第3回:国民投票運動って、イメージできますか?(南部義典)

 選挙に「選挙運動」があるように、国民投票には「国民投票運動」があります。

 しかし、日本では誰一人、国民投票運動を行ったことがありません。「住民投票運動ならやったことがある」「外国の国民投票の様子をニュースで見たことがある」という方はいらっしゃるでしょうが、国民投票運動という言葉を聞いて、具体的にイメージするのは意外と難しいのではないでしょうか。

 今回は、①国民投票運動とは何なのか(定義)、②いつからいつまで行われるのか(運動の期間)、③誰が行うのか(運動の主体)、④どのように行うのか(運動の態様)、さらに、⑤許されない行為はあるのか(禁止行為)など、詳しく検証していきます。第1回「国民投票までの流れを知ろう」でお示しした(表1)をご覧ください。「(19)国民投票運動」のところです。

「憲法改正案」に「賛成」「反対」を呼びかけるもの

 ①国民投票運動の定義ですが、国民投票法100条の2が「憲法改正案に対し、賛成又は反対の投票をし、又はしないよう勧誘する行為」と規定しています。

 まず、運動の対象は「憲法改正案」です。国民投票法14条1項1号は、憲法改正案を「国会の発議に係る日本国憲法の改正案」と定義しています。あくまで、国会が発議した憲法改正案です。前回扱った「憲法改正原案」は、国会が発議する前のものなので、国民投票運動の対象にはなりません。国会の発議とは無関係な、巷にあふれている憲法改正案(私案)も、国民投票運動の対象とはなりません。国会が憲法改正の発議をするまでは、憲法改正案は世の中に存在しないことから、発議までの間、100条の2が定める意味の国民投票運動は、行いようがないということにもなります。

 また、国民投票運動に該当するのは、賛成投票、反対投票をする(しない)よう、勧誘する行為です。「勧誘」がキーワードであり、その意味は、相手方の意思に明示的に働きかけることです。対面でも、ネット上でも「賛成投票をしてほしい」「反対投票をしないでほしい」と言うのは、相手方の意思に明示的に働きかけているので、国民投票運動に該当します。一方、「私は、賛成投票をすることを決めた」「私は、反対投票をするつもりだ」と言うだけでは、自らの意見を述べて(示して)いるだけで、相手方の意思に明示的に働きかけたこと(投票の勧誘)にならないので、国民投票運動には該当しません。国民投票そのものを棄権(ボイコット)するよう勧誘する行為が国民投票運動に該当するかどうか、政府の解釈はいまだに確定していません。

 以上、国民投票運動の定義に関してですが、国民投票運動に該当するかしないかは、後に触れる③運動の主体、④運動の態様、⑤禁止行為、のところで重要な意味を持ちます。

運動期間は「60日から180日まで」

 次に、②国民投票運動は、いつからいつまで行われるのか(運動の期間)という問題です。

 この問題を論じる前提として、(表1)にある「(20)国民投票の期日」はいつ決まるのか、という点をまず説明しておかなければなりません。

 (表1)では、衆議院、参議院の順に憲法改正原案の審査、審議が行われる流れを示しています。この流れに沿って言えば、「(12)参議院憲法審査会における憲法改正原案の審査」が終盤に差し掛かってくる(質疑を打ち切って、採決すべきだと考えられるようになる)頃に、国民投票の期日を「〇年〇月〇日に決めよう」という議論が国会で始まることになります(現段階での想定です)。

 もっと早い段階、たとえば(6)から(10)までの、衆議院で憲法改正原案を審査、審議している間に、国民投票の期日を「〇年〇月〇日とする」という話が一体的に行われるかと言われれば、さすがにありえないと考えます。なぜなら、具体的な期日を狙い定めること自体、その期日から逆算し、参議院の審査、審議をいつまでに終えなければならないという「出口論」と同じことになってしまうからです。審議権の侵害にあたると、参議院側からの反発(議院の自律に関わり、与野党関係ありません)が予想されるところです。

 (17)にあるように、国民投票の期日は国会の議決によります。その議決は、(16)の発議の日と同じ日に行われることが想定されます。具体的な期日は、発議の日から起算して「60日以後180日以内」で定められます。日程上は幅がありますが、発議された憲法改正案の内容、近々予定される国政選挙その他の重要な政治日程など、様々な事情を勘案して決めることになります。

 前提が長くなってしまいましたが、国民投票運動は、国会が憲法改正を発議した日から、国民投票の期日まで可能です。選挙であれば、事前運動、投票期日当日の選挙運動は公職選挙法で禁止されていますが、国民投票法にはこれらの禁止規定はありません。まさに、「投票所が閉まる」最後のタイミングまで、国民投票運動を続けることができます。

誰でも自由にできる、国民投票運動

 ③誰が行うのか(運動の主体)という問題を考えるには、国民投票運動を行うことが禁止されている主体、一定の制約を受ける主体を説明する方が理解の早道となります。

 制約を受けるのは、第一に、投開票の事務に関係する者です。投票管理者(@投票所)、開票管理者(@開票所)などは、在職中、その関係する区域内において、国民投票運動をすることができません。不在者投票管理者(指定病院における院長、洋上投票における船長など)も、その業務上の地位を利用して国民投票運動を行うことはできません。

 第二に、選管の委員・職員、国民投票広報協議会(次回扱います)の職員、裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官は、在職中、国民投票運動をすることができません。

 第三に、一般職の公務員(国・地方)は、純粋な意味での国民投票運動のみ認められます。純粋な意味というのは、国民投票法とは別に国家公務員法(人事院規則)、地方公務員法といった法律で、公務員による政治活動(一定の政治的目的を持った政治的行為)が禁止されているので、こうした禁止行為に触れないようにするという意味です。国民投票運動に便乗して(その名を借りて)、特定の公職の候補、政党に対する投票を呼びかける行為などは許されません。

 第四は、第三とも関連しますが、公務員、学校の先生は、その地位を利用して国民投票運動を行うことはできません。

 第一、第二の違反行為は、罰則の対象となります。第三の違反行為は、各種の公務員法に従い、罰則ないし懲戒処分の対象となります。第四の違反行為は罰則の対象とはなりませんが、懲戒処分の対象となります。

 以上、第一から第四までが、国民投票運動が禁止される主体、一定の主体を受ける主体ですが、これらに該当する者でなければ、誰でも国民投票運動を行うことができます。個人、市民グループ、地域の自治会、企業、組合、政党、議員(国、地方)など、その種類を問いません。ネット上での「つながり」も自由です。

 選挙では、18歳未満の者による選挙運動が禁止されています。しかし、国民投票法にはこれに相当する規定がないので、年齢に関係なく国民投票運動を行うことができます。

「原則自由」の国民投票運動

 ④国民投票運動をどのように行うのかという、運動の態様に話を進めます。

 国民投票法は、運動の態様については「原則自由」という理念に則っています。(表1)では、国民投票運動の例としていくつか示していますが、選挙運動としては禁止されているものも、国民投票運動としては「ほとんど」認められます。「原則自由」なので、ポジティブな説明は実際、難しいです。私が例示したもの以外でも、どんどんアイデアを出して、実行に移していただくことできます。

 反対に、⑤許されない行為はあるのかということですが、ここでは、二つの類型を説明します。

 まず、組織的に、多数人を相手に行われる買収行為です。違反があった場合には、3年以下の懲役、禁錮、または50万円以下の罰金に処せられます。「多数人を相手に」とは、一体何人以上を相手にした場合をいうのか、国民投票法の規定(第109条)だけでは明らかにならず、裁判例が出るのを待つしかありません。

 少なくとも言えるのは、選挙の場合では、たった一人を相手に買収が行われるだけでも買収罪が成立するのに対し、国民投票では犯罪とならないということです。例えば、喫茶店で友人どうしのA君とB君が歓談しているとします。たまたま、憲法改正案に賛成すべきか反対すべきかという話題となり、最終的にB君が意見を変え、二人は意気投合した結果、A君が「B君、賛成投票の約束をしてくれてありがとう。うれしいから、今日は僕がおごるよ」と言ってB君の会計もしたとします。この場合、選挙では買収罪が成立しますが、国民投票では不可罰となります。

 もう一つは、いわゆる国民投票運動CMが投票期日の14日前から禁止されるという点です(国民投票法105条)。よく、スポットCMの禁止とも言われますが、国民投票法は番組のスポンサーとなるCM(タイムCM)とスポンサーとならないCM(スポットCM)を区別していないので、国民投票運動CMと呼ぶのが正確です。

 なぜ、「投票期日の14日前から禁止される」のか。国民投票法の基本的な考え方は、投票期日に賛成・反対双方のCM合戦が過熱すると、有権者が冷静な判断ができなくなってしまうおそれがあるので、それを避けるため、一定の「冷却期間」を置くということです。

 もう一つの理由付けとしては、CMとはもともと国民投票運動の手段としては高額なもので、資金力を持つ者が優位に立って、効果的に行うことができることから、賛成・反対の立場でCMの総量が偏在することがないよう、間接的な意味で、総量規制を及ぼす(一定期間、賛成・反対のCM総量をどちらもゼロとする)という点が挙げられます。

 「投票期日の14日前から禁止される」ことを反対に解すると、投票期日の15日前(の午後12時)までは許されることになります。また、冒頭で、国民投票運動は「勧誘」がキーワードであると述べましたが、賛成投票・反対投票の勧誘をその要素としないCMは、概念の上では国民投票運動CMではなくなるので、規制の網には掛からず、投票期日まで放送できるということになります。憲法改正案の内容に関して、一定の印象(プラス、マイナス)を与えるにとどめ、勧誘表現を直接含まない態様のものが挙げられます。

 仮に、憲法9条改正案(自衛隊明記案)が発議されていたとしたら、被災地でがれきの下に埋もれている子ども、お年寄りを救出する自衛隊員の姿を訴えるだけのCMは、投票期日14日前から投票期日までの間でも放送することができます(イメージとして説明しています)。賛成投票・反対投票の「勧誘」を要素としていないので、国民投票運動CMには該当しないからです。商品広告で多く採られている手法が(価格も示さなければ、「買って下さい」とも言わない)が、国民投票にも応用されるケースといえるでしょう。

国民投票運動期間をどう過ごすか

 国民投票運動の期間は最短で60日、最長で180日となります。衆議院議員の総選挙は12日間、参議院議員の通常選挙は17日間となっているので、投票期日までの間、選挙よりも格段に長い期間を過ごすことになります。

 国民投票運動は原則、誰でも、自由に、様々なことができますが、義務ではないので、どう関わる(関わらない)かは、個人、個々の組織の判断ということになります。

 もし、読者の中で、自分は(国会が憲法改正を発議したとしても)国民投票運動を行うつもりはないという方がいれば、最長180日間となる国民投票運動期間の「過ごし方」をイメージしてみてください。憲法改正案に対しては、賛成・反対(ないし棄権)のいずれかの判断をしなければならなくなるわけですから、自分なりの熟慮、熟考のプロセスを考えていただきたいのです。

 あえて申し上げますが、期間中に一度でも、自分とは考えを異にする立場の者が主宰する集会、演説会に足を運んでみるといいと思います。その結果、自分の意見が変わるかもしれないし、さらにその後、元に戻ることがあるかもしれません。

 通常の選挙では、公示(告示)の日には、すでに投票先を決めており、意見を異にする立場の者の選挙運動とは触れ合わないという方が多いのではないでしょうか。国民投票運動期間は最長180日間あるので、選挙とは比較できないほど、熟慮、熟考の時間があります。様々な立場の方がコミットし、様々なアングルで議論を交わすことが、国民投票を「盛り上げる」ために必要なことだと私は確信しています。国民投票運動の主役は、議員でも政党でもありません。主権者である私たち国民一人ひとりです。ここが、選挙(運動)との最大の相違点です。

 次回(第4回)は、国民投票運動期間中、国会に設けられる国民投票広報協議会について、その意義、組織、事務の内容、現状指摘しうる問題点について解説します。

私の講演会のお知らせです(4月確定分)。
ご関心のある方は、ぜひお越しください。

●学ぼう! 話そう! 「憲法と国民投票のはなし」
日 時:4月21日(土)14時~16時
場 所:サンライフ練馬 研修室1・2(練馬区貫井1-36-18/西武池袋線中村橋駅北口歩3分)
主 催:練馬・生活者ネットワーク
資料代:300円

●南部義典さんに聞く――ここが問題!憲法改正国民投票法
日 時:4月22日(日)18時~20時
場 所:Luz大森4F大集会室(大田区大森北1-10-14/JR京浜東北線大森駅東口歩3分)
主催:いま知っておきたい! 憲法のこと☆市民集会実行委員会
資料代:500円

新刊(共著)のお知らせです。
 

『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』が3月15日、明石書店より発売されました。私は、第6章「年齢制度の法体系とその見直し」、第7章「国民投票権年齢」、第8章「選挙権年齢」、第9章「成年年齢」、第10章「少年法適用対象年齢」、第11章「見直し対象外の年齢」を担当執筆しました。ご関心ある方はぜひ、ご高覧ください。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー no.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2018年10月現在)(写真:吉崎貴幸)