第5回:国民投票法制が残している課題は何か(南部義典)

 1月に始まった本連載も、ついに「中締め」です。多くのテーマを扱いそびれてしまって申し訳ない限りですが、別の機会に改めさせていただきます。

 今回のテーマは「国民投票法制が残している課題は何か」です。最近、憲法改正問題に付随して、国民投票法の改正問題に触れるニュースが増えてきています。国会では、自民・公明両党が、今の第196回通常国会の会期中に国民投票法の改正を実現しようとする動きを見せています。連載第1回では、国民投票法が「国民主権」に直結する重要な法律であると述べたところですが、①なぜ国民投票法の改正が必要なのか、②どのような改正内容なのか、③改正によってどのような影響が出るのかなど、十分に伝えられているとはいえません。

 法改正を要するもの、そして、必ずしも法改正を要しないものも含めると、国民投票法制が残す課題は20近くに及びます。そのうち、課題としての必要性と緊急性、社会的関心の高さなどを総合的に考えると、主な課題は次の8つに整理することができます(2018年5月現在)。

 今回は、課題(1)から(3)までを取り上げます。

 残る、(4)から(8)までですが、

✔(4)は、本間龍さんとの共著『広告が憲法を殺す日――国民投票とプロパガンダCM』(集英社新書、2018年)180-188頁をご覧ください。制度改正の具体案を示しています。

✔(5)は、2018年2月28日の毎日新聞夕刊「憲法改正国民投票 誰もが納得するルールは『絶対得票率』が疑問を払拭」をご参照ください。巷でよくいわれる「最低投票率」とは似て非なるものですので、注意してください。

✔(6)(7)は、この連載の第4回「国民投票広報協議会の役割とは?」で、(8)は、連載「立憲政治の道しるべ」の第130回「何が目的? 放送法の改正」でそれぞれ、解説済みです。

課題(1)国民投票犯罪に関する少年法の適用除外

 まず、国民投票犯罪に関する少年法の適用除外という課題です。

 公職選挙法は、選挙妨害罪、文書図画規制違反罪、買収罪、組織的多数人買収罪、なりすまし投票(詐偽投票)罪といった行為を犯罪として定めています。国民投票法も、公職選挙法ほど多くはありませんが、組織的多数人買収罪、なりすまし投票罪など、16の行為類型を犯罪として定めています。選挙に「選挙犯罪」があるように、国民投票にも「国民投票犯罪」があるのです。

 これら国民投票犯罪に関して「少年法が適用されないようにしなければならない」というのが課題(1)の趣旨ですが、ここまででは一体何のことか不明確ですので、まずは下の図をご覧ください。

 図は、国民投票権年齢の推移を表しています。現在、国民投票権年齢は20歳以上となっていますが、2018年6月21日を迎えると、18歳以上へと引き下げられることになります。2014年6月の国民投票法改正では、国民投票権年齢を一旦、20歳以上とする措置を講じ、4年後には自動的に18歳に引き下げることとしました。4年後に当たるその期日が、あと1か月ほどで到来するというわけです。

 ご案内のように、選挙権年齢の18歳引き下げは2015年6月、その法整備が実現しています。選挙権年齢、国民投票権年齢がともに揃うことになり、歓迎すべき話ではあるのですが、新たに国民投票の有権者となる18歳、19歳の者による国民投票犯罪の「扱い」を考えなければならないのです。

 18歳国民投票権が実現した後のエピソードとして、一つ例を挙げましょう。18歳の高校3年生が、同級生の投票所入場券を持って、投票所に行き、その同級生になりすまして投票を行ったとします。この場合、先に挙げた「なりすまし投票罪」が成立します。ところが、罪を犯した高校生は18歳であるために、20歳を上限とする少年法の適用を受けてしまうのです。つまり、本件は「成人の刑事事件」としては扱われず、刑罰ではなく、保護処分の対象となってしまいます。投票という権利行使の場面では有権者として「一人前」に扱う一方で、その犯罪に対して成人扱いしないというのでは、一貫性が無くなってしまいます。

 そこで、初めに述べたように、18歳、19歳の者による国民投票犯罪に関して、少年法を適用しないための、法律上の措置を講ずる必要が生じます。この点は、国民投票法を改正し、その附則に「少年法の適用を除外する」旨の一文を書き込むだけで足ります。

 もっとも、政府は現在、少年法の上限年齢を20歳から18歳に引き下げるための法整備の議論を進めています。そう遠くない将来、少年法そのものの改正が実現し、その上限年齢は18歳になるでしょう。そうなれば、国民投票権年齢と一致し、18歳、19歳の者による国民投票犯罪の「矛盾」は、自然と解決を迎えます。課題(1)は、少年法改正が実現するまでの暫定的な措置という位置づけになります。

課題(2)投票環境の向上等に関する法整備

 選挙と国民投票は、その対象など根本的に異なるわけですが、およそ有権者が、①投票日、投票所に行って、投票用紙に自ら記載して投函する、あるいは、②期日前投票、不在者投票、在外投票といった例外的な手続きを利用して投票するという点では共通しています。選挙も国民投票も、政治参加のシステムとしては同類です。これらの投票環境は「同等のレベル」で保障されるべきことは、あまりにも当たり前すぎる話です。

 ここで、投票環境をめぐる、選挙と国民投票の違いを示した表をご覧下さい。

 実は、この2~3年の間に、投票環境を向上させるなどの目的で、公職選挙法の改正が何度か行われています。私たちは選挙において、すでに、法改正の恩恵を受けています。選挙では「〇」になっているものも、国民投票では、法改正が追い付いていないため、「×」のままになっています。

 (1)共通投票所というのは、全国的にはまだ事例が少ないようですが、大型デパートなどでの買い物帰りに、その施設内に設けられた共通投票所で、期日前投票を済ませることができるシステムです。例えば、さいたま市にある「イオン与野ショッピングセンター」では、ここ最近の国政選挙では必ず、共通投票所が設置されています。買物客は、さいたま市中央区、大宮区、西区、桜区に居住する方がほとんどですが、かつて期日前投票に行こうとすれば、それぞれの区役所まで、足を運ばなければなりませんでした。それが、共通投票所が出来たことにより、平日でも、休日でも、買い物のついでに投票を済ませられるようになったのです。投票率の向上にも一定の効果が出ています。

 また、(5)は有権者のプライバシー保護の観点から、選挙人名簿の「縦覧」制度を「閲覧」制度に改め、リストを見ることができる者の要件を制限しています。国民投票では、投票人名簿という別の名簿が作られることになっていますが、法律上は「縦覧」のままになっています。

 国民投票で「×」になっている項目は、特段急ぐ事情は認められませんが、第1回国民投票までには必ず「〇」にしなければなりません。私は、その可能性はゼロだと確信していますが、国民投票と国政選挙が同じ日に実施されるというケースを想定してみると、整備の遅れ(矛盾)が一気に露呈することになります(共通投票所では、選挙の期日前投票は出来ても、国民投票の期日前投票が出来ないといった不都合が考えられます)。そして今の国会では、郵便投票ができる者の対象を要介護4、3にまで拡大するための公職選挙法の改正が実現する見込みです。この改正が実現すれば、制度間のアンバランスはさらに拡大することになります。

課題(3)国民投票「執行経費」の法定

 課題(3)は、かなり実務的な内容ですが、国民投票の「執行経費」について、その種目や基準額を法律上、明確にしなければならないという件です。

 国会議員の選挙等の執行経費に関する法律(国政選挙執行経費基準法、昭和25年法律第179号)は、制定後しばしば改正されていますが、議員(衆・参)の選挙、最高裁判所裁判官の国民審査、地方自治特別法の住民投票に関して、その経費の種目と基準額を定めています。これらは「国の事務」であって、国の予算を以て、国家公務員が行わなければならないものと考えられるわけですが、自治体に対しその事務を委託しています(第一号法定受託事務)。かみ砕いて言えば、「実費」と「手間賃」を自治体に支払って、事務を行ってもらう仕組みです。

 国政選挙では、投票所経費、共通投票所、期日前投票所経費、開票所経費、選挙会経費及び選挙分会経費、選挙公報発行費、候補者氏名等掲示費、ポスター掲示場費、演説会施設公営費、新聞広告公営費、政見放送公営費及び経歴放送公営費、選挙運動用自動車使用公営費、通常葉書作成公営費、ビラ作成公営費、選挙事務所の立札及び看板の類作成公営費、選挙運動用自動車又は船舶の立札及び看板の類作成公営費、ポスター作成公営費、個人演説会場の立札及び看板の類作成公営費、事務費、不在者投票特別経費、在外選挙特別経費の以上21項目にわたる種目が定められ、各自治体の人口等によりますが、交付される基準額が定められています。読者の皆さんで、投票所、開票所の立会人の経験がある方がいらっしゃると思いますが、幾らかの「日当」が支給されていたはずです。その金額は、名義上は自治体ですが、原資は国の予算です。

 他方、国民投票では、投票所経費、共通投票所、期日前投票所経費、開票所経費、国民投票分会経費、国民投票公報発行費、事務費、不在者投票特別経費、といった種目とそれぞれの基準額を決めておく必要があるところ、法的な手当がなされていません。机の上での話ですが、執行経費に関する法的根拠を欠いた状態で国民投票を行うことになれば、必要経費は自治体の持ち出しになるか、事務の執行不能ということにもなりかねないのです。各自治体は、憲法改正の発議が行われた後から、投票人名簿を作る準備や、不在者投票・在外投票の案内の告知を始めたり、さらには国民投票公報の配付などの事務を行うことになります。財政上の担保を予め、過不足なく行っておかなければなりません。先に、立会人の例を出しましたが、現状では、日当を支給することができないのです。

 この課題に対応するには、時限立法として「〇年〇月〇日国民投票執行経費基準法」(仮称)を、憲法改正発議の前に整備する必要があります。

むすびに

 国民投票を急ごしらえで行おうとしても、課題(1)~(3)のように意外とつまらない事柄が障碍となり、手続上つまずく原因となるということをご理解いただけたのではないかと思います。法律は、自然勝手に改正されることはありません。放っておけば、制度上の不備、遅れがどんどん増えていく一方です。国会の議決によって適時、適切な内容でその見直しが行われる必要があります。

 最後に失礼な物言いをするようですが、2007(平成19)年の国民投票法制定時のことを中途半端に憶えている方ほど、「参議院で18項目にもわたる附帯決議が付いた欠陥法だ」「最低投票率の規定がないのはおかしい」と、国民投票法の問題点といえばこの二つを枕詞として並べる(念仏のように唱える)傾向があるようです。しかし、前記の附帯決議でも、①そもそもネガティブな意味で法律の問題点を指摘したものではない項目、②18歳選挙権などのようにすでに法整備が実現している項目、③現実に国民投票が行われなければ対応できない項目、が様々混在しており、立法から11年経った今、これらを蒸し返し、問題視することにどれほどの意味があるのか、甚だ疑問を感じます。また、制定時の附帯決議には言及しつつも、2014(平成26)年改正時の附帯決議(衆議院7項目、参議院20項目)には触れないというのも、思考バランスの悪さを感じざるをえません。

 国民投票法は、憲法に準ずる規範です。その一部を改正する場合でも、与党だけの数の力に頼ることがないよう、政党間の幅広い合意が不可欠です。政局を離れて、各党が落ち着いて円卓協議が出来るようになるのは、一体いつの日のことでしょうか。

 NHK時論公論「憲法71年 改正議論と国民投票」(2018年5月3日放送)に、私のコメントが紹介されました。放送内容がそのまま、テキストで読めます。ぜひ、ご覧ください。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院・参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所、2017年)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社、2007年)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書、2018年)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店、2018年)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会、2017年)、などがある。(2018年4月現在)(写真:吉崎貴幸)