第53回:左右の既成政治から離れた新しい「受け皿」(想田和弘)

『選挙』『精神』などの「観察映画シリーズ」で知られる映画作家、ニューヨーク在住の想田和弘さんのコラム連載です。

 安倍政権のスキャンダルや閣僚による失態が相次ぐ中、「かつてなら内閣が吹っ飛ぶような問題なのに」という言葉を頻繁に耳にする。しかし、いっこうに内閣は吹っ飛ばない。どころか支持率も下がらない。したがって安倍政権の自浄能力は起動しない。

 この国の政治は、いったいどうしてしまったのだろう。落胆するのを通り越して、不思議な気さえする人も多いのではないだろうか。僕もその一人だ。

 だが、内閣が吹っ飛ばない理由は、すでに明白だ。それは日本テレビが毎月行っている世論調査に示されている。

 たとえば2017年5月に行われた同世論調査で、安倍政権を「支持する」と答えたのは46.1%。「支持しない」は36.4%、「わからない」は17.6%であった。森友学園や加計学園、共謀罪などの問題があっても、安倍政権の支持率はさほど下がっていない。

 しかしここで注目すべきは、支持の理由である。

 「安倍内閣を支持する理由は何ですか?」という設問に対し、ダントツに多かった答えが「他に代わる人がいないから」。実に40.2%を占め、2位の「支持する政党の内閣だから」(18.0%)を大きく引き離している。

 実はこの世論調査では、2014年8月以来、「他に代わる人がいないから」が常に安倍内閣支持の理由のトップに君臨している。つまり安倍政権はここ丸三年近くもの間、しかたなく消極的に支持されている。要は代わりの受け皿さえあれば、主権者は安倍政権を喜んで見限るはずなのである。

 それにしても驚かされるのは、日本人の妙な責任感? である。安倍政権がダメだと思うのなら、受け皿のあるなしにかかわらず、「支持しない」と答えればいいのに。そうすれば安倍さんも焦って、少しは自浄能力を働かせると思うのだが。

 話が逸れた。

 いずれにせよ、問題は「受け皿」の存在である。

 そのことは、6月13日に東京新聞が報じた世論調査の結果からもうかがえる。7月2日投開票の東京都都議選で、小池百合子知事率いる「都民ファースト」に投票すると答えた人が、自民へ投票すると答えた17%を超え、22%にものぼったのである。

 前回2013年の調査と比較すると、自民は32%から14.9ポイントも激減。自民支持層から28.2%、民進支持層から34.7%が都民ファーストに流れていたという。右も左も既成の政治に対して不満が高いことが示されていると言えるだろう。

 都民ファースト公認・推薦の候補者を5月の時点で分析した高橋亮平氏によると、都民ファーストの出身政党の割合は、公明党31%、民進党20%、自民党14%、政治経験のない「希望の塾」の出身者24%。よく見れば既成政党出身者が65%を占めるわけで、あまり代わり映えがするとも言えないわけだが、それでも新たな看板の下に結集した結果、自民政治に対する「受け皿」と認識されているのであろう。

 奇しくもフランスでは、マクロン大統領率いる中道新党「共和国前進」が、今度の総選挙で保革の二大政党を凌駕し、7割超の議席を獲得する勢いだという。最近まで躍進が伝えられていた極右の国民戦線も伸び悩んでいるところを見ると、既成政治に不満を抱えるフランスの主権者は、マクロンというにわかに出現した「受け皿」に、怒涛のごとく流れ込んでいると言える。

 このように見てくると、「安倍一強」と言われ磐石に見える安倍政権も、決して安泰ではない。要は代わりの受け皿さえ出てくれば、簡単に崩れる可能性が高いのではないか。

 ただし直視しなければならないのは、その受け皿には民進・共産・自由・社民の野党連合はなりえそうにない、ということである。正直、僕も最近まで、受け皿として野党連合に期待を寄せていたのだが、残念ながらそれは僕の見込み違いだったと思う。それはこれまでの国政選挙で野党が与党に負け続けていることや、今回の世論調査で民進支持者の34.7%が都民ファーストに流れている事実からも明白であろう。

 であるならば、安倍政権の暴走を本気で止めようとするのなら、左右の既成政治から離れた、まったく新しい受け皿を作るしかないのではないか。逆に新しい受け皿を作りさえすれば、「一強」にあぐらをかいた安倍政権など簡単に倒せるのではないか。

 安倍政権を憂慮する私たちには、根本的な発想の転換が必要だと思う。

想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ): 映画作家。ニューヨーク在住。東京大学文学部卒。テレビ用ドキュメンタリー番組を手がけた後、台本やナレーションを使わないドキュメンタリーの手法「観察映画シリーズ」を作り始める。『選挙』(観察映画第1弾、07年)で米ピーボディ賞を受賞。『精神』(同第2弾、08年)では釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』(同番外編、11年)では香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞。『演劇1』『演劇2』(同第3弾、第4弾、12年)はナント三大陸映画祭で「若い審査員賞」を受賞した。2013年夏、『選挙2』(同第5弾)を日本全国で劇場公開。最新作『牡蠣工場』(同第6弾)はロカルノ国際映画祭に正式招待された。主な著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 vs.映画』(岩波書店)、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレット)、『熱狂なきファシズム』(河出書房)、『カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論』(集英社インターナショナル)などがある。