あなたは「受刑者」を受け入れられますか?~マガ9学校 7月28日(土)「刑務所から考える、ソーシャル・インクルージョン」を企画した理由~(越膳綾子)

多様性を受け入れる――。
ここ数年で、そうした意識を持つ人はずいぶん増えたのではないでしょうか。企業のダイバーシティは進み、身体障害者や外国人、育児や介護中の人たちが働きやすくなりつつあります。また、LGBT運動も盛んになりました。自分と違うところはあっても共生する。それが、成熟した社会にあるべき態度、という風潮を感じます。

では、「受刑者」についてはどうでしょうか?
障害者やLGBTは本人の責任じゃないけれど、受刑者は自業自得じゃないか。そう線引きしている人は多いような気がします。白状すると、かつての私自身がそうでした。刑務所に服役するほどの悪行をしたのだから、社会と一定の距離を置かれるのは致し方ない……と、心のどこかで思っていました。
しかし、そんな私の偏見を一掃する出来事がありました。作家で元衆議院議員の山本譲司さんの著書『獄窓記』(ポプラ社:2003年発行)を読んだことです。

山本さんは、秘書給与流用事件で栃木県の黒羽刑務所に服役しました。そこで出会ったのは、知的障害や精神障害などのハンディキャップのある人や、認知症の高齢者でした。食事や排泄、入浴といった身の回りのこともできない人、自分が刑務所にいることを理解できない人も大勢います。彼らの身体介助をすることが、山本さんに科せられた刑務作業でした。刑務所が“福祉施設化”していたのです。
山本さんが服役していたのは2001年ですが、今も状況はあまり変わりません。2016年の新受刑者のうち約20%は知的障害のある人です。

刑務所に障害者が服役している。
その事実だけで私は大きなショックを受けましたが、彼らが罪を犯した理由がさらに衝撃的でした。障害のある受刑者の多くは、万引きや無銭飲食、無賃乗車といった軽微な罪で服役していて、犯行理由は「生活苦」が最多だというのです。昨今、企業の障害者雇用が強化されたといっても、まだまだ一部の障害者に限られています。仕事がなく、福祉にもつながらずに孤立し、困り果てて犯行に及ぶというのが、障害者の犯罪の典型的なパターンです。30円の小銭を盗んで懲役3年になった人もいます。
しかも、刑務所を出所して社会に戻っても生活苦は変わりません。むしろ、前科という経歴がついたため、前にも増して仕事を得られず、福祉施設に受け入れられないことが多い。結局、同じような罪を犯して刑務所に戻る人が後を絶たないそうです。

つまり、
障害があるがゆえに貧困に陥る

社会から孤立
↓ 
生活に困って軽微な罪を犯す

刑務所に服役

出所後は前科者というレッテルを貼られ、さらに孤立

再び罪を犯す

という無限のループができあがっているのです。犯罪は、必ずしも本人の意思だけで行われるものではなく、障害者を排除してきた社会にも一定の責任がある。それを知った私は、得も言えぬ居心地の悪さを感じました。刑務所や受刑者を誤解していたことへの罪責感と、知ってもなにもできないことへの無力感も覚えました。

それからしばらくたった2012年、マガ9学校で山本譲司さんをお招きしました。「第18回 塀の中で見えたこと 福祉施設としての刑務所」です。山本さんから刑務所の現状と問題点について熱く語っていただき、参加者からも大きな反響をいただきました。
私は内心、このマガ9学校を企画したことで『獄窓記』を読んで抱えていた罪責感に区切りがつくだろうと思っていました。が、真逆でした。この問題をもっと多くの人、とりわけ次世代を担う若い人たちに知って欲しいという願いが、沸々と湧き上がりました。

そこで山本さんにお願いして、『獄窓記』の中高生向け版のような本を書いていただきました。今年5月に発行した『刑務所しか居場所がない人たち』(大月書店)です。編集協力者である私の諸事情で6年もかかりましたが、山本さんの服役体験から、ここ数年の司法や福祉の変化まで網羅した渾身の一冊です。
山本さんは、本書のあとがきでこう書かれています。

だれもが安心して暮らせる社会って、どんな社会だろうか。キーワードは「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」だ。
(中略)
罪を犯した障害者は、それまでの人生のほとんどを被害者として生きてきた。結果として前科というものを背負ったがために、「障害者」「前科者」と二重の差別を受けて、いちばん排除されやすい存在になっている。
いちばん排除されやすい人たちを包みこめば、だれも排除されない社会になるよね。もちろん、そのなかに君も属している。

罪を犯した障害者が生きやすい社会は、誰もが生きやすい社会なわけです。受刑者のためにも、自分自身のためにもぜひ実現したいものです。
そこで、受刑者をインクルージョンする社会にむけてまず何をすべきか探るべく、再びマガ9学校を企画しました。7月28日(土)「刑務所から考える、ソーシャル・インクルージョン」です。今度は、山本譲司さんと江川紹子さん、鈴木邦男さんのトークセッション形式で、前回よりも踏み込んだ議論を予定しています。
どうか、みなさんも一緒に考えてください。会場でお待ちしています。

(越膳綾子)

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