第121回:東京オリンピック迫る! ついにオリンピック島建設か!?(松本哉)

 来年には東京オリンピックがやってくる。「東京オリンピック」と聞くと、1960年代に行われた東京オリンピック当時を思い出して、冥土の土産に胸を躍らせている人も多いのではないだろうか。あるいは、サッカーのW杯や花火大会、年末のカウントダウン、ハロウィンに初詣、またはどうでもいいと思いつつも新元号発表の瞬間は思わず固唾を飲んでテレビを見つめたりと、元々の興味の有る無しにかかわらず、そんなイベント好きやお祭り騒ぎ好きの人々にとっても盛り上がるキッカケのオリンピックを楽しみにしてる人も多いと思う。
 その一方で、そういったお祭り騒ぎや調子に乗ったバカ騒ぎが嫌いで、家の近くでお祭りや大きなイベントがあると「くだらねぇ! 俺はそんなものに踊らされねぇよ」と、外の様子がちょっと気になりつつもヘソを曲げて家に閉じこもったり、むやみに110番通報しまくって嫌がらせしたり、別の街に逃げちゃったりする人もいる。ま、こういう両方の反応ってのは、お祭り騒ぎなどには付き物なのでこれは仕方がない。好きな人は楽しんで、好きじゃない人はムカついているしかない。

恐怖! オリンピック vs ビンテージ

 しかし! オリンピックともなると、なかなか問題はそれだけではない。イベント自体の楽しみ方(またはムカつき方)はそれでいいのだが、実はそれだけで済むものではない。問題は、余計なものを一から全部作るということ。世界で初めて開催されるイベントならまだしも、昔から延々とやってるイベント。にもかかわらず毎回毎回大掛かりにゼロから始めて巨大スタジアム造って選手村造ってホテルも建て、その他関連施設も続々と造る。当然、とてつもない金がかかる。そして終わったら一気に手持ち無沙汰になって、多くの関連施設は取り壊されたり無駄な使い方されたり…。これ、どうにもこうにもおかしな話だ。だって、夏の甲子園も大相撲も毎年同じ施設でやってる。もし高校野球が都道府県持ち回りになって毎年各地に甲子園球場造ってたら日本中が甲子園球場だらけになるし、一回開催したら次に回ってくるのは50年後だから、その時は老朽化してるからまた造り替えなきゃいけない。相撲も毎年毎年各地に国技館造って近所にちゃんこ鍋屋作ってってやってたら日本中土俵だらけの大パニックになる。甲子園も国技館もそんなにいっぱいいらないよ。
 まあ、百歩譲って単にお金だけの話で終わるんだったら、一瞬で終わる巨大な祭りのために莫大な金をつぎ込むのも、粋な金の使い方と言えなくもない。そういう全く無駄なことに大枚はたいて「これで一文無しだ、明日から飯も食えねえ。ざまあみやがれ!」みたいなノリ、そう嫌いじゃない(まあ国家単位でやられたらたまったもんじゃないが…)。

 ところが、そこで最も重要なことは、今まであったものや文化を壊した上で造られるということ。これだけはさすがにきびしい。スタジアムなどだけならまだしも、その周辺などはまず大々的に再開発される。古い町並みや味のある商店街、無意味な広場やどうでもいい公園など、こういった自由に使えてた場所は真っ先に開発されてオリンピック用の町並みに改造されて行く。無駄にウロウロしてる人間や、もうからないけどバカな店などの居場所はなくなる。街というのは古い家具やビンテージの古着、使い込んだお気に入りの工具や道具と同じで、長年かけて味が出てきているもの。使う人や着る人の使い方や管理の仕方によって紆余曲折しつついい感じになってくる。そこはIKEAの家具やユニクロの服とはわけが違う。IKEAの家具は捨ててもすぐまた同じものを買えるけど、ビンテージの服は捨てたら二度と手に入らない。これはもったいない。いくら楽しい祭りのためとはいえ、これを一回限りのイベントのために失うのはちょっと惜しい。
 っていうか、普通にいかにも日本っぽい路地や小さい建物とかをそのままの状態にしといた方が海外から来る人とか喜ぶと思うんだけどね〜。全部こぎれいで無機質な感じにしていくのって、完全に高度成長期の幻想と亡霊に取り憑かれてる世代のやつらの発想っていう感じ。経済って、一回高度成長して発展すると、ある程度頭打ちになるんだから、今からもう一回高度成長期なんて絶対来ないってことを、開発好きの老人たちに誰か教えてあげないとな〜。勝手な妄想でやつら死ぬ前に好き放題やられたら、残された人たちがたまったもんじゃない…。
 そしてさらに! オリンピックのドサクサで関係ない開発までが続出する。これまでやろうとしてできなかった都市開発がオリンピックという名目があればゴーサインが出るのだ。現にうちの店の倉庫があった中野区内の商店街も道路拡張のために立ち退きとなった。計画が実行される時も、東京都の職員が回ってきて説明があったんだけど、「オリンピックの関係で2020年までに完成させる予定です」とか言ってた。コラー、どう考えても高円寺の奥地の住宅街の中の道路とオリンピック何にも関係ないだろ〜! でもこれが現実で、いま都内各地でオリンピックを錦の御旗としてここぞとばかりに開発が進もうとしているはずだ。ちきしょ〜、もったいない〜、潰した商店街や地域コミュニティーは元には戻らないのに〜。
 ましてや、それを四年に一回世界各国を回って同じことをやって回る。う〜ん、くわばらくわばら…。

奇策! 謎のオリンピック島建設計画!

 とは言っても、世界中の只者じゃない人たちが集まってやる巨大スポーツ大会は別に悪いわけじゃない。そこがきたない。お祭り好き、スポーツ好き、イベント好きの奴らの盛り上がりを盾にして、その影で、名を上げたい政治家や金もうけしたい財界のやつらが好き放題やってるってのがオリンピックの影の部分だ。

 となったら、これはもうオリンピックを悪徳開発屋から切り離して、両国国技館化を進めるしかない! すなわち、スポーツに適してそうな無人島なんかをうまいこと探して、無国籍の国際オリンピック島を出現させる。そして完璧な施設を建設。選手村からスタジアムから全部造り、宿泊施設とか飲食店なんかも完備。そして、4年に一回満を持して世界各地からそこを目指して集結する。これはやばい、逆に盛り上がりそう。こうなったら補修工事や必要な改築工事だけで済むので、毎回一回限りのための巨大施設なんか作らなくて済む。おまけにそのために古くからある各地の文化や建物も壊されずに済む。

 しかし、ちょっと待て。そうすると、4年に一回しか開催されないんだったら3年半ぐらいがゴーストタウンになるじゃねーか、ということになる。しかしそこは心配無用、大丈夫。今のオリンピックは国単位で競う大会だが、その国レベルの戦いばかりが盛り上がるというわけではない。それぞれの国や地域の社会状況や、個人の感覚によってどのレベルの試合が盛り上がるかはマチマチだ。甲子園の例でいうと、地方の人などは自分の県の学校が頑張ってたら応援したくなることが多いだろうけど、東京の人なんて別に東京代表だからって応援する気にはならない。東京の人だったらむしろ区ごとの戦いの方が気持ち的に肩入れしやすいので盛り上がるはず。江戸川区vs世田谷区とか、新宿vs渋谷とか、下北沢vs高円寺とか。あるいは地方だって実はいろいろあって、名古屋vs豊橋とか、静岡vs浜松、長野市vs松本などなど、国の戦いより盛り上がりそうな因縁の対決のカードはたくさんある。
 ということで、残りの3年のうちの一年は都市対抗の大会とかあったらこれまたやばい。東京vsジャカルタ、熱海vsロンドン、足立区vs南極みたいな謎のカードがたくさんあってやばいことになりそう!!! 僻地決戦のシベリアvsアラスカとか、負けられない決戦で、お互い「お前らにだけは負けられねえ」とか言って、絶対盛り上がる。見たい! 

 あるいは、もっと大雑把に東洋vs西洋の勝ち抜き戦とかもいいね。五大陸リーグ戦でもいい。こうなると各国協力して戦わないといけないから思わず仲良くなったりもしそうだし、面白いかも。またはもっと細かい単位にして、20年間ぐらい予選やって全世界の町内会のトップを決めるすごろく大会なんかあってもすごいかも。そうなったら世界で優勝する町内会のじいちゃんばあちゃんは20年間無敗で勝ち続けたことになる。完全に神がかってる。ともかく、いろいろできそう! なんでもできるので、4年ぐらいあっという間に埋まっちゃう。

平和の祭典、オリンピックの出現!

 謎のオリンピック島がそういうポジションになってくると、別に世界的な大会じゃなくても、各地の本気で雌雄を決する試合なんかはオリンピック島で決着つけたがるようになってくる。姉妹都市同士の決戦とか、会津藩vs長州藩、イスラム国vs米軍(これは本当にケンカになるからやめよう)とか、「じゃあ、オリンピックで勝負だ!」とか。こうなると意外と便利で、超田舎の集落同士が田んぼに引く川の水で争いが起きた時なんかもオリンピックで白黒はっきりさせる。「オリンピックさ行くべえ。今年の水はオラ達がもらうずら」「ついでに温泉も行くべ」と、村の長老衆連れ立って島へ向かう。さすが平和の祭典、いいね〜。
 街でも同じだ。たとえば、このマガ9でもよく登場する高円寺北中通り商店街でも争いは絶えないので(ものすごい小さい揉め事)、例によって集まりの時に蕎麦屋と電気屋がケンカし始めたりしたら、今までだったら収集つかなくなってたところだが、平和の祭典オリンピックさえあればもう大丈夫。掴み合い寸前になっても、「おうおう、てめえ! じゃあオリンピック行くか、おう!?」「言ったな!? 行ってやろうじゃねえの! あとで泣き言いうなよ」「だまれこの、お前なんかオリンピックで血祭りにしてやるからな!!!!」「わかったよ。今すぐだ! 表ヘ出ろい!!!!!」と、死者が出る寸前の状態で二人で10時間ぐらい飛行機に乗ってオリンピック島に向かい、問答無用の天下分け目の決戦で、10万人級のスタジアムで2人で綱引き大会かなんかやってもらって、また10時間かけて高円寺に戻ってきてもらう。これはいい。帰ってきてまた揉め出して掴み合いが始まっても「頭きた! もうオリンピックだ!!!」と、また行ってもらう。すばらしい!

 来年行われるという東京オリンピック、どうにか島でやってもらう訳にはいかないだろうか。

松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。