第2回:「安倍一強政権」がやりたい放題、対するメディアは?(柴田鉄治)

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 2017年6月は、「安倍一強政権」がやりたい放題、国民の疑問に答えず、野党などの追及も強引に切り捨てた月として歴史に残るのではあるまいか。
 まず共謀罪である。これまで何度も提案されながら疑問点が多すぎると見送られてきた法案を、テロとは関係ないのに「テロ等準備罪」と名前を変えて、強引に押し通した。衆院の委員会、総会を強行採決で突破して参院に送られたあと、僅かな審議時間で、金田法相の答弁もしどろもどろだったのに、なんと委員会採決を「中間報告」に代えて吹っ飛ばし、総会採決で成立させてしまった。
 政府・与党が国会の会期延長を考えていたのに、それもやめて会期内の強硬策をとった理由は、審議をすればするほど疑問点が出てくることと、法案を成立させてしまえば国民の批判の声も「すぐ収まるさ」と高をくくった一強の驕りだろう。
 いや、それだけではない。先月から燃え上がった加計学園問題の疑惑がさらに燃え広がらないよう国会を早く閉会にして「水をかけよう」としたきらいがある。
 そう考えると、安倍一強政権の驕りに対してメディアは阻止するところまではいかなかったが、安倍政権を対応におたおたさせたという点で、善戦したといってもいいのではなかろうか。

メディアは善戦、内閣支持率は急落、メディアの二極分化にも亀裂が…

 国会閉会に合わせて実施されたメディア各社の世論調査で、安倍内閣の支持率がいずれも大幅に下がった。毎日新聞とNNNの調査では支持と不支持が逆転して、支持37%・不支持41%(毎日)、支持40%・不支持42%(NNN)に、また「安倍与党新聞」といわれている読売新聞の世論調査でも支持は49%と前回より12ポイントも急落し、不支持41%と13ポイントも跳ね上がった。朝日新聞の調査でも支持41%不支持37%と急接近した。
 支持率だけではない。共謀罪の与党の進め方は「よくなかった」65%・「よかった」16%、加計学園についての安倍首相の説明に「納得できる」18%・「納得できない」66%(朝日)など、軒並み政府・与党の信用暴落である。
 メディアの報じ方は、相変わらず二極分化していて、安倍政権寄りのメディアも少なくないのだが、これらの調査結果から安倍一強政権の驕りが国民にはっきり見えてきたという点で、メディアの対応もまずまずの「善戦」だったと言っていいだろう。これまでどちらかというと安倍政権寄りだった週刊誌が、批判派に回ったことも大きかった。
 実は、メディアの二極分化と言っても、微妙な変化が生まれてきたようにも見えるのだ。たとえば、「安倍与党メディア」といえば、新聞では読売・産経、テレビではNHK・日テレ・フジといったところだが、前号で記したように、読売は前川喜平・前文科省事務次官の「出会い系バー通い」の記事をでかでかと報じて政府に加担した一方、産経は取材したのに記事にはしなかった。
 それだけではない。前川・前次官の証人喚問を与党が拒否していることに対して、産経は社説で「前川氏が出ると言っているのだから、呼んだらいいではないか」と、読売とは一味違う主張を展開した。
 いち早く前川氏にインタビューしながら安倍政権に配慮してか放送しなかったNHKが、一転、6月19日夜の「クローズアップ現代+」で報じたスクープは、安倍与党メディアの世評を覆すような見事なものだった。加計学園問題のキーマンの一人、萩生田光一官房副長官が文科省の局長に対して語った「ご発言の概要」と題する新たな文書を掘り起こしたのだ。
 萩生田氏は文科省の再調査で出てきた文書に手書きで加計学園に決まるよう条件を書き加えた人物だと言われていたが、萩生田氏が否定し、山本幸三地方創生相が「私が指示した。文書は文科省出身の部下が確認せずに書いたもの」と語って真相はやぶの中となっていた。
 新たにNHKの掘り起こした文書には、萩生田氏の発言として「官邸は絶対やると言っている」「平成30年4月開学とおしりを切っていた」「農水省が獣医師会押さえないとね」といった具体的な内容が並んでいるのだ。
 それに対して萩生田氏はまたも全面否定だというから驚く。これらの言葉はすべて文科省の創作だとでもいうのだろうか。
 新しい文書が出てきたということで、野党4党は憲法の規定に基づいて国会の開会と審議の継続を要求した。それに対して与党は、憲法に「何日以内に」という規定がないことをいいことに、またも拒否したのである。安倍首相の国会閉会の記者会見での「反省の弁」や「今後も丁寧な説明を」と語った言葉が全くのウソであったことを明らかにしたのもNHKの『功績』だと言えよう。
 安倍一強の驕りがいつまで続くのか、見守るほかないが、安倍与党メディアに僅かながら亀裂が出てきたことはこれからの期待が大きい。もし、産経新聞やNHKにジャーナリズム精神が戻ってきたのだとすれば、素晴らしい。今回の僅かな変化で、そこまで期待しては、しすぎかもしれないが…。
 もう一つ、加計学園とそっくりな構図の森友学園問題、こちらは安倍首相夫人の昭恵さんが名誉校長を務めていた小学校の開校に国有地を8億円余も値引きして払い下げた疑惑だが、大阪地検特捜部は6月19日、同学園の籠池理事長の自宅や幼稚園を家宅捜索し、100箱以上もの証拠書類を押収した。
 籠池理事長は補助金を詐取した詐欺罪など様々な疑惑で告発されていたから、捜査への着手に不思議はないが、一方、近畿財務局に対しても背任容疑での告発が受理されており、やるなら同時に着手するのではないか、と思っていた。
 近畿財務局の疑惑のほうが金額も大きいだけでなく「政府の犯罪」であり、それに交渉記録を廃棄してしまったという「隠蔽工作」までなされているだけに、背任容疑の捜査を「先送り」にするようでは特捜部の姿勢まで疑われよう。
「安倍一強政権」の歪がそこまで社会を蝕んでいるとは思いたくないが、メディアの厳しい監視を期待したい。

核兵器廃止条約の制定に反対し、会議に欠席する日本政府とは!

 今月の論点として、どうしても触れておきたいのは、国連で続いている「核兵器禁止条約」の制定会議に、日本政府が反対して参加していないことだ。理由は、日本が米国の核の傘の下にあり、米国ら核所有国の反対・不参加に同調したためだという。
 そんなふざけた話があろうか。世界で唯一の被爆国、日本が核禁止条約の制定に賛成できないなんて――。
 政府や外務省は、日本が米国の傘の下にあるだけでなく、禁止条約に賛成して会議に参加すれば「日米同盟が揺らぐ」と説明するが、そんなことはあるまい。米国は、日本の被爆者としての思いには理解をしており、日本が賛成して会議に参加しても「不快感」を示すことはないはずだ。
それに、何の罪もない日本の市民の頭上に核兵器を投下したのは米国なのである。この戦争犯罪ともいうべき暴挙に「いつか米国が日本に謝罪する日が来る」と私は信じているが、謝罪はともかく、日本が核兵器禁止条約に参加することに米国が反対することはあるまい。
 もう一つ、政府は核保有国が参加しない条約では、核廃絶の実現は遠のく、かえってマイナスだと主張するが、そうだろうか。
 いまから20年前の話になるが、カナダのオタワに50カ国が集まって「対人地雷禁止条約」を賛成国だけでまとめたことがある。対人地雷は戦争が終わっても処理されず、戦後に地雷を踏んで犠牲になる人が後を絶たない非人道的な兵器だから、化学兵器や生物兵器のように禁止しようとしたのである。
 もちろん米国、ロシア、中国など主要国は参加せず、日本も自衛隊が本土防衛に必要な兵器だと所有していたため参加しなかったが、のちに小渕恵三首相が外務省などを説得して賛成に転じ、条約にも加盟した。
 小渕首相の施策が平和主義に貫かれていたとはとても思えないが、こと対人地雷に関しては見事なリーダーシップを発揮したと思う。
 今月の国連の会議には、日本からも被爆者団体の代表が参加して意見を述べた。7月にまとまる予定の条約の前文には、被爆者の思いが入れられることになったと報じられている。それでも日本は加盟しないだろう。
 安倍首相には期待できそうもないから、「第2の小渕氏はいないのか」と、後の世代の政権に期待するほかない。日本も「情けない国」になったものである。

今月のシバテツ事件簿
 6月23日は沖縄戦の終結から72年目の「慰霊の日」だった。太平洋戦争で日本の本土は全国どこも空爆の被害を受け、3月10日の東京大空襲やヒロシマ・ナガサキの原爆被害などおびただしい数の市民が犠牲になったが、住民を巻き込んでの地上戦が行われた沖縄では、ひときわ凄惨な光景が繰り広げられた。
 沖縄では当時の住民の4人に1人が死に、慰霊の日の追悼式がおこなわれた糸満市の平和公園には20万人を超す死者の名前が刻まれた「平和の礎」がある。地上戦が始まると、住民たちは自然の洞穴などに避難したが、赤ん坊が泣き出すと「敵に見つかるから」と母親ごと外へ追い出したり、親が自ら赤ん坊に手をかけたりといったことまで起こったのである。
 昔、『ひめゆりの塔』という優れた反戦映画があって感動したことを覚えているが、最近、近く封切られる米国映画『ハクソー・リッジ』を試写会で見た。「銃を持たない」という信念で衛生兵となった米兵の物語で、それはそれで感動的だったが、背景として描かれた沖縄戦の悲惨さには胸が締め付けられる思いがした。
 その沖縄が戦後、米軍に占領されたまま27年間も放置され、本土に復帰して後も、本土の0.6%の面積しかない沖縄に、米軍基地の74%が集中しているという状況が続いている。そのうえ普天間基地の移転先として辺野古に「新しい基地」まで創ろうというのだからひどい話だ。
 軍事専門家の話では、沖縄に海兵隊の基地は必要ないという。米軍としては4軍そろっていたいということのようだから、それなら空軍の嘉手納基地に同居すればよい。日本政府が真剣になって米国と交渉すれば、米国も応じると思うのだが、やらずに辺野古基地新設にまっしぐらだ。
 慰霊の日の追悼式には、安倍首相も翁長・沖縄県知事も出席したが、二人は目も合わさず、翁長知事は平和宣言で「新しい基地はつくらせない」と語り、安倍首相は辺野古基地に触れもしなかった。
 政府が沖縄県民の民意を一切無視し、住民の反対運動に対しては本土から機動隊を動員して抑え込み、その機動隊が反対住民に「土人」と罵声を浴びせたり、「反対派のデモ隊は多額の日当をもらっている」というデマまでテレビで放送されたりするのだから、県民の我慢にも限界があろう。
 ここまでくれば、昔の琉球王国にもどって、日本から独立するほうがいいのかもしれないと、まじめにそう思う昨今である。
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柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。