小原隆治さんに聞いた:参議院選挙から次の総選挙に向けて。市民は何ができるのか?

2015年12月、学生、市民、学者からなる「市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)」が発足し、国会や選挙での野党共闘を要請、支援してきました。それに呼応して全国各地の選挙区でも市民連合・市民団体が次々と立ち上がり、16年以降の国政選挙、地方選挙で野党を応援しています。今年は、統一地方選挙と参議院選挙がおこなわれ、多くの市民が活動しました。
政治を変えるために、一人ひとりは何ができるのか? これまでに衆院選、参院選、首長選の現場で選挙運動にかかわってきた小原隆治先生(早稲田大学/地方自治)に、今回の参院選の結果と、今後の市民参加型選挙の展望についてお話を伺いました。

応援にも投票にも迷う複数区の難しさ

――2015年に「市民連合」が発足して以来、「市民連合」の呼びかけ団体である「安全保障関連法に反対する学者の会」「立憲デモクラシーの会」に所属している学者の方々も、国政選挙や地方選挙の現場に入って、野党の選挙活動を後押ししています。今回の参議院選挙では、小原先生は東京選挙区の候補者を支援されましたが、まず選挙の全体の結果をどのようにとらえていらっしゃいますか。

小原 今回改選期を迎えた6年前の2013年の参議院選挙では、当時の民主党は1人区で全敗し、大幅に議席を減らしました。そこから16年は32の1人区で野党5党の候補者を一本化して、11議席を獲得。今回も野党が1人区で10議席をとりました。勝ったか、負けたか、数の話だけでいうと、自民党は今回9議席減らしていますし、自民、公明、維新といった改憲勢力は国会で発議ができる3分の2を割り込みました。そのような点から見れば、野党側が「勝った」とまではいえませんが、「負けた」ともいえない。野党はよく踏ん張ったと、私自身は思っています。

――そのなかで都市部は、東京も大阪も神奈川も、良い結果となりませんでした。都市部の複数区の場合、野党を応援している市民、そして有権者にとっても選択に迷う選挙だったのではないでしょうか。

小原 6人区の東京選挙区についていえば、野党の候補者は、立憲民主党が2人、共産党が1人、国民民主党が1人、社民党が1人、れいわ新選組まで含めると6人の候補者がいて、結果的に死に票が増えてしまいました。野党候補者の票がバラけて、立憲と共産で2議席、16年の参院選でとった野党3議席を維持できませんでした。
 参院選は、野党側としては、1人区は候補者を一本化して勝ちにいき、複数区では1議席でも多くとりたいわけですね。そうすると、市民側としては、複数区はその選挙区で当落ギリギリの候補者を支援する必要があるので、私は16年の参院選では当時民進党の小川(敏夫)さんの街宣に付いて回りました。あのときは選挙の途中で「小川危うし」という情報がSNSなどで拡散され、市民の応援がどんどん増えて、当選を果たすことができました。
 今回も、私はやはり最初から当落ギリギリと伝えられていた立憲民主党の山岸(一生)さんの応援に入っています。しかし、野党候補者の数が多かったことと、選挙期間中に「誰はいけそうだ、誰は危ない」という正確な情報をわれわれ市民がつかめないこともあって、山岸さんは、残念ながら落選という結果になりました。

――東京選挙区では、おっしゃるように「誰が危ないの?」「誰に入れればいいの?」「この人も、あの人も、当選してほしい。迷う」という野党支持者の声をたくさん聞きました。

小原 今回の参院選で複数区のたたかい方の難しさをあらためて痛感しました。4人区の大阪などはポピュリズム的な維新の人気もあって、野党は1議席もとれませんでした。野党の候補者が乱立すると混沌としてくるので、複数選挙区のそれぞれにおいて野党間でどう調整してまとめていくか、それと同時に、野党間では協議できない穴を市民がどう埋めていくかが今後の課題になると思います。

野党が地方の1人区で健闘したのはなぜか?

――今回、東京、大阪、神奈川といった都市部の選挙区は、保守派の候補者の当選が目立ちました。一方、地方の1人区は与野党が重点区と位置付けていた新潟、宮城、秋田、大分などで野党が競り勝っています。これは、かつての「地方は保守で自民党支持、都市部はリベラル政党支持」というような構図が変わってきているのでしょうか。

小原 それは長いスパンで見ていかないと一概にいえませんが、この20年くらいは地方が保守で、都市部がリベラルという二分法は必ずしも当てはまらないのではないかと思います。
 1990年代なかば以降に衆院選の小選挙区で旧民主党が躍進していくときに「1区現象」という言葉が生まれています。例えば、大阪1区、愛知1区といった、つまり都道府県庁所在地のある1区で民主党が勝って、都市的な選挙区から勢力を拡大していった。ただし、その後を見ると、2005年の郵政民営化を争点とする衆院選では、逆に自民党が都市部で大勝し、民主党は負けている。そして、07年の参院選では、また逆転して、民主党はそれまで勝てなかった保守的な農山村を含む選挙区でも票を集め、09年の政権交代につながっていったんですね。したがって、国政選挙では、地方は保守が強くて、都市はリベラルが強いとは、一概にいえなくなっていると思います。

――参院選の公示前、自民党の二階(俊博)幹事長が、立候補予定者の激励会で「選挙でがんばったところに予算をつけるのは当たり前」と発言して野党から批判を浴びました。しかし、地方で野党が勝てるということは、そういう手法も全国的に通用しなくなっているということですか。

小原 国が配る補助金や交付金には、選挙でがんばったかどうかに関係なく、自動的に出さなくてはならないお金があります。例えば、生活保護なら定率があって国の負担額は決まっている。他方、自治体が道路をつくったり橋をかけたりするときに、国が個所付けをして、予算配分を決めるものもある。そういう裁量的な補助金の予算を配分する利益誘導型政治はどの政権でもおこなわれてきましたが、「選挙でがんばったところにつける」などと、剥き出しの本音を公言する政治家はこれまであまりいなかったですよね。
 それに、今は裁量的な補助金や交付金は大幅に縮小してきているので、そんなことはやりたくても現実にできなくなっている。だから、地方では従来の利益誘導型政治が見放されて「自民党に投票するのが当然」となっていない。補助金や交付金を目当てに自民党を支持していた地方でも、野党側が候補者を一本化し、地域の市民と協力しながらしっかり訴えれば勝てるという状況が出てきているのだと思います。

市民と野党の信頼関係を積み上げていく

――参院選も終わり、次は、衆院選が早くて年内か来年中にあるのではないかと報じられています。いよいよ政権交代を目指していくために、市民は何ができるのか。どう動いていけばいいのでしょう。

小原 私が応援した山岸さんの現場は、選挙活動エリアの中央線沿線の多くの市民が街宣を手伝ったり、電話かけをやったりしていました。私は、市民グループの人から応援の依頼を受けて、終盤はずっと付いていました。結果は残念でしたが、彼は本当にいい候補者で、終わってから市民の間で「もう一丁やるか!」という話になったんです。せっかくいい候補者が見つかったのだから、今回はだめだったけれど、また次の国政選挙で推すことができる。市民同士の連帯関係も新たに生まれて、「いつでも総選挙を受けて立つぞ」というくらいの雰囲気になっています。
 それから、偉そうなことをいわせてもらうと、野党も市民の姿から学ぶことがあると思います。立憲、国民、共産、社民、社保(社会保障を立て直す国民会議)の野党4党と1会派は、「市民連合」が求める13項目の共通政策に合意しています。しかし、すべての野党と候補者が市民の方を向いているかというと、そうとはいいきれない。だからといって、「野党はもっと市民の方を向け」と言葉で言っても聞いてくれない。そうではなく、地域の市民が実際に動くことによって、選挙の現場が変わり、「これからはこの人たちと一緒にやっていかないとだめだな」と気づくことがあると思うんです。要するに、気合いと間合いです。気合を入れて間合いを詰めていく。そうした信頼関係をつくるのは、それぞれの選挙区で個別的、具体的に積み上げていくしかないんだと思います。

――あちこちの選挙区で動いている人たちの話を聞くと、選挙中はみんな工夫しながらやっているようです。

小原 そうですね。街宣のやり方ひとつとっても、地域によって話す内容は変えたほうがいい。17年の衆院選は、私は、東京1区の海江田万里さんの応援をしました。東京1区は、千代田区、港区、新宿区にまたがる選挙区で、例えば「憲法を守ろう」と訴えても、足を止めて聞いてもらえる場所と聞いてもらえない場所があるんです。それは地元の市民がよくわかっている。「ここでは社会保障の話をしたほうがいいですよ」「ここでは市民の応援スピーチもやりましょう」というのは、そこに住んでいる市民だからこそ提案できるわけですね。

候補者選びの段階から市民もかかわりたい

――市民が選挙に参加するのは、いろいろな方法があると思います。多くの選挙区には、その選挙区の市民連合・市民団体があって、誰でもいつでも入れる。選挙中に、候補者の事務所に行って、証紙貼りや電話かけをすることもできる。それから、仕事や子育てなどで動くのが難しいなら、候補者の情報をSNSで拡散するだけでも、野党の応援につながるのではないではないでしょうか。

小原 それと普段から、野党の地方議員と接点をつくっておくことも大事です。野党は、共産党を除いて、強い地方組織を持っていません。立憲は、今年の統一地方選挙で地方議員を増やしましたが、国政選挙をバックアップする盤石な組織はまだできていない。選挙区でいい候補者を何人も見つけて、育て、その中から選ぶという体制になっているとはいえないんです。
 だから、今後は地域の市民と野党の地方議員がつながって、「今度の選挙では、こういう人を候補者に立てましょう」という話し合いをする。候補者がなかなか決まらなかったり、選挙前に慌てて一本化したりすることのないように、恒常的に市民と野党の対話の機会を設ける。候補者選びの段階から市民がかかわれば、さらにもう一歩進んで選挙戦中、海江田選挙でそうだったように、選対本部に市民が入るというようなことになれば、もっとおもしろい市民選挙になるし、市民政治というものが生まれると思います。

――野党は、誰もが生きやすい社会を実現するために、市民と一緒に、地域や現場の声に耳を傾ける人を選んでほしいですね。

小原 地方の場合であれば、限界集落の将来がよく問題視されますが、そこに住む高齢者が暗い顔をして暮らしているかというと、そんなことはありません。人口が減少していく自治体であっても、個人レベルの年金と自治体レベルの交付税を中心とした財政支援がきちんと機能していれば、高齢者は幸せに生きていられるんです。先に「裁量的な補助金や交付金は大幅に縮小している」とお話ししましたが、やるべきは税財政制度によって地方を支える仕組みを整えることです。それも、そこに住む人たちがわかっているわけですから、地方こそ、普段から市民と野党の議員が話し合い、いい候補者を擁立できるように準備してもらいたいと思います。
 15年の安保法制反対運動の中から「市民連合」が生まれ、16年の参院選から市民による選挙参加が本格化しました。野党共闘とはいえ、個別の政策に対する考えは各党違いがあります。どの野党も、選挙のやり方は異なります。
 だからこそ、そうした野党をつなぐところに市民の大きな役割がある。もちろん候補者には、市民を信頼してくれる人もいれば、距離を置く人もいます。私自身も含め、市民の力がまだ足りないのも自覚しています。それでも、諦めずにコツコツ続けていくしかない。コツコツ続けてこその市民です。できれば自分が棺桶に入るまでに、いつか必ず「やった! 勝った!」という選挙を実現させて、政権交代を成し遂げたいです。 

(取材構成/海部京子・写真/マガジン9)

小原隆治(こはら・たかはる) 1959年、長野県生まれ。1982年、早稲田大学政治経済学部卒業。1990年、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。1991年、成蹊大学専任講師。その後、成蹊大学教授を経て、現在は早稲田大学政治経済学術院教授。専門は、地方自治。著書は、編著『これでいいのか平成の大合併』(コモンズ)、『新しい公共と自治の現場』(コモンズ)、『大震災に学ぶ社会科学 第2巻 震災後の自治体ガバナンス』(東洋経済新報社)など。2019年4月より1年間の予定で英国において在外研究。7月の一時帰国中に参院選の野党応援をおこなう。

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