第8回:コロナで顕在化した女性の生きづらさとその背景への認識を問う(塚田ひさこ)

チャコの区議会物語

議会中は何をやっているのか?

 連載も第8回となりましたが、最も基本的なことをまだ、書いていませんでした(汗)。「議会中」って、何をやっているの? ということです。

 区議会は、1年間のうちに4回の「定例会」があります。定例会とは定期的に招集される議会のことで、この期間中を「議会中」と呼び、議案や陳情・請願の審議や「一般質問」が行われます、というのは以前書いた通りです。

 議案や陳情・請願は、本会議の初日に上程されて、内容によって各委員会に付託され、そこで常任委員会のメンバーによって審議がされます。委員会は1日で終わることが多いようですが、案件が多い時や議論が白熱(?)した時は、2日間に渡って行われます。

 この委員会の任期は1年で、1年ごとに所属を変わる人もいれば、同じ委員会のまま、経験を積んでいく人もいます。いずれにしても会派ごとに各委員の人数が割り当てられるので、会派の中で話し合ってローテーションを組んだり、専門分野を深めたりといった調整をしているようです。

 昨年、私が一人会派だった時は区民厚生委員会の所属でしたが、無所属の会のメンバーになったことで、会派4人で話し合いをし、今年は都市整備委員会に所属しています。そんなわけで、どうしても昨年所属していた委員会と、現在の委員会を比べることになってしまいます。委員会については、また別の機会に書きたいと思います。

本会議場で直接答弁を求める一般質問

 さて、議会では当たり前のように使う「一般質問」という言葉ですが、一体何のことをさしているのか? 誰が誰に対して質問をし、誰が答えるのか? そして何のために? と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。これも「業界言葉」ですよね。

 私も最初のころは、よくわからないままでしたが、『市民派議員になるための本』(WAVE出版)には、「一般質問というのは、議員にとって最も重要な発言の場である」と書かれてあったので、その責任の重さみたいなものに押しつぶされそうになりました。いや、今も緊張しますけれどね。

 一般質問とは、議員一人ひとりが本会議場にて行政の長である区長や教育長に対して直接答弁を求めるもので、区長の所信や政治姿勢を問うたり責任を明確にしたりすることで、政策の変更や新規政策を採用させる目的と効果があります。

 一般質問のルールは、各自治体議会が改選ごとに申し合わせで決めています。豊島区議会では1年間に4回ある定例会において、1回につき1人10分の割り当てがあり、2人以上の会派には人数×10分+10分が与えられます。昨年私は1人会派だったので、1年間に40分間の割り当てがありました。この持ち時間は、毎回10分ずつ使わなくても良いので、昨年私は、10分、15分、15分、と3回の一般質問を行いました。今年は4人会派なので、会派として1回の定例会につき50分の持ち時間があります。一人の議員が50分全部を使って質問を行ってもいいし、複数の議員が分けて行ってもかまいません。

 豊島区議会の場合は、一般質問は2日間に渡って行われますので、大きな会派でも2人が代表して、それぞれ1日に1人ずつ質問をする、というのが慣例のようです。それもコロナ禍になってからは、長時間の議会にならないよう「運営に協力する」ということで、一般質問の時間はなるべく短めにと言われており、「我々も持ち時間を使い切らずに終わらせるから、小さい会派もそうするよね」という大きな会派からの「圧」が、今年の第2回定例会から現在会期中の第4回定例会まで、続いています。

 この「運営に協力する」とは何なのか? 議会の時間を短縮することが、議会や議員および職員のコロナ対策につながるのか? については、後ほどまた述べたいと思います。

 一般質問の話にもどりましょう。これは通告制になっているので、議員は区議会事務局に事前に何について質問するかを伝え、質問原稿を提出し、区側も答弁する内容について用意をします(答弁の内容については、議員には事前には知らされません)。

 「一般質問」と「答弁」は、議事録にも残りますし、大変に重たい意味と責任が生じますので、質問原稿は、ヒアリングや情報収集を行い、獲得したい目的を明確にした上で、論理的な説得力を持って展開することが必要です。各議員の一般質問を聞いていると、それぞれの考え方や政策の内容もわかります。一般質問は、ある意味、議員の力の見せ所でもあり力量が問われる場でもあるのです。

 うがった見方かもしれませんが、大きな会派による「質問」と「答弁」は、いつも見事に噛み合っています。もう一つの「区長所信挨拶」のごとく、そこで新しい事業や方向性を知ることも少なくありません。同じような趣旨の質問でも、質問した会派やその聞き方によって答弁が違ってくるのだということも、だんだんと分かってきました。答弁でひとたび「やりません」と否定されてしまったら、次の展開が難しくなりますから、そのあたりはうまく質問を持っていくことも重要だと教わりました。

「女性の貧困」への認識と背景について問う

 さて、今定例会で私は一般質問に立ちました。決算特別委員会と予算特別委員会の狭間でもある今定例会において、何を質問の軸にしようかと、いろいろ迷ったのですが、以前よりずっと気になってきた「女性の生きづらさ」、そして「女性の貧困問題」がコロナ禍であぶり出され、待ったなしの深刻な状況になっているので、これを正面から取り上げることにしました。

 女性をとりまく様々な問題、DV被害や性被害、パワハラ、セクハラ……私はそれらの問題の根幹には「男女の賃金格差」や「女性が一人ではなかなか自立・自活できないようになっている社会構造」があるのでは、とこの間ずっと考えてきています。逆にいえば、女性が一人でもちゃんと自立できるような社会であれば、すなわち男女の賃金格差がなくなり、女性が自活できる支援策が打ち出せていれば、それらの問題は解決するのではないか、と思うのです。

 質問原稿作成にあたっては、そういった大きなテーマをどうやって区政の問題に落とし込んでいくかを考えました。「女性の貧困問題」は、男女賃金格差や非正規雇用の問題、とりわけ公務員の正規職員を削減して非正規雇用(会計年度任用職員)の割合をどんどん増やしていったこととも無関係ではないということ。また経済的な不安に加え尊厳を奪われ、理不尽を強いられ、暴力に追い詰められ、生きづらさを抱えている女性が大勢おり、絶望して死を選ぶ人も若い方を中心に増えていることを、きちんと認識してもらうことが重要と考えました。

 会派の持ち時間は50分ですが、今回は私を含め2人が一般質問をしましたので、私は25分で通告しました。この持ち時間よりも、質問が早く終わる分には良いのですが、1分でもオーバーすると代表者会議で大会派から注意を受けることになります。私はこれまでオーバーしたことはないので、注意や小言を受けたことはありませんが、「絶対にオーバーしてはならない」と思うあまりに、ものすごく早口でしゃべってしまった苦い経験もあります。

 しかし、この謎のルール、大会派所属の1期生議員がゆっくり話し過ぎて、かなりオーバーした時には誰もおとがめなしだったこともあり、あまりにも都合よく使われるものだな、と思ったものです。

 一般質問の冒頭では、最初に議会事務局に提出する「質問通告」に沿って、タイトルや大項目を読み上げます。以下、私が行った質問についてざっとあげておきます。

(表題)
「すべての人が個人として尊重されるまち、豊島」
(項目)
・新型コロナウイルスで顕在化した問題について
・公務を担う人たちの労働問題について
・女性の生きづらさ:急増している女性の自殺

質問:支援の網の目から落ちてしまっているのが、非正規やパートなどで生計をたてている女性です。シングルで不安定雇用の中、仕事を掛け持ちしながら一人暮らしをしている女性、またシングルで同居する親の介護を担っている方々なのではないかと考えます。親元から離れて一人暮らしをする女子学生も、バイトなどで生活費をまかなうことが多くなっていると聞きます。そういった方々が、どのくらいの人数、豊島区内に住んでいるのかは、把握できているのでしょうか?

質問:子どもを持たないシングル女性でぎりぎりの生活を送っている人たちについては、支援体制やつながる機関についても、少ないと感じています。困っていても声を上げにくいとも聞いています。この点について、区としてはどのように考えておりますでしょうか?

質問:コロナの終息が見通せないこともありますし、また豊島区の人口構成も少子高齢化に変化しているわけで、様々な行政需要が増えていることから、この増えたままの「経常業務」が一般となるはずです。そうしたところ、これまでの「定員適正化」の考え方、経費削減すなわち人件費削減は、考え直す時にきていると思いますが、この点はいかがでしょうか?

質問:就職氷河期世代が新卒の時代には、本区の採用はゼロが続いたと聞いています。その世代の公務を担う人たちがずっぽり抜けていると、スキルを若い世代につなぐことも難しく、公務の空洞化を生んでしまうのではないかとの懸念があります。正規職員が難しければ、この世代の人員を確保するなんらかの手立てが必要と考えますがいかがでしょうか?

最後は「本当に苦しい人たち、女性たちを救わなくてはなりません。少しでも安定的で安心できる仕事につながるよう、そして自立し自活ができるパワーを手に入れて、理不尽な立場においやられたり、暴力に悩まされたりしないよう、そして絶望して自ら命をたつなどということが絶対にないように。すべての人が、『個人』として尊重される、誇り高く生きていけるとしま区民であるための政策を求めます。誰も取り残してはなりません」という言葉で締めくくりました。*質問全文はこちら。

 区からの答弁については、はっきりいって満足できるものではありませんでしたが、それでも

 「新型コロナウイルスの発生により、日本中が経済はもとより様々なダメージを受けており、就業や家庭生活の急変などその影響は、より女性が被っていることを、認識をしている」

 「削減ありきではない定員管理のあり方について、後期基本計画の策定の中でも検討をする」

 「(就職氷河期の)大変厳しい採用環境のなかで、社会経験を積んできた優秀な人材を積極的に採用し、あわせて職員構成の適正化にも努めていく」

 「コロナ禍において、より顕在化してきたといわれる女性の貧困の問題を捉えるには、若年女性等が向き合っておられる状況において把握することが重要であると考えている。実情の把握がどのようにできるか検討していく」

 などの答弁が得られたことは、認識をさらに深めてもらい次につながる契機になり良かったと思っています。

闊達な議論がおきない場所

 議員になって1年半以上が経ちましたが、まだまだよくわからないのが、議会運営のルールです。こればかりは、覚えていくしかないし慣れていくしかない、と思ってやってきましたが、そこにそんなにこだわるのか? と思う不思議なことがたくさんあります。

 その一つが、先に書いた一般質問の時間厳守についてです。コロナ禍のさなか、議会中の感染リスクを下げるために、ソーシャルディスタンスをとるために座席の間隔をあける、出席する理事者の人数を減らす、リモート会議の導入についての検証を進める、といったことは理解できます。しかし、コロナ禍だから、「議会を早く終わらせよう」というのは、私にはとても理解できません。顔をあわせて長時間集まることのリスクが高まるのであれば、オンラインによる対応に代えても、必要な議論は行うべきではないでしょうか。

 「運営に協力して一般質問の時間を短くする」というのもそうですが、委員会などにおいても、「運営に協力して、質問を長くしないで」とか「(議案が少ないから)委員会の最短記録をつくろう」など、冗談にもならないことを、それなりのポジションを経験した議員が1期生議員の前で言うのは、「質問するなよ」という「圧」に感じることもあります。質問がないと答弁も得られず、その後の議論にもなりません。議論をしない議会や議員にどんな意味があるんでしょうか? と考えてしまいます。

 時間をかけて議論を深めていくことを遮るような行為、それが直接的なことでなくとも、闊達な議論をさせない雰囲気を作るというのは、民主主義に反している行為でさえある、と思います。

 また、これもひどいなと思うのですが、本会議中だけでなく、委員会の時も、寝ている議員がいるのには驚きます。このところ、傍聴者の数も減っているので、前にもまして、堂々と寝て、いびきまでかいている人もいて、ほかの職場だとこんなに仕事中に寝ていたらクビだろうな、と思ってしまいます。

民主主義を取り戻そう

 でも彼らも選挙で選ばれた議員であり、市民の代表だからね、という言葉もよく言われることですが、選挙に行かない人たち、誰も選ばない人たちが半数以上いるから、こういう事態になっているとも言えるでしょう。

 私は、「マガジン9」で憲法を知り、取材やインタビューを重ねていく中で、危機的な永田町の状況を変えるためには、まず「民主主義の学校」と言われている足元の地方自治からだと思い、向いていない政治の世界に飛び込んだわけですが、1年半が過ぎて、「民主主義」は地方議会においてもすっかり形骸化しているんだ、と思うことばかりです。これはかなりの落胆でした。

 議会に入って、同じ思いの議員とはつながって活動をしていますが、とにかく少数派の弱小会派なのでなかなか苦しいところではあります。やっぱり議会では「数」が必要です。

 そんなわけなので、議会の外に同じ思いの人たちを増やしていく、または同じ思いの人を応援することが、地道だけど必要なことだと考え、地域で参加型の勉強会を立ち上げました! 題して「知る・考える・つながる講座」。毎回さまざまなゲスト講師をお呼びし、学び合いながら参加者のみなさんとも意見交換をし、回を重ねることで、つながっていくことを期待しています。もちろん誰の意見も遮ることなく、自由に語り合う会です。

 すでに第1回は作家の雨宮処凛さんに来ていただき、今回の一般質問の土台にもなった「女性の貧困」とコロナ禍について、語り合いました。

 次回は12月13日を予定しています。こちらはゲスト講師に、近現代史を大学で教えている伊勢弘志さんをお迎えして、「近現代史」講座をシリーズでやっていくにあたっての、キックオフ会になります。近現代史を学ぶことは、今の日本社会がなんでこんなに生きづらいのか……を解き明かすことであり、あの戦争へと向かう中で市民たちの自由や命が奪われていったように、未来の子どもたちが同じような流れに巻き込まれないためには、私たちがどうすればいいのかを考えるための重要なツールなのです。

 コツコツと、民主主義をとりもどす活動を、議会内外でやっていきます。

 ●【第2回 知る・考える・つながる講座】「 未来のために知っておきたい! わたしたちの近現代史」講師:伊勢弘志さん
 ※オンラインでも開催します。
 
 *お申し込みはこちら: https://tsunagaru202012.peatix.com/

 どなたでも参加できます。ぜひ、のぞいてみてください。

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塚田ひさこ
塚田ひさこ(つかだ・ひさこ):豊島区議会議員・編集者。香川県高松市生まれ。香川県立高松高校、成城大学卒業後、サントリー(株)など民間会社勤務を経て、2005年憲法と社会問題を考えるウェブマガジン「マガジン9条」(現「マガジン9」)の立ち上げからメンバーとして関わり、運営・企画・編集など事務局担当。2019年5月地方統一選挙にて初当選。email:office@toshima.site twitter:@hisakotsukada9