第136回:2019年秋の安倍降ろし(南部義典)

入閣待機組という不安定集団

 思うに、安倍3選を支えた自民党の有力派閥は、細田派でも二階派でもありません。当選5回以上(衆議院の場合)で大臣経験が無い、いわゆる“入閣待機組”と呼ばれる議員層です。報道によると、自民党内に80名超いるということで、衆参所属議員の2割に達します。私の見る限り、その多くは安倍3選を積極的に支持するわけではないものの、入閣を果たすためには他に選択肢がない(石破氏支持というリスクは冒せない)という消去法的な選択で、総裁選に臨んでいたようです。しかし、昨日(2日)の内閣改造で初入閣を果たしたのは、いつもより多かったとはいえ12名にとどまり、残り全員はまたもや、望みを断たれたことになります。ご愁傷様としか、言葉が見つかりません。

 “在庫一層セール”を行うがごとく、次の衆議院解散までに入閣待機組全員の入閣を果たそうとすれば、国会(通常国会、臨時国会)の召集ごとに大臣を総入れ替えするくらいの思い切りが必要となります。無論、このようなことは起こり得ませんが、起こり得ない以上、入閣待機組は今後も一定の勢力を保ち続けます。今回も望みを断たれた入閣待機組は(落選組と呼ぶほうが適当かもしれませんが)、今日から早速、「次」を見据えた行動を始めるでしょう。あからさまに安倍批判を行うことはないにせよ、「安倍晋三は、次の総選挙の顔にはならない」という直感を以て、早々と次の「選挙の顔」を立て、自らが確実に当選を果たし、次の内閣で大臣ポストを得ることに全力を傾けるわけです。総裁選が終わればノーサイド・一致結束という掛け声があった一方、実際には入閣待機組が執行部にとっての不安定要素として、党内政局に蠢き始めます。不安定要素は決して、石破応援団だけではありません。

総理最長任期を超えた後

 入閣待機組の蠢きに関していえば、来年(2019年)夏の参議院議員通常選挙が終わり、安倍総理が歴代総理在任日数の最長記録を更新する11月20日がひとつの時機的な狙いとなります。因みに、安倍総理の在任日数はきょう現在2,474日ですが、このままいけば2019年2月23日に2,617日となり歴代4位の吉田茂を抜き、同年11月20日には歴代1位の桂太郎を抜くという計算になります。
 もっとも参院選が終わった後は、衆議院の解散・総選挙がいつ行われてもおかしくない空気が支配的となり、表題に書いたとおり、2019年11月20日が栄誉ある引退花道の目安となり、“安倍降ろし”がいよいよ避けられない状況になると予測します。記録の塗り替えを延々と続けることを許すほど、自民党は懐の深い集団ではありません。

 逆に、安倍総理の側近からは、2020年東京五輪までは何とか務めさせたいと、安倍降ろしのプレッシャーの押し返しを図るでしょうが、党内抗争・駆け引きを繰り返しながら、安倍内閣そのものが徐々に“死に体”と化していきます。総裁としての4期目は無いことから、安倍執行部ないし安倍内閣のバイタリティが今後増していくことはありません。

 なお、自民党総裁としての任期は2021年9月までとなりますが、総理の在任期間もそれまで絶対的に保証されているわけではありません。来夏の参院選挙で敗北した場合(衆参ねじれ化が典型ですが)、その責任を取って総裁を辞任し、結果、内閣総辞職に至るというケースもあります。ご承知のとおり2007年7月の参院選挙では自民党が敗北し、衆参のねじれが生じたことから、安倍総裁はその責任を取る形で辞任し、選挙の1カ月後、安倍内閣(第一次)も総辞職しています。いずれにせよ、総裁任期=第4次安倍内閣の存続⇒2021年9月までと、誤った思い込みをされている方もいるようですが、決してそうではありません。とくに参院選挙後の政局は、現段階では想像がつかないほど著しく流動的なものとなります。

憲法改正論議は当然、進まない

 自民党が今後、このような混乱期に入ることから、憲法改正論議が有意に、順調に進むという想定自体が無意味になります。安倍総理が総裁選のタイミングで「臨時国会に、自民党としての憲法改正原案を提出する」と発言したことを字義どおりに受け止める向きもありますが、まったくナンセンスです。実のところ安倍総理は、昨年の6月にも同様の発言をしています(産経新聞2017年6月24日『改憲案、臨時国会中の提出明言 安倍晋三首相「自衛隊合憲・違憲議論は終わりにせねば」』)。昨年の臨時国会に憲法改正原案が提出されたかどうかといえば、何らそのような動きはなく(ニュース、新聞記事の見出しが躍っただけです)、そもそも、野党の要求にもかかわらず臨時国会の召集さえ避けてきました。そして、ようやく召集されたかと思えば、その当日に衆議院を解散したことは、記憶に新しいところです。これが実態です。過去何度も繰り返しているように、安倍総理の示す“憲法改正スケジュール”は、有力な支援者を前にした時に個人的意欲として発せられるプロパガンダに過ぎません。

 衆議院の解散や、政府としての憲法解釈の変更は、形式的には内閣の権限でも実質的には総理の一存で決することができます。そこで、憲法改正(原案の国会提出)についての総理発言に対しても同じように緊張感を抱く方もいますが(この点、理解できないわけではありませんが)、衆参で総議員の3分の2以上の賛成を要するとする憲法96条の規定により、内閣に直接の権限はなく、自民党を含めた四人五脚走、五人六脚走という政党間の枠組みでしか国会発議には至らないわけですから、自民党総裁、総理という立場で主導し、結果を導くことはできないことは冷静に受け止めていただきたいところです。現に、一度も多人多脚走の枠組みにならなかったことから、第二次安倍内閣以後(2012年12月~)もいろいろ言われながらも、国会発議に結実しなかったわけです。正に、「紺屋(こうや)の明後日」ということわざが当てはまります。

 安倍3選を受け、一部のメディア・ジャーナリズムは、鬼の首を取ったかのように、憲法改正が着実に進む(であろう)ことを喧伝しています。議論を煽ることを生業とする者もいるので、邪魔もできないところですが、余程の政治音痴でなければ、安倍総理の憲法改正提案に乗ることはできないはずです。はっきり言って、相当恥ずかしいレベルの言説が散見されます。

公明党は厳しい姿勢を明確にした

 そして9月30日、公明党大会が開かれ、斉藤鉄夫氏(衆9期)が幹事長に就任しました。斉藤氏は、過去15年以上、衆議院憲法調査会、憲法調査特別委員会、そして現在の憲法審査会の3代にわたって党を代表する立場で憲法論議に臨んできていますが、基本的なスタンスとしては野党を含む幅広い合意形成を念頭に協議の場を運営することを重視しています。与野党を横断しての幅広い合意形成の可能性が無い限り、議論は1ミリとも動かさないという立場です。斉藤氏は今までも、自民党の「行き過ぎ」に歯止めをかける役回りでしたが、堂々と幹事長の職に就くことにより、自民党の歯止めどころか、シャットダウン(強制終了)を果たすことになるでしょう。統一地方選挙、参院選挙を控えるタイミングで自民党との円卓協議に臨むことなど、公明党にとっては百害あって一利なしです。少なくとも、このタイミングで斉藤氏を重用するということは、自民党に対して「憲法改正論議には乗りません」という明確なメッセージとなります。

 今後、“安倍降ろし”の胎動はどのように始まっていくのか、公明党は自民党との距離をどう調整していくのか、長い目で観察していこうと思います。

共著『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナーno.255)』が日本評論社より好評発売中です。私は「国民投票法制からみた9条改正論の「非現実性」」を担当執筆しました。ぜひご一読ください。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー no.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2018年10月現在)(写真:吉崎貴幸)