店舗売上をあげたほうがいいな~、と仕事の後に瓶ビールでも飲みながら考えていると、その瓶がライトに見えてくる。そうだ、ビール瓶で照明を作ったらカッコいいね! しかも普段飲んでる瓶ビールが全部金になるなんて、そんな一石二鳥の夢のような世界があったのか。
 ということで、翌日店に行き他の店員たちに「みんな、朗報だ! ビールの瓶を切ってライトにしよう。これで店は安泰だ!」と、早速店員総出で製造にかかる。電線やソケットなどは別途入手しておき、あとは瓶を切る。ガラス用ノコギリみたいなものもあるんだけど、これは労力が超大変なのでやめたほうがいい。簡単なのは、太めのタコ糸や麻紐などに油を浸して瓶の切りたい場所に巻きつけ、そのまま点火。しばらくその紐が燃え続け、瓶が高温で熱されてきたタイミングで、バケツに用意した氷水に一気に入れて冷却。すると、パキッといい音がして瓶がキレイにカットされる。
 ただ、これがなかなかうまくはいかない。キレイにカットするには少し慣れが必要だし、運悪く変な割れ方をすることも多々ある。火の燃え方が結構重要になってくるのだ。そしてキレイに切れたら、切り口が鋭利なのでサンドペーパーで念入りにやすりがけしておく。そして吊り下げ電球ソケットは既製品でも安いものがあるのでそれを用意すればいいが、一度バラして電線をビンに通してから再度組み直せばOKだ。そしてもう一つ大変なのが、ビンに貼られたラベルを剥がすこと。そのままでも面白くていいけど、電球としてキレイになるのはやはりガラスがキレイだ。そして入れる電球だが、普通の白熱球でもいいけど、意外と高熱になるので、できればクリアタイプのLED球を入れるのがいい。そして、これで晴れて完成! おお〜、つけてみるとすごいキレイ。2000円ぐらいで売れそう。
 コンチキショー、ぜんぜん儲からないじゃねーか!!!! だまされた!

LINE作戦

 ネット社会化が進む要因は、まず何と言っても手軽さがある。人との面倒なコミュニケーションをとらずに済むところがいい。そして、もう一つの要因はスマホなどで手軽にさっとできてしまうこと。…そんなものはクソ喰らえなのだが、我々も手をこまねいているだけで我々の店舗が倒産したのでは、ネット社会との激しい戦いに最前線で散って馬橋公園の桜になっていった長老たち(注:馬橋公園—高円寺の西側にある公園)が浮かばれない。あらゆる手を使って仇を討たねばならない。
 ということで、1年ほど前からLINEの公式アカウントで買取依頼や問い合わせを受けるようにしている。写真も遅れて便利な上、留学生など電話は自信ないけどメッセージでならという人も多い。よし、これは間違いない!!!!! これでお店とお客さんという直接の人間関係もできるし、敵に一矢報いる千載一遇のチャンス!!
 さあ、実際運用開始してみると、これがものすごいメッセージの数。来るわ来るわ、連日連夜の問い合わせの嵐。いや~、忙しいな~ ところが、内容はほぼフリーマーケットの出店申し込みや問い合わせばかり。「餃子売りたいんですけど大丈夫ですか?」「出店スペースの幅は何センチですか?」「隣同士連続で押さえることできますか?」…、うるせーコノヤロー!!!! とも言えず、丁寧に返事するしかない。これは商店街のイベントの任務なので、うちの利益は一切関係なし。やられた! しかも、みんな今まで電話かけてきたり店にきて予約してきてくれてた人たちも多い。「いや~、LINEできて便利になりましたね」だって。チキショー。逆だよ逆、やりたいのは! 
 でも、たまにはいい事もある。やっときました、不用品買い取りの依頼! 「出張買取やってますか?」→「ありがとうございます! やってますよ!」→「カラーボックスひとつなんですけど」→(!)→「大丈夫ですよ、場所はどの辺ですか?」→「栃木県です」。ダメダメ、栃木のリサイクルショップ行け! だめだ、こっちも失敗だ。やられた!

これが仕事を増やすだけに終わったLINEのID。買取依頼もフリマ申し込みも歓迎ですよ~

 さて、全戦全敗の高円寺北中通りだが、実はそれが一番面白い。実務面では完敗でも、上で紹介したように人だけは大量に訪れて来るので、何も見えないが謎の勝利を収めている。そう、来ればわかる。ネット社会には一切ないものが北中通り商店街には大量にある!!!!!
 そして諸君、インターネットは手強い! 我々には同士がもっと必要だ! 共に立ち上がろう! 高円寺に飲み歩きに来るしかない!!!!

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。