路上で生きる身体の表現 「新人Hソケリッサ!」の東京近郊ツアー(マガジン9編集部)

 8月6日(日)、川崎市にある農園で行われた「新人Hソケリッサ!」(ソケリッサ)の公演を観てきました。ソケリッサの公演を初めて観たのは、10年近く前。ちょうど結成したばかりのときでした。

 ソケリッサとは、いま路上生活をしている人やかつて路上生活をしていた人たちがメンバーのダンスグループです。ダンスというより、身体表現といったほうがしっくりくるでしょうか。主宰は、ダンサーで振付家のアオキ祐キさん。20代からプロのダンサーとして活動していたアオキさんは、アメリカにダンス留学をしていたときに9・11に遭遇。「自分自身の存在」について問い直すようになります。日本に戻り、目に留まったのが路上で生活する人たちの身体でした。便利さになまった現代の身体とは異なり、心に強く響くエネルギーを感じたと言います。

〈路上生活の身体から生まれる踊りと出会い、私は強い衝撃と躍動を得ました。「日々生きることに向き合わざるを得ない」状況に生きる肉体の表現は、現代社会の様々な環境に生きる人々にとってどのように受容されるのか私はとても興味を持っています〉(クラウドファンディングのサイトから)

 10年前に観たソケリッサの公演は、その後、私が路上で生活する人たちと少し近づくきっかけにもなりました。それまではどこか「ホームレスの人」というひと括りで遠い存在のようにとらえていた人たちが、身体をつかって自分をさらけ出し、一人ひとりが個性を表現して迫ってくる姿に、一気に引き込まれました。一方で、「この公演が終われば、路上に帰るんだね」とつぶやいた友人の言葉にハッともさせられました。

 ソケリッサの活動は、何かの「支援」を意図したものではありません(結果として、生きがいや自己肯定感につながっているという面はあるかもしれませんが)。一人ひとりが表現者として参加しています。ダンスグループとしては、ちょっと変わったところもあります。ダンサーらしからぬ体型の人もいて、年齢も経験もさまざま。ダイエットが目的だという人もいます。そうした多様なメンバーやその背景も含めて、ソケリッサのダンスを観ると、生きることや表現すること、人間の底知れない可能性について問いかけられるような気持になります。そして、ドキリとさせられるのです。その不思議な世界がクセになって、公演に足を運んでしまいます。

 現在、そのソケリッサが活動10年を記念して、東京近郊でのツアーを始めています。先日観た川崎での公演は、その第2弾でした。今年から新しいメンバーも加わりました。最近では、金沢21世紀美術館、山形ビエンナーレなどでもパフォーマンスを行い、大きなステージに立つ機会も増えていましたが、年内に十数か所での公演が企画されているツアーでは、原点に戻って公園や路上など屋外を中心に公演を行う予定。誰もが観ることができるよう、多くの会場が投げ銭方式だそうです。

 次の公演先は、決定次第サイトなどで発表されますので、興味をもたれた方はご覧になってみてください。

●ツアーの最新情報などは、「新人Hソケリッサ!」のHPから

●ツアー開催の背景はこちらに詳しく紹介されています(※クラウドファンディングは終了しています)

(中村)

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