第6回:秋風と共にやってくる「決算審査」の前に(塚田ひさこ)

チャコの区議会物語

ついに「お茶出し」は廃止に!

 新型コロナウイルス感染症の勢いも一旦収束するのではとの期待も込めて、広島の平和祈念資料館の訪問をはじめ、地方自治体の視察や滋賀県での宿泊研修、タイミングを合わせて香川県高松市の実家への帰省など、関西・中国・四国をぐるっとまわるプランを立てていたこの夏。結局はすべてキャンセルにして、ほぼステイホームでオンライン研修やZOOM会議で過ごした8月も終わり、9月になりました。

 まず、報告を一つ。以前、委員会などにおける事務局職員による議員への「お茶出し」のことを書いたコラム『コロナ禍の最中に考えた「お茶出し廃止」について』が思った以上の「反響」でした。豊島区議会、そんなことをわざわざ議会で話し合っているのか? 税金の無駄遣いだよ、と区民にも怒られ、メディアからも珍しがられ取材されたりもしましたが、ついに! 9月11日に行われた「議会改革検討委員会」で、お茶出しは廃止されることになりました(正式には15日の正副幹事長会で決定となります)。

 お茶出しに代わるものとして自民党さんの提案で試行期間が設けられた置き配布(事務局がポットに入れた水と紙コップを用意し、委員会室に設置する)も必要ないということになり、今後は会議中の水分補給については、各議員が各自マイボトル、ペットボトルを持参する、中身に関しても「水かお茶など常識の範囲内で」ということに、全会派一致で決まりました。これで、旧庁舎時代から続いていたという「お茶出し議論」にようやく決着がついた、ということです。

 コロナ禍があったから廃止になった…だとすると情けない話ではありますが、議会における「オンライン会議」の検討なども、優先的に進める議題となっていますので、スピーディに「議会改革」を進めていきたいと思います。

予算審議とは? 決算審議とは?

 さて今は、9月16日から始まる豊島区議会第3回定例会に向けての準備が着々と進められているところ。本会議初日の1週間前にあたる9月9日には、審議される議案19件(条例4件、決算認定4件、補正予算4件、その他7件)が正副幹事長会(会派代表者会議)に提案され、それぞれの説明が副区長や担当理事者からありました。決算書など資料もどっさり渡されました。

 他の自治体もそうだと思いますが、9月の定例会は、会期中に「決算特別委員会」が開かれて、決算委員が前年度の決算審査を行います。もう済んでしまった会計の審査なので、3月に行われる「予算特別委員会」の比重の方が重く「予算の方が力が入る」と言う方もいますが、その力の入れ方や抜き方みたいなものは、1期生の私にはまだ全然わかりません。

 豊島区議会においては、区議会議員36名のうち、半分の18名が委員に選ばれ決算と予算の審査に参加します。その振り分けは議員番号「奇数」の議員が、任期の1年目と3年目に審査を担当。議員番号「偶数」が、2年目と4年目に担当することが決められています。私は任期2年目、議員番号9番なので昨年は委員として審査を担当しましたが、今年は決算も予算も委員会には出ません。しかし組んでいる会派からは2名が参加しますので、会派の委員の質疑を見守りつつ、要所要所で私の意見も反映させてもらおうと考えています。

 これから9月に行われるのは決算委員会ですが、予算と決算は一対のものとして考えた方がわかりやすいので、そもそも自治体にとって「予算」とは何か? をみていきましょう。

 自治体にとっての予算とは、会社などの組織と同じく、1年間に使うお金の全ての収支と支出の計画であり、これを表したものが「予算書」です。先の3月議会ではこの「予算書」をもとに今年度(2020年4月〜2021年3月)の予算が適切かどうかを審査し、私は予算案の可決に「賛成」しました。それに対して「決算」は、前年度の会計について、出納責任者が調整した書類を監査委員が審査し、その結果を議会が「認定」するものです。

 この9月に行う「決算審査」は、前年度(2019年4月〜2020年3月)の会計決算について審査をします。時期がずれているので、これを書いている今も、また書類を見る時も混乱しそうになります(役所の書類は、西暦と和暦が混同していて、本当にわかりにくいのです。西暦に統一してほしい、と切に思います)。

予算と決算は連続しているもの

 しかしここで大事なのは、「予算」というのは、議会に提案された時点では、その変更や改善をするのが大変に困難なことです。自治体の規模にもよるかもしれませんが、先輩議員に聞いてもそれはほぼ不可能なことのようです。ではどうすればいいのでしょうか。

 予算案が議会に出される前でも、前年度の決算の審査の際の分析などから、次年度の予算の見通しを立てることはできます。例えば今からだと、2021年度の予算が3月議会に出されて確定されてしまう前に、2019年の決算審査の中で気がついたことがあれば改めて調査などかけて、「予算確定前」に行われる委員会や定例会、区長への直接の要望などで調整を試みる。それによって、必要だと思われるところへの「予算拡充」というようなこともできるはずです(新人ゆえチャレンジしたことはまだありません)。その視点を持ちながら決算審査にのぞめば、より有意義で次につながる資料の読み方もできる気がします。自信なさげに書いているのは、そういうことを誰からか教えられたわけでも、実践したわけでもまだないので。しかし理論上はそうなります。

 決算はいわば予算が正当に使われたかどうかをみる「事後評価」となります。しかしながら実施した政策や事業は、単年度で終わりということは地方自治体においてはほとんどなく、継続的なものが一般的。決算もまた「中間評価」的な位置付けであって、連続性のあるものだという意識を持ちながら事業を見ておくことも大事なことでしょう。

百科事典のような「決算資料集」を枕にして寝る

 9月に入り定例会が近づくと、議員全員に書類の束がどっさり渡されます。決算参考書は百科事典(最近は持っている人をあまり見ないですが)くらいの分厚さだし、そのほかにも冊子が5〜6冊あり昨年初めて見た時は、「まさか全部は読まなくていいよね」と腰が引けましたが、結局はすべて1回以上は目を通しました。項目事業別の決算参考書は、抱いて眠るくらいの勢いで読み込みました。議事録も読みました。そうしないと、委員会での「一問一答型」の質問が作れなかったからです。

 委員会は9日間にわたって行われます。初日は、「総括の質疑」、2日目〜6日目は「項目別質疑」、7日は「一般会計歳出・公債費・3特別会計」、8日目は「全部の補足質疑」、9日目は「意見開陳と採決」と決められており、一人の質疑の持ち時間は12分+自由質疑で10分プラスして行うこともできます。私はちなみに昨年の決算特別委員会では、「決算総括」「部門別の審査」「意見開陳」と合計10回、1時間52分の質問を行いました。一人で2時間の質問やりとりをするって、結構な量だと思いませんか?

 実際には会派別に質疑応答をしていき、会派の人数が一番多い自民党豊島区議団(5人)は60分の持ち時間です。この60分を5人で割り振って質疑応答をしても、一人で行ってもいいというルールですが、時間は質疑と応答も含めての時間になります。この持ち時間は絶対厳守で、委員会室の大きなモニターに残り時間が表示され、残り時間が少なくなるとブザーがなり、持ち時間がゼロになると、またブザーがなるという仕組みです。

 昨年、私は会派に属していない一人議員でしたので、毎日一人で12分間を使って質問をしました。本会議場で行う「一般質問」や「反対討論」は、事前に原稿作成し、持ち時間内に収まるかどうか一度や二度は読んで練習もできますが、一問一答式の「質疑応答」は、こちらの質問に対して相手がどう答えるかによって、また次の質問を繰り出していかなければなりません。そして最終的には、12分の質疑応答の間に欲しい「答弁」をもらうか、こちらの「要望」を伝えて終えるという論理的なシナリオを作っておかなければなりません。そんな高度な「テクニック」を、議員になって半年も経っていない1年生議員が果たして駆使できるのかと不安でいっぱいでした。だからこそ、とりあえずは提供された資料は読みに読んだというところです。

 この時、先輩議員に聞いた「質問」のやり方として、1つの項目について3〜4つの事業に関しての質問の準備をしておくことというのがありました。というのも、他会派が私よりも先に質疑を行うので、そこで先に質問されてしまうということも往々にしてあるからです。なので、重なった場合はあわてずに別の質疑ができるよう、多めに準備をしておきます。また事前に理事者(担当所管の責任者)に、質問したい事業についてのヒアリングをかけておく、資料請求を行っておくなど事前準備も丁寧に行うにこしたことはない、と思いました。理事者と質問のすり合わせをしておく方が、良い答弁につながることもあります。

 ただ、こうした予算・決算委員会のやり方も、自治体によってずいぶん差があるようです。

「行政評価」は、区民への情報提供になっているのか?

 決算委員会の時に配布される資料に「行政評価」の評価表というのがあります。
 これは、2000年前後に国主導で作られた制度であり、例えば、豊島区のホームページには、以下のように制度の概要が書かれています。

評価にあたっては、区民本位の効率的で成果重視の区政への転換を図るため、「区民に満足されているか」「最も効果的にサービスが提供されているか」などの観点から指標を設定し、区民生活に与えた成果等を検証・評価することを通じて、区民の視点に立った行政運営を実現します。また、評価結果を公表することで、区政の透明性を高め、区民への説明責任を果たします。豊島区自治の推進に関する基本条例第42条において、行政評価の実施とその公表について規定しています。

 「評価結果を公表することで、区政の透明性を高め、区民への説明責任を果たします」など、なんだか満点の回答のような説明ですが、はたしてどれだけの区民がこれを知っていることでしょうか? ちなみに私は、議員になるまで知りませんでした! たぶん、よっぽどの「区政おたく」じゃないと、知らないと思います。

 この資料は、議員に決算特別委員会の資料として配布されるのと同じ資料で、行政情報コーナーや図書館で見ることができ、区の広報誌にも概要が掲載されます。見方や使い方によっては、どのような事業が行われているのかを、かなり詳しく知ることができ、区民自らが検証にも参加できるわけですが、今のようにただホームページに掲載しているだけでは一方通行すぎますし、「情報公開」といったところで、資料が専門的すぎて検証するには難しそう。だからこそ議員が市民の視点に立って、精査したり質問したり説明を促したりするのが重要なわけですが、今年からはこの「行政評価」に、新たに所管課から「予算要望」の項目が加わりました。要は「今年度の点数をつけて終わり」ではないということです。その観点からも注意して資料を見ていこうと思います。

 しかし、この「行政評価ファイル」もとてつもなく分厚い……。この資料を作成するのに、果たして職員はどのくらいの時間をかけているのだろうか、その仕事量に見合っただけの活用が果たしてなされているのか、という疑問も湧いたりはします。

自治体事業は、すべて「住民の福祉」のためにある

 そして最後になってしまいましたが、一番大事なこと。いうまでもなく、自治体で行われる事業は全て「税金」を使って行われる公共サービスなので、区民に全て還元されるべきものです。「自治法第2条第14項」にある「住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」が大原則となります。

 自治体は、5年〜10年の計画を立てて、自治体運営をしています。しかしここで誰も予想もしなかったことが起きているのが、今の「コロナ危機」です。そのためコロナ対策のための「補正予算」が定例会毎に組まれていますし、公共事業の変更も余儀なくされようとしています。どこを拡充しどこを先送りするのか。コロナ危機を経て、またはコロナ危機と共に、どうやって住民の生活や命を守っていくのか、そのためにどのような地域社会、まちづくりを目指していくのか。それはコロナ危機前と同じでいいはずはありません。首長の姿勢が示され、また問われるのが、第3回定例会だとも思っています。

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塚田ひさこ
塚田ひさこ(つかだ・ひさこ):豊島区議会議員・編集者。香川県高松市生まれ。香川県立高松高校、成城大学卒業後、サントリー(株)など民間会社勤務を経て、2005年憲法と社会問題を考えるウェブマガジン「マガジン9条」(現「マガジン9」)の立ち上げからメンバーとして関わり、運営・企画・編集など事務局担当。2019年5月地方統一選挙にて初当選。email:office@toshima.site twitter:@hisakotsukada9