第157回:国民の疑惑を招いている……のは「お前」だよ!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

ご飯論法の醜悪版

 どうも調子が悪い。
 べつに周囲に問題があるわけじゃない。いや、むしろ家庭では、嬉しい出来事があったばかりだ。なのに、どうにも気分は冴えない。やはり「コロナ鬱」なのかなあ……。
 テレビは、映画とラグビーの録画以外はあまり見ない。だから、イヤなニュースの毒気に当たらないはずなのだが、新聞を見るとつい気分が悪くなる。
 国会中継を見ていたら、これがどうも体に悪い。ただでさえ高めの血圧が、もっと上がりそうになる。とにかく答弁がデタラメなのである。

 流行語になりそうなフレーズがある。
 「国民の疑念を招くような会食をしたことは一切ありません」
 この言い回しの発案者は武田良太総務相だが、なぜか菅首相までが使い始めた。まさに、上西充子法政大学教授の命名した「ご飯論法の醜悪版」である。
 つまり「ご飯は食べたか?」と訊かれて「ご飯は食べていない(実はパンを食べていた)」とすっとぼける、あの言い回しである。
 「NTTとの会食はあったか」と問われて、「国民の疑念を招くような会食はしていない」と答える。これおかしいでしょう。「会食はあったか」というのは事実の確認であって「どんな会食をしたか」を訊いているのではない。あったらイエス、なかったらノーと答えれば済む話だ。ところがここで「国民の疑念を招くような……」という妙なフレーズをわざわざつけ加えて、事柄をややこしくする。
 会食はあった、とぼくは思う。多分、大多数の「国民」もそう思っている。だがそう答えれば問題になるから、面倒な説明をくっつけて、あったかどうかをウヤムヤにしようとする。「ご飯論法の醜悪版」と書いたのは、そういう意味だ。
 総務省は電波行政の規制官庁である。電波事業の死活にかかわる許認可権限を持っている役所だ。その元締めの総務相がNTTという会社の幹部と会食していたとなれば、もうその時点で重大な疑惑が発生する。それが分かっているから武田総務相は、口が裂けても「NTT幹部と会食をした」とは言えないわけだ。

カネを払わず飯をおごられることを何という?

 総務省という役所は、なんでこんなに関連会社とズブズブの関係をもってきたのか。それは今に始まったことではないようだ。文春砲がまた炸裂した。そこには、歴代の総務大臣たちもNTTとの会食に応じていた、という記事。となれば、総務省が天領であると思っている菅義偉氏だって無関係ではあるまい。だから菅氏も「国民の疑惑を招くような会食はない」とごまかすしかない。
 元総務相の野田聖子氏も高市早苗氏も、さすがに「会食」は認めざるを得なかった。だが「接待」は断固として否定する。「割り勘だったから」という理由で「接待には当たらない」というのだ。その上で、「自分の分を全額は支払っていなかった」からと、差額をこの件がバレた段階で返したという。会食の直後にきちんと精算していたのならともかく、文春砲で直撃された段階で慌てて差額返却、それで「差額を払ったから接待じゃない」などとよく言うよ。
 いいか、野田よ高市よ、耳の穴かっぽじってよく聞けよ!
 一緒にメシを食って相手方が多く支払っていたというのであれば、それを世間では「接待」と呼ぶのだ!
 この連中には、まったく「世間の常識」ってヤツが通じない。よくそれで政治家なんてもんをやっていられるな。
 そこへ今度は、秋本芳徳前情報流通行政局長もNTT澤田純社長から接待を受けていたし、鈴木茂樹前総務事務次官も同席していたと、総務省が明らかにした。なんでこう、ちょこちょこと小出しにするのだろう。調べたら判明したというのだが、もっとよく調べればもっとたくさんの「怪しげ接待」がぞろぞろ出てくるのだろう。
 小出しでごまかそうとしているのか、それとも総務省という役所自体がもうメチャクチャなのか。
 この役所、要するに上から下まで腐っているのか。だが、こうなると総務省だけか? と疑いたくもなる。この国の多くの官庁が、政治家たちと一緒に泥沼の中で美味しいメシやワインを満喫しているのではないか。それがもはや「国民の疑念」である。ここで徹底的に膿を出さないと、とんでもないことになるぜ、ホントに。
 しかしなあ、そんなにまでして食うメシがうまいのか?

 と、ここまで書いてきたら、疑惑の高級官僚・元総務審議官の谷脇康彦氏が辞職した、というニュースが飛び込んできた。
 何を今更、と思う。どうせ「美味しい天下り先」を提示されての腹切りなのだろう。誰が同情なんかするもんか!

ジイサンたちが幼稚園児の保護者?

 「全日本私立幼稚園連合会」なる組織がある。その会長だった香川敬氏に告発状が出され、警視庁がこれを受理した。なんと4億円を超える使途不明金が判明、香川前会長は預金通帳の偽造を認めているという。ではその4億円はどこへ消えたか?
 この連合会の関連組織に「全日本私立幼稚園PTA連合会」がある。その役員表を見ると、錚々たる政治家の名前が並んでいるから驚く。

 最高顧問:森 喜朗  保護者 元衆議院議員
 会長  :河村建夫  保護者 衆議院議員
 副会長 :遠藤利明  保護者 衆議院議員
 副会長 :山本順三  保護者 参議院議員

 おや、またもお懐かしき森喜朗氏のお名前も。
 でもさ、これはいったいどういうことなの? みんなもう十分に高齢者じゃないか。それなのに「保護者」って何?
 普通、幼稚園児の保護者といえばお父さんやお母さんだろう。あまり祖父なんて聞いたことがない。まあ、代理保護者というのがいてもおかしくはないが、4人がそろって高齢の自民党議員(元もいるが)たちって、なんだか妙な臭いがプンプンしないだろうか。この組織でも、すでに4千万円もの使途不明金が出ているという。さて、そのカネの行き先は……と、疑ってしまうのはぼくだけじゃないよね、きっと。

 ぼくはずいぶん長い間、出版編集者という仕事をしてきた。したがって、一般の方たちよりも少しは「言葉」に敏感だと思う。だから、最近の政治関連の言葉の乱れには頭が痛くなる。
 言葉は変化する。「ら抜き言葉」はほぼ定着してしまった。若者言葉としてときおり批判の的になる「省略形」「新言語」など、言葉を巡るさまざまな「揺れ」については、時代の流れとともにあるのだから、分からないでもない。しかし、同じ言葉を、ずるがしこい逃げの言葉に変換して使う政治家たちには本気で腹が立つ。
 この「接待」を「会合」「打ち合わせ」「時候の挨拶」などと言い換えて恬として恥じない連中には、言葉の真の意味で「責任」を取って、一刻も早く辞職してもらいたいものだ。

 「言葉は生き物だ。いじくりまわせば死ぬ」
 中原中也の言葉だったろうか……。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。