第143回:怨敵退散、怨敵退散、ぐわーっ!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

国会前に櫓を組んで

 子どものころ観た時代劇映画の中に、山伏装束みたいな男たちが左手で印を組み、互い違いに組んだ焚き木の火に何かを投げ入れながら、その炎に向かって「オンテキタイサンオンテキタイサーンッ、ぐわーっあーっ!」などと不気味な声で祈祷をしている、なんて場面があった。幼いぼくには意味が分からなかったけれど、後になって、あれは「怨敵退散」と唱えているのだ、と物知りの年上の従兄が教えてくれた。
 それがどういうものか、今もぼくはよく知らない。多分、怨みを抱いた敵に呪いをかけたり、流行り病(今でいう感染症か?)の退散(終息)を願ったりする祈祷なのだろう。
 そんなことは、すっかり忘れていたが、菅政権のオエライ大臣が思わず漏らした「これからどうなるかは神のみぞ知る」なる一言で、不気味な祈祷の場面が蘇ったのですよ。神頼みかよ、大臣が……と。
 それじゃあ、国会前に櫓でも組んで、盛大に「怨敵退散」の御祈祷大会をやりますか。この国から無能な政治家たちを退散させるのが、今やコロナ対策のいちばんいい方法なのだと思うから……。

頭痛がするようなコロナ対策!

 新型コロナウイルスの拡大が止まらない。それへの何か具体的な対策を、ニッポン政治のリーダーたちはぼくらに少しでも示してくれただろうか?
 ちょっと挙げてみよう。

◎「静かなマスク会食を」菅義偉首相
◎「気をつけながら『GoToトラベル』継続を」菅首相&赤羽一嘉国交相
◎「これからどうなるか神のみぞ知る」西村康稔経済再生担当相
◎「大学で対面授業再開を」萩生田光一文科相
◎「ワクチン接種は個人の判断」加藤勝信官房長官
◎「5つの小」小池百合子東京都知事
◎「東京都のGoToイート食事券発売」小池都知事
◎「コロナに打ち勝った証としての東京五輪開催を」菅首相&バッハIOC会長
◎「フェイスシールドの使い方を“丁寧”に説明」田村憲久厚労相

 オマケは尾身茂専門家分科会会長が「ふんどしを締め直す時期」だって。
 神頼みにふんどしかよ。古いギャグだが「頭痛が痛いぜ!」
 もうメチャクチャなんだよ、すべてが! こんなものの、いったいどこが「コロナ対策」だというのか。

ついに「GoTo」見直し、だが…

 菅首相は「専門家の意見を十分に聞きながら対策を行っている。専門家の意見によれば、現状では『GoToキャンペーン』を止める状況ではない」とこれまで繰り返してきた。菅発言のデタラメさは今に始まったことではないが、専門家っていったい誰なんだ?
 中川俊男日本医師会会長は、再三にわたって「状況は逼迫している。『GoTo』が第3波のきっかけになったことは間違いない。キャンペーンを見直すべきだ」と何度も発言している。日本医師会の会長は、全国の医師たちの代表者である。つまり、専門家の総元締めだ。そういう人物が、政府のコロナ対策を厳しく批判し、「GoToトラベル」の見直しを求めているのだ。さらに、東京都医師会の尾崎治夫会長も、かなり厳しい口調で「GoTo見直し」を迫っている。菅首相は、いったい誰の言うことを聞いて「現状では止める必要はない」などと繰り返したのだろう?
 なんらかの“利権”が絡み付いていると思わざるを得ない。そう考えなければ、菅首相の「GoToトラベル」への執着ぶりは理解できない。多分、菅氏の周辺だって「このキャンペーンはいったん中止すべきだ」と思っている人は多いだろう。しかし、菅首相の冷酷な人事、「わたしの政策に反対するものは異動してもらう」が怖くて言い出せない…というのがホントのところだろう。
 先週末になって、さすがに“専門家”の分科会は「GoTo見直しを切望する」という提言を行った。「専門家の意見を聞いて」と繰り返していた以上、菅首相もそれを無視するわけにもいかなくなった。そこで渋々ながら見直しに言及した。ところが、どこをどう見直すかがまるで分らない。「各地方の知事の意見を尊重して……」と、またしても“人のふんどしで相撲をとる”つもりらしい。
 ここまでくると、溜息しか出てこない。

「対案お化け」界隈の人々

 西村経済再生担当相の「神のみぞ知る」発言にはぶっ飛んだけれど、彼は正直な“おバカさん”だった。正直だから、つい思ったことを口走ってしまった。言ってから「こりゃマズイ」と気づいてか「尾身会長もよくおっしゃっているが」と他人におっかぶせようとしたけれど、時すでに遅し、後の祭り。要するにバカなのだ。
 自民党って、ホントに人材豊富であることよ。

 こうやって菅政権の無策ぶりをあげつらうと、すぐにお出ましになるのがネット右翼諸兄諸姉。「じゃあ対案出してみろよ」と言い立てる。「対案お化け」「対案バカ」とぼくは名づけた。「対案もなしに、テキトーなことを言うな」と絡んでくる。
 本来、「案(政策案)」とは政府(行政側)が作るもので、案を作れないようだったら政権失格である。さっさと次に譲って官邸を明け渡すべきだ。
 「野党は批判ばっかり」と言うけれど、野党はそれが仕事なのだ。ひどい「案」を批判して、まともな「案」に作り変えさせることが野党のいちばん大切な仕事なのだ。
 「対案お化け」界隈のみなさん、分かりましたか?

それでも「対案」を

 それでも「対案を」というなら、少なくとも「マスク会食」や「5つの小」よりはまともなことくらい、すぐに浮かぶ。
 例えば「GoToキャンペーン」は一旦中止する。そして、経済的打撃を受けた業者には減収分を行政が補填する。また、コロナ禍で困窮に陥った人たちには、せめて生活できる程度の現金を支給する。
 こんな意見には「どっからそんなカネを捻出するんだ?」という批判が飛んでくる。
 あるんだよ、カネなんて!

 まずバッハ会長や森喜朗組織委員長には悪いけれど、東京オリンピックを中止することだ。そして追加負担金を救済策に回す。だいたい、当初7千億円程度だったはずの五輪予算が、なぜ1兆4千億円に膨れ上がったのか。それを考えれば、今からでも中止すれば、捻り出せる金額はそうとうの額になるだろう。
 沖縄辺野古基地建設を中止する。ここでも本来、3千億円規模の予算だったものが、いつの間にか政府試算でも9千億円、実際には1兆円を軽く超える額に膨れ上がっている。これをコロナ対策に回せば、つかの間の息継ぎにはなる。だいたい、大浦湾側にマヨネーズ状の超軟弱地盤が見つかり、工事完成は不可能だと言われているじゃないか。不可能なものにカネをつぎ込む必要などない。
 まだあるよ。取りやめになったイージス・アショア(新型地上迎撃ミサイルシステム)の代替案にイージス艦を新たに2隻建造する案が出ているというが、この費用がなんと5千億円超だという。5千億円あれば、どれほどの人を救えるか。たった10億円の日本学術会議予算にエラそうにクレームつけるのにねえ。
 むろん、アメリカから押し付けられているF35戦闘爆撃機は、とりあえず購入を見合わせればいい。その費用はこれも1兆円を超えると言われている。
 ここに挙げた例だけを見ても、膨大な救済予算が組めるだろう。
 すぐに対案を出せと迫って、出さなければ「論破したあー!」と雄叫びを上げる「対案お化け」の方々に、まあ、これだけの「対案」を差し上げる。
 するとまた「ニッポンの安全保障を投げ捨てるのかっ!」との罵声が降ってくる。だけど、「東京オリンピック」と安全保障はどう関係するんだ? オリンピックだけでも中止したっていいじゃないか。
 いま生きるか死ぬかの瀬戸際にある人たちを救わなくてなにが政治だよ、とぼくは思う。現在、世界は新型コロナウイルスのパンデミックに呻吟している。それを片付けるのが何よりの政治課題だろう。コロナ対策を成し遂げた後で、安全保障でもなんでも、もう一度議論し直すというのが筋ではないか。
 ぼくの考えは間違っているだろうか。
 何はともあれ今は、「オンテキタイサーンッ!」である。無能な政治家たちこそ、まさに「怨敵」なんだから。

 「国民のために働く」はずの菅さん、毎日毎日どこぞのホテルの「ORIGAMI」とやらで、美味しいご飯(えっ、ご飯じゃなくてパンだって?)を食べながら、お友だちと「静かなマスク会食」している場合じゃないだろうよっ!

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。