第57回:安倍政権にお灸を据えたいとは思うけれど、しかたなく与党へ投票するという人へ(想田和弘)

 拙作のレトロスペクティブに出席するため、イタリアのフィレンツェに来ています。

 できれば僕も映画のことだけを考え、「花の都」を満喫したいところですが、どうしても気になってしまうのが日本の政治状況です。安倍晋三首相の解散権の濫用によって、衆議院総選挙が始まってしまったからです。

 首相は森友・加計問題について、丁寧に説明すると何度も宣言していました。しかし野党によって請求された臨時国会を数ヶ月も開かず、ようやく開いたと思ったら審議を一切せずに冒頭で解散してしまいました。森友・加計問題について、国会で追及されるがよほど嫌なのだとしか思えません。

 こうした行為に不信感を覚える人は、自民党・公明党を支持する人の間でも少なくないのではないでしょうか。その証拠に、時事通信が10月6日〜9日に行なった世論調査では安倍内閣の支持率は37.1%に低下し、不支持率(41.8%)が支持率を上回りました。

 にもかかわらず、与党は今回の選挙で300議席に迫る勢いだとも分析されています。その原因にはいろいろあるのでしょうが、同調査で内閣を支持する理由としてトップだった「他に適当な人がいない」(15.1%)というのが大きいのでしょう。

 しかし、そういう理由で与党に投票するという人には、ぜひここで冷静に考え直していただきたいのです。このまま与党に投票して圧勝させてしまったら、いったいどうなってしまうのかということを。

 まず確実なのは、安倍首相と与党は選挙結果を「国民によって政権が信任された」と受け取るということでしょう。少なくとも、首相らはそう主張するはずです。

 つまり皆さんは、消去法のつもりで与党に投票することで、「森友・加計問題への対応を含め、今のままでいいよ」というメッセージを送ってしまうことになります。そうすれば安倍首相らはますます増長し、ますます平気で嘘をついたり、堂々と質問をはぐらかしたり、情報を隠したりすることになるでしょう。だって主権者のお墨付きを得たのだから。

 しかしそれは、皆さんが本当に望んでいることでしょうか?

 僕はそうは思いません。

 皆さんの多くは、安倍政権に何らかのお灸を据えたいと思っているはずです。「今のままでよい」とは思っていないはずです。でなければ不支持率が支持率を上回ったりはしないでしょう。

 だからこそ提案したいことがあります。

 「他の政党には政権を任せられない」と思っても、今回はあえて、安倍政権に対峙している勢力に投票したらどうでしょうか。

 現在の情勢を見る限り、衆議院選挙とはいえ、今回は「政権選択」の選挙にはなりえません。よほどのことがない限り、自公政権は継続するでしょう。であるならば、自公政権を厳しくチェックし制御するための勢力を、一定数、国会に送り出すことが重要です。彼らがこれ以上減ってしまえば、自公政権はますますやりたい放題をすることになるからです。

 その際、日本維新の会や希望の党は、「反対勢力」としてカウントできないということも、申し上げておく必要があります。選挙の後に自民と連立する可能性があるからです。つまり安倍政権に対する批判票として彼らに入れたつもりが、実は応援していたということにもなりかねません。

 安倍政権へお灸を据えたいなら、立憲民主、共産、社民、あるいは彼らに立場の近い無所属候補に入れてほしい。そう、強く願います。与党を支持する皆さんには、もしかしたら抵抗があるかもしれないけれど。

 政治で重要なのは、チェック&バランスです。どんな権力も、必ず腐敗するからです。与党とその補完勢力が両院の3分の2を占める状況は、すでにバランスを欠いています。安倍政権の横柄な態度は、そもそもこのアンバランスが主な原因となって、生じているのです。デモクラシーが公正に機能するには、与党が野党を少し上回っているくらいがちょうどいいのだと思います。

 今回の選挙を「バランスを立て直すための選挙」にしませんか。

想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ): 映画作家。ニューヨーク在住。東京大学文学部卒。テレビ用ドキュメンタリー番組を手がけた後、台本やナレーションを使わないドキュメンタリーの手法「観察映画シリーズ」を作り始める。『選挙』(観察映画第1弾、07年)で米ピーボディ賞を受賞。『精神』(同第2弾、08年)では釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』(同番外編、11年)では香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞。『演劇1』『演劇2』(同第3弾、第4弾、12年)はナント三大陸映画祭で「若い審査員賞」を受賞した。2013年夏、『選挙2』(同第5弾)を日本全国で劇場公開。最新作『牡蠣工場』(同第6弾)はロカルノ国際映画祭に正式招待された。主な著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 vs.映画』(岩波書店)、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレット)、『熱狂なきファシズム』(河出書房)、『カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論』(集英社インターナショナル)などがある。