第8回:ぼくの選挙応援日記(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

友人が立候補しちゃった!

 選挙戦真っただ中。なぜか、ぼくも選挙の応援などという慣れないことをやっている。
 10年来の友人が「安倍政治をこのままにしておいていいのか」との思いで、やむにやまれず立候補してしまったからだ。
 彼は高名なジャーナリスト。経済分野では日本でも有数の敏腕ジャーナリストである。山田あつし(厚史)さんという。千葉5区という激戦区から立憲民主党公認で立ったのだ!
 山田さんとは「愛川欽也パックイン・ジャーナル」のころからのおつき合いで、その後「デモクラシータイムス」という市民ネットTV局を一緒に立ち上げた仲間のひとりだ。その山田さんが立候補しちゃったのだから、同じ「デモタイ」の仲間たちも「押っ取り刀で助太刀でござる」…である。
 早野透さん、池田香代子さん、荻原博子さん、田岡俊次さん、山岡淳一郎さん、吉田俊実さん、井筒高雄さん、金子勝さんなどなど、多数の著名人が応援に駆けつける中、ぼくもはじっこでビラ配りなどを手伝っているというわけだ。

敏腕ジャーナリストなのだ!

 著名人の中には、ジャーナリストとしての山田あつしさんを尊敬している人がけっこう多い。朝日新聞記者時代から彼の書く記事は信頼を集めていた。だから、山田さんの選挙ビラも圧巻。
 山田さんの推薦人として、前川喜平さん(元文部科学省事務次官)、保坂展人さん(世田谷区長)、浜矩子さん(経済学者、同志社大学大学院教授)、荻原博子さん(経済ジャーナリスト)、竹信三恵子さん(ジャーナリスト、和光大学教授)、寺脇研さん(元文部科学省官僚、京都造形芸術大学教授)など錚々たる方々が名を連ねているところにも、山田さんの凄さがわかる。
 山田さんの話は明快でとても分かりやすい。それは、経済指標や公的資料をきちんと読み砕き、その上で話を組み立てているからだ。
 単に「アベノミクスはダメだ」というのではなく「この資料に依れば、ここがおかしい。安倍首相は経済指標のこの部分をわざと読み違えて、自分の都合のいいように解釈している…」などと、きちんと例を示しながら解説してくれるのだ。
 YouTubeで視聴可能な「デモクラシータイムス」という市民ネットTVをたずねてみてほしい。「山田厚史のここが聞きたい」や「ウィークエンドニュース」などの番組での、山田さんの歯切れのいい解説を視聴できる。
 そんな人が国会審議の場で、理路整然と安倍首相を問い質すのを想像すると、なんだか痛快、ワクワクする。安倍サン、また頭にきてとんでもない答弁をしちまうかもしれない。

知名度は高くないけど、次第に…

 しかしそんなふうに、一部では知られたジャーナリストだけれど、一般的な知名度は残念ながら高くはない。大多数の有権者にしてみれば「Yamada Who?」なのである。それは、ビラまきを手伝っているとよくわかる。「ん? 誰?」と怪訝な顔でビラを拒否して立ち去る人が多いのだ。
 ところが、少しずつ風向きが変わってきたように思える。
 「立憲民主党が、かなりの追い風を受けている…」という報道とともに、ビラの受け取りが急によくなってきたのだ。ここが選挙ってやつの面白いところなんだろうなあ…と、選挙運動なんてまったくのド素人のぼくでさえ、そう思うのだ。
 急に寒くなった。雨が冷たい。ビラが濡れてしまうので、上着の中にしまっておいて、手渡すときにだけ取り出す。なんだか、自分で何をやっているのか不思議になって、思わず笑ってしまう。

前原・小池コンビの大罪!

 もう、さんざっぱら言い尽くされ、解説記事でも読まされたことだけれど、「自民圧勝の流れは、野党分裂の効果」だという。その通りだろう。それを考えれば、民進党のやり切れないゴタゴタを演出してくれた前原誠司氏と小池百合子氏の罪は、まさに万死に値する。
 もしこの選挙の結果、「安倍改憲」が発議され、憲法9条の改悪(安倍提案は「改正」ではない、「改悪」というしかない)にまで至ってしまうなら、日本の平和国家のイメージを汚濁した陰の立役者として、前原・小池コンビは「改憲裏面史」に名を留めることになるだろう。

 知人のジャーナリストからの情報によると、実は、共産党幹部はこの選挙前には、かなりの手応えを感じていたという。
 「民進党を軸としてきちんと4野党協力が成立すれば、全国の100近い選挙区で、自民党の議席をひっくり返すことができそうだ」という分析をしていたのだという。その分析に従って、共産党は多くの選挙区で自党の候補者を取り下げ、野党協力を推進した。むろん「比例は共産党」と有権者には訴える作戦だったのだ。
 だがここへきて、目算が狂った。民進党の分裂によって、わけの分からない混沌状況が生じてしまったからだ。
 結集軸になるはずだった希望の党のあまりに無惨なていたらく。できそこないの泥舟だって、もう少し船頭がまともだったら、かろうじて向こう岸へ辿り着けたかもしれないが、「緑のタヌキ」と嘲笑され始めた小池百合子船頭の傲岸不遜、自己中心の女帝ぶりに、泥舟は沈む一方。乗り込んだ小ダヌキたちは泣きっ面に蜂。「ああ、前原を代表になんか選ぶんじゃなかった…」と嘆いたところで後の祭り。

共産党の戦いぶり

 そんな状況の中で筋を通しているのが共産党である。
 希望の党への不信感で反安倍票は行き場を失い、多くは立憲民主党へと流れそうだという。マスメディアも、立憲民主党への追い風をかき立てる。ワリを食ったのは共産党だ。小選挙区では野党統一候補を盛り立てつつ、比例では共産党と書いてもらうはずだったのが、思惑が外れたかっこうだ。立憲民主党へ比例の票も流れそうだからだ。
 本来の野党共闘であれば、中心的な担い手は共産党だったかもしれないし、そうなれば共産党の存在感は高まり、比例票獲得もうまくいったはずだ。しかしこのゴチャゴチャ状態で、それが霞んでしまった。
 それでもぼくは、今回の共産党の戦いぶりを高く評価する。身を捨ててでも安倍極右政権に立ち向かったことを、立派な戦略だと思う。一時は多少の議席減になろうとも、この先、結果として信頼を得たのは共産党だった、ということになるだろう。

 それにしても、選挙って厄介なものだなあ。
 冷たい雨の中で、ぼくは、なんとなく暗い空を見上げていた…。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。