第123回:ギリシャ憲法に学ぼう。9条はそのまま、その解釈を条文化する“第三の道”を(南部義典)

立憲政治の道しるべ
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ギリシャ憲法「解釈規定」の発想を活かす

 今回は少しばかり趣向を変えて、ギリシャ憲法(1975年制定)の話をさせていただきます。(*1)
 ギリシャ憲法には、各国の憲法にはみられない「解釈規定(Interpretative Clause)」が置かれています。全部で120の条文(本体規定)から成り立っているところ、独立して、12の解釈規定が存在します。

 解釈規定とは、「本体規定に出てくるこの文言は、こういう意味です」(こういう意味に解釈されます)という、憲法上の説明書きとイメージしてください。日本国憲法に当てはめてみるならば、例えば、66条2項には「文民」という文言が出てきますが(*2)、「文民とは、こういう意味です」という説明書きを「文民」の解釈規定として、66条の次に(67条の前に)挿入するイメージになります。また、89条には「公の支配」という文言が出てきますが(*3)、「公の支配とは、こういうふうに解釈されます」という説明書きを「公の支配」の解釈規定として、89条の次に(90条の前に)挿入するイメージです。

 解釈規定はもちろん、憲法の一部を成し、法形式上最高の効力を有し、すべての国家権力を拘束します。憲法の一部を「本体規定」プラス「解釈規定」の二重構造にすることによって、本体規定の解釈の安定度を高めることができます。本体規定だけでは判然としなかったり、恣意的な解釈を許してしまう場合、明文で以てその明確化を図ったり、歯止めを掛けるわけです。日本でも、解釈規定を置くための憲法改正は、96条所定の手続きによって可能であると考えます。

 いま、自民党を中心に進められている9条改正論議は、言わずもがな、9条という本体規定を改正しようと目論むものです。しかし、本体規定をそのまま残して、自衛権の範囲や自衛力の意義に関して新たに解釈規定を置く「改正」の道を、検討の俎上に乗せることはできないのでしょうか。ギリシャの実例をもとに、広く、発想の転換を迫ってみたいと思います。

「武器を手に取ることができる」の解釈

 解釈規定は、どのような理由で置かれ、どのような作用を果たすのか、具体的な例をお示ししましょう。ギリシャは徴兵制度を長く採用していますが、国民による「良心的兵役拒否」をめぐって憲法解釈が問題となったエピソードをご紹介します。まず、ギリシャ憲法の3つの条文をご確認ください。

 ギリシャ憲法4条6項は、国民の義務として、「防衛に従事する義務」を次のように定めています。
 

Every Greek capable of bearing arms is obliged to contribute to the defence of the Fatherland as provided by law.

武器を手に取ることができるすべてのギリシャ国民は、法律の定めるところにより、祖国の防衛に従事する義務を負う。

 また、5条2項(前段)は、「信教の自由」などを次のように定めています。

All persons living within the Greek territory shall enjoy full protection of their life, honour and liberty irrespective of nationality, race or language and of religious or political beliefs.

ギリシャの領土内部に住むすべての者は、国籍、人種、言語および宗教上または政治的な信念で差別されることなく、生命、名誉および自由を完全に保障される。

 さらに、13条4項は、「信教の自由」に関して次のように定めています。

No person shall be exempt from discharging his obligations to the State or may refuse to comply with the laws by reason of his religious convictions.

何人も、その宗教上の信念を理由として、国に対する義務を免れたり、または法律に従うことを拒否することはできない。

 いずれも短い条文で、スラっと読めてしまうのですが、制定以来、4条6項の「武器を手に取ることができる」(capable of bearing arms)の部分は解釈上、物議を醸してきました。「武器を手に取ることができる」というのは、読んで字のごとく、人の身体能力を念頭に置いた物理的な意味なのか、それとも、個人の思想、宗教上の理由などによる、武装兵役の従事に対する抵抗感がないという意味をも含むものなのか、明確な答えを導き得ないからです。

 また、5条2項前段と13条との関係も問題となります。5条2項前段は、信教の自由が完全に保障されるとしておきながら、13条では、信教を理由とした義務免除が許されないとしています。論理の上で、条文どうしが衝突してしまいます。

 つまり、以上3つの条文を読んだだけでは、ギリシャ国民に、いわゆる良心的兵役拒否が認められるのかどうか(それは宗教上の理由に基づくものに限るのか、それ以外の理由も広く含むのか)、分からないのです。

2001年改正における、解釈規定の追加

 そこで、ギリシャ国会は2001年、解釈上の争いに決着を付けるべく、4条6項に次のような解釈規定を設ける内容の憲法改正を行いました(ギリシャの憲法改正手続きには、国民投票は予定されていません)。もちろん、前記3つの条文(4条6項、5条2項前段および13条)はそのままです。

(Interpretative Clause)
The Provision of Paragraph 6 does not preclude that the law provides for the mandatory performance of other services, within or outside the armed forces (alternative service), by those having a substantiated conscientious objection to performing armed service or, generally, military duties.

(解釈規定)
第6項の規定は、武器を持つことを伴う兵役または兵役一般に対して、証明された誠実な拒否をしている者が、軍隊の内外で、その他の義務的な任務に就くこと(代替的任務)を、法律で定めることを妨げない。

 いかがでしょうか。この解釈規定により、宗教上の理由に基づくか否かにかかわらず、武装兵役を拒否する国民に対して、代替的任務に就かせることができる法整備を行う余地を生んだのです。

 最新の調査資料によると、旧徴兵法(1977年制定)では、宗教上の理由に基づく兵役拒否のみ認められ、イデオロギーや哲学的な理由に基づく兵役拒否は認められていなかったものが、2001年憲法改正を受け、2005年に制定された現徴兵法では、一般的な良心的兵役拒否(宗教上、イデオロギー、身体上および道徳上の見地から兵役を拒否)をする者に対して、代替的任務が認められるようになったとあります(*4)。解釈規定がその後の法整備に活きた例です。憲法改正が行われていなかったら、解釈上の争いは、まだ続いていたかもしれません。

日本国憲法への適用可能性は?

 日本の政権与党に目を転じてみましょう。
 自民党は現在、2001年ギリシャ憲法改正とはまったく逆の動きをみせています。自衛権の範囲や自衛力の意義に関する「政府の憲法解釈を1ミリも動かさない」(*5)まま、単に、自衛隊を「実力」として明記するための議論を延々と続けています。ギリシャ憲法(2001年改正)は、本体規定をそのままに、解釈規定を設けたものですが、自民党は、解釈をそのままに、本体規定に手を付けようとしているのです。
 
 しかし、安保法制(憲法解釈変更の閣議決定が2014年、法整備が2015年)がすでに過去の話題になっていますが、政府が行う憲法解釈に対して、主権者としての意思を反映させる有効な統制手段を持たないという、根本的な問題を今なお抱えたままであることを、もう一度、思い返すべきでしょう。この点、憲法に違反する立法を行った議員は、次の選挙で落選させることができます。不当な憲法判断を行った最高裁判所の裁判官がいれば、国民審査において罷免することもできます。しかし、内閣法制局が事実上掌握している政府見解の統一、変更の権限には、まったくノータッチの状況を強いられてきたのが、憲法施行後70年間の国民の姿なのです。

 仮に、自民党を中心とする勢力が是とする9条改正案が国民に提案された場合、その改正案を有権者の過半数で否決することができても、憲法解釈を元に戻す法的効果までは生じません(その間に、憲法解釈を元に戻す内閣が新たに誕生すれば、話は別ですが)。憲法改正に取り掛かる政党は、初めから、その解釈に目を転じ、国民主権の光を当てる方策を実行すべきです。

9条「解釈規定」の国民投票を

 私は、9条に関する「自衛権の範囲」の問題と、「自衛力の程度」の問題とを峻別しつつ、まずは、国民の間でも解釈上の争いが大きい(その争いが決着したとはいえない)「憲法上許される“自衛の措置”の範囲」に関する解釈規定を置くべきことを提案します。

 解釈規定案としては、①個別的自衛権のみ認める案(いわゆる1972年政府見解に基づく案)(*6)、②①に加え、限定化された集団的自衛権を認める案(2014年7月1日閣議決定に基づく案)(*7)を起草し、国民投票に諮った上で、過半数の賛成を得られた案を、解釈規定として明文化するのです。繰り返しますが、国民投票の結果により成文化される解釈規定は、憲法の一部を成し、法的な拘束力が生じます。あえて結論を先走りますが、国民の意思を以て②の解釈を否定することこそ、重要な意味を持つのです。

 自衛力の程度の件ですが、9条2項により、戦力の保持は禁止されるが、戦力に至らない実力の保持は許されるという解釈(自衛隊合憲論)は、現在の政治部門において、それほど意見対立が激しい問題ではありません。しかし、自衛のためであれば「戦力」を保持することも許されるといった誤解が国民の間に根強いことを考えると、それさえ許されないことを確認的に明記することも考えられます。他方、警察力を超えるものは一切「戦力」に該当するという考え方も、有力に主張されています。いずれにせよ、国会が解釈規定案として国民に提案し、国民投票においてその過半数の賛成を得なければなりません。

フリーハンドの憲法解釈に決別を

 こんな憲法改正を認めたら、日本国憲法の前文、1条から103条まで、解釈規定だらけになってしまうのではないか、という疑問を持たれるかもしれません。しかし、そんなことはありません。国会、内閣、裁判所の間で見解が分かれたり、憲法の番人たる最高裁判所が判断を避ける規定(文言)について、見逃すことができない重大な疑義が生じたものについて、必要最低限加えていけば十分です。解釈に疑いがなく、争いのないものに、解釈規定を加える必要はありません。

 本体規定を都合よく改正し、その解釈をフリーハンドのまま温存しようとするアプローチとは逆に、今は解釈にこそ、主権者・国民の意思をリアルに、正しく反映させる議論を優先すべきです。キーワードは「解釈の安定化と硬性化」です。内閣が変わるたびに、憲法解釈が入れ替わってしまうような国では、立憲政治は根付きません。

 私が言うまでもありませんが、条文だけ守っていても意味がありません。守るべき価値、理念があることを前提に、その解釈を統制する手段を編み出し、自ら講じなければ、国民主権が色褪せるばかりです。
 
 


*1 本稿は,ギリシャ国会(Hellenic Parliament)の公式英訳を参考にしています。(アクセス日:2017年9月2日)
*2 66条2項は「内閣総理大臣その他の国務大臣は,文民でなければならない。」と規定しています。
*3 89条は「公金その他の公の財産は,宗教上の組織若しくは団体の使用,便益若しくは維持のため,又は公の支配に属しない慈善,教育若しくは博愛の事業に対し,これを支出し,又はその利用に供してはならない。」と規定しています。
*4 衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団(2014)『衆議院欧州各国及び国民投票制度調査議員団報告書』49頁。
*5 自民党憲法改正推進本部総会(2017年6月12日)における,保岡興治本部長の発言。(アクセス日:2017年9月6日)
*6 安全保障の法的基盤に関する従来の見解について(PDF/アクセス日:2017年9月6日)
*7 国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について(PDF/アクセス日:2017年9月6日)
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南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) 写真:吉崎貴幸