「やんばるの森を『真の世界遺産』に」(田村久美子)

 9月18日、「ジュゴン保護キャンペーンセンター」国際担当の吉川秀樹氏を沖縄から招き、「やんばるの森を『真の世界遺産』に」と題するセミナーが開催された。同センターでは、ジュゴンの生息地である沖縄県名護市辺野古・大浦湾沿岸に計画されている米海兵隊基地建設計画に反対し、ジュゴン保護区を作る取り組みなどを進めている。

 今回は、豊かな自然で知られている沖縄島北部「やんばるの森」を含む地域の世界遺産登録を目指し、同センターを含む沖縄の環境保護団体や市民がやってきたこと、今取り組んでいること、そして大きな基地負担という背景を持つ沖縄で、どのような活動が展開されてきたのかを吉川氏からお聞きした。

 現在、日本にはUNESCO(国連教育科学文化機関)の世界自然遺産に登録されている場所が4つある。知床・白神山地・小笠原諸島・屋久島。それらに続き、おそらく日本では最後の世界自然遺産登録地になるのではないかと言われているのが、奄美大島・徳之島・西表島、そしてやんばるの森を含む沖縄島北部である。

 この美しい島々は、日本では珍しい温暖・多湿な亜熱帯気候であり、世界自然遺産への推薦地の総面積は4万2698ha。日本全体の0.5%に過ぎないが、それぞれの島々で固有種が進化しており、豊かな生物多様性をもつ。ここでしか見られない固有種や、絶滅危惧種がたくさん生息している、とても貴重な場所なのだ。

 以下、当日配布された資料から引用する。

沖縄4島の動植物の生息状況、日本全土との比較(推薦地/日本全土)

 「固有種」
    維管束植物  188種/2,800種(7%)
    陸生哺乳類   13種/42種(31%)
    鳥類       4種/11種(36%)
    両生類     18種/65種(28%)

 「絶滅危惧種(環境省)」
    維管束植物  361種/1,786種(20%)
    陸生哺乳類   13種/33種(39%)
    鳥類      36種/97種(37%)
    両性類     10種/29種(34%)

 IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに登録されているのは、95種にものぼる。
 絶滅危惧種の「ヤンバルクイナ」や「ノグチゲラ」などは、やんばるの森にしか生息していない。

 今年2月、日本政府は、来年2020年の世界自然遺産登録に向けた推薦書を、UNESCOとその諮問機関であるIUCNに提出した。それによってIUCNの専門家による現地調査が、10月5日から12日にかけて行われることになった。

 実は、2017年1月にも日本政府は推薦書を提出したのだが、政府の予想に反して、IUCNは「登録延期」を勧告。抜本的な改定・再調査が必要と評価され、政府は登録を断念している。

 この「登録延期」の要因は、沖縄島北部に置かれた米軍基地・北部訓練場にあった。この部分が推薦地の中の「飛び地」になっていて、登録の条件である完全性(保護・保全に必要な要素がすべて揃っていること)がないとされたのだ。北部訓練場は2017年12月に半分が返還されたが、前回のIUCNの視察はその前であり、返還予定地については調査出来なかった。

 現在、やんばるの森には新たな米軍ヘリパッドが建設され、騒音被害は増し、反対を訴える住民らによる座り込みが続いている。返還された北部訓練場の半分は国立公園にはなったが、オスプレイの熱風で森は枯れ、強化プラスチックで作ったオスプレイの着陸台が溶けて残っている。さらには、手りゅう弾や薬きょう、米軍兵士が食べた野戦食のゴミがあちこちに散らばっている状態だという。

 こうした情報を日本政府がきちんと公表することなしに、IUCNも登録の判断はできないだろう。セミナーでは、沖縄の市民や環境保護団体は情報を公表したうえで、やんばるの森を世界自然遺産に登録させて、その後にさまざまな規制を活用しながら米軍の訓練を減らし、返還された地域を復元していくことを求めているという話があった。世界自然遺産のなかでは米軍も訓練しづらい、そういう状況にもっていきたいと考えているのだ。

 市民の働きかけによって、前回提出された世界自然遺産登録への推薦書にはなかった「米軍北部訓練場」の存在についての記載、さらには米軍が調査した貴重種の分布調査結果や保全措置計画についての記載が、今回の推薦書には加えられることになったという。

 さらに、当日の資料によれば以下の3つの要求についても取り組んでいるそうだ。

  • 現状の正確な記載として、「環境への脅威」として米軍の訓練について取り上げること
  • 北部訓練場返還地の汚染と廃棄物の現状を説明し、「環境復元の予算」を確保すること
  • 管理団体として環境省や沖縄県・自治体に加え、防衛省や米軍を記載すること

 吉川氏は、やんばるの森を「真の世界自然遺産」にしようと訴える。それは、北部訓練場が撤去され、ヘリパッドの騒音も汚染もない、人間も動物達も植物も、気持ちよく空気が吸える、やんばるの森の姿なのだ。

 重要なのは、今回が自然遺産登録の最後のチャンスになるかもしれないということ。先に紹介したようにやんばるの森を含めた沖縄4島には絶滅危惧種が多く、時間がない。絶滅してしまったら、取り返しがつかないのだ。地球温暖化で、自然環境が劇的に変わってしまっている今、必死に生きている野生動物を絶滅させてしまうのも人間、そして守れるのも人間だと思う。

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 辺野古・大浦湾での米軍基地建設からジュゴンを保護するため、そして基地建設を止めるために、沖縄・日本・米国の個人とNGOが米国防総省を相手に提訴した「ジュゴン訴訟」を応援する署名運動も行なわれています。こちらも、ぜひご覧ください。
 
「ジュゴン訴訟を応援してください! 沖縄のジュゴンを救おう!」
https://center-for-biological-diversity.jimdosite.com/

(田村久美子)