第426回:新しい未来を求めるデモ〜若者たちの思い〜の巻(雨宮処凛)

雨宮処凛がゆく!第426回

 「安倍も小池も今すぐやめろ!」「前原議員を許さない!」「安倍が国難!」「自由を守れ!」「未来を守れ!」「憲法守れ!」「ファシスト通すな!」「みんなのための政治を、今!」

 10月1日、東京・新宿の街にはこんなコールがこだました。

 この日開催されたのは、「FORCE QUIT 安倍政権強制終了 新しい未来を求めるデモ」。

 奇しくもこの日は「希望の党」と民進党の合流が報じられて3日後。リベラル派の民進党議員の「排除」を小池百合子都知事が宣言し、大混乱極まる状況の日である。

 集合場所の公園に集まった人々が手にするプラカードには、「安倍サン勝手すぎる!」「お前が国難」「みんなのための政治を取り戻す」「さよなら安倍政権」などの言葉が踊る。安倍首相と小池都知事の顔写真の上に「同類」と書かれたプラカードもある。そんな公園に突如「枝野」コールが沸き上がったのはデモ出発10分前。なんと、渦中の枝野幸男氏が現れたのだ。

 枝野氏はまず「皆さんに大変ご心配をおかけしていると思っています」と述べ、「私たちがこれまで国民の皆さんに訴え約束してきたことを、政治家の都合で変えることはあってはならない」と続けると、あたりから大きな歓声。枝野氏は続けた。

 「私は、この国の民主主義と立憲主義と報道の自由をはじめとした表現の自由、情報公開、安倍政権が壊してきたもの、大事な大事な社会の軸となるべき基本はしっかりと守る。それを守るために闘っていく。何があっても私はこのことに関してはぶれない。媚びない。ずれない」

 枝野氏のあとには共産党の山添拓氏もスピーチし、午後2時半、デモ隊は出発!

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デモに出発!

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「同類」プラカードと☆

 先頭のサウンドカーの上でまずスピーチしたのは、大学1年生の女性だ。

 彼女は今回の解散への憤りを述べつつ、「安倍首相か、小池百合子新首相か」という構図自体に違和感を唱える。「正直、女性の首相なんてちょっといいじゃん」という思いはあったものの、小池都知事は「ずっと前から変」だということ。憲法を敵視し、「戦争法に反対」の議員を許さない姿勢、また、9月の関東大震災・朝鮮人虐殺の犠牲者を悼む集いへの追悼文を拒んだこと。

 「これじゃあ、男支配社会が暴力的に進めてきた、差別と暴力、戦争を認める政治となんにも変わらないんです。軍備を増強して金融関係も含む大企業、大財閥が儲けて、市民や罪のない子どもたちが苦しむなんてことが二度と起こらない政治を運営してくれる。こんな当たり前のことをぶれずにしっかり貫く政治家に私は一票を投じます」

 その次にスピーチした大学2年生の女性は、大学の中で様々な対話をしてきたことを紹介した。

 「私たち若者が望むのは、平和と暮らしを守る政治です。軍事費をどんどん増やし、国民の生活をないがしろにする、海外で行なわれる戦争にアメリカについて参加する、そんなこと私たちは誰も望んでいません。改憲で教育を無償化にする、消費税を増税して社会保障にまわす、そんなこと、今までやってきたことを見れば信じることができないのは当たり前です。選挙の前だけ都合のいいことを言って選挙が終わったらなかったことにする、そんなのはもう、うんざりです。『希望の党』も受け皿にはなりません。その正体は安保法制の容認を一致点にした自公の補完勢力です。私たちの希望を託すことはできません。私たちの本当の願い、平和がいい、憲法を守り生かしてほしいという思いを実現してくれる政治を作りましょう。選挙に行かないということは、今の政治を暗黙のうちに承認することです。選挙に行っても変わらない、自分たちの声は反映されないと諦めている人も、今回は選挙に行ってください」

 そうしてその次にスピーチした大学2年生の男性は、「今の政治っておかしすぎじゃないですか?」と開口一番、言った。

 「たび重なる強行採決、森友加計問題に示される政治の私物化。『記憶にございません』の答弁。それから過去の答弁との整合性を無視する政治家が本当に多すぎます。安倍首相は、『丁寧に説明する』って言ってたのに冒頭解散を行ないました。小池都知事は『国政進出はない』って言ってたのに新党を立ち上げました。細野氏は、『安保法案廃止しかない』って言ってたのに、手のひらを返して小池新党と合流しました。憲法は無視するわ、国を私物化するわ、嘘をつくわ、本当に異常事態だと思います」

 「憲法を大切にする、国を私物化しない、嘘をつかない。そういう当たり前のことを当たり前にやってくれる政治家や政党を僕は応援しようと思ってます。そういうところに投票しようと思ってます。政治はみんなのためのものです。みんなで作り上げていきましょう」

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スピーチ!


 
 この日のデモには、1500人が参加したのだった。

 それにしても、と思う。

 ここに紹介したような大学生たちのスピーチを聞いたら、この数日間、散々右往左往してきた政治家たちはどう思うのだろう、と。

 私たちはこの数日間、政治の一番醜い部分を毎日毎日リアルタイムで見せつけられ、無意識レベルで諦めと政治不信を刷り込まれまくっている気がする。「日本のため」ではなく、「自分の職・立場のため」、自己保身全開で翻弄されまくる政治家たち。そして何よりも、「選別」「排除」という言葉であらゆる議員を疑心暗鬼にし、分断し、それを「ショー」にして晒しものにする小池都知事。

 「分断して統治せよ」。その最終形を見せられているようで、心の底からゾッとする。小池都知事というたった一人の人間がここまでコントロールできてしまうというこの状況が、恐ろしくて仕方ない。そして多くの政治家が、有権者の顔色ではなく、小池都知事の顔色しか見ていないという現実も、ただただ悲しい。

 「みんな票の獲得のために動いてる。ただ、それに絶望しちゃいけないなと思って」

 この日、デモに参加していた高校1年生の男性はそう話してくれた。

 「だからこそ、特定の政党じゃなくて自由に意見を言う。それを自分たちが一市民として訴えるのが大切だと思う」

 15歳だという彼に、もちろん選挙権はない。だからこそ、選挙権がある人には選挙に行ってほしいという。そんな彼が政治に興味を持ったのは、中学2年生の時に出てきた安保法制。国会前にも駆けつけたという。

 「社会問題に興味を持っていて、そんな時に安保法制が議論されてて、それを見た時に、いろいろ調べて、政権のやり方、安全保障に対する考え方、あと強行採決に違和感を感じたんです」

 そんな高校1年生の彼と一緒にいた大学1年生の男性は、中学生の頃から安倍政権には不信感を持っていたという。

 「特定秘密保護法が出てきた時にまずいと思いつつ、中3で期末テストと重なってデモとか行けなかったんです。それで高校2年生の時に安保法制が来て。どういう観点から見てもおかしい。アメリカの言いなりになる。それだけは避けなきゃいけない、巻き込まれるのはまずいって」

 そんな彼は新聞に投書したりしつつ、高校生で運動に参加していったということだ。

 大学一年生の彼は、19歳。昨年選挙権を得た彼は、今回の衆院選が「4回目」の投票になるという。

 「参院選、都知事選、都議会選、そして今回の衆院選です。選挙権得られて、嬉しかったです」

 そうなのか。

 4回目、という言葉を聞いて、しみじみ思った。昨年選挙権を得た18歳は、都内だと既に3度の選挙を経験しているのだ。

 別の大学生にも話を聞いた。最初にスピーチをした19歳の女性は、友人たちにLINEで選挙に行くよう呼びかけまくっているという。

 「今回の選挙、ほとんどリベラルな党がないし、今の安倍政権とか小池百合子さんとか、意味わかんないじゃないですか。でも、ちょっとましな人でもましな政策でも、ちょっとでもいいなって思う人を国会に送るしかない。でも、周りの子は関心なくて行かないから、一人ずつLINEとかしてて。結構、そういうの珍しいじゃないですか。だから変って言われたりしたけど(笑)、もういいやって。わかってくれる人とだけ友達でいればいいやって。今、大学で一緒にいる子たちは私がやってることわかってくれてて尊敬してくれてて。デモとかにも共感してくれてるから嬉しいなって」

 散々政治の嫌な部分を見せつけられた数日間だったけど、この日、真摯に政治と向き合う若い世代と話して、大きな勇気をもらったのだった。

 世間では、小池新党に期待が高まっているという。メディアも連日小池劇場だ。しかし、この日のデモで一番多く聞いた言葉は、「しょせん、極右政党がふたつできただけ」。安倍・小池氏の顔が並んだ「同類」というプラカードが、すべてを語っている。

 そんなデモの翌日、枝野氏が新党を立ち上げた。

 党名は「立憲民主党」。

 これからどうなるのか、できるだけのことをやりつつ、後悔しないよう、投票の日を迎えたい。

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その通りだと思います。

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思わず笑ってしまったプラカード

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。