柳澤協二さんに聞いた:北朝鮮への圧力は、私たちに本当の「平和」をもたらすのか

「国難突破解散」と称して、突然の衆議院解散を決めた安倍首相。その「国難」の一つとして挙げられたのが「北朝鮮情勢」でした。ミサイル発射や核実験があったとはいえ、本当にそれほど差し迫った「国難」なのなら、解散総選挙なんてやっている場合なの? という疑問も浮かびますが、先日公表された衆院選に向けての自民党の公約でも、「北朝鮮対応」は重点項目の一つに。共同通信のアンケートでは、自民党候補者の4割近くが〈平和的解決が最終的に困難な場合、米軍による軍事力行使を支持する〉と答えたといいます。
9月の国連総会演説でも「北朝鮮との対話は不可能」と言ってのけた安倍首相ですが、あくまで「圧力」と「日米関係の強化」にこだわるこうした強硬姿勢は、本当に「北朝鮮の脅威」を解消することにつながるのでしょうか? 元防衛官僚で、安全保障や外交の問題について積極的に発言を続ける柳澤協二さんにご意見をお聞きしました。

ミサイルを「100%防ぐ」ことはできない

──今年に入ってから、北朝鮮のミサイル実験や核実験が続いたことを受けて、日本各地で避難訓練が実施され、避難の方法を知らせるテレビCMが流れたり、テレビで特別番組が組まれたりと、「北朝鮮の脅威」を非常に強調するような空気が広がりました。柳澤さんは、こうした状況をどう見ておられましたか。

柳澤 避難訓練もJアラートも、必要で有効なことであればどんどんやればいいのですが、どうも私にはそうは思えないし、背景にある政府の総合的な判断が何も示されていないのが気になりました。ミサイル攻撃を受ける可能性が十分にあるから備えようということなのか、まずそんなことはないけれど破片が落下してこないとも限らないし、念のためにやっておこう、ということなのか…。
 9月のミサイルは「グアムまで届く飛距離」だったといって報道されましたが、本当にそれだけの技術が確立されているのであれば、間違って日本に落ちてくるような心配はないはずです。逆に、失敗して破片が落ちてくるかもしれないから心配というのなら──たしかに、それはそれで心配ではありますが──その程度の技術力を軍事的な脅威とはいえませんよね。
 避難訓練の様子などを見ていると、日本が直接攻撃されるという事態を想定しているように見えますが、本当にそんなに心配なのなら、原発再稼働するなという話になりますよね。何より、避難訓練よりも「ミサイルが飛んでこないようにする」「戦争にならないようにする」のが政治の役割だと思うのですが、どうもそうした動きは見えません。

──安倍首相は、9月の国連総会でも「対話による問題解決は不可能」だと主張するなど、北朝鮮に対して強硬的な姿勢を強めています。

柳澤 安倍政権の基本的な北朝鮮対応は、ミサイル迎撃システムと、日米同盟の強化による抑止力で対抗するというものですね。実際に北朝鮮が日本に向けてミサイルを撃ってくる可能性がかなりあるという前提に立てば、それももちろん一つのやり方だとはいえるでしょう。
 しかし、ミサイル防衛システムというのは、当然ながら100%攻撃を防げるわけではありません。よく「ミサイル迎撃率80%以上」という言い方がされますが、これは迎撃実験での数字に過ぎないんですね。

──考えてみれば当たり前ですが、実戦で試したわけではないんですね。

柳澤 実験ならミサイルが発射される場所も分かっているし、こちらがあらかじめ待ち構えている状態に一発ずつ撃ち込まれるような条件下で行われますが、実戦となれば当然相手方も、簡単に撃ち落とされないような手──防衛システムの処理能力を超えた数のミサイルを一気に撃つとか、多種類のミサイルを同時に発射するとか──をいろいろ打ってくるでしょうから、迎撃率はもっと低くなるはずです。そもそも、実験でさえ20%は迎撃できないわけですから、実戦では何発かは必ず落ちてくると考えたほうがいいでしょう。

──いくらミサイル防衛システムを充実させても、本当に攻撃されたとしたら被害は防ぎきれない可能性が高い…。

柳澤 そうです。そこで、だからこそ日米関係をもっと強化して、日本に被害が出たらアメリカが確実に報復してくれるようにするんだ、日米が一体化すればするほど安全が高まるんだというのが安倍首相の主張なんですね。

「戦争が起こっていない=平和」ではない

──いわゆる「抑止力」の理論ですね。

柳澤 しかし、よく考えてみたらこの「抑止力による安全」は、「アメリカが報復するぞ」といえば相手が恐れ入って撃ってこなくなるという推測があってこそ成り立つものです。ところが戦争というのは、常にそんなに合理的に始まるわけではありません。相手が、自分たちが多少やられてでも、とにかく攻撃するんだと考えたら終わりです。

──理論的には「攻めてくるはずない」状況でも、追い詰められて、やけっぱちになって攻めてくるかもしれない…。

柳澤 そして、北朝鮮は「撃たないと自分がアメリカにやられる」という恐怖心からミサイルを発射しているわけですから、現状のように日米が一体化して抑止力を強化しようとするのは、逆に相手の「ミサイルを撃つ動機」を強めてしまう可能性が高い。もちろん、ミサイルが飛んでくる可能性に対してまったく無防備でいいとも思いませんが、圧力をかけて追い詰めれば追い詰めるほど、日米関係を強化すればするほど安全になるんだという理屈は明らかに道理が通らないでしょう。
 しかも、抑止力というのは、相手が軍事力を強化したらこちらも追いつかなくては意味がない。結果として、互いが負けないためにどんどん新しい兵器を導入して軍事力を強大化させていくという悪循環の中に組み込まれてしまうことになります。アメリカはそのほうが儲かるから喜ぶでしょうが…。

──今年8月の2+2(日米安全保障協議委員会)で、小野寺防衛大臣が新たに米国製のミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の導入方針を伝えたのなどは、その典型ですね。

柳澤 そうしたさまざまなリスクを背負いながら、力によって相手を押さえ込むことで、結果としてたしかに今のところ戦争は起こっていない。けれど、「相手が攻めてくるのではないか」という不安は常に消えない。そんな状況で本当に「平和でよかったね」と言えるのか、我々が望む「平和」とはそういうことなのか。私は、そうではなく、「戦争の恐怖」「脅威」そのものから解放されることが、本当の「平和」ではないのかと思います。

柳澤協二さんに聞いた:北朝鮮への圧力は、私たちに本当の「平和」をもたらすのか

道は「米朝和解」しかない

──まったくそのとおりだと思います。その実現のためには、具体的にはどんな道筋があるとお考えですか。

柳澤 何より、相手をただ力ずくで押さえ込むのではなく、相手が攻撃してくる動機そのものを取り除く必要があると考えます。
 先ほども触れたように、北朝鮮がミサイル実験を繰り返し、核実験の強行にまで至った背景にあるのは、「こちらから撃たないとアメリカに滅ぼされる」という恐怖心です。イラク戦争で核をもたないフセイン政権がアメリカに倒されたことは、北朝鮮にとっては「やはり核をもたなければあのように滅ぼされる」という強烈なメッセージになってしまったことでしょう。
 であれば、「北朝鮮がミサイルを撃ってくるのでは」「核を使うのでは」という恐怖心から解放されるためには、北朝鮮とアメリカとの関係──朝鮮戦争以来、いまだ平和条約が結ばれておらず、いわば戦争状態にある両国の対立関係を解消する方向にもっていくしか道はないと思います。
 ただ、そのためには、まずは「核の放棄」を棚上げする必要も出てくるでしょう。

──とりあえず核は所有したままでいいからという条件で、和平交渉に入るということでしょうか。

柳澤 そういうことです。もちろん「核のない世界」は理想ですが、アメリカをはじめ各国が核所有している状況で、北朝鮮にだけいきなり核放棄を求めるのでは道理が通らないからです。
 そうするともちろん、和平を結んだ後に核をどうするのかという問題は残ってしまうわけですが、そもそも「脅威」というのは、相手がこちらを攻撃してくる能力と意図があって初めて生まれるもの。それも「かけ算」のようなもので、いくら攻撃能力が高くても、攻撃してくる意図がなければ脅威はほぼゼロと言っていいと思うんですね。現実として、インドやパキスタン、あるいはもっと日本に近い中国やロシアも核を保有しているけど、その核を「日本にとっての直接的な脅威」だと考える人は少数でしょう。それは、その国々が日本に対して核兵器を用いる意図がある、戦争になる可能性があるとは思っていないからではないでしょうか。

──相手が核を持っているのは知っているけど、こちらに対して使ってくることはないだろう、という関係性があるわけですね。

柳澤 北朝鮮との間にも、そんなふうに「まあ、戦争にはならないだろう」と思える関係がつくれさえすれば、いったん「核を棚上げ」したとしても大きな脅威にはならないはずです。
 そもそも、米朝関係を抜きに考えれば、日本と北朝鮮の間には戦争しなければ解決できないような深刻な対立はありません。日中の間には尖閣という領土問題がありますが、日朝間にはそれさえない。戦争になる理由があるとしたら、「日本に米軍基地があって、北朝鮮を攻撃する米軍機がそこから飛んでくるかもしれないから」だけ。つまり、米朝が和解に至れば、日本と北朝鮮が戦争になる理由は、少なくとも論理的にはまったくなくなるはずなんですね。

──たしかに、日中関係にはまだ尖閣問題がありますが、日朝の間には本来、そうした明確な対立の種さえありませんね。いつのまにかすっかり「敵国」扱いになってしまいましたが…。

柳澤 さらに、そうして米朝関係が改善すれば、北朝鮮も「アメリカから攻められる」恐怖から解放されて、核をもつ必要がなくなっていくかもしれない。そんなふうに、世界の構造そのものを変えていく発想が必要なんだと思います。
 もちろん、容易なことではありません。特に難しいのがアメリカの国内世論で、トランプ大統領が「北朝鮮と和平に向けて交渉する、核の問題は棚上げする」といえば猛反発は避けられないでしょう。ここからさらに米朝間の緊張が高まって、「これは本当に戦争になるのでは」という、ぎりぎりのところまで行ってからでなければ、なかなか本格的な交渉には踏み出せないかもしれません。
 それを前に進めるために、本来なら日本こそが率先して「戦争という誤った選択をして、また痛い目に遭うのはやめよう」と声をあげるべきなんですね。かつての戦争で310万人の犠牲を出し、2発の原爆を落とされるという、これ以上ない「痛い目」に遭った国ですから、他のどこの国が言うよりも説得力があるはずです。

──しかし現状は、むしろその逆を行っています。

柳澤 「非核三原則の見直しをすべき」という話が出てくるところまで来ていますね。私も、抑止力の意味がまったくないとは思いませんし、抑止力をある程度維持しつつ対話による和解を模索するという「二本立て」が現実的な対応なのかもしれません。しかし、日本政府にその「和解を模索する」ほうの方向性がまったく見えてこないことが、非常に根深い問題だと思います。
 今は、日本にとって本当に分かれ道だと思います。とにかくミサイルが飛んできたらやり返すんだ、多少の犠牲は覚悟の上で軍事力で対抗するんだ、という合意を形成するのか、それとも「ミサイルが飛んでこない」ような状況をつくって戦争の恐怖から解放されるために努力するのか。私たちが後者を選ぶのであれば、「あんな強圧的な政権が核を持っているなんて危ない」といった感情論は──理解はできるけれども──いったん後ろに下げて、理性で考えるしかありません。
 そうした「気に入らない奴が周りにいても、だからといって単純に力でやり込めようとは考えない」「自ら争いを引き起こすようなことはしない」という姿勢が、日本の平和国家としてのアイデンティティだったのではないのでしょうか。それをかなぐり捨てて、「相手が力で来るならこっちもやり返す」という発想に走るのは、危険なばかりでなく非常に愚かなことと言わざるを得ないと思います。

(構成/仲藤里美・写真/マガジン9編集部)

柳澤協二さんに聞いた:北朝鮮への圧力は、私たちに本当の「平和」をもたらすのか
柳澤協二(やなぎさわ・きょうじ)
1946年生まれ。元内閣官房副長官補・防衛庁運用局長。歴代内閣の安全保障・危機管理関係の実務を担当。現在、国際地政学研究所理事長、「自衛隊を活かす会」代表を務める。『自衛隊の転機 政治と軍事の矛盾を問う』(NHK出版)、『新・日米安保論』(共著・集英社新書)など、著書多数。
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