第12回:CM規制を考える(南部義典)

 今回(最終回)は、CM(広告放送)の問題を扱います。

 国民投票運動は、誰でも自由に行うことができるのが原則であるところ(国民投票法100条、100条の2)、運動方法の一つとして、テレビ・ラジオのCMで、憲法改正案に対する賛成投票、反対投票を呼びかけることも考えられます。昨今、「コスト、時間帯など放送条件の上で、賛成CMと反対CMとの間に不平等があってはならない」とか、「放送の総量が賛否いずれかに偏ってはならない」とか、運用上の問題を懸念する意見が示されているところです。

 CM規制に関して今後どのような議論を始めるにせよ、まずは現行の国民投票法がどのようなルールを定めているか、そのルールにはどのような問題が潜んでいるのかを知っていただくことが大切です。

CM規制を定める国民投票法105条

 CM規制に関しては、105条が定めています。

(投票日前の国民投票運動のための広告放送の制限)
第105条 何人も、国民投票の期日前14日に当たる日から国民投票の期日までの間においては、次条の規定による場合を除くほか、放送事業者の放送設備を使用して、国民投票運動のための広告放送をし、又はさせることができない。

 105条を読み解くポイントは、次の5点です。

 第一は、「何人」も規制の対象になるという点です。一般の個人、団体のほか、政党、政治団体も含まれます。

 第二は、投票日の14日前から投票日当日までが規制の期間になっている点です。例えば、4月19日が投票日であるとすると、同月5日の午前0時から19日の午後12時までの間、規制が掛かります。

 第三は、放送事業者の放送設備を使用することが規制の対象になる点です。放送事業者には、基幹放送事業者(電波)と一般放送事業者(衛星、ケーブルなど)が含まれ、NHKは除外されます(国民投票法104条、放送法2条26号)。

 第四は、国民投票運動のためのCMが規制の対象になる点です。国民投票運動とは、憲法改正案に対し賛成または反対の投票をし、またはしないよう勧誘する行為をいいます(国民投票法100条の2)。「勧誘」がキーワードです。

 第五は、105条の規定に違反しても、法律上は罰則の規定がないために、不可罰になるという点です。

 なお、条文中「次条の規定による場合を除くほか」とありますが、106条は国民投票広報協議会が行う広報放送(選挙でいう政見放送、候補者経歴放送に相当するもの)について定めており、政党等はその放送番組の中で、賛成意見、反対意見を述べることができます。この点が、105条の例外になっているということです。

105条の成り立ちと趣旨

 105条は、各党会派の議論の積み重ねの中、紆余曲折を経て(2005〜07年)、現在の規定ぶりになっています。その趣旨は、次の4点に要約することができます。

①投票期日が間近に迫ったタイミングで扇情的な内容の国民投票運動CMが放送されると、有権者の判断が歪められる。歪んだ判断のまま投票する有権者が増えれば、国民投票の公正さが害されてしまう。

②投票期日の直前期では、国民投票運動CMの内容に反論するための時間的な余裕がない。

③資金力の多寡(多い・少ない)によって、憲法改正案に対する賛成CM・反対CMのいずれかに放送量が偏ることがないよう、間接的に総量規制を及ぼす必要がある。

④期日前投票が行われる期間(投票日14日前から)、投票日当日は、有権者が憲法改正案に対する賛成・反対について冷静な判断、熟慮をすることができるよう、一定の冷却期間を置くべきである。

 ①から③までは、視聴者に対して情緒的に訴える点、制作に一定の時間と費用を要する点を問題視しています。まさに、CMの特質そのものに応じた、立法上の配慮といえます。CM広告主の言論・表現、国民投票運動の自由を保障しなければならない一方で、その自由度を拡げると、視聴する側にいる国民の判断を歪めるなどの弊害も無視できなくなることから、そのバランスを取るかたちで現在の条文に落ち着いています。

105条の問題点

 105条が設けられた趣旨は以上のとおりですが、問題点もあります。

 第一に、105条が、国民投票運動CMのみを規制の対象としている点です。条文を反対に解せば、憲法改正案に対する賛成投票・反対投票の勧誘表現を含まない、つまり国民投票運動に該当しないCM(意見表明CM)であれば本条の規制対象とならず、投票日まで許されることになってしまいます。「憲法改正案に賛成の投票をしよう!」「憲法改正案に反対の投票をしよう!」というCMは、投票勧誘のメッセージを含むので国民投票運動CMに該当します。しかし、「当団体は、憲法改正案に賛成です」「当団体は、憲法改正案に反対です」というように、意見(立場)を述べるだけのものは国民投票運動CMには該当しないことになります。

 このような意見表明CMは、105条の規制の網をかい潜ってしまいますが、国民投票運動CMと意見表明CMの区別は相対的なものにすぎません。社会的な影響力のある芸能人、文化人らが出演する意見表明CMであれば、簡単に感情移入してしまいます。いくら勧誘表現を含まないといっても、事実上、国民投票運動CMに匹敵する勧誘効果を上げるであろうことが想像できます。

 第二は、105条が、投票日15日前までの国民投票運動CM、意見表明CMを許容している点です。憲法改正の発議の後、投票日15日前(15日前の午後12時)までの最長166日間、賛成、反対のいずれかで資金の多い側が終始優位に立って、国民投票運動CM、意見表明CMを放送し続けることが可能になってしまいます。資金に乏しい側は、CMという手段を以て、適時、有効に反論を行うことができないのです。

 改めて、105条が規制する内容をまとめると、(表1)のようになります。1か所だけ「×」ですが、残り3か所は「○」で「抜け道」なのです。

(表1)国民投票運動CM・意見表明CMの規制

 CMの持つ影響力について付言すれば、近年のテレビドラマなどでは、本編に出演されている俳優、タレントがそのまま、本編と本編との間のCMに出演する例があり、「おやっ」と思う一方、視聴者の立場としてより感情移入しやすくなることも指摘しておかなければなりません。

民放連「CM考査ガイドライン」

 105条の規定は、(表1)にまとめたとおりですが、「誰が、広告主になれるのか?」「CM料はいくらになるのか?」といった仔細は法律事項の範囲外であり、同条を補充するものとして、個々の放送事業者ないし一般社団法人日本民間放送連盟(民放連)が自主的・自律的に定める必要があります。

 民放連については最近、具体的な動きがありました。3月20日、「国民投票運動CMなどの取り扱いに関する考査ガイドライン」を公表しています。「民放各社が自ら判断するための参考資料」と位置付けつつ、19項目の基準を定めています。

(ガイドラインの位置付け)
 民放各社で国民投票運動CMを取り扱うにあたっては、他のCMと同様、自社の番組基準(民放連 放送基準)に基づき、適切な考査を行うことは当然であるが、国民投票運動というこれまで経験したことのない事象に取り組むことになる。このため、「憲法改正国民投票運動の放送対応に関する基本姿勢」で示された考え方を、民放各社が具体的な考査判断に適用できるよう、特に留意すべき事項を現時点でまとめたものが、このガイドラインである。番組基準(民放連 放送基準)の運用は、民放各社が自主・自律的に運用することとしており、この考査ガイドラインも民放各社が自ら判断するための参考資料と位置付けるものである。なお、本ガイドラインは必要に応じて見直すことがある。
(原則)
 「憲法改正国民投票運動の放送対応に関する基本姿勢」は、国民投票運動CMはその内容から、より慎重な対応が求められるものであり、放送基準第89条「広告は、真実を伝え、視聴者に利益をもたらすものでなければならない」を前提に、▽広告は、たとえ事実であっても、他をひぼうし、または排斥、中傷してはならない(第101条)、▽番組およびスポットの提供については、公正な自由競争に反する独占的利用を認めない(第97条)――などについて、特に留意することを求めている。
 さらに、投票を直接勧誘しないものの、国民投票運動を惹起させるCMや憲法改正に関する意見を表明するCMなどについても、主権者一人ひとりが冷静な判断を行うための環境整備に配慮することを目的に、国民投票運動CMと同様、投票期日前14日から投票日までの間は取り扱わないことを推奨している。
 この「基本姿勢」を前提としつつ、これまで各社が培ってきた「意見広告」に関する考査上の留意点などを踏まえ、国民投票運動CMなどの考査に当たる必要がある。
(考査ガイドラインの適用範囲)
(1)この考査ガイドラインは、「国民投票運動CM」と「憲法改正に関する意見を表明するCMなど」に適用する。
(2)「国民投票運動CM」とは、憲法改正案に対し賛成・反対の投票をするよう(または投票しないよう)勧誘する内容のCMを指す。
(3)「憲法改正に関する意見を表明するCMなど」とは、憲法改正案に対する賛成・反対の意見の表明にとどまり、投票の勧誘を行わない内容のCMや、憲法改正には直接言及しないものの、CM全体からみて憲法改正について意見を表明していると放送事業者が判断するCMを指す。また、意見広告や政党スポットにおいても、CM全体からみて憲法改正について意見を表明していると放送事業者が判断するCMは「憲法改正に関する意見を表明するCMなど」に含むものとする。
(4)このガイドラインで「CM」と記載している場合、「国民投票運動CM」と「憲法改正に関する意見を表明するCMなど」を指すものとする。
(広告主)
(5)広告の出稿を受け付ける法人・団体については、これまでの活動実績や放送基準各条などを踏まえ、広告主としての適否を放送事業者が総合的に判断する。
(6)個人が出稿するCMは、個人的売名につながりやすく、また、放送にはなじまないことから取り扱わない。
(7)放送事業者は、広告主の意見・主張の内容やそれぞれの立場などにかかわらず、CM出稿の要望には真摯に応対しなければならない。
(8)放送事業者は、「国民投票運動CM」および「憲法改正に関する意見を表明するCMなど」を受け付ける用意があることを、CM出稿を希望する広告主に対して明示するよう努める。
(出演者)
(9)政党その他の政治活動を行う団体がCMを出稿する場合、選挙(事前)運動であるとの疑いを排するため、政党スポットと同様、所属議員の出演は原則、党首または団体の代表のみとする。
(10)児童・青少年が出演する場合、その年齢にふさわしくない行動や意見表明を行わせるCMは取り扱わない。
(CM内容)
(11)CM内容は、たとえ事実であっても他をひぼうし、または排斥・中傷するものであってはならない(放送基準第101条)。さらに、他への名誉毀損やプライバシーを侵すものであってはならない。
(12)視聴者の心情に過度に訴えかけることにより、冷静な判断を損なわせたり、事実と異なる印象を与えると放送事業者が判断するCMは取り扱わない。
(13)複数の意見や主張が混在して、視聴者にわかりにくい内容となっているCMは取り扱わない。
(14)企業広告や商品広告に付加して主張・意見を盛り込むCM(「ぶら下がり」など)は取り扱わない。
(15)CMには広告主名と連絡先(CMに対する意見の受け付け窓口)を視聴者が確認できる形で明示したものでなければ、取り扱わない。
(16)「国民投票運動CM」の場合はその旨をCM内に明示したものでなければ、取り扱わない。また、「憲法改正に関する意見を表明するCMなど」は「意見広告」である旨をCM内に明示したものでなければ、取り扱わない。

(その他)
(17)放送事業者の意見と混同されないようにするため、CMの放送時間帯はニュースの中・直前・直後を避ける。また、特定の広告主のCMが一部の時間帯に集中して放送されることがないよう、特に留意する必要がある。
(18)出版物やイベントの告知であっても、その内容などから国民投票に影響を与えると放送事業者が判断するCMについては、「国民投票運動CM」「憲法改正に関する意見を表明するCMなど」に準じて取り扱う。
(19)上記の留意点を踏まえ適切な対応を行うために、十分な時間を取り、絵コンテ段階から考査を行う。

 CM考査ガイドラインの前文では、投票期日前15日前から投票期日までの間に行われる意見表明CMについても自主規制を及ぼす余地(「推奨」と表現)を残しています。そうなると、(表1)は次のように修正することができます。

(表2)国民投票運動CM・意見表明CMの規制 ※(表1)の修正

 CM考査ガイドラインではその他、広告主の適格性は、放送事業者の総合判断によること(5)、個人の広告主は受け付けないこと(6)、CMには広告主名や連絡先を明記すること(15)、特定の広告主によるCMが一部の時間帯に集中しすぎないようにすること(17)、などの方針が明らかにされています。

 しかし、ガイドラインを読む限りでは、国民投票運動CMの意見表明CMのいずれの形態であっても、賛成CMと反対CMの放送上の条件が平等なものになるかどうかは不明です。相対的に安い価格を設定したり、同額でもより視聴率の高い時間帯に放送したりと、いずれか一方を優位に扱う余地を残していると解されます。あえて言及していない可能性もあるわけですが、放送事業者の歪んだ運用が国民投票の公正を害することになっても「後の祭り」です。少なくとも、「不平等取扱いの禁止」をガイドライン上、明示すべきと考えます。

「CM禁止」という、究極の総量規制

 賛成CMと反対CMの総量が、いずれか一方に偏ることがないように規制を行うべきであるという総量規制論は、国民投票法を制定するプロセスの中で一時、盛んになされましたが、そのまま消えてしまいました。

 まず、総量規制を行う主体として、国民投票広報協議会が検討されたことがあります。しかし、国会の一機関である協議会が、放送事業者全体のCM運用(その内容を含む)に介入すること自体、違憲問題を生みかねないとして撤回されました。また、同じ時期に二つ以上の憲法改正案が発議され、それぞれの国民投票運動期間が重なるような状況で「憲法改正案に賛成しよう!」というCMが流された場合、いずれの憲法改正案のCMとカウントすればよいのか判然としないことや、逆に15秒、30秒のCMの中で二つ以上の憲法改正案に対する投票勧誘がある場合、つまり「一方の憲法改正案に賛成、他方の憲法改正案に反対」という内容で構成されているとすると、放送時間をどう按分し、総量に計算すればよいのかも曖昧であることから、「結局、総量規制は単純な話ではなく、できない」という結論に至ったのです。

 総量規制に関しては、民主党が2007年にまとめた対案の中で、「CM全面禁止」をうたったことが最終的な到達点です(前記の表は、全部「×」になります)。105条の問題点を運用で是正することは困難であり、そもそも再度のやり直しが利かない国民投票において、その公正が害されるおそれを排除することは、有権者一人ひとりが適正に権利行使する前提条件であることからすれば、CM全面禁止論はなお、議論すべき有用性を残していると考えます。

運動費用規制を、両輪で議論しないと意味が無い!

 現在、「CM規制」という言葉がやや、独り歩きをしている印象を受けます。とくに、「国民投票運動費用の規制」を両輪関係で議論しないと意味が無いという視点が欠けています。

 先ほど指摘したように、一定の資金量を有しないとCMを流すことはできませんが、CMに関して細かく厳しい規制が加えられるとなれば、CMではなく、インターネット広告など別の効果的な媒体を活用することが検討されるでしょう。

 現行の国民投票法には、選挙のシステムと異なり、運動費用の上限、投票日後の収支報告書の提出といったルールも何もありません。出所の分からない、多額の資金が特定の国民投票運動のために使われるばかりでなく、事後的にチェックできるシステムさえないのです。金銭は、自由に使われれば使われるほど、国民投票の公正を害するおそれがあることを改めて想起する必要があります。

 この点私は、本間龍さんとの共著『広告が憲法を殺す日』(集英社新書、2018年)180頁以下で、イギリスの国民投票法制を参考に、国民投票運動費用の上限規制と収支報告システムの提言を行っていますので、関心のある方はぜひご覧ください。

連載の最後に

 2010年5月に施行された国民投票法は来年、施行10年を迎えます。今改めて思うのは、50年後、100年後の国民のために、いかに自由と公正を基調にしたルールを繋いでいけるかが重要だということです。

 国民投票法をどうしたいのか。残念なことに、各党会派のビジョンは明確でなく、単なる「政争の具」として常用化されるに至っています。憲法改正問題に対する意見の相違を乗り超えることができない様は、衆参で憲法調査会が立ち上がる前、つまり前世紀の状況に逆戻りしているようにも思えます。この点を自覚できている議員がどれだけいるのか、甚だ疑問です。

 私は、法的にも政治的にも根拠のない憲法改正論に意味づけをすることなく、「公正なルールづくりはどうあるべきか」という命題を、今後とも地道に追求していきたいと思います。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』、『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2019年1月現在)