第67回:杉田水脈議員の考えは、自民党の考えである(想田和弘)

 自民党の杉田水脈衆議院議員が雑誌「新潮45」に書いた文章が、大きな波紋を呼んでいる。彼女は「『LGBT』支援の度が過ぎる」と題した寄稿で、こう書いた。

 「LGBT(性的少数者)のカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」

 LGBTへの酷い差別発言であることは言うまでもない。

 だが、問題はそれにとどまらない。なぜなら杉田議員の論理の根底には、生産性がある=役に立つ人間には税金を使ってもよいが、そうでない人間には使うべきではない、という発想が潜んでいるからだ。

 これは大変危険な考え方である。

 杉田氏の論理でいけば、高齢者や障害者、失業者などにも税金を使うな、ということになってしまう。ナチスが障害者を「生きる価値がない」と断じて皆殺しにしたことは有名だが、その発想と地続きである。

 だから杉田氏に対して激しい批判が巻き起こったのも、当然であろう。抗議デモには5000人が集まり、野党からは議員辞職すべきだとの声が上がっている。

 ところが安倍政権や自民党の反応は極めて鈍い。

 僕が知る限り、安倍晋三首相はこの件について、いまだに全くコメントをしていない。あんたが杉田さんを自分の秘蔵っ子として自民党に引き入れたらしいじゃん、なんとか言いなさいよ、晋三さん。

 一方、二階俊博幹事長は7月24日の記者会見で、こう述べた。

 「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観、考えがある」

 あろうことか、発言を問題視しない考えを示してしまったわけだ。つーか、「人それぞれ」を否定したのが杉田発言なんだよ、二階さん。

 そういう「上」の反応に、杉田氏ご本人はご満悦である。氏は7月22日、ツイッターでこうつぶやいた。

 「自民党に入って良かったなぁと思うこと。『ネットで叩かれてるけど、大丈夫?』とか『間違ったこと言ってないんだから、胸張ってればいいよ』とか『杉田さんはそのままでいいからね』とか、大臣クラスの方を始め、先輩方が声をかけてくださること」

 このツイートは猛反発を呼び、現在は削除されているが、まあ、そういうことなんでしょう。

 いずれにせよ、安倍首相や二階幹事長が杉田水脈議員の発言を批判しないのには、大きな理由がある。実は杉田発言は自民党の考えそのものであり、したがって杉田氏は党のボスから「よく言った」と褒められこそすれ、批判される謂われはないからである。

 そのことは、自民党が2012年に発表した「日本国憲法改正草案」を分析すればよくわかる。例えば現行の日本国憲法には、次のような条文がある。

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

 これを自民党改憲案は、次のように変えている。

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

 以前のコラムで書いたように、現行憲法の「公共の福祉」という言葉を「公益及び公の秩序」に変えたことも実は大問題なのだが、ここでとりあえず注目すべきは、下線を引いた「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し」という文言の追加である。

 これを平たく言えば、「自由や権利を享受するには、責任や義務を果たすことが必要だ」という意味である。そして「責任や義務」とは、勤労や納税のことを指すであろう。つまり自民党は、「働かざる者、納税せざる者には権利も自由もないと思え」と言っているわけである。

 なんだか既視感ない?

 そう、自民党の改憲案は、杉田議員の主張「生産性のない人間に税金を使うな」と、全く同じことを言っているのである。

 ちなみに、改憲案の起草委員会のメンバーだった片山さつき参議院議員は以前、ツイッターでこうつぶやいた。

 「国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です。国があなたに何をしてくれるか、ではなくて国を維持するには自分に何ができるか、を皆が考えるような前文にしました!」

 「天賦人権論」とは、男も女も異性愛者も同性愛者も健康な人も病気の人も障害のある人もない人も子供も老人も右翼も左翼もアナーキストも、生まれながらに人権がある、というものである。

 自民党は改憲案でそれを公式に否定し、義務とセットにした。つまり義務が果たせない人間には人権がない、とドヤ顔で謳ってしまったわけだ。

 僕はこれだけでも自民党は政権政党として失格だし、彼らに権力を委ねるのは危なすぎると思う。だけどそう思わない人の方が、残念ながら日本には多いのだ。だからこそ安倍自民一強状態が続いているし、杉田議員も辞めずに済んでいる。

 だけどねえ、みなさん、本当にそれでいいんですかね。

 「俺は同性愛者じゃないし働いてるから関係ないし」ってタカをくくっているきみ!

 きみだって長生きすれば高齢者になるんですよ。働けなくなって納税するのをやめた途端に、姨捨山に捨てられちゃっていいのかなあ?

 よおく考えてみよう。

想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ): 映画作家。ニューヨーク在住。東京大学文学部卒。テレビ用ドキュメンタリー番組を手がけた後、台本やナレーションを使わないドキュメンタリーの手法「観察映画シリーズ」を作り始める。『選挙』(観察映画第1弾、07年)で米ピーボディ賞を受賞。『精神』(同第2弾、08年)では釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』(同番外編、11年)では香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞。『演劇1』『演劇2』(同第3弾、第4弾、12年)はナント三大陸映画祭で「若い審査員賞」を受賞した。2013年夏、『選挙2』(同第5弾)を日本全国で劇場公開。最新作『牡蠣工場』(同第6弾)はロカルノ国際映画祭に正式招待された。主な著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 vs.映画』(岩波書店)、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレット)、『熱狂なきファシズム』(河出書房)、『カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論』(集英社インターナショナル)などがある。