第125回:「野党ねじれ」が深刻化する前に(南部義典)

第125回:「野党ねじれ」が深刻化する前に

 野党ねじれとは、衆議院、参議院における野党第一党(会派)が異なることをいいます。いま、衆議院では立憲民主党・市民クラブが54名、参議院では民進党・新緑風会が47名で、それぞれ野党第一党(会派)であり、野党ねじれが起きています。今月1日に行われた内閣総理大臣指名選挙でも両党(会派)が相争うこととなり、次点の得票は、衆議院では立憲民主党の枝野代表が60票、参議院では民進党の大塚代表が48票という結果となりました。

 野党ねじれは、近年まったく例を見ませんでしたが、今後の国会運営では、与党は衆議院、参議院のいずれにおいても安定している一方で、野党は衆議院側と参議院側との不連携、ぎこちなさが露呈するおそれがあります。政治的には何が問題になるのか、問題が深刻化しないようにするためにはどうすればいいのか、一考を加えておきます。

野党第一党(会派)が持つ強い権限

 まず確認しておきたいのは、衆議院、参議院のいずれにおいても、野党第一党(会派)は委員会運営をめぐって、強い権限を持っているという点です。強い権限とは、どれほどの巨大与党を相手にしても、対等に協議ができるという意味です。また、会派に所属する議員数がどんなに多くても、小さくても、権限の強さは変わりません。現在、立憲民主党・市民クラブは衆議院の議席占有率でみると11.6%にしか及ばず、事実「史上最小の野党第一党」ですが、衆議院の運営の上ではあくまで、野党第一党としての立ち回りが求められるのです。

 現在、衆議院には17の常任委員会と9の特別委員会、参議院には17の常任委員会と7の特別委員会があります。これらの委員会には与党、野党からそれぞれ理事が複数名選任され、委員会の運営などに関する協議、決定を行います。中でも、与党第一党、野党第一党からそれぞれ「筆頭理事」が選ばれ、与党筆頭理事と野党筆頭理事が日常的に交渉を重ねながら、委員会の運営を実質的に主導していきます(筆頭間協議。この手法は、村山内閣の頃に確立しています)。この特別国会から、衆議院では「自由民主党」と「立憲民主党・市民クラブ」との間で、参議院では「自由民主党・こころ」と「民進党・新緑風会」との間で、野党ねじれ下での筆頭間協議が始まっています。もっとも、この特別国会では、審議される予定の法案が極端に少ないですが、来年の通常国会以後は、その数が格段に増え、委員会がフル稼働していきます。野党ねじれの問題は、野党第一党が持つ強い権限を背景に、顕在化していくのです。

懸念される、三つの問題

 第一の問題は、参議院側に、法案審議の計画性、ないしその余裕を失わせるおそれがあることです。通常国会において、安倍内閣は多くの法案を国会に提出するわけですが、通例に従い、9割以上は衆議院側から審議が始まり、その残りが参議院側から始まることになります。参議院は主に、衆議院から送られてくる法案を受け取る立場に置かれてしまうわけですが、参議院の野党筆頭理事は、①衆議院では、法案がいつ審議入りするのか、②衆議院の委員会では、法案の採決がいつ行われるのか、③②の後、衆議院の本会議では、法案の採決がいつ行われ、参議院に送る見立てとなっているのかといった情報が、衆議院の野党筆頭理事からリアルタイムに、正確に伝えられなくなってしまいます。その結果、情報不足となり、参議院における法案審議を計画的に行うことができなくなってしまうのです。まして、衆議院側の法案審議をめぐる情報が、参議院の与党筆頭理事から教示してもらう立場になれば、その分、与党の支配、統制を安易に許し、「野党の言い分」が通らなくなってしまいます。

 第二の問題は、参議院における法案修正を停滞化させるおそれがあることです。これまでも、衆議院の委員会では、内閣が提出した法案に対して野党が修正案を提出することは普通に行われています。最終的に、その修正案が採決されなかったり、否決されることはありますが、法案審議の舞台が参議院に移った後も、同じ内容の修正案が提出されることは珍しくありません。しかし、野党第一党が別々になってしまっては、そのような修正案の提出も、当たり前のように行われることはなくなるでしょう。衆議院で立憲民主党・市民クラブが提出した修正案を、参議院で民進党・新緑風会がそのまま採用し、提出するということが想定しづらいのです。

 第三の問題は、両院合同で行う委員会の日程設定、運営に影響が生じうることです。具体的には、党首討論(国家基本政策委員会の合同審査会)の開催に影響が出てきます。ちなみに2017年は、党首討論が一度も行われていません。野党は、党首討論の実現を衆議院側だけで訴えても、参議院側と連携が取れた上でなければ、意味をなしません。

 要するに、野党がバラバラでは、政府・与党を利するだけなのです。

できるだけ早く、統一会派の結成を

 民進党再結集と呼ぶかどうかは別にして、最終的には一つの政党にまとまることが理想です。しかし、この1カ月半の経緯からして、それがなかなか容易なことではないということになると、衆議院、参議院で「統一会派」を結成することが当面の目標となります。院内では、政党ではなく、会派が活動単位となるからです。

 まず、衆議院には、「無所属の会」という会派(13名)が存在していますが、民進党に籍を持つ議員と持たない議員が混在しています。会派内の調整には労力を要するでしょうが、立憲民主党・市民クラブと統一会派を組むべきです。合わせて67名の勢力になります。

 そして参議院には、民進党・新緑風会という会派が存在する一方、立憲民主党に籍を置くのは、福山哲郎議員(党幹事長)1名だけで、現在は「各派に属さない議員」(無所属)との扱いになっています。議員1名では会派の結成はできないので、民進党・新緑風会への「合流」が期待されます。

 しかし、福山議員は、民進党に離党届を提出したものの(10月5日)、会派としての民進党・新緑風会に「残留」することを望んでいました。それにもかかわらず、民進党・新緑風会が特別国会の召集前、福山議員の会派離脱を求める決定をしたことは、非常に残念な出来事でした。枝野代表は今月2日、「民進党・新緑風会とは、連携は難しい。連携する意思がないと受け止めざるを得ない」と怒りをあらわにしていましたが、これは単に、仲間外れに遭ったからということではなく、会派としての活動の機会を失ってしまうことに、抗議をしたのです。
 例えば、ある日の参議院予算委員会で、民進党・新緑風会が2時間の質疑時間を持っていたとします。会派としての持ち時間なので、そのうちの一部を(たとえ15分、20分のわずかな時間であっても)福山議員に割り当てれば、実質的に、立憲民主党所属の参議院議員として質疑に立つことができたはずなのです。
 福山議員の会派離脱により、活動範囲はかなり狭いものになってしまいました。当選直後の山本太郎議員と同じ状況です。

むすびに

 野党ねじれの問題は、総選挙前の「希望の党合流騒動」が産んだ「鬼っ子」です。じつに厄介な問題ですが、一日も早く解決し、野党側の足の踏み場を堅固なものにしなければ、政府与党の追及など到底、覚束ないものになってしまいます。

 兎にも角にも、この問題を不可避のものとし、現実の政党政治をさらにアンバランスなものにした前原誠司という政治家に対しては、軽蔑と嫌悪の感情を抱かざるをえません。9月の民進党代表選挙で前原誠司を推した議員(現職、元職)はどのような総括をしているのか、一人ひとりに聞いてみたいものです。

 質疑時間の配分見直し問題、特別国会の会期の問題に関して、私のコメントが紹介されました。
→東京新聞(2017年11月3日)「与党の質問時間増えたら論戦は…『ヨイショ国会』出現!?」
→毎日新聞(2017年11月1日)「国会:会期の短さ過去 2番目の可能性『丁寧』姿勢どこに」

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) 写真:吉崎貴幸