『焼肉ドラゴン』(2018年 日本/鄭義信監督)

 同名舞台を見る機会を何度か逸していたので、せめて映画でと足を運んだ。『ALWAYS 三丁目の夕日』が東京タワー完成間近の日本人を描いたとすれば、この作品はそれから十数年後、大阪万博前後の在日コリアンの物語だ。高度成長期の日本人の夢を通して観る者のノスタルジーを誘った前者に対し、後者は明るいはずの高度成長が家族を離れ離れにしていくさまを描く。
 その背景にあるのは朝鮮半島の苦難の歴史だ。
 済州島四・三事件をご存知だろうか。
 2つの朝鮮の国家が生まれる直前、半島の西南に位置する済州島では、南北統一の自主独立国家を目指す運動が南朝鮮臨時政府の警察や軍によって弾圧された。その結果、島民の6人に1人に当たる約6万人が虐殺されたという。本作品の舞台となる焼肉店(焼肉ドラゴン)を営む金一家の母親、英順は済州島で家族のほとんどを失い、何とか娘だけを連れて脱出。日本へ逃れてきた。そして大阪で、日本軍として戦い左腕を失った龍吉と再婚。互いの連れ子(娘3人)と2人の間に生まれた息子の6人家族で暮らしているのである。
 横たわる歴史は重い。とはいえ、日常は続く。働いてお金を稼ぎ、食べていかなくてはならない。生活は決して楽ではないが、どこか楽観的なところもある。
 これを庶民のたくましさというのだろうか。俳優陣がそれを見事に体現している。とくに次女、梨花役の井上真央さん。弾けている。鄭義信監督からは「思いっきりいってください。野獣になってください」と言われたそうで(6月29日付『朝日新聞』より)、井上さんにそれを求めた監督の本気もすごいが、要望に十二分に応えた井上さんもあっぱれだ。「世間ではあんたらのことなんて言うてるか、知ってますか? 盗人に追い銭ですよ」と言って立ち退きを迫る大阪市役所の職員に、金一家とは子どもの頃からの付き合いの李哲夫を演じる大泉洋が切る啖呵、「その世間一般を連れてこいッ」は、世の理不尽への怒りと人間への愛おしさがないまぜとなってこちらの感情を揺さぶる。
 個々の演技や台詞を取り上げていたらキリがない。スクリーンからあふれ出さんばかりの人間臭さを感じ取ってほしい。

(芳地隆之)

焼肉ドラゴン(2018年日本/鄭義信監督)※公式サイトにリンクしています