第103回:愁城騒動が勃発! 今度は台湾でアジア地下文化が大集結!(松本哉)

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 今、アジア圏各地で急速にアンダーグラウンド文化圏が連携を深め始めている。この動き、ここ1~2年で急激に巻き起こっていることで、本当に目が離せない状態になっている。もちろんこれまでも各所で国際交流はずっとあったけど、今の流れはジャンルも超越しているので、音楽、芸術、社会、スペース運営などいろんなものがセットになって、というかいろいろ絡み合いつつの国境を越えた連携を深めてる。いや~、これ本当に末恐ろしいことになりそう!!!!
 で、そんな時、今度はまた台湾で一つの大集結イベントが行われて、やたら面白いことになった。当然、参加して来たので、ちょっと報告してみよう!

謎の新勢力「愁城」とは何か

 今回の台湾のイベント、わりと音楽中心のイベントだったんだけど、その主催者は「愁城」というグループ。元々、台北のバンドマンたちの集まりで、以前からメンバーが運営するカフェに集まってたり、ライブで顔を合わせたりしていた。と、ある時、その中心メンバーの一人、謝碩元(シエ・シュオユエン)氏が失業して困っていたところ、他のみんなで「よし、あいつをなんとか食わせよう!」ということに。で、彼は実はなんと台湾大学出の学のあるやつだったので、学習会をやらせようということに。彼らは元々、台湾の反原発デモはじめいろんな社会運動にも顔を出していたこともあり、「あの、いろんなところで名前が出てくる難しそうな本には一体何が書いてあるのか?」ということで、マルクスみたいな古典やら、現代の社会科学系の本やらを解読することになり、謝先生の元に中卒、高卒、元暴走族などのバンドマンたちが集まり「この本はなんなんだ!?」と、学習会を開始。そして、その授業料でなんとか食いつながせるという、実に美しい話だ。そう、それが「愁城」の始まり。それは今から2年ほど前の話。

倉庫を借りたスペース。超暑かった

 で、去年の1月、我々素人の乱も協力して開催した「東アジア大バカ結託パーティー」という2日間のイベントが行われたのだが、その時に「愁城」と、台北でスペースを運営している人たち(前も紹介したことがある半路珈琲など)や、ありきたりな運動に飽き飽きした社会運動の若手などが集まり、共同でイベントが開催された。「愁城」の人たちは主に2日目の音楽イベントを主催し、東京や沖縄のバンドなどを大量に呼び、まさに大混乱のイベントを開催。これがキッカケとなり、その後4月には沖縄の人たちが開催したDIY野外音楽イベント「ODDLAND」に台湾から「愁城」メンバーも大挙して参加し、ライブでも出演した。さらにその後は9月に開催された「NO LIMIT 東京自治区」ではこれまた台湾からも大量にやって来て、交流を深めまくった。この時は、韓国や中国大陸ほかアジア各地から人が集まりまくっており、しかも音楽系だけじゃなく他ジャンルの人たちもたくさんいたので、さらにネットワークが拡大。その後、「愁城」メンバーは積極的に香港のDIYライブハウスや、中国広州で独自に雑誌を作ってる人たち、釜山のコミュニティー作りをしてる人たちを訪れるなど、各地とのつながりを深めたり学びに行ったりし始める。
 で、そんな流れもあり、じゃあ今度は自分のところ台湾で一発やらかしてやろうってことで、東京や沖縄、中国大陸各地(本当にいろんな街から来てた)、香港などから大量のミュージシャンを招待して、今回のイベント「愁城鬧事(愁城騒動)」が行われた。

北京のバンド、THE FLYX。よかったのでCD買いました。日本では観られないしCDも買えない。うーん、得した気分

狂乱の2days、愁城大騒動!

 イベントはもう、すごかった。7月15、16日のイベント当日は、台北郊外の倉庫を借り切ってのイベント。20数組の出演者で約半分は海外からのバンド。しかもなんと入場無料だから、この謎のイベントを聞きつけた人たちが大量に集まってくる。う~ん、すごい! そんなわけで、物販コーナーも普通の店では絶対に買えない各地の音楽やグッズが大量にあり超豪華。ライブも最高で、各国の奴らが入り乱れてめちゃくちゃに盛り上がったし、みんな飲みまくり遊びまくり、各地から来た人たちが交流しまくってすごいいいイベントだった。
 ちなみに今回、中国大陸のバンドもたくさん来ており、中国人もたくさんいたのがすごいよかった。今や中国も大国化して各地にすごい影響力が及び、特に香港や台湾では、自分たちの文化を守るために中国への反発は激しく、ややもすると「中国人は来るな!」と、ナショナリズムのようになる風潮もよく見られる。しかし、そんな短絡的なものが面白くもなんともないことは経験豊かな「愁城」の奴らはよく知っている。香港や台湾を守るのはもちろん大事だけど、だからと言って中国社会や中国人を全否定するなら、それはただのアホだ。政治的な状況と民衆の文化はまた別の話。日本の歴代政権がロクでもなくても日本には面白い人たちや文化がたくさんあるのと同じだ。当然、中国にも超面白い人たちや文化がたくさんあるし、最高のバンドもたくさんある。そう、それは去年の「NO LIMIT 東京自治区」にもつながるコンセプト。「愁城」の人たちはここ1年ほど積極的に大陸のアンダーグラウンドカルチャーとのつながりを進め、今回に至った。しかも、ちょっと羨ましいのが、これ日本ではちょっと難しいこと。中国人が日本のビザを取るのは手続きが煩雑で超めんどくさい。とてもじゃないけど、何十人も呼ぶなんて大変だ。それは韓国で開催しても同じなはず。でも台湾なら比較的簡単に来ることができるので、大量に呼べた。しかも日本人も台湾にはビザなしで簡単に行けるので、そう考えたら台湾ってのはみんなが集合するには結構適した場所なのかもしれない。いやいや、各国政府の思惑や謎の制度の隙間を縫って、我々もうまいことやっていかないとね~。

とてもじゃないけど会場に入りきらず、あふれ出る多国籍人たち

多国籍交流会! Do It Together!

 単なる音楽イベントで終わらないところが「愁城」の奥が深いところ。狂乱の2日間が無事終了した後、一日休みを置いて7月18日、各国の人たちの交流トークイベントが行われた。場所は最近「愁城」がオープンさせたイベントスペース(のちにバンドの練習スタジオも併設する予定とのこと)。
 これがまたすごい面白かった。台湾、香港、中国、日本だとそれぞれの立場やら社会的状況が全く違うので、同じようなことを目指してやってるはずなんだけど、できることやできないことが全く違うので、みんな驚きの連続! 例えば、中国の上海でDIYイベントを運営している人はすごくいい大きなイベントをやって独立文化シーンを作っているけど、中国政府は音楽、特にロックなどへの警戒心は強いこともあるので、野外は厳しく、大きい屋内のイベントとして開催するなどうまいことやっている。その一方で、香港から来ていた「徳昌里」というグループはギンギンにぶっちぎってる奴らで、プロテスト色を全開に出した野外ゲリラ音楽イベントをやってて、警察とのギリギリのせめぎ合いの中でなんとかやっている。また、日本でのマヌケな感じでうまいことだましだましごまかして、メチャクチャなことやっちゃう活動も紹介したり、お互いみんな「ええ、そうなんだ!」という感じで、最高に面白い交流。

高円寺のバンド「ねたのよい」も!海外で観るとまた一味違うね~

 イベント後にみんなと話しててちょっと面白かったのが、自分たちの立場の話。政治的な立ち位置の話だと、日本では右派と左派と分けられがちで、これはかつての「資本主義vs社会主義」っていう流れが、そのままイコールで「体制寄りvs反体制」って感じに直結して来た。ところが中華圏ではそんな単純な分け方はできず、当然資本主義や社会主義の立場もありつつ、独立派もいれば、その中に親米派がいたり、中国と統一したのち変革すべしという人たちもいる。大陸内部にも色々いて、今の中国は資本主義すぎてけしからんという人たちもいるし、いろんなポジションが混在していて、単に白か黒かなんて言えない様相。混沌としてる。そこで、この界隈のみんなが考えるのは「だからこそDIYが大事だ」ということ。どの立場のイデオロギーにもうさんくさい部分があり、だから自分たちの生活や社会を自分たちの手で少しでもやっていこうということを口を揃えて言っている。それが一番の力になるはずだと。まさに、この日のトークイベントのテーマは「Do It Together」。いろんな現場でのDIY(Do It Yourself)が繋がったり情報交換したりしていけばすごいことになるはずだって感じ。いやいや、イベント後の飲み会なども含めて本当に面白いイベントだった。

「NO LIMIT SEOUL」の物販と宣伝もしまくって来たよ〜

 最近、アジア圏各地でいろんな国の奴らが集まることが多いけど、どこに行っても「あ、またお前いる!」「あいつ見たことある! どこの人だっけ」みたいに、謎の無国籍地下文化シーンができつつある感じがする。今回は中国大陸もたくさん繋がったし、このシーンがどんどん増大していくことは必至。いま各地の地下文化圏のやつらは、負けじと「次は自分のところで!」とやりたがってるし、それにみんな海外に目を向けまくっている。自分自身、この台湾イベントでまた影響受けまくってしまい、今年の9月には韓国ソウルで「NO LIMIT SEOUL」が行われるが(ここにもアジア各地のやつらが押し寄せてくること必至)、その後にはまた日本で何かやりたいという気がふつふつと湧いて来てしまっている。う~ん、この各地のヤバい連鎖はもう誰も止められないんだろうな~。
 また近々、どこかの国で大集結イベントは行われるはずなので、騙されたと思って顔を出して見てほしい。そうすれば必ず「あ、ここに国境もヘッタクレもない独自の社会があったんだ!」と、思い知るはずだ。

トークイベントも超満員! 大混乱に!

おまけ! 謝碩元氏特別インタビュー!

 さて、台湾で「愁城」の謝碩元氏に簡単なインタビューを行ったので、それを最後に載せておこう。聞き手は自分。

Q:イベントの場所はどうやって探したの?
謝:いや、あれは最近知り合った音響機材の会社の倉庫で、そこを無料で貸してもらったんだよ。他にも色々物件当たってたんだけど、賃料が高かったり、役所への手続きが大変そうだったりで困ってたところだったので、あの倉庫が一番よかった。

Q:大きいイベントだったけどお金の問題は大丈夫だった?
謝:なんとか大丈夫そう! 全部で19万(台湾元/約70万円)ほどの出費の予定だったけど、今の時点で収入は15万(約55万円)。まだ売れ残ってる公式グッズや酒などもあるし、これをもう少し売っていけば大丈夫じゃない? それに最悪、今の赤字分を自腹切るとしても、愁城メンバーで割れば一人1万円ぐらい。それでこれだけ面白いイベントできたんだから大成功でしょ。

Q:収支の内訳はどんな感じだったの?
謝:支出は宣伝費や音響機材代などがメイン。収入は入場無料だったので、一部のカンパ以外はほぼ全部物販。主にビールの売り上げがすごかったね。

Q:去年の沖縄のDIYフェス「ODDLAND」も入場無料だったけど、その影響はある?
謝:メチャクチャあるよ。すごい影響受けた。
(補足:去年の「NO LIMIT 東京自治区」での「ODDLANDの作り方」というイベントで、沖縄の人たちが力説してたのは、入場無料にすることでお客さんも増えるし、スタッフの仕事も軽減するし、入場料を使わなかった分ドリンクやグッズ購入してくれるはず、などなど。この時、愁城メンバーもみんな来ていて、すごい食いついて質問しまくっていたが、まさかここで生かされてくるとは!)

Q:海外からすごいたくさんミュージシャンが来てたけど、ギャラや交通費とかは払ったの?
謝:いや、みんな自分たちで来てくれた。その代わり、泊まる場所などこっち(台湾)での生活は面倒見たよ。でも、中国のバンドたちには、中国で少し出資してもいいっていう人がいたみたいで、少しだけサポートは受けられたみたいだね。でも、全額じゃないから、みんな多少は自腹切って来てくれてる。本当は少しでも交通費とか出したいんだけど、それはこれからの課題だね。あと、ギャラを払うと仕事ってことになっちゃうから、今度はビザの問題が出てくるんだよね。小さいイベントなら大丈夫かもしれないけど、大きいイベントでたくさんのバンドを呼ぶとなると、そこは問題になってくるはず。
(補足:出演バンドの人たちに聞いて見たところ、物販がすごいよく売れたみたいで、かなり交通費の足しになったとのこと。う~ん、これも入場無料効果もあるのか! あとは、みんな各地から来てるので「今しか買えない!」っていうのもあるのかも)

Q:今回は音楽がメインのイベントだったけど、今後の展開は?
謝:ゆくゆくは他のいろんなジャンルの文化も混ぜてやってい来たいなと思う。ただ「愁城」も始まったばかりだし、まずは音楽を通してやって見て、それからって感じだね。

Q:DIYフェスって実は結構いろんなところである。街以外にも山や海でやったりもしてるし。「愁城」のイベントに関しては場所へのこだわりはある?
謝:やっぱりうちらは都市でないとダメだね。都市部に食い込んでDIYイベントをやることが戦いだとうちらは思ってるよ。

Q:今後は継続してやるつもり?
謝:いや~、みんな聞くんだけど、わからないよ。落ち着いたらまた考えてみる。でも、「愁城」のスペースの近くに大きい川があって、そこの橋の下で小規模なイベントを定期的に開催するのはやってみたい。

(7月18日、スペース「愁城」にて)

愁城の重要人物の一人、謝碩元氏
松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。