太田啓子さん×山田裕子さん(その2)忘れられない、涙の議会デビュー 多様な議員が増えれば、政治は変わる

7月に行われる都議会選挙。マスメディアが小池旋風を取り上げ、いつになく注目されています。私たちの暮らしに身近なことを決めている地方議会。沖縄問題、原発再稼働から保育園問題まで、地方行政の重要性を感じる機会は増えています。しかし、国会に比べて地方議会への関心は薄いのも事実。女性や若者を代表する議員も多くはありません。全国の都道府県・市町村議会での女性議員での割合は約12%、町村議会の3割以上で女性議員はゼロという状況です(2015年統一地方選時)。暮らしを変えるには、まずは地方議会を身近なものにして、私たちの声を届ける議員を増やすことが必要です。
そこで今回は、選挙や市議会議員の活動について、マガジン9でもおなじみの弁護士・太田啓子さんに聞き手となっていただき、埼玉県越谷市議会議員を務める山田裕子さんにお話をうかがいました。

議会初日に謝罪を迫られて、
本会議がストップ

太田 前回は、それまで政治にかかわりのなかった山田さんが、2015年5月に越谷市議になるまでのエピソードを伺いました。そして、その年の議会で、山田さんの発信したツイッターが問題になったそうですが、何があったのですか?

山田 その年の9月議会だったんですが、ちょうど国会では安保法制の審議中でした。越谷市議会でも、今国会での採決は行わず慎重であることを国に求める意見書が出ていたんです。おそらく議会初日の本会議で審議されるであろうということで、多くの市民に傍聴に来てほしかった私は、ツイッターに「9月1日に審議されますからぜひ傍聴に来てください」と書いたんです。そうしたら、「審議の日程がまだ議会運営員会で正式決定されていないのに日付を書くのは市民に誤解を与える」と言われました。「9月1日に審議される予定です」と書くべきだった、と。それで、議会運営委員会で問題視され、訂正・謝罪文の掲載と議長への謝罪を迫られました。

太田 あとから「審議日程は変更になる可能性があります」とか、追加でお知らせすればよかっただけの話じゃないんですか?

山田 そうなんですけどね……。本当は、議会初日である9月1日の10時から意見書の審議が始まる予定だったのですが、最初に議会運営委員会で私のことが問題にされて、本会議がストップしてしまいました。結局、始まるのが夕方になってしまい、せっかく審議を聞きたいと集まっていた傍聴者も帰ってしまったんです。

太田 「予定」と書かなかったから謝罪しろということで、それが夕方までかかったんですか!?

山田 そうですね。すぐ謝ればよかったのでしょうけれど、攻防しているうちに夕方になってしまったんです。結局は議長に謝罪しました。

太田 そもそも傍聴人がいる前で意見書を審議することを、苦々しく感じていた市議がいたのかな、と思ってしまいます。

山田 この件で私も反省をしていたのですが、その10日後くらいに、今度は私のフェイスブックが議会の会派代表者会議で問題にされたんです。でも、その問題にされた記事は、1カ月前の8月に書いたものでした。

太田 過去の記事が、わざわざ取り上げられたんですね。どんな記事だったんですか?

山田 これまで市議会には女性議員が少なかったこともあって、会議規則上、議会を欠席するときの理由は、一律に「事故」という文言で処理をされてきました。だけど子育て世代が議員になれば、実際には出産や育児などで欠席することもあり得ますよね。そこで全国の議会で、会議規則の欠席理由に「出産」という項目を追加する動きが広まり、越谷市議会でも「出産」を追加することになったんです。
 それを審議する議会運営委員会で、「出産」に加え子どもが体調を崩した時などの「育児による欠席」も追加したらどうかと私の所属会派が提案したところ、「育児の代わりは存在するが、議員の代わりは存在しない」「育児で議会を欠席するのはいかがなものか」という反論があり驚きました。これはみんなに考えてもらいたいと思って、私が議論の内容をフェイスブックに投稿したんです。

委員会の議論をSNSで発信
それが思わぬ事態に……

太田 8月25日の山田さんのブログでも、「どーなる!? 議員の出産・育児!」というタイトルで記事を書かれていますが、何が問題になったのですか?

山田 委員会で、欠席の理由に育児という文言をいれることに反対した委員の「育児の代わりは存在するが議員の代わりは存在しない」という発言を中心にフェイスブックで取り上げたのですが、それに対して、「これでは発言した委員が女性議員が育児で休むことを否定しているような誤解を与える」と言われました。私が伝えたかったのは閉ざされた委員会での実際のやりとりの様子。「育児や介護で休むなんて暴論。市民から負託を受けているのに、そんなことで休むなら議員の資格はない」ともとれる発言が平気で交わされていたことに憤りを感じました。
 フェイスブックには、「いろいろな立場の人が議員になるべきだし、こういう意見はおかしいんじゃないか」というような私の意見も書きました。そうしたら、読んだ方から「これでは女性議員は増えない」とか、コメントがたくさん来たんです。それに対して、私が「市民の常識は議会の非常識になっていると私は思います」と返したんですよね。それについても「越谷市議会への冒涜」だとして問題になりました。ほかにもいくつかあります。

太田 その委員会は公開されていなかったのですか?

山田 議長の許可制で傍聴は可能ですが、インターネットで中継するわけでもないし、書記録があるだけで議事録もないんです。

太田 市民が聞いていないから、言いたい放題なんですね。まさか公開されると思っていなくて、慌てたのでしょうか。

山田 これまで運営委員会の内容をSNSやブログで公開されるという経験がなかったんだと思います。でも、私はこういう意見が出る状況では、女性議員は増えていかないだろうと感じました。市民のみなさんの意見も聞いてみたいという気持ちもあって、あえて書いたんです。結局、代表者会議で3時間、説明と謝罪を求められました。

太田 結局どうしたのですか?

山田 私は謝らなかったんです。市議になったばかりで、ほかの議員さんともまだちゃんと話したこともないときです。それなのに、私も「このままだと女性議員は増えないと思います」とか言ったりして。終わったあとは泣きましたよね。このあと議会でどうやっていけばいいんだろうって……。本会議で物事を決めていくためには、やっぱり他の議員への根回しも大切なんです。それなのに最初の最初でこんなことになってと、もう泣きました。いまも「言うこと聞かないやつ」と思われていると思いますが、迎合はしたくなかった。一方で、議会の外では共感してくれる市民の方が増えているのも感じています。

市議のスケジュール、
家庭生活とのバランスは?

太田 越谷市議会には、女性や子育て世代の市議も多いのですか?

山田 越谷市議会は32人中8人が女性なので、ほかと比べると多いほうです。平均年齢も若いし、子育て世代も多い。だからといって、子育て世代に理解があるかというと必ずしもそうではありません。子育て世代といっても男性議員のほうが多いですから。

太田 男性の場合は、育児や家事を家族に任せている人が多いのではないでしょうか。実際、女性が市議になろうと思った時には、家庭との両立に苦労することもあると思うのですが、普段の生活はどんな感じなのですか?

山田 越谷市議会の定例会は10~17時頃までなので、議会の会期中のほうが生活は規則正しいです。滞りなく進めばきっちりと終わるので、保育園の迎えにも間に合います。ただ、会期中以外は、市民ネットの活動などさまざまな活動に参加するので不規則になります。夫が自営業で割と融通が利くので、いまのところは何とかなっていますけれど……。

太田 家族の理解と協力がないと、大変ですよね。

山田 土日も公務になることが多いんです。例えば、卒業式とか学校関係の行事や市の行事があります。全てに参加しないといけない訳ではありませんが、地域の方に顔を覚えてもらうことも大事なので、ご招待いただいたものはなるべく行くようにしています。子どもたちに留守番させることになるので、半日だけと決めています。

太田 夜はどうですか?

山田 地元の会合などは夜が多いですね。そういう場所で「おねえちゃん、ビールついでよ」と言われることもあります。挨拶するので最初だけは全員にお酌して回るんですけど、ほかにも「私が男性議員でも、こういう風に言うのかな」と疑問に思うようなことはあります。

男性優位の社会に抗うのは大変
それでも、変えていくしかない

太田 女性議員へのパワハラ・セクハラ調査とかを見ると、結構みんな嫌な目にあっていますよ。だからこそ、女性議員を増やさないといけないなと思います。

山田 悪気がない人も多いんですよね。だからといって、遠慮してオブラートに包んで言っていると、全然変わらない。男性議員と一緒に仕事をしていても、女性である私の話はあまり聞いてもらえなくて、どうしても「教えてもらう」立場にされてしまう。私が「そうですね」と言っていれば満足する、みたいな感じがあります。もちろん先輩方から教えてもらうことも多いのですが、なんだか檻の中に入れられているような気分になるときがあるんです。

太田 「マンスプレイニング」という言葉があるんですよ。男性が女性に対して、その女性が何かについての知識がないと勝手に思い込んで「上から目線」で解説や説明、助言をするような言動という意味らしいです。意思決定の場では、女性は補助的な立場に固定されてしまいがちですが、なんとかそこを突破したいですよね。

山田 そうやって守られている立場って、実は楽ではあるんですよね。「すごいですね」とか言って、男性が求めるとおりに振る舞っていれば好かれるし、喜ばれるじゃないですか。男性優位の社会に抗っていくのは、すごくエネルギーがいる。でも、そのままでは何も変わらない。「それはやっぱり違う」と言っていかないといけないと思います。

太田 ほかにどんなときに、女性議員としての難しさを感じますか?

山田 今は「イクメン」という言葉があって、男性が子どものオムツを替えるのも当たり前になってきています。だけど実際には、女性が「議員になりたい」と言ったら、「やってもいいけど、家のこともちゃんとやってね」と夫に言われてしまうことが多い。反対の立場だったら、男性はそんなこと言われないですよね。女性議員が増えない背景にも、こういう問題があるんじゃないかと思うんです。
 駅頭に立ってマイクで話しているときにも、同じ内容を男性議員といっしょに話しているときは何も言われないのに、私一人のときに限って「勉強が足りないよ」と文句をつけてくる男性がいたりする。そういうのは本当にすごく悔しいです。

古い慣習にしばられず、
多様な人が議員になるべき

太田 でも、山田さんはひるまないからすごい。

山田 いえいえ。私はそんなに怒らないし、強くもないし、頭良くもないし、本当に「普通」なんですよ。今こうして活動していられるのも、政治に対して先入観がなかったからだと思っています。「立候補したいけど二の足を踏んでいる」という人には、完璧じゃない方がいいと言ってあげたい。選挙に出るときはすごく迷いましたけど、振り返ってみると、分からないことが沢山あったから素直に吸収してここまでこれたのかなと思います。

太田 変な慣習に縛られない議員が増えることが、これからはすごく大事だと思います。議会は市民の代表ですから、多様な人がいたほうがいい。

山田 越谷市議会は、他と比べれば女性も多いし、年齢層も若い。でも、それが越谷全体の、多様性の縮図かというと、全然そうじゃないなと思っています。子育て世代の女性は少ないし、障害をもつ方、性的マイノリティの方もいない。いろいろな人が議員になれば、市議会も変わっていくと思います。赤ちゃんを育てている世代の議員が増えれば、議会棟に授乳室やおむつ替え台も出来るでしょうし。

太田 市議としてのご自分の役割や成果について思うことはありますか?

山田 まだ大きな成果はないのですが、情報発信をすることで議会を市民にひらくことができたかなと感じています。議会の報告会を、公園やカフェなどいろいろな場所でやっているんです。市議会をもっと身近に感じてほしい。そして、今まで政治に関心がなかった人たちが、自分の思いを語れて、かつ政治とのつながりを見つけられるような場所を作りたいと思っています。

太田 これからも頑張ってください。

山田 はい。どうもありがとうございました。

(写真・構成/マガジン9)

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山田裕子(やまだ・ゆうこ)埼玉県越谷市議会議員。2003〜2013年、武蔵浦和でリラクゼーションサロンを経営。3・11から「5年後10年後子どもたちが健やかに育つ会・越谷」の活動にかかわる。食、予防接種、自然な暮らしの勉強会などを行う「いのちと暮らしを考える会」で共同代表を務める。2015年越谷市議選挙で初当選。二児の母親。

太田啓子(おおた・けいこ)弁護士。2002年に弁護士登録(神奈川県弁護士会)。安倍政権による「憲法改正」に強い危機感を持ち、カジュアルな雰囲気で憲法を学べる学習会「憲法カフェ」を、地元の仲間とともに企画・開催してきた。「怒れる女子会」呼びかけ人。「明日の自由を守る若手弁護士の会」のメンバーでもある。二児の母親。

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