改めて、HPVワクチン薬害訴訟を考える~笑顔と未来を私たちに! 講師:大久保秀俊氏・酒井七海氏

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)を接種した若い女性に深刻な副反応被害が出ていることを知っていますか。2016年7月27日に全国4地裁(東京・名古屋・大阪・福岡)で国と製薬会社2社を相手に一斉提訴をしてから2年半以上がたちました。
今回の講演では、司法試験合格後にHPVワクチンの薬害について知って以来HPVワクチン薬害訴訟に関わっていらっしゃる大久保秀俊先生に訴訟の現在についてお話しいただくとともに、HPVワクチン薬害訴訟全国原告団代表の酒井七海さんに、被害の実態や被害者のおかれている現状、訴訟への思いをお話しいただきました。[2019年4月13日(土)@渋谷本校]

HPVワクチン薬害訴訟の経緯

 HPV(ヒトパピローマウイルス)は性行為を介して人から人へ感染し、HPVに持続感染した細胞ががん化すると子宮頸がんになります。日本では、HPVワクチンとしてGSK社のサーバリックスとMSD社のガーダシルの二種類が承認されています。
 2009年12月、最初にサーバリックスの販売が開始されました。2010年12月、緊急促進事業が開始しワクチン接種が公費助成の対象となります。ワクチンは3回接種する必要があり、自費だと5万円ほどかかるため、公費負担が決まったこの時期に接種する人が一気に増えました。2011年8月、続いてMSD社のガーダシルも販売開始になりました。
 2013年4月、予防接種法改正に伴いHPVワクチンが定期接種化し接種することが義務となりました。しかし、重篤な副反応被害が数多く報告されたため、定期接種決定からわずか2ヶ月後に積極的勧奨の一時中止という事態になりました。「国は定期接種を続けるが積極的には接種をおすすめしません」という状況になったのです。この状況は現在も続いています。
 2015年3月、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会が全面解決要求書を国へ提出しましたが何ら救済策が打ち出されませんでした。そこで、2016年7月に被害者63名が東京・名古屋・大阪・福岡の各地裁に一斉提訴を行いました。現在全国の原告数は120名にのぼります。

HPVワクチンの危険性と被害

 HPVワクチンの副反応症状は実に多岐にわたります。大きく分けると、感覚系障害、運動系障害、認知・情動系障害、自律神経・内分泌系障害の4つに分類されますが、文字で見るほど簡単ではありません。頭が割れるように痛む、だるい、朝起きられない、突然手足がバタバタ動く、お母さんの顔が分からない、下校中に突然帰り道が分からなくなるなど、これらの障害が時の経過とともに変化したり重層化したりしながら一人の被害者に複数出ます。遅発性もあるため、既存の疾患では説明しきれず治療法は確立していません。
 HPVは性行為で感染するためワクチンの接種対象は性交渉の経験がない女子中学生・高校生です。被害者の多くが重篤な副反応被害によって学校に通えなくなり進路変更を余儀なくされています。周囲から理解されないことも多く、学校の先生から「何をサボっているの?」と言われたり、医療従事者から「親の育て方が悪い」「心の病だ」などと言われたりして、二重、三重に傷ついてしまうことも少なくありません。治療にあたってくれる医療機関も少なく、経済的負担や家族の負担が非常に大きいです。
 これらの副反応症状について、厚労省は「接種の痛みと痛みに対する恐怖が惹起する心身の反応」と言っていますが、私たちはワクチンの設計・成分に問題があると考えています。通常のワクチンは一度感染させて体内に抗体をつくることで次回感染した際に発症するのを防ぎますが、HPVワクチンは感染そのものを阻止する設計となっています。すなわち、感染を防ぐほど強い免疫反応を示すような設計になっているといえます。HPVワクチンは、他のワクチンと比べ圧倒的に有害事象報告数が多いです。

HPVワクチンの恩恵は限られている

 そもそもHPVワクチンを接種しなくてもほとんどの人ががんになりません。HPVに感染してもウイルスの多くは体外に排出され、がん細胞化するのはごく一部です。仮に子宮頸部へのHPV感染が3億人だとすると子宮頸がんになる人は45万人、約0.15%です。ごくわずかなウイルス感染を予防するために若い女性全員に副反応のリスクを背負ってもらっているのです。
 本来、疾病をどう予防するかは個人の自由であり、自己決定権があるはずです。よって公権力によりワクチンを勧奨するためには、治療薬に比べてより高い安全性と有効性に加え公衆衛生上の必要性が認められなければなりません。将来罹患しないかもしれない疾患の予防のために、重篤な副作用のリスクを負ってまで特定のワクチンの接種を義務づける必要が本当にあるのでしょうか。

製薬会社による過度なプロモーション

 HPVワクチンが定期接種化された背景には、HPVワクチンの早期承認を目指して設立された「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」の存在があります。同団体は主に自治体、議員、医療関係者、メディアなどへのセミナー開催などを行っていますが、活動資金の大半は、HPVワクチンを販売する製薬会社から出ており、事務局にはGSK社の元マーケティング部長がいました。つまり啓発に名を借りたプロモーションです。この団体のロビイング活動によって極めて拙速に緊急促進事業が始まりました。
 なお、アメリカでは、病気の恐ろしさをことさらに強調しブランド化した上でワクチン接種の選択を迫る販促方法が問題視され、GSK社は米国司法省に30億ドル(2400億円)の罰金等の支払いが命じられています。MSD社は2011年6月から2013年4月まで製薬協会員資格を停止されました。

更なる被害を食い止めるために

 訴訟の目的は、真の救済と再発防止です。国や企業の責任を明らかにし、賠償金にとどまらない約束を取り付けることを目的としています。恒久対策としては、研究体制・医療体制の整備、教育や就職の支援、医療費等の支援、さらに十分な情報提供を行うことで無理解や偏見の解消等を挙げています。副反応被害の原因を究明し治療法を確立する必要がありますが、そのためには国に責任があるという司法判断が必要です。
 薬害訴訟の歴史は古く、先人たちの努力によりいろんな制度が拡充されて少しずつ社会が良くなってきました。他方、50年以上前から被告席にはずっと国がいます。ある薬害肝炎の被害者の方は「私たちがもっと頑張っていればHPVワクチンの被害は出なかったかもしれない」と仰っていました。いま食い止めなければ更なる薬害被害が出るかもしれません。更なる被害者を生み出さないためにも、弁護士、被害者、支援者が一体となって解決に向けて闘っていきたいと思います。
 5月22日に次回期日が予定されています(詳しくはこちら)。まずはどういう状況なのかを知って欲しいと思います。是非傍聴にいらしてください。

原告団代表・酒井七海さんのお話

 私はいま24歳です。2年の浪人と1年の留年を経て、大学4年生になりました。私は子どもの頃から健康で予防接種以外は病院にかかったことはほとんどありませんでした。将来は人を助ける仕事に携わりたいと弁護士を目指し法学部への進学を希望していました。
 16歳のときに人生が一変しました。高校1年の2月と3月にサーバリックスを2回接種しました。当時、電車の車内広告、通っていた女子高の掲示、自分宛に送られてきた市からの通知など、身の回りには接種を勧めるような情報がたくさんありました。そこには、子宮頸がんは唯一ワクチンで防げるがんであり、若い女性に増えている恐ろしい病気であること、高校1年生の間に受ければ無料で受けられることなどが書いてありました。将来弁護士になるという夢を叶え、いずれ結婚して子どもを産みたいと願っていた私は、がんをワクチンで防げるならと思い接種を決めました。クリニックでは問診票と一緒に説明書が渡されましたが、そこには今まで受けてきた予防接種の説明と特に変わらないことが書いてありました。
 2回目のワクチンを接種した翌日の夜、私は突然気を失って倒れ40度近い高熱が出ました。医師と相談し3回目の接種は止めましたが、その後、それまでになかった症状が次々と現れました。高校2年の5月、階段を上っている途中に突然意識を失い階段から転落して救急搬送されました。それ以来、色々な状況で何度も失神を繰り返すようになりました。手足の痺れ、耳鳴り、ふらつき、倦怠感、ひどい頭痛、文章を論理的に書けなくなる、校内の教室が分からなくなる、気付くと寝てしまっている…。色々な症状に悩まされ、いくつもの医療機関をまわりましたが原因が分かりませんでした。体調不良で学校を休むことが続きました。
 高校3年の冬休み、長時間の意識消失発作を起こし大学病院に緊急搬送され入院しました。自分の体はどうなってしまうのかという不安な気持ちを抑えるために、入院中も起きていられる日には受験勉強をしました。母に頼んで連れて行ってもらったセンター試験の会場では、途中に何度も症状が出ましたが頑張って7科目まで受けました。志望校の受験には9科目必要なため願書は出せませんでしたが、来年には楽しい学生生活を送っていることを想像し、もう一年頑張ろうと思いました。でも、現実は違いました。卒業後も症状は悪化する一方でした。浪人一年目の5月頃から手足のけいれんや歩行障害が始まりました。何度も病院に運ばれましたが、医師から「ヒステリー発作だから放っておいていい」と言われ長時間放置されたこともありました。十分な治療を受けることができず、記憶障害、学習障害、運動障害が一気に悪化し勉強ができなくなりました。全身の脱力のために立てなくなり、お風呂もトイレも一人ではできず母に介助してもらわなければならなくなりました。それでも浪人一年目の1月にセンター試験を受験しましたが、車いすに座り続けることも難しく良い結果は出せませんでした。
 浪人二年目、治療してくれる病院を見つけ片道5時間かけて通いました。そこで初めて詳しい検査をして高次脳機能障害と診断されました。適切な治療を受けたことで記憶障害の一部が改善し、翌年大学に進学できたことは大きな喜びでしたが、運動障害やその他の症状には効果がありませんでした。大学入学後も症状は悪化し、朝起きてから夜寝るまで生活の全てに介助が必要になりました。治療を受けるため、この4年間で15回鹿児島の病院に入院しています。一年の3分の1近くを入院しているため、大学は4年間では卒業できませんでした。現在、5年目の大学生活を送っています。
 これまで数えきれないほどの症状が私の体に起きました。悪化するだけでなく新たな症状も出てきて、人間としての自立機能を奪っていきます。適切な病院にたどり着くまでに3年かかりました。発症直後に適切な治療を受けられていたらと思うと悔しくてたまりません。
 被害の救済を求めて声を挙げることはとても勇気がいりました。それでも被害を訴え裁判することを決意しました。一番の理由は、私の症状はどんどん悪化しているのに国や製薬会社に出された報告では「回復」とされ、何度お願いしても訂正されなかったこと、2015年に国が行った追跡調査で重篤とされた166人に私はカウントされていないことです。私の症状をみれば回復扱いして被害者一覧から外すことなど有り得ないはずです。私たちの被害は、データではなく私たち一人ひとりの人間に実際に起きていることです。国と製薬会社には私たちの被害に正面から向き合って欲しいと思い原告になることを決めました。
 被害者という立場になり、考えました。高校まで順調に進んでいた自分が、あの日ワクチンを打たずに法学部に進学していたらどんな弁護士になっただろうか。自分が経験したことのない、どうにもならない壁の前でもがき苦しんでいる人に、本当の意味で寄り添える弁護士になれただろうか。そう考えた時、苦しんでいる当事者の生の声をたくさん聞いてもらうことで何かが変わるのではないかと思い、自分が直面する現実を伝える活動をしています。
 子宮頸がんワクチンの被害が明るみに出た頃、私たちは少女と呼ばれていましたが今は女性へと成長しています。時間は待ってくれません。今のままでは、働くことができるのか、自分や家族の人生はどうなってしまうのか、将来を思い描くことができないのです。重い症状や障害と生きていくためには医療や福祉の協力が不可欠です。訴訟を通じて、全国各地にいる被害者が治療を受けられ、自分の人生を歩んでいくための支援を受けられる体制ができることを望んでいます。同時に、絶え間なく続き繰り返される薬害の歴史を終わらせたいと思います。予防接種は誰もが経験します。ワクチンは最も身近な薬剤だと言えるでしょう。薬害が自分とは違う遠い世界で起きていることではなく、自分の生活と隣り合わせにあるということに気付き、薬害を許さないという姿勢をもってください。被害者が健康と生活の回復を願って治療法の開発や支援体制を求めるだけでは薬害が生み出される社会の根本は変わりません。次の薬害を作り出さないために、薬害が繰り返される社会を変えるために、薬害のことを知り私たちと一緒に闘ってください。平成で薬害の歴史が終わることを願っています。
 そのためにもまずは裁判の傍聴に来てください。よろしくお願いします。

●HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団ホームページ
https://www.hpv-yakugai.net/


●HPVワクチン東京訴訟支援ネットワークホームページ
http://hpv-yakugai-shien.net/about/

大久保秀俊氏(弁護士、「城北法律事務所」所属、元伊藤塾生)
立教大学法学部卒。千葉大学法科大学院修了。最高裁判所司法修習生(69期・札幌修習)。日本弁護士連合会 高齢者障害者権利支援センター幹事。第二東京弁護士会 高齢者障害者総合支援センター運営委員会幹事。HPVワクチン薬害訴訟弁護団、薬害肝炎弁護団、医療問題弁護団、自由法曹団、青年法律家協会、日本労働弁護団ほか。

酒井七海氏(HPVワクチン薬害訴訟全国原告団代表)
2011年サーバリックスを公費負担で2回接種(16歳)。2015年立教大学入学(20歳)。2016年HPVワクチン薬害訴訟提訴。現在、立教大学4年生。

*記事を読んで「いいな」と思ったら、ぜひカンパをお願いします!