政治家は、誰のために仕事をするのか(西村リユ)

 次の日曜日、大阪で「大阪市廃止・特別区設置」を問う住民投票が行われます。
 ご存じの方には言わずもがなですが、投票で「賛成」が多数を占めたとしても、「大阪市」が廃止されて四つの特別区が設置されるのみであり、「大阪都」ができることはありません。なので、多くのメディアが使い続けている「大阪都構想」住民投票という言い方は、明らかにミスリードだと思います(通称、ということなのかもしれませんが、投票の行方に影響を及ぼすような言葉の使い方はやっぱり、おかしいのではないでしょうか)。
 現状、賛否は拮抗しているといわれており、投票日を前に「大阪市廃止・特別区設置」を推進する吉村洋文大阪市長、松井一郎大阪府知事は、街頭演説だけではなくSNSなどで盛んに「賛成」への投票を呼びかけています。流れてくるツイートを眺めていて、強い違和感を覚えました。

 「負けています。我々は〜」「反対派のデマが〜」。まるで、どこかに「都構想反対派」という「敵」がいて、それと自分たちは闘っているのだ、というような物言いです。でも、考えてみれば、「反対」に票を投じようとしている人たちも、同じ大阪市民。本来なら、いっしょになってよりよい大阪市を作っていこうとする「仲間」であるはずではないのでしょうか。松井市長や吉村知事にとっては、「都構想賛成」の市民だけが仲間であって、それ以外の市民は敵だとでもいうのでしょうか。
 自分と意見の違う住民の声にも耳を傾け、説明や議論を重ねて、ときには自分の考えにも修正を加えながら、よりよい未来のための合意を作り上げていく。首長の役割とは、そういうものだと思います。「都構想」が大阪の未来にどうしても必要だと考えるのなら、やるべきことは、どれだけ時間がかかっても丁寧に説明やプランの修正を重ね、多くの人の合意が得られるように持っていくことではなかったのか。住民を二分する「住民投票」を何度も強行し、反対する住民を「敵」と決めつけることは、地域に分断と対立を持ち込むことでしかなかったのではないか。そんな思いがしてなりません。
 かつて、安倍晋三前首相も街頭演説で、自分に対して「やめろ」のコールをあげた聴衆を指して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い捨てました。これもまた、自分に賛同しない人たちを「敵」と見なし、自分が統べる「国民」という集団から排除しようとする発言だといえます。
 前米大統領のバラク・オバマ氏は、2008年の大統領選勝利演説で、自分に投票しなかった人たちに向けて「私には、皆さんの声も聞こえています」「私は皆さんの大統領にもなるつもりです」と語りかけました。そんなふうに、自分を支持しない人も含めた住民全体、国民全体のために働くのが、政治家という仕事なのではないでしょうか。自分に賛同する人たちのためにだけしか仕事をする気がないのであれば、その人は政治家としての資質に決定的に欠けていると言うべきではないかと思うのです。

 今回の大阪での住民投票が、どんな結果に終わるのかは分かりませんが、その結果が地域の大きな分断や対立につながらないことを願うのみです。そして、これから先の選挙のときには、「すべての住民」「すべての国民」のために仕事をしようとする政治家を見極め、選びたい。そう思っています。

(西村リユ)

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