第134回:安倍・石破の一騎打ちで、憲法論議の“見える化”を(南部義典)

 42回目となる自民党総裁選挙が9月に行われます。報道で知る限りですが、最終的に安倍・石破の「両雄一騎打ち」の構図となりそうです。私は自民党の関係者でもなければ党員でもないので、様子を遠くから眺めるだけですが、①石破氏が勝利すれば、安倍内閣は総辞職する、②安倍氏が勝利すれば、内閣改造にとどまる、という選挙後の展開を想像し、疑似政権交代に期待を込めながら、石破氏の勝利を願っているところです。

自民党改憲論議の「見える化」

 最近の自民党総裁選挙では、候補者による公開討論、街頭演説会などが頻回に行われており、そのやり方は今回も踏襲されるでしょう。まず何より、私が石破陣営に期待するのは、オープンな場でしっかりと憲法改正を争点に置いて、党内論議の「見える化」を徹底してほしいということです。

 ご存知のとおり、2017年5月3日、安倍総理・総裁が「2020年憲法改正施行宣言」のメッセージを発しました。自民党憲法改正推進本部はその意向を汲みながら、いわゆる4項目(自衛隊明記、緊急事態、合区解消・地方公共団体、教育充実)について議論を重ね、ことし3月24日、「憲法改正に関する議論の状況について」という、改正の方向性をまとめた文書を仕上げています(翌日の党大会で発表)。もっとも、議論の経過をみると、自衛隊明記に関しては、現行9条はそのままにこれを目指す安倍案に近い意見と、石破氏を筆頭とする、9条2項を削除し、自衛権制約のレベルを憲法から法律に落とすべきとする意見が鋭く対立していました。最後は、細田博之本部長に一任という形で拙速、無理筋な決着がなされましたが、前記のとりまとめ文書でも9条2項削除案が「付記」されている状況にあります。石破氏は、「自民党の意思決定のあり方としては極めて異例だった」と発言しています(毎日新聞朝刊2018年3月23日)。あれから4カ月以上経ちましたが、まだ納得していないのではないでしょうか。

 この間、私はしばしば指摘してきましたが、憲法改正推進本部の総会は20回ほど開催された中、そのすべてが非公開で行われたばかりか、安倍総理・総裁は一度も総会に出席することがありませんでした。安倍・石破の「直接対決」が実現しないまま、とりまとめ文書が仕上がってしまったわけですが、オープンな場での対決を避けたことは、自民党にとってむしろ不幸な意思決定過程になってしまったと考えます。それが今回の総裁選挙で一騎打ちの構図となる(可能性が高い)ことから、党内論議の「見える化」が進むことに期待できます。一対一の討論を通じて、両案の相違を改めて実感できるとともに、自民党は必ずしも一枚岩になっていないことがはっきりと裏付けられることになるでしょう。

「改憲スケジュールありき」の政治責任を問うべき

 安倍総理・総裁は「2020年憲法改正施行宣言」を出しておきながら、東京都議会議員選挙(2017年7月2日)で惨敗した頃から、「スケジュールありきではない」という軌道修正的な言い回しを国会答弁等で多用しています。ところが、熱心な自民党支援者、自民党所属地方議員の多くは、2020年に憲法改正が必ず実現するものと確信(私から見れば「錯覚」ですが)しており、スケジュールどおりに進んでいないことに対する疑問、いら立ちのようなものが、ことしに入って隠せなくなってきているようにも見受けられます。2020年というスケジュールありきで議論を進めようとして、現実、客観的にはとん挫していることについて、自民党内から責任を追及する声が上がって当然ではないでしょうか。
 また、3月の党大会以後、憲法改正推進本部の総会は一度も開かれていませんし、同本部のウェブサイトは、2017年12月20日を最後に7カ月半もの間、更新がストップしています。国民に広く議論を喚起しているとは、到底いえないでしょう。自主的な憲法改正をめざす政党として、議論をこう着させている究極の責任はどこにあるのか、総裁選を通じてしっかりと論じていただきたいところです。現執行部は、憲法改正方針について、党内があたかも一枚岩でまとまっているかのような体裁を取り繕い続けてきたわけですが、石破氏にはそのすべてをひっくり返す、壮大な“ちゃぶ台返し”を期待しています。

国会改革への期待

 また、石破氏には国会改革のビジョンをしっかりと示してほしいと思います。石破氏は、与党議員と野党議員の両方を程よく経験していますし(1993年、自民党を離党した経験もあります)、現職の総理でもなく(現職の総理が国会改革を口にすると、それ自体、憲法違反との非難は避けられませんし、その内容も、法案審議の計画性の担保、出席義務の負担軽減など、内閣の都合ばかりが出てしまいます)、重鎮議員として上手く取りまとめられるポジションにあると確信しています。
 石破氏の近著『政策至上主義』(新潮新書、2018年)では、与党議員の質問のあり方、野党議員の質問通告のやり方などの言及はありますが、総裁選本番に向けてはもう少し、国会―内閣の権力間構造の患部にメスを入れ、55年体制的国会運営から完全決別できるほどの、ドラスティックな問題提起をしていただきたいところです。私だったら、国会オンブズマン制度の創設、法律案の「吊るし」の運用完全廃止、を提起します。

敗者としての身の処し方

 「政権政党における代表選挙で敗れた者は、現首相も同様、惨めでなければ理屈に合わず、党を去ることも選択肢に入る。敗者としての身の処し方が当然ある」

 これは8年前、民主党代表選挙が行われた際に、第28代参議院議長・西岡武夫氏が残した言葉です(「政治に残された時間と余白はあるのか」2010年8月23日付・会見配付文書)。とかく代表選挙と言えば、仮に敗れたとしても、その後党内、閣内で一定の優遇が受けられることを狙った猟官運動的な意味合いが否定できません。
 今回の自民党総裁選挙の敗者は離党せよ、とまでは言いませんが、さらに次の総裁選挙までの間、冷遇を甘受する覚悟は不可欠です。それ程に、並々ならぬ緊張感を持って臨んでいただきたいものです。果たして、どんな結果になるのでしょうか。

●講演会のお知らせ
お近くの方は、ぜひお運びください。

大阪弁護士会 憲法市民講座
「超早わかり国民投票法 ―現行法のまま、憲法改正手続を進めることの是非―」
・日時 2018年9月1日(土)14:30 ~ 16:30
・場所 大阪弁護士会館10階 1001・1002会議室(大阪市北区西天満1-12-5)
・参加費 無料
・申し込みは、こちらまで

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院・参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所、2017年)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社、2007年)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書、2018年)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店、2018年)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会、2017年)、などがある。(2018年4月現在)(写真:吉崎貴幸)