第29回:阿呆陀羅経をひとくさり…(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

腐臭漂う泥沼の 畔に咲くか蓮の花 あまりの汚濁に声も出ず
闇に心を閉ざしつつ それでも祈る清廉の 花の香りに縋るのみ

これはこの世のことならず 黄泉の旅路の迷い石
ひとつ積んでは母のため ふたつ積んでは父親の 旅の標べとなる願い
祈りを込めて積む石の 傍から崩れるくちおしさ 
国の行方の定まらず 動く世界の片隅に 蚊帳に入れず嘆きおり

汚濁に塗れし石棺は 夜の静寂(しじま)の議事堂か
民の声など聞きもせず 集う群衆圧し潰し 虚言宰相守るべく
屈強力を誇示したる 官憲という名の黒き服
抗うものは誰であれ 規制線にて遠ざける それでも迫る人々の
勢いを増す叫びには さすがの規制も崩壊す

性的卑猥の言動を 常日頃より振り回す 高位官奴の威丈高
名誉棄損の裁判を 言葉の端にちらつかせ 女性記者らに名乗り出よ
真実ならば出よとて のちの報復ちらつかせ 取材拒否への脅しとも
それを各社に送付する 財務省なる官庁の 情けも知らぬ人でなし

友の信義を盾にとり 友誼利用の欠片なし 潔白だけを言い募り
挙証責任投げ捨てて 証拠あるなら出すべしと 鸚鵡の如く繰り返す
泥に浸った書類でて 窮地に堕ちた官邸は まさに汚穢の棲み処なり
知らぬ存ぜぬ意味もなし 全ての責任頬被り 配下官僚の背に捨てる

記者会見なる茶番劇 まともな質問取り合わず 木で鼻括る受け答え
それが政府の大番頭 居並ぶ記者の情けなさ 叩く鍵音のみ響き

記憶にはなし何もなし 記録は既に廃棄済み 出てきた書類は覚書
覚書とは不正規で 証拠能力なしと言う 言葉の軽き委員会
野次る秘書官現れて 前代未聞の体たらく ああ国会や国会や

虚言宰相に身も心 捧げ尽くしたその挙句 いずこの空で果てるやら
ひとつ積んでは国のため ふたつ積んでは世のためと 志したる任官の
青き心は闇に消え いまや枯野の枯れ芒 こんな男に誰がした…

首相案件が加計ならば 森友学園誰のもの 妻案件と知る人は
いつか異国の大使館 これは左遷か栄達か 官吏哀しやほうやれほぅ

佐川・迫田に柳瀬・谷 加計に昭恵に藤原と さらに今井の名も出でて
喚問要求限りなし いずれ国会またの名を 喚問所とでも変えるべし
繰り返される喚問も 訴追の恐れや裁判の 陰に隠れて何も出ず
虚しい言葉の応酬が 諸行無常と響くのみ

朝日憎しの罵詈雑言 度々発して意気揚々 その雑言が逆戻り
事実暴かれ声もなく かつての答弁どこへやら 虚言反論効き目なし
驕る一強久しからず 逝く春の夜の散る桜

ただ只管に支持率の 上下ばかりを気にかけて 政治の本道置き忘れ
北の脅威を言い立てて 軍備増強一辺倒 大統領の親友と
気取ってみたが先方は 子分か下僕のあしらいで 関税問題蚊帳の外
お願い外交で出かけても 金を出せとの一喝で ああアホラシ屋の鐘が鳴る

横田に飛来の醜悪な 歪つ構造の猛禽類(オスプレイ)
我が物顔に首都上空 轟音爆音まき散らし 事故の恐怖は増すばかり
これが沖縄の日常と 哀しい現実目の当たり 
続く辺野古の工事では いまも警察強硬と 切ない話が届くだけ

風もむなしい福島に 故郷へ帰れと言い募り 住めぬ故郷は荒れ果てて
賠償金も打ち切られ 金の切れ目を東電が どの口で言う恥知らず
原発利権のハイエナが またも復活その陰で 泣くに泣けない人哀し

日本原電カネもなく 東海第二の再稼働 東電等のカネ目当て
それを認める経産省 自然エネなど他所のこと ああカネの世やカネの世や

地獄の釜の蓋開けて 待つは閻魔か牛頭馬頭か 堕ち行く先は釜茹での
五右衛門煮立つ河原町 晒し者なる政(まつりごと) 哀しき笛の音響くのみ

厭離穢土 欣求浄土とは言いながら 浄土の色は褪せ果てて
国の行方の混迷に 無言の民の刻苦のみ どこまで続く泥濘ぞ

賽の河原の石を積み ひとつ積んでは宰相の ふたつ積んでは妻君の
はやの消滅希いしも 今日も何処の空の下 悪だくみする男たち

腹立ち紛れの阿呆陀羅経 唱え続けてきたものの
これにて幕引き拍子木が チョンチョ~ンと鳴る夕べ
お粗末さまのひと件り

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。