第156回:ヘラヘラ笑ってんじゃねえ!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

ひな祭りに泥を塗ったヤツ

 あんまり腹が立ったもので、つい、ツイッターで汚い言葉を吐いてしまった。
 〈ヘラヘラ笑ってんじゃねえ、丸川っ!〉
 普段は、わりと気をつけながらツイートしているし、罵倒の言葉など、ほとんど使うこともない。だけど、このときは我慢できず衝動的にツイートしてしまったのだ。当然、かなり批判されるだろうと思っていた。だが、なぜか批判の反応はほとんどなかった。というより、皆無だった。
 いわゆる「いいね」をクリックしてくれた数が950超、インプレッションもいつの間にか4万件を超えた。これは予想外だった。みんな、ぼくと同じように感じていたのだろう。それほど丸川氏の態度は腹立たしいものだった。
 さて、その「丸川」とはいったい何者か?
 丸川珠代五輪担当大臣のことである。橋本聖子五輪担当相の後釜として政権の表舞台に再登場した丸川氏だが、脚光を浴びたのは肝心のオリンピックについてではなく、同時に就任した「男女共同参画担当相」に関わる問題だった。
 丸川氏は、3月3日(こともあろうに、ひな祭りの日だった!)の参院予算委員会で、社民党の福島瑞穂議員の質問に対し、何度も回答を拒否した挙句、まるで福島議員を小馬鹿にしたようなせせら笑い(嘲笑)で応じたのである。ぼくはたまたま国会中継でその場面を見てしまった。ほんとうに薄汚いものを見た感覚、丸川(もう敬称など付けたくない!)のマスクの陰の笑いの厭らしさには反吐が出る思いだった。
 それで、あんな罵声じみたツイートをしてしまったというわけだ。どんなことだったのか、東京新聞はこう報じている(3月4日付)。

 丸山珠代男女共同参画担当相は三日の参院予算委員会で、個人として選択的夫婦別姓制度に反対意見を持っていることを認めた。(略)
 別姓を巡っては、自民党の国会議員が賛同する意見書を採択しないよう求める文書を、約四十人の県議会議長らに送付。丸山氏も名を連ねていた。
 質問に立った社民党の福島瑞穂氏は「なぜ別姓に反対なのか教えてほしい」と繰り返し追及。丸川氏は「大臣として答弁に立っており、個人の意見を申し述べる場ではない」と当初は回答を拒否した。野党が反発して議論が複数回中断。(略)
 丸川氏は結婚前の旧姓を名乗っており、福島氏は「自分は通称を使用しているのに反対する意味が分からない」とも指摘。(略)

 この記事は淡々と書かれているが、実際の場面は、そんな穏やかなやりとりではなかった。なにしろ、丸川は8回も拒否を繰り返し、その度に、福島さんをまるで嘲るような薄笑いを浮かべ続けた。

「男女共同参画」という画餅

 福島氏の質問は単純なもの。
 「男女共同参画担当相という立場の人間が、夫婦別姓制度に反対せよという意見書に名を連ねているのはおかしいじゃないか」。それに尽きる。
 ところが丸川は、「ワケの分からないことを言うんじゃないの。おバカさんは黙ってなさい」というような感じで他人を貶める嗤い(「笑い」よりこっちの字のほうが当て嵌まる)を、それも何度も何度も繰り返したのだ。要するに「個人と大臣は立場が違うんだから、そんな問いに答える必要はないのよ」ってわけだ。
 相手を馬鹿にするエラソーな態度、ほんとうに「何様だよ!」と怒鳴りつけてやりたい場面だった。
 しかも質問者は女性であった。もしこれが、男性議員だったらどうだったろう。同じように薄ら嗤いで相手を馬鹿にしただろうか? 少なくとも、あんな嫌味な態度はとらなかっただろう。ここにも、丸川の根深い差別意識がにじみ出ている。

 丸川五輪担当相は、同時に男女共同参画担当相も兼務している。つまり、日本にはびこる男女格差を解消し、真の意味での男女平等社会を実現させるためのものが「男女共同参画」という言葉には込められている(はずである)。自民党政府の言う「男女共同参画」というスローガンは、結局、絵に描いた餅だったのか。
 考えてみれば、結婚という制度の中で、男性側の姓を名乗るということが当然のように考えられている社会を、少しでも平等に近づけるためには「選択的夫婦別姓制度」が必要ではないか、という主張は少しも間違ってはいない。さまざまな世論調査の結果を見ても、選択的別姓制度に賛成するという声が6割を超えているのが現状だ。

 「夫婦の一体感を維持するためには同姓が当然」「別姓は家族の崩壊につながる」などという声がある。あの超右翼団体「日本会議」などの主張と同じである。つまり、丸川はまさに「日本会議」の主張そのものを国会でなぞっているのだ。
 だが、別姓を望む人たちは「結婚は別姓を基本にしろ」と主張しているわけではない。それぞれの姓を名乗りたければ別姓で、一体感を大事にしたければ同姓で、と言っているに過ぎない。それが「選択的」ということだ。要するに、自由にさせてよ、と言っているだけのことなのだ。
 そんな単純なことに、なんであれほどまでムキになって反対するのか、ぼくには理解できない。同姓でも別姓でも、どちらでも当事者がふたりで決めていいんじゃないか、単純に言えばそういうことなのだから。

「別姓使用者」が、なぜ反対するのか?

 実際、福島さんも指摘したように、「丸川」は戸籍名じゃない。彼女の本名は「大塚珠代」というのである。同じ自民党の大塚拓衆院議員と結婚して、大塚姓になったのだ。だがなぜか、「丸川」を名乗り続けている。
 自分で「選択的別姓制度」に反対しておきながら、実質的には「別姓」を通していることになる。ヘンな話だ。
 その矛盾を突かれると答えようがない。だから、相手をバカにしたような態度でごまかそうとする。人間としては最低の部類に属する。
 丸川は、別に大した思想的根拠に基づいて「別姓反対」を言っているようには見えない。その証拠に、この予算委での答弁でも、はっきりとした根拠を示すことができなかった。いや、逆に答弁では、自分が「旧姓使用」することで、いかに苦労したかを“白状”してしまっている。それなら、その苦労をなくすために尽力するのが、「男女共同参画担当大臣」としての当然の役割だろう。
 そこへ思いが至らないのは、結局、丸川がなんらの思想的根拠をも持っていないという証である。多分、日本会議やその周辺の人たちからの選挙協力や票をあてにしているという、政治的思惑だけの人間なのだろう。安っぽいヤツである。

 どうも、自民党の女性議員には、おかしな人が多い。とくに「別姓反対」を唱える女性議員の多くが、実は旧姓使用、つまり別姓を実践しているのだからわけが分からない。自分たちが実践していることを、法的に認めてもらいたいという人たちには反対する。頭がこんがらからないほうがどうかしている。
 こんがらからないのは、深く考えていないからか、もしくは考えるほどの頭脳を持ち合わせていないからか、どちらかだろう。そういう連中に政治をおもちゃにしてほしくない。

せっかく化石男が退場したのに……

 こう書くと「野党にだって別姓使用の女性議員がいるじゃないか、自民党だけ批判するのはダブル・スタンダードだ」などと批判してくる人がいるのは予想がつく。だから、先に断っておこう。
 野党の女性議員の中にも「旧姓使用」者はいる。しかしその人たちは「別姓反対」論者ではない。現に、別姓使用しながら「選択的夫婦別姓制度」を求めている議員たちもいるのだ。そこが自民党議員との違いだ。
 その意味では、福島瑞穂議員は筋金入りの「事実婚」の実践者だ。実質的にパートナーと暮らしていて子どももいる。とても丸川なんぞの歯の立つ相手ではない。それを自覚しているからこそ、丸川はあんなふうに蔑みの嗤いを演じて見せたのかもしれない。

 森喜朗氏という化石男がようやく退場して本物の化石になったところで、やっと女性が表舞台に、という機会が来たのに、それを平気で踏みにじったのが女性だったことにガッカリする。
 そう言えば「女性初の内閣広報官」などともてはやされた山田真貴子氏もまた、入院という汚手で逃げ去ってしまった……。
 男女共同参画社会、道遠し、である。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。