第425回:NO LIMITソウル自治区報告!! 〜韓国のフェミニズムと「アジア永久平和デモ」in ソウル〜の巻(雨宮処凛)

 この原稿を書いているのは、韓国・ソウル。

 私は今、「NO LIMITソウル自治区」に参加するため、韓国に来ているのだ。

 NO LIMITってなに? という人は、昨年開催されたNO LIMIT東京自治区についてのコラム(第388回第389回)を読んでほしい。まぁ一言でいうと、東アジアの人たちの大交流会。アジアの政府は近隣諸国同士それぞれ対立を煽ってたりするけど、そんな馬鹿馬鹿しいことに巻き込まれず、とにかく民間人同士で仲良くなってしまおうという企みだ。そうして昨年は一週間にわたって東京・高円寺を中心にデモやイベントやライブ、毎晩の路上大宴会が繰り広げられ、韓国や台湾や香港や中国やタイやマレーシアから200人ほどが来日、飲み過ぎて十数人が帰りの飛行機に遅れた。

 その第二弾が現在行なわれているNO LIMITソウル自治区。9月15日から24日までの10日間に渡って開催され、各国から活動家やただのマヌケな人々やアーティスト、ミュージシャン、自分の地元でカフェなどの店や居場所作りをしている人、セックスワーカーの問題に取り組む人などなどが大挙してソウルに押し寄せているのである。そうして私も15日に単身、韓国入りしたという次第だ。

 そんな韓国でまず感激したのは、ロリータ・パンチとの出会いだ。

 ロリータ・パンチとは、韓国のフェミニズムアクティビストグループ。ロリータの服を着て、デモなどの活動をするグループだという。その存在は、パククネ大統領退陣デモが盛り上がっていた時から耳にしていた。韓国のデモにロリータ服のグループがいて、彼女たちはロリータ・パンチと名乗っていること。話してみると、日本のアクティビスト・雨宮処凛に影響を受けているそうだ、と韓国人の友人に聞いたのだ。それからほどなくしてロリータ・パンチのキムさんという女性から連絡があり、彼女たちのサイトに原稿を書いたのがつい最近。そうして今回の韓国行きで必ず会おうと約束していたのだ。

 15日、ソウルのホテルのロビーに現れたキムさんは、韓国のオリジナルロリータブランドLIEFのドレスに身を包んでいた。そうしてその日から現在に至るまで、日々行動を共にしている。驚かされるのは、彼女の口から、日本で10年ほど前に問題となった「ロリータブランドBABYの不当解雇問題」などが当たり前に語られること。「あの不当解雇はロリータの夢を壊すものです」と語る彼女は、韓国のロリータさんの間でBABYの服を着ないという行動が広がっていることを教えてくれた。日本も韓国も、若者たちの労働問題が厳しい事に変わりはないから、日本のロリータブランドでの労働問題は見過ごせないという。

 そして更に驚くのは、彼女たちが堂々と自分たちを「フェミニストです」と公言すること。韓国在住の日本人に聞くと、韓国では2015年頃からフェミニズムが盛り上がり、16年にカンナムで起きた「ミソジニー殺人事件」(16年、ソウルの江南で女性が殺された事件。犯人は「女性たちから無視されるから犯行を犯した」と供述。「ミソジニー」とは、女性蔑視、女性嫌悪の意味)によってフェミニズムに火がつき、今、一番元気な運動はフェミニズムで、とにかく闘う女性が増えているという。女性が意見を言い、主張する。嫌なことには嫌という。そんな空気が爆発的に広まっているというのだ。そしてフェミニズムは、パククネ退陣デモの際にも現場で大きなテーマとなっていたという。そんな韓国のフェミニズム運動には、もちろんLGBT問題なども含まれている。

 「私たちロリータはフェミニストで、たくさん本を読んで、勉強して、貧乏だけど一生懸命生きてます、偉いでしょ?」

 そう言って悪戯っぽく笑うキムさんの姿がただただ眩しい。思えば、ロリータとフェミニズムって絶対に親和性が高いのだ。そうして今、フェミニズムは世界で熱い。ナイジェリアの作家、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ氏のフェミニズムに関するスピーチが世界的に話題となり(日本でも『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』として出版されている)、スウェーデンではそのスピーチが冊子となってすべての16歳に配布され、クリスチャン・ディオールは「We Should All Be Feminists」というTシャツを作ったりしていて、韓国だけでなく世界的に元気な運動なのに、日本だけがまったくの無風。日本がいかに取り残されているかを改めて実感したのだった。

雨宮処凛がゆく! 第425回

ロリータ・パンチの皆さんと。右から2番目がキムさん

雨宮処凛がゆく! 第425回

韓国のロリータブランド「LIEF」にて、韓国のロリータちゃんたちと

 さて、その翌日、16日はソウルの光化門広場で「アジア永久平和デモ」。

 集合場所に行くと、昨年のNO LIMIT東京自治区で会った韓国人や台湾人や中国人などの顔があり、1年ぶりの再会を喜び合う。そうして16時、韓国人のアーティスト・YAMAGATA Tweaksterのリヤカーを先頭にデモに出発!

 びっくりしたのは、韓国のデモがあまりにも適当なこと。デモ隊には、警察が1人もいないばかりか、日本と違って車道ではなくデモ隊は通行人に混じって歩道を進行。YAMAGATAは途中で一人だけ離脱して車道に走り出したり電話ボックスに乗ったりと大暴れ。そうして多国籍な100人近い集団はYAMAGATAの歌やコールに合わせて歌い踊り、「PEACE FOREVER」を連発し、存分に「アジア永久平和」をアピールしてデモは終了したのだった。後で知ったのだが、本当は大統領府とかまで行く予定だったものの、「疲れた」という理由でデモコースも途中で変更されていたらしい。なんと自由で適当な韓国デモ。この「隙間」が、パククネ退陣デモに100万人を集める背景にあったのだ。日本の場合、とにかく管理されていてデモも申請しなきゃできなくて、もうその辺りからの「自由度」がまったく違う。

雨宮処凛がゆく! 第425回

デモ出発前、横断幕の前で

 デモ終了後は、ソウル地方警察庁の前で路上ライブ。韓国のバンドや日本のバンドが演奏し、いろんな国の人たちでとにかく飲んで騒いで踊りまくる。

 「オレたちみんな同じ顔、同じ匂い、同じ人間!」

 韓国や台湾や香港や上海や日本の人たちが入り乱れる中、日本のバンド「ねたのよい」のボーカルがライブの途中に言う。そうして路上宴会は続き、その翌日は、韓国スタッフの手作りマッコリで深夜までマッコリパーティー。

 とにかく毎日、いろんな国の人たちと一緒に飲んでご飯を食べて、デモとかの共同作業をして、一緒に遊びまくっている。その間に、いろんな話をする。再開発の問題、資本主義の問題、新自由主義の問題、フェミニズム、労働問題、差別の問題。ネパールから来た女性に、ネパールの少数民族の教育問題についての話も聞いた。こんな話、NO LIMITがなきゃ一生聞く機会なんてなかっただろう。

 去年も思ったけど、やっぱりこれって大いなる「平和の実践」の第一歩だと思うのだ。年に一度、いろんな国の人たちがわざわざ集まって、とにかく一緒に遊びまくる。

 NO LIMITソウル自治区は、ソウルの街を1日1地域占拠しながら、24日まで続く。ロリータ・パンチはファッションイベントをするそうだ。今日はこれからセックスワーカーのイベントがある。東アジアで今、誰もやったことのない方法で平和を模索する取り組みが、こうして始まっているのだ。

 そんなNO LIMITの仕掛人、「素人の乱」の松本哉氏は、いつ見ても酔っぱらってるか二日酔いなのだった。身体を張ってアジア中に友達を作ってきた松本哉氏は、アジア中の人にやたらと人気者である。

雨宮処凛がゆく! 第425回

アジア永久平和デモ!! カオス!


雨宮処凛がゆく! 第425回

「家父長制破壊!」「女の身体は自分のもの!」とコールするキムさん


雨宮処凛がゆく! 第425回

デモで謎の踊りをするYAMAGATA


雨宮処凛がゆく! 第425回

台湾のまるこさんと☆

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。