第80回:軍隊とともに心中する覚悟がありますか? ~島に軍隊が来るということ~(三上智恵)

 島の運命を左右する、いえ、日本の「国防という名の戦争をめぐる政策」に大きくかかわる選挙が目白押しの沖縄。今度は石垣市長選挙だ。言うまでもない、自衛隊ミサイル部隊の配備が既定路線のように押し付けられていく島々で、石垣だけはまだ用地取得も済んでいない。奄美、宮古島ではすでに基地建設は着工された。2年前から駐屯開始している与那国島では、巨大な弾薬庫も完成して島の風景は音を立てて変わっていく。軍事要塞化が進む南西諸島にあって、最後の砦になっているのが石垣島なのだ。

 石垣市長選挙は3月4日公示、3月11日投開票。現職の中山義隆市長と元県議の砂川利勝候補の2人は自衛隊誘致派、一方自衛隊基地建設に反対する民主団体や政党が統一候補として推す宮良みさお候補の三つ巴の闘いになっている。しかし名護市長選のように、誘致派の二人も巧みに焦点をずらしている。中山市長は「市民とオープンな議論をしたい」と中立のような主張をしているが、この3年、オープンな議論は全くしてこなかった。砂川氏は自衛隊配備には賛成、しかし現計画である於茂登岳のふもとへの計画は白紙を求めるというもの。単純な自衛隊配備計画の賛否を問う形にはなっていないのが、悩ましい。

 自衛隊のこと、計画されているミサイル基地の役割、軍事問題に無縁だった市民にその是非の判断を迫るのは無理がある。しかしこの選挙で宮良氏が勝利しない限りは、石垣への自衛隊配備は決定的になるだろう。だからこそ選挙に臨む前に、配備の内容、目的、今の国防をめぐる常識、何よりも軍隊と同居するというのがどういうことなのか、基礎的な情報を知ったうえで投票してほしいので、今回は1月末に石垣島で行われた元自衛隊員の講演の様子を動画でアップした。石垣市民はとにかくこれを見てから判断してほしい。そして全国の皆さんも、たぶんこの講演内容には驚愕すると思う。

 石垣島での講演に招かれたのは、元陸自レンジャー隊員で、ベテランズ・フォー・ピース・ジャパン代表の井筒高雄さん。南西諸島の軍事利用には早くから警鐘を鳴らしてきた人物だ。

井筒:有事の際、国民を保護するために自衛隊がいるのではないんです。国を守るために、あるいは自衛隊の基地を守んなきゃいけないんです。皆さんを守って自衛隊基地がやられてしまったら自衛隊は反撃できませんから。防御できませんから。みなさんを守らないんですよ? 自衛隊は基地を守るんですよ。国を守るんですよ。権力者を守るんですよ。

 いきなり核心の話だ。元自衛隊員に「戦争になったら自衛隊は国民を守らない」と言われてしまえば、面食らう人も多いだろう。私は今、7月公開予定の沖縄戦のドキュメンタリー映画の製作真っ最中だから、いかにして日本の軍隊が沖縄県民を守らなかったか、守れなかったかに日々向き合っている。もっと言えば秘密保持のために住民を殺してしまったり、お互いに殺し合う「自決」へ誘導したり、死の病が蔓延する地域に押し込めていった、その様相とがっぷり四つに映像を繋いでいるので、「軍隊は住民を守らない」、は、沖縄戦のどこを押しても飛び出してくる教訓だとスッと理解できる。でも、大方の国民は、自衛隊は別でしょ? あの時の日本軍と、今の自衛隊は、まさか別物でしょ? と思っている人が大多数だと思う。けれども、どうやら井筒さんの言うことが正しいのだ。もう少し聞いてみよう。

井筒:避難計画は示されています? 国民保護計画はどのくらいの人がその存在を知っていますか? どこに逃げるんですか、この島の人たちは。説明受けましたか?

 有事になったら、皆さんは避難民として、安全な場所に逃がしてもらえるわけじゃないんです。自衛隊法103条を使って、業務従事命令とか、自衛隊に協力を求められるんですよ。こういう真実を防衛省はちゃんと説明しなきゃダメなんですよ。基地を押し付けるんだったら。

 自衛隊法103条は物資の収容、業務従事命令について定めている。つまり徴兵制なんか無くとも有事の際、私たちの国では国民が軍隊に力を貸さないといけないことにすでになっている。しかも、15年前の有事法制関連三法案が可決成立したときに恐ろしいことが決まっていたのを案外国民はスルーしているが、自衛隊の活動を円滑にするために私有地や家屋の強制使用も認めてしまった。病院、学校などの施設だけでなく、個人の住宅もだ。燃料、医薬品、食料の保管と収用も命じることができる。つまり、軍隊が優先して使うので、医薬品も食料も保管命令=使うな、収容=差し出せ、ということになる。これは、1944年に沖縄守備軍が入ってきて、学校は兵舎になり民家も提供し、やがて沖縄県民に餓死者が続出しても食料提供を民間に強制し続けた沖縄戦の姿とぴったり重なる。

 私は今、沖縄戦のマニュアルともいえるいくつもの大本営作成の「教令」を読み込んでいるのだが、例えば1944年に作られた「島嶼守備部隊戦闘教令(案)の説明」では、「第二十二 住民の利用」という項目がある。これは非常に恐ろしいことが書かれているので現代語で要約する。

「第二十二 住民の利用」

 島の戦闘は住民をいかに利用するかにかかっている。喜んで軍のために労働をさせ、あるいは警戒や(お互いの)監視の仕事をさせ、またどんどん食料の供出をさせ、最後は直接武器をとって戦闘させるまでに至らしめねばならない。不逞の分子に対しては断固たる処置(スパイは処刑)を講じなければならない

 この方針のもとに沖縄戦は闘われたのだが、同じ内容はその後に出される教令にも引き継がれ、本土決戦のマニュアルとして書かれた「国土決戦教令」にまで引き継がれていく。つまり、沖縄や南の島だからこんな酷いマニュアルを作ったんでしょ、と本土の方々は思いたいだろうが、事実は違った。本土の私たちはもっと大事に守られるはずよ、と思っている人がいるとしたら残念ながらそれは勘違いだ。それが73年前の陸軍の、全国の住民に対するスタンスであったし、恐ろしいことにそれは現在と何ら変わってないのではと思える。

井筒:戦争の基本をお伝えしますね。戦争になったら軍人より多く死ぬのはその地域に暮らす国民です。市民です。場所が日本であるかどうか、関係ないです。戦争当事国の普通の市民の方が、兵士、自衛隊員より多く死ぬ。この現実をしっかり認識すべきです。

 ここに面白い資料がある。戦争による被害者の、軍人民間人の割合は時代とともに明らかに変わっているのだ。

 第一次世界大戦は軍人の被害が95%で民間人は5%
 第二次世界大戦では軍人の被害52%で民間人が48%
 朝鮮戦争では軍人の被害15%で民間人が85%
 ベトナム戦争では軍人被害がたったの5%で95%は民間人の犠牲だ。

 つまり昔は兵隊が死ぬのが戦争だったが、今はいかに自国軍の兵士を守りながら戦うかを重視した戦法、兵器にシフトしているということだ。対中国戦略の中で「先島戦争」が想定されていて、日米のシミュレーションがどうなっているのかわからないが、公にされている「離島奪還訓練」からわかることもある。日本版海兵隊「水陸機動団」が、いよいよ今月27日に正式発足する。かれらが一生懸命アメリカ海兵隊とともに訓練してきた「離島奪還作戦」は、敵に制圧されてしまった日本の島(有人島を想定)に十分な空爆を加えてから水陸機動団が上陸して奪還するわけだから、その局面だけを見ても、自衛隊員より島に残ってしまった民間人の死者の方がはるかに多くなるだろう。

井筒:現実を見ると、もう皆さんかわいそうだとしか言いようがないんです。だって「離島奪還」なんですよ? 離島奪還というのはどういうことですか? 皆さんは守られないんですよ。一回占領されちゃいますよ、といってるんです。皆さんが人質になるのか、収容所に入れられるのか、はたまたその国に持っていかれちゃうのか。そりゃわかりません。そのあとに、離島奪還しますよ、自衛隊が、と。

 そのとばっちりに、皆さんは人身御供というか、日本列島、本土を守るための防波堤ですよ、与那国も石垣も宮古も。だってここ、離島奪還するんですもん全部。作戦で。みなさんを守るんじゃないんです。皆さんは、とられちゃうんです。とられちゃったのをとり返すという戦略を一生懸命練っているんですよ。それが先島の自衛隊配備の実態ですからね。勘違いしないでくださいよ。災害派遣のために来るんじゃないんですよ。

 また、私たちは今度の映画で「スパイ虐殺(沖縄県民をスパイ容疑で虐殺したこと)」の実態を今につながる恐怖として明らかにしようとしているのだが、井筒さんは、自衛隊がいるところには必ず情報保全隊が来る、と話している。いわゆる情報部隊だ。自衛隊基地内の監視も、基地の外に住む住民の監視も、軍隊では重要な任務である。もちろん彼らは「住民をスパイするために来ました」という顔はせずに、地域の祭りに、学校行事に、会合に入ってくる。そして住民をきちんと選別するという。賛成してるか反対してるか。自衛隊を敵視する住民をマークしなければ安心して作戦を遂行できない。彼らは「敵」と通じる可能性が高いというわけである。

 そうやって沖縄戦の前後(地上戦になる前から、また6月23日のあとにも)に罪もない沖縄県民が大勢虐殺されていった事実がある。情報保全を担当する自衛官が島中を歩いて監視する、島民が情報収集の対象になるという島になっていいのか。この動きは軍隊が駐留する前から始まっていく。そして恐ろしい社会の変化をもたらす。

井筒:いいですか? 戦争するときは「差別」をしないといけないんですよ。自分たちの味方じゃない人は攻撃対象なんです。自衛隊員も本音と職務のはざまで苛まれています。私もそうでした。任務を遂行しなければいけないんですよ自衛隊員は。情報収集で、街は変わります。島の文化も変わります。皆さんが頑張れるか、頑張れないかです。

 この講演を井筒さんはこう締めくくりました。

井筒:最後に、自由に発言できる石垣島を私は守るべきだと思います。自由に発言できるかできないか。自衛隊が街に入ってきて町会に入ってきて、行事に入ってきて、言いたいことも言えなくなる。それは健全な民主主義社会とは私は言えないと思う。

 自衛隊出身者がここまで言うのは、私はとても勇気がいることだと思う。井筒さんは翌日、日本軍の強制移住命令のためにマラリアで苦しんで死んでいった3600人余りが祀られている戦争マラリアの慰霊碑の前に立った。初めてではなかった。そして「なぜこの人たちが死ななければならなかったのか。また同じようなことがこの島で起きたら、犠牲者のみなさんに申し訳がない」と言って男泣きに泣いた。

 私は、沖縄戦の地獄を経験した心ある軍人たちの呻きが、井筒さんの体をとおして嗚咽となり、2018年を生きる私たちに最後のメッセージを発しているように思えた。

 「島に軍隊を引き受けるということは、島民は軍と一緒に心中する覚悟があるということです。そのことを、政治家はちゃんと説明しましたか?」。元自衛官のこの言葉だけでも、石垣島の島民すべての耳に届けたい。

三上智恵・大矢英代 共同監督
ドキュメント「沖縄裏戦史」(仮)
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今まで沖縄戦の報道に取り組んできた三上智恵・大矢英代の2人の女性監督が、封印されてきた沖縄戦の「裏」に迫り、戦後72年経って初めて語られ始めた事実を描き出す。ドキュメント「沖縄裏戦史」(仮)は、2018年春完成予定・18年夏劇場公開予定で製作を開始しています。製作費確保のため、皆さまのお力を貸してください。いただいた製作協力金は、「沖縄裏戦史」(仮)の製作費として活用させていただきます。

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三上 智恵
三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移住。同局のローカルワイドニュース番組のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。14年にフリー転身。15年に『戦場ぬ止み』、17年に『標的の島 風(かじ)かたか』、18年『沖縄スパイ戦史』(大矢英代共同監督)公開。著書に『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)、『女子力で読み解く基地神話』(島洋子氏との共著/かもがわ出版)、『風かたか 『標的の島』撮影記』(大月書店)など。2020年に『証言 沖縄スパイ戦史』(集英社)で第63回JCJ賞受賞。 (プロフィール写真/吉崎貴幸)