第7回:各党に似合いの言葉を探してみた(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 始まったね、選挙戦。
 でも、こんなわけの分からない選挙って、前代未聞じゃないかな。何のための解散なのか、なぜ今なのか、どの党がどの党とくっつくのか、まともに考えると頭痛がしてくる。
 だいたい「自民党が議席をいくつ減らすかが焦点」なんて政治評論家という人たちが言っているけれど、じゃあ、安倍首相は「議席を減らすと分かっている選挙」をなんで仕掛けたのだろう?
 結局は、しぶしぶ召集した臨時国会で「モリカケ疑惑」を野党に追及されるのが怖くて「質問される前に冒頭解散しちまえ」というのが正直なところか。安倍氏が思慮深い人とはとうてい思えない。
 そこへ「いま買えばお得ですよ」と耳打ちする悪徳商法みたいな側近がけしかけたのかもしれない…。
 このコラムは「言葉の海へ」だから、各党に当てはまりそうな言葉や格言を考えてみた。投票の参考になれば…(ならないね)。

自民党(安倍晋三総裁)
巧言令色鮮し仁

 こうげんれいしょくすくなしじん、と読みます。まあ、言葉の意味は説明しなくても分かるでしょうが、うまいことばかり言っているヤツにまともなのはいない、ってことですね。
 安倍首相を見ていると(彼の言葉を聞いていると)、ほんとうにこの言葉がピッタリだと思う。
 例えば、10月8日に行われた党首討論会で、安倍氏は「朝日新聞は八田さん(国家戦略特区ワーキンググループ座長)の報道もしていない」と朝日新聞を名指しで批判。朝日記者から「しています」と反論されると「ほとんどしていない。ちょっとだけアリバイ作りだけ」と言葉を変えた。「していない」と「ほとんどしていない」には大きな差がある。指摘されると「ほとんど」という言葉を付け加えてごまかす。
 まあ、いつもの安倍話法のひとつではあるけれど、もういい加減にしてほしい。批判するメディアが嫌いで嫌いでしょうがないのだろうが、権力者は批判されるのが当然なのだ。すべてのメディアにも持ち上げられるのであれば、それは「独裁者」の別名である。安倍氏は、そうなりたいと思っているのか。それにしても、あの党首討論の安倍氏はひどかったな。

公明党(山口那津男代表)
同じ穴の狢

 これも、意味はみんな知っているはず。一見別のものに見えても、結局は同類だってこと。狢(むじな)は狸でもいいそうだ。
 だって公明党って、安保法制も特定秘密保護法も共謀罪もなんでもかんでも、最初は「自民党の暴走の歯止めに…」てなことを言っていたけれど、最終的には自民党の言いなりで決着してしまう。それだけ「権力の蜜の味は甘い」ということなのだろうが、それならば紛らわしいこと言わずに「私どもは、どこまでも自民党さんと一緒ですよ。権力の座にある限り…」と、告白してくれればこちらも納得する。
 憲法についてだって「加憲」という、一見もっともらしい理屈を振り回して慎重ぶっているけれど、二枚舌はいけませんよ。いつ、安倍改憲に飲み込まれるか、もうあまり信用している人はいないと思うけれど。

希望の党(小池百合子代表)
呉越同舟

 本来なら一緒にいるはずのない仲の悪い者同士が、同じ船に乗り合わせて何となく我慢している…という光景なんですね、これが。だって、少なくとも、多少はリベラルな政策を掲げていた民進党に在籍したはずの連中が、極右としか呼べない中山恭子氏らと同じ党に入っちゃったというお粗末。
 だから、汚い表現だが「ミソもクソも一緒」という俗諺のほうが似合っているのかもしれない。
 ここでひとつだけ、小池百合子氏のとんでもないウソを批判しておく。彼女は「原発は2030年のゼロを目指す工程表を」と言った。しかしその一方で「原子力規制委の新基準に適合した原発の再稼働には異論はない」とも言っている。徹底的に、完璧に、完全に、全面的にウソである。
 日本のもっとも新しい原発は、2009年12月運転開始の泊原発3号機(北海道)だ。運転期限は法律で40年間と限定されているから、法律上は2049年までは運転可能となる。さらに、規制委が安全性を認めれば「例外的に20年の延長ができる」とされている。
 もうお分かりでしょう。つまり、規制委が認めれば、という条件付きながら最大で2069年までの運転は可能となるのだ。
 これで、小池百合子氏のリクツのデタラメさが分かるはずだ。小池氏は世論の動向を見て「原発ゼロは受けがいい」と思ったのか、つい口走ったようだが、以前の「再稼働賛成」の自身の意見との整合性を問われて、「ゼロにはするが、規制委の基準に合う原発の再稼働は容認」という、アクロバティックな屁理屈を考え出した。しかし、それは簡単にボロが出た。どこをどうほじくれば「2030年の原発ゼロへの工程表」が作れるというのかっ!
 「40年間の運転途中でまだ期間は10年も残っているけれど、2030年になったらすべて廃炉にします」というのならそれはそれで理屈は通るが、小池氏はそんなことは絶対に言わない。
 この党は、党首からして信用できない。

立憲民主党(枝野幸男代表)
虎穴に入らずんば虎子を得ず

 
 ほんとうにギリギリの決断だったのだろう。しかし、やはり危険を冒さなければ得るものはない、と気づいたということだ。「清水の舞台から飛び降りた」と言い換えてもいいかもしれない。
 それにしても、民進党の崩壊劇は悲惨だった。誰の筋書きかは知らないけれど、党内の良識派にとってはまるで詐欺に引っかかったようなもの。この間の事情に関してはさまざまな裏話が飛び交っているが、そのどれが真実なのかは数十年後にようやく分かることなのかもしれない。
 しかし、党設立のわずか数日で、ツイッターのフォロワーが15万を超え、あっさりと老舗自民党を追い抜いてしまったという。各種調査でも、思った以上の支持率の上昇を伝えている。
 よく考えてみれば、つい最近までの民進党内部の、憲法、原発、安全保障などをめぐる意見対立のゴタゴタに「いっそ同じ意見の者同士で分党して、考え方をすっきりさせたほうがいいんじゃないか」という意見も強かった。皮肉なことに、なかなかできなかったそれが、この騒ぎであっという間に実現してしまったわけだ。
 これでいいのだ! とバカボンのパパなら言うだろうな。
 追伸。
 この党については付け加えておくことがある。ぼくの友人で今まで「愛川欽也パックインジャーナル」から現在の「市民ネットTV・デモクラシータイムス」などを一緒にやって来た素晴らしい経済ジャーナリストの「山田あつし」さんが、なんと千葉5区から立憲民主党公認で立候補しちゃったのだ。友人たちもビックリ仰天、大騒ぎ。
 しかもこの選挙区、急に注目を浴び始めている。対抗馬の自民党候補が薗浦健太郎安倍首相補佐官だが、この人は読売新聞出身。山田さんが朝日新聞出身なので、時ならぬ「朝日読売代理戦争」などと言われ、読売好きで朝日嫌いの安倍首相の意を受けて、ここが自民党の重点区になったというわけだ。山田候補にとっても負けられない戦いになってしまった!
 

日本共産党(志位和夫委員長)
一心不乱

 このところの共産党の一生懸命さには頭が下がる。とにかく、安倍政権打倒へ一心不乱、いやあ、ブレないなあ、大したもんだ。
 これまでは、ほぼ全選挙区に必ず党公認候補を立てていたのだが、前回の参院選での野党統一への候補一本化、そして今回の共産党候補の全国的規模での取り下げと、野党統一候補への協力。極右安倍政権打倒への本気度はもはや疑いない。
 あの田崎史郎氏などは「共産党は資金難になっていて、全国の落選候補の供託金没収に耐えられなくなってきているのが、立候補取り下げの主な原因ではないか」などと得々と解説していたが、こういうのを古い諺では「ゲスの勘繰り」というのですよ、田崎サン。
 とにかく、改憲を絶対に許さないという信念は立派だろう。ぼくはこのところの共産党を見直している。自党の正しさを主張するあまり、他党との協力を拒んできた従来の共産党像は、ほぼ一新されたのではないか。
 最後は「共産党」という党名にいつまでこだわるか、というところだろう。欧米では共産党はほとんど改称している。社会民主主義的方向へ舵を切って、同時に改称して党勢拡大を図る、という選択肢はないのかなあ。

日本維新の会(松井一郎代表)
京の夢、大阪の夢

 ぼくには、どうにもよく分からない党である。結局は橋下徹氏という稀代の梟雄が見た「大阪の一夜の夢」が、そのままズルズルと続いているだけの党、という感じなのだ。
 大阪という日本第二の都市圏を中心にして、ある意味で中央への反骨精神を見せるのかという期待も、結局はベタベタと安倍政権に擦り寄る態度で、一挙に色褪せた。
 そして今度は、小池百合子氏の党との、東京大阪の棲み分け選挙。中央への反骨どころか、権力への執着が見えてきて気持ちが悪い。
 結局は「橋下徹氏の私党」ということで、橋下氏がいなくなればジリ貧になる、ということなのかもしれない。その意味では「小池百合子氏の私党」の色が濃い希望の党と維新の会は同類に違いない。

社会民主党(吉田忠智党首)
頑固一徹

 あの日本社会党の輝ける党首だった土井たか子さんが現在の社民党を見たら、どういうだろうなあ…といつも思う。実際、党首が議員でさえないという現状は「衰退」という言葉ひとつで表される。
 「山が動いた」との名文句を吐いた1989年の参院選時の「おたかさんブーム」はすごかった。この参院選とそれに続く衆院選で生まれた土井チルドレンと言われた人たちには、優秀な人たちがいた。
 現在の世田谷区長の保坂展人氏、宝塚市長の中川智子氏、辻元清美氏、阿部知子氏…今でも輝いている人材だ。しかし、結局は「自社さ政権」(1994年、村山富市首相)の下での社会党の政策変更などによって、社会党は潰えていく。もし、あの頃の社会党が健在であれば、今のような安倍一強の極右政治はなかっただろうに…と嘆く高齢リベラルは今も多いのだ。
 それでもとにかく頑固一徹、9条護憲、反原発、安保法制反対を貫く態度は、老いの一徹、いっそすがすがしい。でもなあ…。

日本のこころ(中野正志代表)
蛍の光…

 何も書くことが浮かばない。パチンコ店の終了時に流れる『蛍の光』の妙に淋しいメロディーが鳴っているようで…。
 しかし、前の代表だった中山恭子さんには驚いたなあ。党を捨てて、夫の成彬氏とともに希望の党へ。夫唱婦随だか婦唱夫随だか知らないけれど、極右思想から出処進退まで一緒とは、いまどき珍しい。
 それくらいしか書くことがない。
 中野代表が「総理大臣指名は安倍晋三と書きます」というんだったら、なぜ自民党ではなく別の党にいるんだろう? と首をかしげるだけです。

 さて、選挙結果はどうなるのだろう?
 ぼくはやはり、安倍強権政治には鉄槌を下したいと思っているのだが。

第7回:各党に似合いの言葉を探してみた

我が友人の山田あつしさんが突然立候補して、友人一同大騒ぎです…

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。