『赤ちゃん本部長』(竹内佐千子/ネットマガジン「BABY!」連載中)

Want create site? Find Free WordPress Themes and plugins.

 ネット上で読める漫画はたくさんあるけれど、その中でもわたしの今ダントツの一押し作品がこれ。『2DK』などの作品で知られる漫画家・竹内佐千子さんが、子育て世代向けのウェブ雑誌「BABY!」に連載中の新作である。
 ストーリーはタイトルのまんま。御年47歳、なかなかダンディーでおしゃれで(そのときの姿は出てこないので、あくまで推測)、女性にもモテていたとおぼしき「武田本部長」が、ある日突然赤ちゃんに。「朝起きたら 赤ん坊になっていたのだ」──。
 中身は47歳のまま、言葉も以前と変わらず話せるけれど、それ以外は「赤ちゃん」の「本部長」が、かわいくないんだけどとにかくかわいい。もうそれだけでオッケー、な気もするのだけれど、あえて魅力を解説するならば──(以下、思いっきりネタバレです)。

 意味不明の事態にもまったく動じず、部下たちを集めて「我が営業部最大のピンチのような気もするが(中略)迷惑をかけると思うがうまくやってほしい」という本部長。3人の部下たちも、最初は(目ん玉飛び出るほどに)びっくりするのだけれど、次の瞬間にはてきぱきと動き出す。
 唯一の子持ち、若手の西浦くんが、本部長を抱き上げてみて「8カ月くらいだと思います」。それを聞いて、西浦くんに「必要なものをリストアップしてくれ」と指示するのは、最年長の酒井部長。課長の天野さんは、西浦くん作成のリストを持って、さっそく買い出しに出かける(ついでに、楽しくなってポケットマネーで赤ちゃん用おもちゃを買ってきちゃったりもする)。
 どうやらまだ立つのがやっと、の本部長のために、移動用のベビーカーや歩行器が用意され、1日のスケジュールには「昼寝」が組み込まれる。小さい手でうまくタイピングができない様子を見た天野課長が、すかさず音声入力マイクを差し出す。営業部だけに長時間にわたる戦略会議もしばしばらしく、「おむつ・お昼寝問題が大変だな〜」と知恵を絞る酒井部長と天野課長…。
 武田本部長の仕事への熱意も、以前とまったく変わらない。音声入力でメールを送り、西浦くんにベビーカーを押されて取引先回りにも行ってしまう。ときには「赤ん坊相手に仕事はできない」と心ない言葉にも出合うけれど、そこは47歳の余裕でしっかり反論。新入社員研修の締めくくりは、赤ちゃん姿の本部長による訓示…に、酒井部長が「あと、本部長が赤ちゃんなのに早く慣れるように!」と言葉を添える。
 漫画だからだと言ってしまえばそれまでなのだけれど、突然何らかの仕事上のハンディ(怪我をするとか、妊娠・子育てや介護で長時間勤務は難しくなるとか)を負ったときに、こんなふうに接してもらえたらいいだろうなあ、と思う。「できないこと」があるのは認めつつ、そこは「できる人」がカバーして、無理はさせず、でも「できないでしょ」と勝手に決めつけたりもしない。第二話では、酒井部長や西浦くんが「本部長(の離乳食づくり)のおかげで、身体のことを考えて食事するようになった」と話す場面があるのだけれど、そんなふうに、いろんな事情を抱えた人と一緒に働くことで気付くことや得られることもきっとあるんじゃないだろうか。
 さらには、本部長以外の人たちが抱えるいろんな「事情」も、さりげなーく描かれる。酒井部長は妻とふたり暮らし、子どものいない夫婦だ。天野課長は30代後半で独身彼女なし(たぶん)、ゲーマー(で人気ユーチューバー)。「結婚していて、子どもがいる」西浦くんの家庭生活の様子にも、びっくりした読者は多かったよう(ここはぜひ実際に読んでほしい!)。
 武田本部長自身も若いころに離婚しているようだし、みんな現実にあてはめればどこかしら「マイノリティ」。でも、そんなことは誰も気にせず、それぞれに幸せそうな日常の様子に、読んでいるほうも楽しくなってくる。
 さらに、4話には「友達の子どもを見ても、周囲の人たちみたいに『かわいい』と思えない」と悩む女性社員が登場して、思わず「わかる、わかるよ!」と叫びそうになった。そう、多分読んでいて元気になれるのは、この漫画が誰のことも否定しないし、誰のことも置いてけぼりにしないからなのだ。
 …とぐだぐだ書いたけれど、まずは読んで「本部長」のかわいさに触れてみてほしい(今月末までなら公開中の4話がすべて無料で読めます)。読む人の状況や視点によっても、いろんなことに気付かせ、考えさせてくれる作品だと思う。

(西村リユ)

竹内佐千子『赤ちゃん本部長』
ネットマガジン「BABY!」で連載中
Did you find apk for android? You can find new Free Android Games and apps.