『我らが願いは戦争』(チャン・ガンミョン著・小西直子訳/新泉社)

 10年以上前、中朝ロ国境地域を移動し、中国延辺朝鮮族自治州の州都、延吉市を訪れた際、当地を拠点に貿易を営んでいるビジネスマンに、
「南北朝鮮は統一すると思いますか?」
と聞いたことがある。
 朝鮮語が堪能で、北朝鮮からの魚介類の輸入にも取り組んでいる彼から返ってきた答えは、
「このまま2つの朝鮮国家が存続するのでしょう。分断されてすでに半世紀以上が経ち、その間、両国国民のメンタリティはずいぶん違ってしまいましたから」。
 ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツの国民が抱き合ったような光景は朝鮮半島では見られないーー本書は当時の彼の見方を裏づけるような、いや、それをはるかに凌駕するかのような物語だ。
 舞台は平壌の南部に位置する長豊郡。金王朝は求心力を失い、配下にあったエリートたちのなかには海外へ高飛びする者、身分を隠して潜伏する者など、自己保身に走り、北朝鮮は国家の体をなしていなかった。
 韓国は北朝鮮との間に設置されていた非武装地帯を撤去しなかった。鉄条網は張り巡らされ、地雷も埋められたまま。韓国にとっての統一は、北から物乞いとなった難民が押し寄せてくることに等しいからである。
 金王朝崩壊後の北朝鮮は「統一過渡政府」が政権を握っているが、統治能力は欠如しており、長豊郡はテリム建設/テリム物産なる裏ビジネスを進める企業に牛耳られている。治安維持のために進駐している国連平和維持軍の重要な任務は、北から南へ流れる大量の麻薬や薬物のルートを根絶することだ。
 物語は、朝鮮人民軍から派生し、旧北朝鮮を実効支配する朝鮮解放軍の元兵士、チャン・リチョルを中心に進む。リチョルが所属していたのは同軍のなかでも屈指の精鋭を集めた信川復讐(シンチョンボクス)隊。「軍用犬」の異名をもつ強者だが、山岳を超える厳しい行軍でケガをして遅れをとり部隊を離れた。理由はそれだけではない。その際に目撃したことの真相を明らかにするため、リチョルは落伍者の汚名を負いながら信川復讐隊の人間を探している。
 その過程で彼は3人の女性に出会う。北朝鮮のエリートの家庭に育ったウン・ミョンファ。テリム建設/テリム物産に勤めていた息子を殺されたパク・ウヒ、夫を殺されたムン・グモム。彼女たちの息子と夫は、同社社長であるチェ・テリョンが朝鮮解放軍のトップとともに密かに進める作戦のことを知ってしまい、口封じのために消された。
 チェ・テリョンへの復讐を胸に誓う2人と、子どもの頃に彼女たちに世話になったミョンファに同行するリチョルは、チェ・テリョンの一味と対峙し、一人ひとり殺していくことで、いみじくも自らが求めていた真相にたどり着く。
 500ページ近い本書が描くのは3日間の出来事だ。75年に及ぶ朝鮮半島の分断の歴史を引きずりながら、(無駄を省いたハードボイルドな翻訳の文体により)物語は疾走感を帯びて、一気に結末まで突き進む。
 とんでもない物語を読んでしまった、というのが率直な感想である。

(芳地隆之)