第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL(松本哉)

松本哉の「のびのび大作戦」

 去年、アジア圏を中心に大量のアンダーグラウンド文化圏のやつらが東京に集結し、とんでもない大混乱を巻き起こした伝説のイベント=「NO LIMIT 東京自治区」。その一年後の今、今年は韓国ソウルで「NO LIMIT SEOUL」が開催されてしまった!!!! 近年は世界各地で国家主義が台頭し、やたらと自国優先主義がはびこっている。そんなことで、我々の身の周りのアジア圏でも政府同士は妙にケンカしてみたり排他的になってみたり、と思ったら勝手に和解してみたり、我々のあずかり知らないところで、ゴチャゴチャやっている。うかうかしているとそんなことに惑わされがちだけど、そうは問屋が卸さない。我々マヌケたちは人の言うことなんかに惑わされずに勝手な事をやらかして生きている。そう、そんな世界中の勝手なやつらがワラワラ集まって来て、いろんな遊びや交流や情報交換をしてしまうのがNO LIMITの真髄だ。…ってことで、今年は9/15〜24のなんと10日間も開催されてしまった!!!!! 死ぬ、死ぬ〜。
 今年も去年同様、ライブイベントから、報告会や討論会、スポーツ大会、デモ、飲み会、料理対決などなどいろんなことがあり、解説し始めたらキリがないので、ちょっとかいつまんで紹介してみよう〜

恐怖! 韓国のマヌケデモはこれだ!

 去年は受け入れる側だったけど、今回はどちらかというと受け入れてもらう側だったこともあり、「おお、韓国ではこんなことになってるのか!」という驚きも多かった。例えばデモの文化! 開催2日目に行われた「アジア永久平和デモ」というのに参加したんだけど、日本とは違って何を隠そう……、と、盛大に説明しようと思ったら、先週の雨宮さんの記事に書いてあったので、そちらを参照してみてほしい。そうそう、そういうことなのだ。とりあえず自由。平和的なデモでさえ、ああだこうだ、ああするなこうするな、ってやたら注文つけてきたりする日本とはえらい違い。のびのびしてる。

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

デモ出発前、警察官の前で死んだフリをする台湾人。ちなみにこの警官隊は別の韓国右翼団体のデモの警備中

 そして、ちょっと様子を解説すると、その日は韓国人だけではなく、日本人、台湾人、中国人、香港人、シンガポール人などなど謎の外人たちによる、そんな自由でいい加減なデモ隊がソウル市中心部をグルっと周り、コースの最後の最後はなんと大統領府に向けて行進!!! さあ、いよいよクライマックス!!! と、思ったその頃! 不測の事態が起こった! 結構長いデモコースを歩いてきた多国籍部隊は「飽きた」「お腹すいた」などとブーブー言いだし、主催の韓国スタッフたちも「もう疲れた」などと言い出して、なんと大統領府に向かう道をUターンして、デモのゴール地点へ向かってバラバラとコースを勝手に変更して逃走!!!!!!! そんなのでいいのか! う〜ん、しかし、よくよく考えてみたら、「アジア永久平和&俺たち勝手にやるよ」なんていう訴えを韓国大統領にしたところで意味ないし、叶えてくれるわけでもないか。なるほど、納得! と、いうわけでゴール地点に用意されている軽食と大量の酒に向かって、デモは一目散に再出発。勢いを増したデモ隊はあっという間に到着すると、地下鉄の駅の目の前に準備されていた大型トラックの上にセットされたステージで各国のバンドのライブが大宴会とともにスタート! う〜ん、景気よすぎる!
 そう、これもまた「あ、海外に出ると日本の常識が正しいわけじゃなかった」と思わされる一瞬。

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

デモ後のライブ。トラックは韓国の労働党という政党が貸してくれたらしい。韓国の政党はバカなことにも心が広くていいな~


第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

GBN Livehouse という友達が経営するライブハウスに行くと、いつものやつらがウロウロしてた

NO LIMITの醍醐味=中国との交流

 そして、NO LIMITのもう一つの醍醐味は中国との交流。今は各種SNSが普及してるので、台湾や韓国、香港、東南アジアあたりとの間では国境を超えた友達の情報などもどんどん入ってくる。ただ、お隣の巨大な国=中国ではFacebook、LINE、Instagramも全部使えないし、Google検索やGoogle mapなどが全部使えず、その代替のサービスを使っている。なので、どうしても情報の壁ができてしまう。でも、ワラワラと実際に集まってきて直接遊びまくる時にはそんなネットやらの問題は一切ない。「えっ、そっちではそんなことになってたのか!」などと、お互い情報を交換しまくる。いや〜、未知との遭遇ほど楽しいものはないね。

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

Yamagata Tweakster というミュージシャンのスペースにて地下音楽シーンに関するトークイベント

 そんな中、一つの事件が起きた。そう、「Die! Chiwawa Die! 事件」だ。事の詳細はこんな感じ。NO LIMIT SEOULの準備を進めている9月上旬ごろ、突如、韓国のソウル側スタッフから「釜山会場での主催者が交通費を出すからバンドを呼べると言ってる」という連絡が来た。なんと、そんな威勢のいい話があるのか!? で、「本当に? 交通費が出るなら行きたいっていうバンドいっぱいあると思うよ!?」と聞くと「10バンドぐらいいける」との返答。ギャー、どれだけ景気いいんだ! 「えっ!? 釜山の主催者はそんなにお金あるの?」「交通費出るって言って声かけちゃうよ!?」と何度も確認すると「大丈夫だと言ってる!」「どんどん呼んで」という。で、台湾やら中国やら沖縄やら、各地の音楽関係の友達に連絡すると、「なんだそりゃ! そんな話があるのか!」と、貧乏すぎて今回のNO LIMIT参加を断念していたやつらが右往左往の大パニックに! で、みんな大急ぎでスケジュールを調整し、続々と申し出が殺到し一瞬で4バンドほどが決定。で、その頃「ところで、飛行機の件なんだけど釜山着だけ? ソウル着のチケットでも大丈夫?」と釜山サイドに確認すると、「えっ、飛行機ってなんのこと?」という。おい!!!! 交通費出すって言ったじゃん! よくよく聞くと、「交通費」とはソウルから釜山までのバス代を出すとのこと。ギャー!!!! そういうことか〜! 実はこのやりとり、釜山スタッフ→(韓国語)→ソウルスタッフ→(日本語)→日本側→(中国語)→中国・台湾、という流れだったので、どこかで混乱が生じた。あるいは「交通費」という単語の用法が国によってニュアンスがちがうのか…。ま、幸いにもそれはすぐに発覚したので、大至急、各地に再連絡し「大変だ! 実はバス代だってよ!」と伝え、「ギャー、それじゃやっぱり行けねーよ」などと返事などがくる。いやー、残念。

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

大都会のど真ん中にある謎の屋上庭園でのイベント。ここはいいところだった~

 しかし、よく考えたら、キリスト教や鉄砲伝来、ペリー来航などの時、もしくは江戸時代の漁民がわけのわからない国に漂流しちゃった時なんかは、こういうとんでもない勘違いが多発したはずだ。当時は、「大変です! ちゃんと伝えたのにこいつら全然違うことやり始めてます!」→「バカヤロー、誰かやめさせろ!」みたいなマヌケな混乱の連発だったに違いない。う〜ん、未熟なバカたちの交流の際は、そんな感覚まで味わうことができて、これはなかなかもうけものだ!(←屁理屈ではない)

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

各国料理対決イベント! みんなお腹すいててうまいうまいと食べるので、結局どこの優勝か不明!

 さて、肝心のDie! Chiwawa Die! 事件。ほとんどのバンドは「じゃ、今回は諦めるよ」と分かってくれたんだけど、中国広州のDIYパンクバンド「Die! Chiwawa Die!」だけは、初の海外公演決定の嬉しさのあまり、大急ぎでフリーランスでやってる個人の仕事をキャンセルしたり、費用をかけてビザの申請をしたり(中国人が海外に出る時のVISAは手続きがすごい煩雑)、すでに韓国行きを断念すると大損してしまうような状態になっていた。さらに当の本人たちは一度気持ちが傾いた韓国行きに大興奮しており、「いや、どうしても韓国行きたい!」ということに。う〜ん、こうなったらもう仕方ない、さすがに損させちゃう申し訳なさもあるし、まずはDie! Chiwawa Die! 優先で、可能なら他のバンドにも来てもらえないか、ってことで、日本、韓国、中国のやつらと連絡を取り合って各地で募金を集めようという壮大な話に。

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

釜山にも遠征! 共催の釜山ZERO FESTIVAL はもう少し大人しいイベントなので、突如NO LIMITからの北京ハードコアバンド Struggle Session で会場は大パニックに!

 ただ、規模こそ壮大でも全員貧乏人ばかりなので、どう財布を叩いても金はなかなか出て来ない。そこで、東京高円寺では、日替わり店主BARの「なんとかBAR」にて急遽、資金集めの「Die! Chiwawa Die! BAR」を開催し、ついでに募金も集め、その収益を全て交通費として送ろうという計画。ちなみに、そのバンド、友達の友達なので、自分含め高円寺界隈の誰も会ったことはない。しかし、この事情を相談して、東京のみんなも「それは大変だ!」と、みんなで寄ってたかって飲みまくったり、普通にカンパしてくれたりで、徐々に資金を集める。すると、それを知ったDie! Chiwawa Die! のメンバーは大感謝してくれて「金が集まらなくても、そんなことしてくれるだけで超嬉しい!」と連絡が来て、BARの開催中も「今の様子写真送って〜」などと連絡が来たり、写真送ったりして勝手に友情が深まる! 実際、交通費全額は到底集まらなくて、一度かかわったからにはと自分もだいぶ自腹切ったりして、なんとか目標額までギリギリ達成し、ソウルに呼ぶことができた。高円寺に飲みに来てくれた人たちも見ず知らずのバンドのために色々頑張ったりしたので、実際にソウルで、東京から行った人たちとDie! Chiwawa Die! が遭遇した時は「お〜!!!! お前らか!!!!」と、お互い謎の感動の対面。普通に費用が出て招待されてたら、普通に挨拶して終わってたかもしれない。いや、これ逆に交通費出なくてよかったんじゃないの? いや〜、これまたもうけもんだ。

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

ソウルの銭湯を改造したカフェでもイベント。ここも超いい場所

 それで仲良くなっちゃったもんだから、いろんな情報交換したり、中国の音楽シーンのこととか教えてもらったり、一緒に飲んだりバカな話した時の表情やら反応やら、ネットの中の世界では到底味わえないことばかり。さらには、ソウルに来ていた日本のバンドといろんな話が進み、今度中国で一緒に何かやろうみたいな話にも発展。いや、これこそNO LIMIT の面白さ。ヤバいヤバい、得しかない!

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

醍醐味の国際交流。高円寺のバンド、パンクロッカー労働組合とインドネシアのKelelawar Malam

 さてさて、とりあえずちょっとエピソードを紹介してみただけだけど、こんないろんな事態が無数に発生。まあ、全ては伝えきれない上に、文字では到底伝えられないぐらいの勢いだったので、詳細はイベントなり高円寺の飲み屋なり、どこかで遭遇した時に直接全部伝えます。今度もちろん失敗があったり、うまくいかないこともたくさんあったけど、総じて考えた時に、面白いことやってるやつら、大バカなやつら、変な店を開いてる人などなど、自分のやりたい生活スタイルや生活圏を自分で作ってる各国の人たちが一堂に集結するということは本当に有意義なことだ。そして、集まるたびに今まで知らなかった人同士も知り合うので、無限に加速してネットワークができていっている。う〜ん、これはやばすぎる! 去年や今回参加できなかった人も、全然まだ大丈夫。是非是非そんなアジア圏のとんでもないやつらの誰かにコンタクトしてみてもらいたい。去年や今年のNO LIMIT に参加したグループやバンド、店やスペースなどでもいい。もうすでに、無数の無国籍ネットワークが出来上がって来ている。失敗はもうけの源泉。ビビることなくむやみに遊びに行ってみたりして、近所の国々に交流の根を広げまくってみよう! 何かしら面白いことに遭遇するはずだ!

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

去年と同様、夜遅くはいつもこんな感じに。ここで各国の人たちが仲良くなる

第105回:アジア圏の烏合の衆がソウルに集結! NO LIMIT 2017 SEOUL

ドサクサにまぎれて高円寺マヌケゲストハウスの営業を決行!

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。