第147回:千句まで(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 2020年、終わります。
 一緒にこの国も終わりかけているような気がします。

 ぼくは、さまざまなところで安倍政権を批判してきた。コラムや書評や小さな市民TV局(デモクラシータイムス)などで、それなりに発信してきた。やっと安倍晋三氏は退陣した。体調不良ということではあったけれど、実は桜疑惑や森友・加計学園疑惑を追及され、ついに“追い込まれ辞職”に至ったというのが真相だろう。
 まあ、どっちでもいいけれど、ちょっとだけホッとしたのだ。ところが、その後がいけない。後継の菅義偉氏にはガッカリの10乗。“たたき上げの苦労人”や“集団就職神話”を武器に、あれよあれよの“談合首相”。そのあまりの経歴詐称にぼくは唖然とした。秋田出身を売り物にするのだから、同じ故郷のぼくとしてはアッタマにきて、もうしばらくは同郷出身を口にしないと決めたほどだ。

「川柳もどき」を作ってみました…

 こんな菅内閣、また批判を続けなきゃならない。でも、堅苦しい文章はどうも批判としては弱い。あまり読んでもらえない。だったら、別の方法はないか。
 2019年に急逝した木内みどりさんは、ステキな本を遺してくれた。『私にも絵が描けた! コーチはTwitter』である。
 木内さんが娘さんに「鳥の絵を描いて」と言われて初めて描いた絵は、なんと4本足の鳥だった。大笑いされた木内さんは一念発起、毎日1枚の絵を描くことを自分に課した。そして、その絵を毎日ツイッターに投稿した。それを1年分まとめて本にしたのが、この『私にも絵が描けた!』なのである。
 本を開く。すると、木内さんの絵が日々変わっていくのが手に取るように分かる。生き生きと、進化しているのが見える。次第に使う画材も変化していく。ペン画だったものが、絵の具を使いこなすようになる。才能が目覚めていくのが見ていて嬉しい。

 というわけで、ぼくもやってみようと思ったのだが、人真似じゃつまらない。それに、ぼくは根っからの活字人間。25歳から数十年間、編集という活字の世界で生きてきた。じゃあ、絵じゃなくて文だよな。でも、ただの文じゃつまらない。
 そこで、衝動的に「川柳(みたいなもの)」を作ってみようか、と思った。だけど、本格的な川柳ってものすごく難しい。素人に簡単にできるはずもない。
 ぼくの友人に元岩波新書編集長だった坂巻克己さんという人物がいる。ものすごく生真面目な男だが、彼が無類の川柳好き。その彼にしても「朝日川柳」に月に1~2度掲載されればいいほうだという。それほど川柳は底が深い。
 そんな深い世界に、ぼくなんかが入ったって、どうせド素人の手慰み、ろくなものができるはずがない。なのにぼくは「えいやっ!」と深い淵へ飛び込んでしまった。ついでに勢いあまって「千句まで」というバカバカしい宣言をぶち上げちゃった。
 毎日ひねり出した五七五を、出来不出来はともかく、木内さんの真似をして毎日ツイッターに投稿しようと決めたのだ。バカだよねえ。投稿はいいとして、せめて「百句まで」とか「二百句まで」くらいにしとけばいいものを、深く考えもせずに「千句まで」とやっちゃったものだから、後悔しても後の祭り。完全に自分の首を絞めているんですよ。

 最近では、カミさんに話す言葉も七五調。
 「今晩の飯は何にしましょうか。どうせならお鍋がいいと思います。牛肉のいいのがあったらお願いね」なんてしゃべるものだから、カミさん、呆れ顔。
 というわけで、最近作った川柳(もどき)を、順不同で公開します。わたくし、後期高齢者の仲間入り。恥ずかしいなんて言葉も遠い彼方ですから、乞うご笑覧。

GoToに 信号機さえ 目を回し
(そりゃあ、こんなにクルクル変わるんじゃ……)

「蔓延」や 「逼迫」などの 字を覚え
(こんな字、書けなかったのに)

「責任」は アベスガ辞書から 削除され
(代わりに「差し控えます」が加わりました)

ワクチンを 待つが仕事か IOC
(JOCもね。他にやることもないし……それでも高給とり)

五輪の輪 ひとつふたつは 欠けるはず
(不参加国が続出、何が平和の祭典じゃ!)

聖なる火 反対の波 かきわけて
(この時期に聖火コースの発表だって、すげえ)

大阪は 自分で壊して 大慌て
(医療崩壊って、維新が壊したんじゃないですか?)

あといくつ ウソを聞いたら 除夜の鐘
(安倍氏は33回のウソを国会でついたというけれど…百八つまで?)

高齢者 厄介者の 仕打ち受け
(今まで頑張ってきたんですけどねえ……)

スシローは お次は誰の 寿司を食う?
(あの顔、もう見たくないのですが……)

寿司喰いねえ ジャーナリストだってねえ 寿司喰いねえ
(寿司喰って ジャーナリストの名を捨てた……という人も)

はやぶさが 迷子になると 泣く子かな
(すぐに次のミッションへ旅立ち、無事に帰ってこられるか)

ウイルスも 人や県境 選ばない
(2011年3月11日にも、同じようなプルームが……)

汚染水 処理をしたって 汚染水
(それでも「風評被害」だなんだと……)

ふるさとじゃ 太郎の屋根に 雪降り積む
(次郎に屋根にも……、それにしても大雪だなあ)

鉄壁が ブリキの塀と バレちまい
(ガースー氏「答えは差し控える」「まったく問題ない」で押し通しただけだった)

たたきあげ 民の心を シバキあげ
(誰だよ「庶民の心が分かる人」なんて持ち上げていたのは)

政治家にだけ許される 忘年会
(「#はしご会食首相」を始め、アイツもコイツも地方でも……)

知らねえよ 首相の真似を しただけじゃん
(若者が感染を広めているんだって?)

仲悪し しゃべらぬ首相と しゃべる知事
(あの人とこの人)

公明党 いつまで自民の 下駄の雪
(いくら大雪だからって……もういい加減……)

アベとスガ 仲違いして サツ動く
(……と期待していたら、検察は腰砕け模様。やっぱりねえ)

次はこれ 慰安ハガキね ユリコ知事
(五つの小、コロナかるた、今度は慰安ハガキ…戦時中の国防婦人会かよ)

越後屋と 代官ばかりの 永田町
(貰った卵から黄色い膿が出る元農相)

社民党 つわものどもが 夢の跡
(ああ、栄光の非武装中立は今どこに? 悲しいなあ……)

ゆく年は 音色くぐもる 除夜の鐘
(ひどい年だったなあ、ぐぶぅおぅ~ん~~~~)

おめでとうと 書く気になれぬ 年賀状
(なんて書けばいいんだろう? いっそ出すのは止めちゃおか)

淋しいが 帰って来るなと 爺と婆
(孫の顔が見たいねえ、でもなあ……)

千句まで 粗製乱造 お目こぼし
(先長し 息も絶え絶え 千句まで ←おまけ)

 では、また来年……。
 みなさん、お元気でいて下さい。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。