『質屋』(1968年米国/シドニー・ルメット監督)

 シドニー・ルメットといえば、『十二人の怒れる男』に代表されるような、「正義」を真正面から捉える作品が多い。「社会派」と称される映画監督だ。
 今年、DVDとして復刻された本作品のテーマはホロコースト。ポーランドに住んでいたユダヤ人、ソル・ナザーマンはドイツの侵攻によって家族ともども強制収容所に送られ、自分一人が生き残り、ニューヨークの下町で質屋を営んでいる。従業員は明るくちゃらけたヒスパニック系の若者が一人。
 お金を借りに来る人々はいずれも訳ありだ。メッキ仕立ての代物をおどおどと金のトロフィだと言い張る青年、高級陶器をいんちきだと指摘され逆上する中年女性、かと思えば、何を預けにきたわけでもなく、小難しげな哲学の話をするだけの初老の男など。お客たちを顔色ひとつ変えずにあしらうソルだが、恋人にガラスの指輪をダイヤのそれだと騙されたのを知らず、それをお金に換えに来た若い女を前にしたとき、ソルの脳裏にこれまで封じ込めてきた記憶がフラッシュバックで蘇る。
 強制収容所のユダヤ人女性の指にはめられた指輪が鉄条網の前で次々と没収される光景だ。
 店内で自分の身体で金を貸せとソルに迫る黒人女性にはゲシュタポに全裸された妻の姿が重なる。自分では消し去ったはずの記憶が断片的に現れるたびにソルの表情が少しずつ歪んでいく。「世の中で信じられるものは金だ」と言い切り、他人との関係をもとうとしない冷徹な彼のなかにある絶望の淵を私たちは垣間見るのである。「社会派」などという形容では収まりきらない作品だ。
 全体の基調はフランスのヌーヴェル・ヴァーグを連想させる。ソルを演じるロッド・スタイガーがニューヨークの下町をふらふらと歩き回るシーンは、『勝手にしやがれ』でジャン=ポール・ベルモンドがパリで闊歩するそれを想起させ、クインシー・ジョーンズの音楽は、『死刑台のエレベーター』の全編で流れるマイルス・デイビスのトランペットのようで、しばらく耳にこびりついて離れない。
 ルメットはこんな映画も撮っていたのかという小さな驚き。60年代のハーレムを見事に切り取った映像も必見である。

(芳地隆之)

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