本間龍さんに聞いた:コロナ感染リスクと膨らむ予算、それでもオリンピック開催にこだわる理由

昨年、ギリギリになって2021年への開催延期が決定した、東京オリンピック・パラリンピック大会。しかし現在に至っても、世界中で新型コロナウイルス感染症は収束しておらず、ワクチン接種もまだ進んでいません。首都圏では、病床の逼迫を理由に緊急事態宣言も延長されたばかりです。コロナ対策が後手にまわるなか、この状況下で本当に開催することができるのでしょうか。オリンピックに関するさまざまな問題を追い続けてきた作家の本間龍さんに伺いました。

無観客でも海外から数万人。コロナ対策、できるの?

──2020年開催予定だった東京オリンピック・パラリンピック大会が延期されて早1年がたとうとしています。しかし、コロナの感染はいまだ収束したとは言いがたい状況で、日本国内でも新たな感染者が出続けています。それにもかかわらず、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会や政府、東京都などは「何が何でも今年の夏には開催する」と言い続けていますが、本当にできるのでしょうか。

本間 「開催できるかどうか」というだけなら、物理的にはできるでしょう。ただ、政府や組織委員会も言い出しているように、海外からの観客は入れない、無観客で開催するというなら、それはもうオリンピックとは言えないと思います。世界中からいろいろな人が会場に集まって熱気にあふれ、声援が飛び、歓声が上がる。会場の外でも外国人選手や観光客と日本人が交流する。そういうエモーショナルな感動があってこそのオリンピックでしょう。それが一切ないというなら、単なるスポーツイベントと何ら変わりません。
 オリンピックの理念や哲学など、すべてかなぐり捨ててそれでもとにかくやるんだと、「開催すること」だけが自己目的化している。そこに何兆円もの税金を投入していいのか、と言いたいですね。

──理念をさておいたとして、観客を入れず、選手だけならコロナの感染拡大を抑えることはできるでしょうか?

本間 観客は入れないとしても、選手と大会関係者だけで2〜3万人はいます。さらに世界中から数万人のメディア関係者がくる。メディアをシャットアウトしたらオリンピック自体が世界中に報道されなくなるので、それはありえません。ですから、すべて合わせると大会にあわせてやってくる人たちは5万人以上になるはずです。
 今は防疫対策として厳しく入国制限しているのに、オリンピックのために5万人以上の不特定多数の人が外国から入ってくる。それでいいんですか? 日本国民の安心安全はどうなるのでしょう。ワクチン接種も行き渡らない、特効薬もない状況で、オリンピックをやって感染が広がったら、いったい誰が責任をとるつもりなのでしょう。

──政府は、選手にはPCR検査の陰性証明を求め、厳しく行動制限するから大丈夫と言っています。

本間 JOC(日本オリンピック委員会)も、選手に関しては徹底管理すると豪語しています。感染していないことを担保する陰性証明を入国ビザと連動させて義務づける、出場予定の5日前に入国、滞在中の行動は厳しく管理し、競技が終わったら3日以内に帰国してもらうとか、いろいろ言っていますが、メディア関係者は対象外です。そもそもメディアの人たちは、あちこち動き回って取材するのが仕事なのですから、その自由を奪うことなんかできません。
 彼らは、24時間、競技場や選手村だけに張り付いているわけでなく、開催都市である東京の街の様子なども取材に回るでしょう。あちこち撮影したり、街頭インタビューしたりする。それが仕事ですから。で、その健康管理はどうなっているかといえば、73億円かけて感染追跡アプリを作ってるから大丈夫、というんですね。

──昨年できた新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAも、不具合が指摘されて使い物にならないと言われています。今から新しいシステムを作るって、大丈夫なんでしょうか?

本間 不可能でしょう。最大の問題点は、たとえそのアプリをメディア関係者のスマホに入れさせたとしても、それぞれがきちんと毎日データを入力してくれるか、何の保証もないことです。健康チェックにしろ、行動報告にしろ、嘘をつかないで正確に決められた通りにやっているか確かめようがないし、守らせるための法的な強制力もありません。
 たとえば、ちょっと熱がでてきたけど正直に報告したら取材ができなくなっちゃう、やばいから適当にごまかしておこう、という人が出てきてもおかしくない。それを誰がチェックするのか。違反したときに法的な罰則を加えることができるのか。できないでしょう。

──宿泊施設の問題もあります。選手の宿舎は個室ではないそうですね。そうすると誰かひとりでも陽性者が出たら、濃厚接触者が次々に出て、ついには選手村全体が閉鎖されるなどということもあり得るのでは?

本間 そうですよね。おそらく国ごとにフロアを割り当てるつもりなのでしょうが、もし感染者が出たらどう対処するのか。そのフロア全体の選手を2週間出場停止にするのか、そのなかに翌日の決勝戦に出場予定の金メダル候補がいてもそうするのか、あるいは検査で陰性と出ればその人だけ出場させるのか。いろいろなケースが想定されますが、それについてのマニュアルがまだ一切明らかにされていない。ぎりぎりになって決めるつもりなのでしょうが、そういう危機管理は事前にきちんと情報公開しなければ、まったく信用されません。

本間龍さん。インタビューはオンラインで実施

3兆5000億円?!ふくらみ続ける経費

──お金の問題も深刻です。招致の段階では、当時の猪瀬直樹都知事などは、これまでにない低予算のコンパクト五輪にする、7000億円でやれると言っていましたよね。

本間 オリンピックにいくらかかるのか、これはひと言では言えません。開催に直接かかる経費として組織委員会や政府が発表しているのは、1兆6400億円です。昨年の段階で1兆3400億円でしたが、延期したことでさらに3000億円が乗っかった数字です。
 ですが、実際の経費はこれだけか、というとそうではない。たとえば東京都はマラソンコースの道路整備などに8000億円使いました。マラソンは結局札幌でやることになって、無駄になったわけですが……。開催のためには膨大な環境整備費がかかるのに、組織委員会としてはそんなの東京都が勝手にやってることで、俺たちは知らないと予算に入れていないのです。でも国民からみれば同じ税金でしょう。
 まだまだあります。会計検査院の2019年12月の発表によると、招致が決まった2013年から19年の間に、国の機関がオリンピックのためとして使った予算は1兆400億円に上ります。

──具体的にはどんなことに使われているのでしょう。

本間 それがまた実にいい加減で、一例をあげれば「水素自動車の実証実験」というのがあります。オリンピックではトヨタが水素自動車を走らせる。その実証実験と称して、ある山村の一画に水素ガス供給センターを1億円かけて作ったのです。でもその村に水素自動車は2台しかないんですよ。そんなもの作って後々どうするんだ、という話です。
 ほかにもオリンピックに何の関係もない橋や道路の補修に使うなど、ここぞとばかり火事場泥棒的にあれこれ突っ込んでいるんですね。

──東日本大震災の復興予算と同じですね。

本間 そうなんです。そんなこんなで、すべて足すと3兆5000億円を超えてしまいます。それでもまだ済まない。コロナ対策費がさらに乗っかって来ます。一応、延期に伴う追加予算の3000億円のうち1000億円はコロナ対策費となっていますが、これはごく基本的な数字で、実際にやるとなったらこれで済むはずはなく、どこまで膨らむかだれにもわからないという状況です。

──空恐ろしいことです。

本間 結局いくらかかるのか、終わってみなければわからないと組織委員会の人も言っています。これまで一番金がかかったのはリオ大会の1兆5000億円と言われていますが、今回はそれを遙かに超えるはずです。

諸悪の根源はメディアがスポンサーになっていること

──膨大な税金の無駄遣い、それに加えてコロナ感染拡大によって国民の命を危険にさらすリスク。菅義偉首相は「人類がコロナに打ち勝った証としてのオリンピック」と繰り返しますが、それができないのは明々白々です。

本間 政府内でもまともに開催できると思っている人はひとりもいないでしょう。ただ、今まであまりにも多くの金をかけてきてしまったから、簡単には引き下がれないというのが正直なところだと思います。
 67社のオリンピックスポンサーに対しても、「今年は絶対開催するから」と言って、昨年12月で契約が切れたのを今年9月まで更新してもらって、それで200億円集めています。ただ、200億円といっても本当にそれだけの現金が集まっているわけではありません。業績が悪化している会社が多いので、航空会社なら選手移動のための航空券を提供しますとか、アパレル企業ならユニフォームを無料で作りますとか、バーターが多いのです。これも実際に現金があるように見せかける組織委員会のペテンですね。

──スポンサーには大手メディアも入っています。そのため中止せよという声が高まらないのではないでしょうか。

本間 諸悪の根源は、大手全国紙5社(朝日、毎日、読売、日経、産経)がすべてスポンサーになっていることだと思います。だから中止という論調が出てこない。最近はどの世論調査でも8割がオリンピック開催に反対しているのに、中止を求める社説は今のところどこの新聞も出していません。新聞が言わないので系列テレビも言わない。ワイドショーや報道番組でも、中止すべきという話が盛り上がりません。
 森喜朗組織委員会会長の辞任騒ぎはさすがに大きく取り上げましたが、では、そもそも開催する意味があるのかとか、そうした踏み込んだ問題はうまくスルーしごまかしています。世論調査では国民の8割が支持していない開催について、すべての新聞が口を閉ざしている、異様なことです。
 記者会見などでも、たとえばコロナ対策は具体的にどうなっているのか、国民の安心安全をどう担保するのかといった質問さえ出ない。戦争中の大政翼賛報道と同じです。

──オリンピックでは、スポンサーにならなければ取材ができないのですか?

本間 そんなことはないでしょう。ただスポンサー優先で、いい場所がとれないとか、後回しにされるという不利益はあるかもしれませんが……。
 僕が調べた限りでは、他国で開催された今までのオリンピックで、主な報道機関がすべてスポンサーになったという例は見あたりません。1社とか2社ならわかるけれど、全社横並びではまともな報道ができるはずはありません。

──ここまで来たら、スポンサーを降りて、はっきりものを言うマスコミが現れても良さそうなものですが……。

本間 どこの社も、そんな根性はないでしょうね。スポンサー契約の更新にしても多くの企業が年末ぎりぎりまで迷っていたのに、新聞各社はいの一番に更新したくらいですから。

続出するボランティア辞退

──オリンピックでのボランティアについても、本間さんはずっと以前から、その劣悪な待遇などについて警鐘を鳴らし続けておられました。コロナの問題などがあって、今ボランティアの状況はどうなっているのでしょう。

本間 組織委員会では延期後も、8万人のボランティア登録者に定期的にメールを出しているのですが、昨年12月のメールに返信が来たのは約2割、1万6000人だったと言われています。やるかやらないかの意思確認ではなかったようですが、2割の人からしか反応がなかった。ですから本当にやってくれるのか、蓋を開けてみなければわからないのです。
 さらに、例の森発言の後には、1000人くらいの辞退者が出たと言われています。それに対して組織委員会は、運用には問題ないとえらそうに言っているし、二階俊博自民党幹事長も「(ボランティアは)いくらでも補充できる」みたいな発言をした。まったく無神経な反応で、ボランティアに参加する人たちへの敬意が微塵も感じられません。
 ともかく、政府や組織委員会が慌てているのは確かで、今年1月にパソナが時給1650円で、ボランティアと同じ仕事内容のバイト募集を始めています。

──医療従事者にもボランティア要請が来ていると聞きます。ただでさえコロナ対応で疲弊しているのに、あり得ない話ですね。

本間 医療系スタッフだけで2万人は必要と言われていますが、今の医療逼迫状況ではオリンピックにボランティアを出す余裕なんてないのは明らかです。なのに森さんの後を継いだ橋本聖子会長は「何とかなる」みたいなことを言っている。今のところ、東京都医師会が関東全域の医師会に協力してもらってボランティアを集めることになっているのですが、それができなければ最後は国が何とかしてくれると、何の展望も無いのにたかをくくっているのだと思います。
 こうしたボランティアの問題一つとっても、本来ならメディアが徹底的に追及して、開催が不可能であることを暴き出さなければならないのに、ことごとくスルーしている。だから政府や組織委員会は「やるやる」と言い続けていられるのです。

女性差別から女性の政治利用へ

──橋本新会長の名前が出ましたが、今年2月、開催予定まで半年余りという時期に組織委員会の会長交代劇が起きました。橋本さんは本当はやりたくなかったと言われていますね? 森辞任は避けられないけれど、抗議の声を無視はできない。だから女性で、しかし森さんに近い橋本さんで何とか片をつけようという下心が透けて見えます。

本間 まあ、五輪担当相だった橋本さんが横滑りするのは、一番妥当な線だったのではないでしょうか。私はダークホース的には小谷実可子さんもありかなと思ってたけれど、行政手腕が問われる役職なので、橋本さんに落ち着いたのでしょう。
 それにしても、組織委員会というのは、オリンピックを開催してもしなくても、いずれにしろ年内で解散する組織です。会長など今さら誰がやっても同じです。橋本新会長の一番の仕事になると思われるのは、中止決断を下すこと。いわば敗戦処理です。
 にもかかわらず橋本さんは「男女平等への取り組み」として、理事会における女性理事の割合を40%に引き揚げると言って、新たに12人も理事を増やしました。今さら? 1カ月後には中止が決まるかもしれないこのタイミングで!? と思いました。
 理事を増やすと簡単に言いますが、ひとりあたり100万円くらいの月給を出すわけでしょう。そんな予算はもうどこにもないはずです。

──私たちにはわからない政治的な思惑があるんでしょうね。森さんの女性差別発言を反省して、女性を登用すると言っていますが、橋本さんも後任の五輪担当相の丸川珠代さんも、男性社会でうまくのし上がってきた「女性の皮を被った男性」という感じがします。問題から目をそらすために女性を政治利用しているとしか思えません。

本間 JOCだけでなくIOC(国際オリンピック委員会)だって、会長も副会長も男性ですよね。ジェンダー平等だのLGBTの人権だの、もっともらしいことを言って神聖化して、もはや「オワコン」であるオリンピックを存続させ、それで飯を食おうとしている人たちの集まりに過ぎません。

──オリンピックそのものが、すでに役目を終えたイベントだということですね。

本間 いわゆる「発展途上国」であれば、オリンピック開催をきっかけに経済を発展させ、「先進国」の仲間入りをするという意味で、利用価値はあるでしょう。あるいは2024年開催予定のパリやその次のロサンゼルスのように、すでにある「遺産」を使って、税金をほとんど使わないでできる、というならまだいいかもしれない。ですが、東京のような過密都市が、既存の施設をぶっ壊し、膨大な金を使って新たに作り直してまでやる意味はまったくないと思います。

中止へ、そして検証と責任追及を

──2月半ばには、島根県の丸山達也知事が、オリンピック開催には賛同できない、県内での聖火リレーの中止を検討すると発言し、注目されました。こうした声が広がって「何が何でも開催」の流れが変わる可能性はありませんか?

本間 丸山知事の発言は、非常に核心を突いていると思います。島根県は聖火リレーのために7200万円を計上しています。一つの県でたった2日くらいの聖火リレーに、これほど巨額の県民の税金を使っていいのか、という疑問は当然のことでしょう。
 しかも、聖火リレーというのは人を集めてなんぼなのに、コロナだから集めすぎるな、密になるなと、めちゃくちゃな指令を組織委員会から投げられるわけです。異議を申し立てるのは首長として当然のことで、ほかの首長もみんなそう思っているのではないでしょうか。丸山知事ひとりの発言で開催を阻止できるとは思いませんが、あとに続く知事や政治家が出てくることを期待したいところです。
 野党にしても、開催中止を明確に主張しているのは共産党だけです。立憲民主党など他の野党もいい加減に見切りをつけて、中止へと舵を切るべきです。世論の8割が開催に反対している、その風を捕まえなくてどうするんだと言いたい。

──やるにしろやめるにしろ、招致からこれまで何があったのか、いくらお金がかかって、どう使われたのかなど、しっかり検証しなくてはいけないと思います。原発事故後の事故調査委員会のような組織を作って、きちんと後始末をつけなければいけません。

本間 その通りです。僕は中止になると思っていますが、そうなったら、さらにひどいことになる。関わっていた人間は沈没船から我先にと逃げ始めるでしょうから、そのときにどれだけ証拠資料を押さえられるか、今から準備しておかねば大変なことになります。僕らのような一般人が資料開示請求しても黒塗りされたものが出てくるだけですから、会計検査院など国権を持つ機関が強制力を持って調査をできるようにしなければだめです。
 中止になって「万歳」でなく、3兆6000億円をどぶに捨てたのは誰だと責任追及しなければならない。これこそもっとも重要な問題です。

(聞き手/鈴木耕、構成/板倉久子)

ほんま・りゅう●著述家。1962年、東京生まれ。博報堂で18年間、一貫して営業を担当。2006年同社退職後、在職中に発生した損金補填にまつわる詐欺容疑で逮捕・起訴され、1年間服役。出所後、その体験をつづった『「懲役」を知っていますか?――有罪判決がもたらすもの』(学習プラス)で作家デビュー。その後、博報堂時代の経験から、原発安全神話を作った広告を調査し原発推進勢力とメディアの癒着を追及。また、東京オリンピックなど、様々な角度から大手広告代理店のメディアへの影響力の実態を発信するなど、幅広く活動している。『メディアに操作される憲法改正国民投票』(岩波ブックレット)、『原発広告』(亜紀書房)、『原発プロパガンダ』(岩波新書)、『ブラックボランティア』(角川新書)など著書多数。