第41回:アベさんは×(木内みどり)

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 今年のお正月、1月1日。

 おせち料理とお雑煮の新しい一年最初の朝食を済ませ、家族でのんびり、年賀状を前にお喋りしていました。ふと、娘が「ねぇ、お母さん、鳥の絵を描いてみて」

 テーブル上の年賀状には、今年の干支「トリ」が溢れています。いろんな写真、プロのイラスト、本人が描いたらしいイラスト、様々です。娘がわたしに「描いて」というのには訳があります。わたしは全く絵を描きません。小さい、きっと4歳くらいの頃、りんごを描いていて、それを見た兄が「おまえ、それ、りんごのつもりか」と言いました。身体が、一瞬、ピクッとした感じをよく覚えています。それ以来、わたしは絵を描かなくなりました。

 学校の図画は苦手、夏休みの宿題とかで提出する絵は母に描いてもらっていました。絵を見るのは好きな方で美術館にもよく行きますし、幾人かの画家の友だちもいて、家には何枚かの絵が飾ってあります。が、わたし自身は描きませんし描けません。

 数年前、スタンダード・プードルとトイ・プードルを飼っていた時期、ネットで犬たちのレインコートやセーターなどを注文するのに書き入れなければいけない数字、首回り、胴回り、頭から尾までの長さなどをわかるように、大きい犬と小さい犬の絵を描いてそれぞれの数字を書き入れた、そういうイラスト・メモを壁に貼っていました。ある時、その絵を見つけた娘が大笑い。「なにっ、これ~~」と笑い転げています。昔々、兄が言った言葉「それ、りんごのつもりか」と同じ反応です。

 が、娘のその反応はわたしにはうれしいものでした。あまりに下手な絵の、その下手ぶりが好きだと娘は喜んでいるのです。が、それからもただの1回も絵を描きませんでした。で、今年のお正月、いろんなイラストや写真の鳥を見て、娘が「鳥の絵を描いて」と言いだしたのです。

 「いいわよぉ」とボールペンでさらさらと「鳥」を描きました。

 娘は爆笑でした。「あのさ、鳥って足は2本だよ」。確かにわたしの「鳥」には足が4本。今度はわたしが大笑い。ついさっきまでいろいろな鳥を見ていたのに、今までの人生の中でもいろいろな鳥を見てきているのに、わたしが描いた「鳥」は足が4本!

 足が4本に喜んじゃった娘が「毎日描いて、笑いたいから」と熱心に言うので、毎日1枚描くことにしました。そう決めると、今まで自分はいったい何を見ていたんだろうという考えが自分の中に降りていって、鳥がいるとじっと見入り、猫がいればじっと見入り、犬がいればじっと見入り……と「見る」ことが楽しくなっていきました。

 毎日1枚、ハガキに描いてTwitterに載せます。それを見た娘の反応がうれしく、見知らぬ人の反応もたのしく、猫、マスク、ボールペン、指先、犬、眼鏡と身近な物を描いて描いていきました。その内、ネットにある写真からなにかしら響く人物の写真をもらってきて描く、人物も描くようになりました。上手いとか下手ってなんなのだろう。

 描いてる時間がとてもいい、静かにひとり集中してる時間。「それ、りんごのつもりか」の瞬間に封じこめてしまった感性を少しずつ温めていくような、そんな時間。「毎日1枚Twitterに」が習慣化していきます。

 ひと月ふた月、いろんな反応があります。「毎日、たのしみにしています」「100日めまで、あとちょっと」「うぁっ、進歩した!」「365日達成を見届けます!」。毎日書きこまれる言葉に励まされて描きつづけていて、ある時から、Parisに住む著名な画家さんがメッセージをくださるようになりました。

 「描くことは視ることです」「底が抜けるってことがあるんですね。突然、絵が生き生きとそれまでの型を破って顕れましたね」「いろんな画材を使ってみることで可能性に目覚めるし自分に合った『技法』を見つけるのに役立ちます。続けてください」「お、何かが始まったような…」「絵ってやっぱりいいですね。描いてる穏やかな時間が筆を置いた瞬間結晶します」

 そして、気づきました。描きたくなる人物は、何かに逆らってる人、抗ってる人、疑っている人。そして、優しい可愛いやわらかい人。

 絵を描くことは自分を整理することでもあるようです。

 ふとアベさんを描いてバツ印をつけたくなってきた。ついに176日めに、実行。右半分にあのお顔を描いて左半分に大きくバツ印。ピンクの色で勢いよく×を描いた。うぅぅ、気にいってる1枚。

 今日は2017/07/10で、190日め、です。

 365日、達成できるでしょうか?


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木内みどり
木内みどり(きうち みどり):女優。’65年劇団四季に入団。初主演ドラマ「日本の幸福」(’67/NTV)、「安ベエの海」(’69/TBS)、「いちばん星」(’77/NHK)、「看護婦日記」(’83/TBS)など多数出演。映画は、三島由紀夫原作『潮騒』(’71/森谷司郎)、『死の棘』(’90/小栗康平)、『大病人』(’93/伊丹十三)、『陽だまりの彼女』(’14/三木孝浩)、『0.5ミリ』(’14/安藤桃子)など話題作に出演。コミカルなキャラクターから重厚感あふれる役柄まで幅広く演じている。3・11以降、脱原発集会の司会などを引き受け積極的に活動。twitterでも発信中→水野木内みどり@kiuchi_midori