第124回:希望の党は、政治芸人の集まりか?(南部義典)

第124回:希望の党は、政治芸人の集まりか?

まっとうな政党とは、とても思えない

 いつの時代にも、地位欲、名誉欲を満たすことだけを考えて議員になろうとする者がいます。今回の総選挙は、平成期ではちょうど10回目で、最後となるわけですが、このような「欲求充足型候補」の割合が最も高くなっていると実感します。言えばおろか、希望の党の誕生です。

 総選挙が公示される前、メディアはこぞって、希望の党の奇行、逸脱ぶり、同党の公認候補(予定)者の悲哀、葛藤を報じました。報道された内容は、皆さんもご存じのことですので、ここではあえて言及しません。希望の党は、組織としては政党の形をとっていますが、私は、そう考えないことにしています。自らの個性を押し殺しながら、大衆向けにその瞬間、さらに次の瞬間、ウケの良いメッセージをひたすら発し続ける“政治芸人”の集まりと理解しています。そうすれば、公約を出したり引っ込めたり、政策レベルで語りえない件を公約として掲げてみたり、言い訳をしたり、開き直ったり、あらゆる奇異な振る舞いを、冷静に受け止めることができます。

 それでも私は、政治芸人の皆さんに、ぜひ聞いてみたいのです。「安倍一強政治をストップさせたい」と本気で思っていますか? そのような義憤に駆られ、選挙運動に邁進している人は、どれくらいいるのでしょうか。

衆議院議員の職責を軽く考えすぎ

 政治芸人の皆さんは、衆議院議員(国の立法機関の一員)になることを軽く考えすぎてはいませんか。日本国憲法を読んでいただければ分かりますが、議員の仕事イコール、法律を作ることだけではありません。

 総選挙が終わった後、特別国会が開かれます。会期の初日には早速、「内閣総理大臣の指名」という大仕事が待っています。新たに指名を受けた内閣総理大臣は、他の国務大臣を任命し、内閣を発足させます。その内閣は、最高裁判所の長官を指名し、長官を除く裁判官、高等裁判所その他の下級裁判所の裁判官を任命する権限を持つことになります。この一例だけでもわかるように、内閣総理大臣の指名とは、総選挙後に必ず行われる「国家統治のリセット設定」であって、行政、司法の各作用に、その効果がストレートに及ぶ重大な決定なのです。

 それにもかかわらず、「誰を指名するか決定することなく、総選挙に臨む」、「誰を指名するか、総選挙が終わってみないと分からない(答えられない)」というのは、いったいどういう憲法感覚、政治感覚をしているのでしょうか。

 世の中には、包丁職人がたくさんいます。包丁を作る人、包丁を使って仕事をする人、そのどちらも、包丁の怖さを十分に分かっていて、作業のさいには細心の注意を払っています。これは、包丁職人として、ごく当たり前の態度です。もし、包丁の怖さを知らないで、職人ぶった扱いを始めたらどうなるでしょうか。自分はもちろん、周囲の人たちをとても危険にさらすのです。政治芸人の皆さんは、包丁よりも危険なものを持って仕事をするという自覚はあるのでしょうか。自分が就こうとする職業の危険な側面について、基本的な心得を持っていただくことが先決です。

少数派を救う気概、覚悟はあるのか

 希望の党の代表は、公示前の各党討論会で「国民ファースト」という語を使いました。「国民」の意味をどう捉えるかで、政策の方向性が変わりうるところですが、具体的な説明はありません。「都民ファースト」なる語も、先行して使われています。いずれも没価値的で、英単語も入って格好よく聞こえますが、肝心の中身を欠いているのです。海援隊の曲に「あんたが大将」(1977年)というのがありますが、その意味するところは大して変わりません(と言っては、海援隊に対して失礼に当たるかもしれませんが)。

 「政治をリセットする」とも言われます。それでも、政治の何を、どのようにリセットするのでしょうか。そして、一般の市民とは、どう向き合うのでしょうか。現に、社会の多数派に属している人たちを多数派に置いたまま、一定の政策変更をする程度では「リセットする」とはいえません。少数派に属している人たちの力となるべく政治を動かそうとすれば、まずは現行のルールを変えなければなりません。ルールを変えるためには、議会の中で多数派になるか、少数派でありながらも多数派の合意を得るとか、相当な努力が不可欠となります。政治芸人の皆さんには、少数派の人たちを救う気概、覚悟はあるのでしょうか。

行政監視も果たせない…

 先週5日(木)、都民ファーストの会を離党した、音喜多駿都議、上田玲子都議の記者会見をご覧になった方も多いと思います。上納金制度の存在、一部の幹部による不透明な意思決定、不明朗な会計処理など、都民ファーストの会と希望の党との組織的同根性(悪しき体質)を、私は直感しました。

 それはさておき、両都議の会見のさい、先の都議会定例会(9月)経済・港湾委員会の質疑に立った都議(都民ファーストの会)に対する、小島敏郎氏(同会・政調事務総長)の関与を指摘する記者の質問がありました。小島氏といえば、かつて、都顧問として「市場問題プロジェクトチーム」座長を務め、「豊洲移転・築地再開発」の方針決定に主導的な役割を果たした人物として知られています(安全性に関する評価、情報公開が不十分なままでの決定過程は、実に不透明で、批判が高まっています)。小島氏は都の顧問を退任し、現在は都民ファーストの会の政調事務総長の肩書きを持っているようですが、都民ファーストの会に所属する都議は、その小島氏の意向(すなわち、知事の意向)を受け、委員会で質問をしたというのです。都民ファーストの立場で、行政監視の一丁目一番地も全うできないのでしょうか。二元代表制を傷つける、露骨なそんたく政治に他なりません。公示直前になって、森友・加計問題を意識した行政チェック、情報公開の意義を強調しているようですが、それを言うならまず、足元の問題を、都民の納得が得られるまでにさらけ出すべきでしょう。

 議員バッジを着けても、自分の判断と責任において行動できない幼児性議員は、民主主義の敵と見なしてかまいません。希望の党の政治芸人の皆さんが、仮に衆議院の絨毯を踏んだとしたら、私は同じような幼児性行動に走るとみています。思い付き、興味本位の憲法改正論議など、とんでもない話です。

民進党の清算をどうするか

 9月下旬、民進党解党事件(クーデター)が勃発しました。私はあえて「事件」といいます。事件は完結しておらず、現在も継続中です。誰がどのような弁明をしようとも、私には、踏み絵を踏まされてまで、政治芸人になりたい人たちの心情が、さっぱり分かりません。

 民進党衆院議員は一人も存在しなくなりましたが、同党所属の参院議員は残っています。先に述べた総理指名の問題は、参院側には重く圧し掛かります。

 この点、政治論としては、じつに難題です。今さら会派の意見を一つにまとめることはできませんし、まさか、「前原誠司」と書くわけにもいきません。棄権することもありえません。結果として自主投票を決めるにせよ、その決め方の正当性が失われないよう、慎重なプロセスが求められます。

 民進党の清算が本格化するのは、特別国会が閉じてからになるでしょう。それまでは、失礼ながら政治の不安定要因であり続けます。清算の方向性が見えたところで、改めて論じたいと思います。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) 写真:吉崎貴幸