第170回:ウィシュマさん最期の映像を、衆参法務委員会(秘密会)に開示すべき(南部義典)

録画映像はようやく、裁判の中で明らかに

 2021年3月6日、名古屋入国管理局の施設内で死亡したウィシュマ・サンダマリさん(享年33)の事件について、一定の進展がみられました。ウィシュマさんの遺族は現在、弁護士に委任して国家賠償請求訴訟を提起する準備に入っていますが、その証拠保全の手続き(被告=国が証拠となる文書などを廃棄したりしないよう、必要な範囲で裁判所に命令してもらう)の中で、ウィシュマさんが亡くなる前2週間の監視カメラ映像が一部、出入国在留管理庁から遺族側に開示されたのです(10月1日・名古屋地裁)。今後の訴訟手続きの中で、監視カメラ映像のすべてが開示されることになります。遅きに失したとはいえ、事態は前向きに一歩進みました。
 1日に部分開示されたビデオには、亡くなる前日、倒れ込むようにしてバケツに嘔吐を繰り返す様子や、亡くなる当日、ぐったりと倒れ込んだウィシュマさんに何度も呼びかける入管局職員の対応(→しかし、救急車を呼ぶことはしない)が映っていました。思い返せば、8月10日に出入国在留管理庁が公表した「最終報告書」では「ウィシュマさんの死因は特定できない」という結論付けがなされていました。誰もが「不自然、隠ぺい」と直感していたものの、コロナ、東京五輪・パラのニュースに隠れてしまい、しかも国会閉会中で、問題(責任)追及が宙に浮いた感じになっていた点は否めません。
 ビデオ映像の視聴は、内容が内容なだけに、遺族にとって非常に辛いものですが、全面開示を以て躊躇なく、真実、核心に迫っていただきたいと、強く願っています。

衆参秘密会での視聴が不可欠

 ウィシュマさんが亡くなる前のビデオ映像は、遺族はもちろんですが、たとえ間接的にでも国民の知る権利に応え、入管行政の「非違不正」を正す目的で、国会が正面から向き合う必要があります。具体的には、衆議院、参議院の法務委員会で「秘密会」を開いて、当該裁判で開示された同一の映像を視聴すべきです。

▼国会法
第52条(委員会の傍聴と秘密会)
 1 委員会は、議員の外傍聴を許さない。但し、報道の任務にあたる者その他の者で委員長の許可を得たものについては、この限りでない。
 2 委員会は、その決議により秘密会とすることができる。
 3 委員長は、秩序保持のため、傍聴人の退場を命ずることができる。
第53条(秘密会記録の非公表)
 秘密会議の記録中、特に秘密を要するものとその院において議決した部分は、これを公表しないことができる。

 衆参の委員会は、委員長の許可を得て傍聴することができるほか、インターネット中継で実質的に一般公開されていますが、国会法52条2項の規定に基づいて、秘密会とすることができます。「決議」は、出席委員の過半数の賛成で成立します。秘密会となれば、傍聴は不可となり、会議録は原則、公表されません。
 秘密会とすることの意義は、①当事者のプライバシー保護、②国益の確保、にあります。①は論じるまでもないと思いますが、②は、それを公開することにより、入管施設の録画システムの性能(監視カメラの設置場所およびその数、画角、画像・音声の精度など)が判明してしまうことが治安上妥当とはいえないという、別の角度からの要請です。

活用例が少ない秘密会…自民党の二枚舌

 国会法に根拠規定を持つ秘密会ですが、衆参の委員会でそれほど活用されているとは言い難い状況にあります。
 私の最も新しい記憶では(それでも朧気ですが)、2007年11月7日、衆議院テロ対策特別委員会で元海上幕僚監部防衛部防衛課長の寺岡正善氏が参考人招致された回が、秘密会として行われています。2003年2月、海上自衛隊の補給艦から米軍空母に間接給油された燃料がイラク戦争に利用された可能性が当時問題となっていました。幹部(責任者)であった寺岡氏を参考人招致することで与野党の合意を見ていたものの、すでに退役しているため公開の場で発言することを拒んだ寺岡氏の意向を汲んで、自民党などが秘密会形式に替えることを了としたのです。
 また、厳密には秘密会とはいえないものの、非公開で行われている理事会、理事懇談会の場がその代わりを果たすことがしばしばあります。公知有名なところでは、2010年9月7日、尖閣諸島沖で発生した中国漁船衝突事件において、衝突された海上保安庁の船舶が録画した映像が、当時野党だった自民党の強い要求によって、同年11月1日、衆参予算委員会の理事会の場で部分公開されたことがあります(その3日後、当時海上保安官だった一色正春氏が、その映像の全編をYouTubeに投稿しました)。
 過去、案件によっては秘密会に応じ、情報公開を強く求めてきた自民党ですが、ウィシュマさん最期の映像に関しては、先の通常国会(2021年1月18日~6月16日)で、秘密会の開催すら拒んできました。国家賠償請求はおろか、担当職員に対する刑事訴追のリスクを避けようという狡猾さもあったと思いますが、単なる二枚舌に他なりません。
 手続きを経てわざわざ秘密会を開かなくても、各委員会の理事会、理事懇談会で代用すればいいのではないかと思われるかもしれません。しかし、委員会の理事は、各会派の所属議員数に応じて割り振られているため、少数会派は理事を送ることができず、つま弾きになってしまいます。また、秘密会といえども、速記は付することになっているので(国会法第63条)、その会議録(原本)は各議院に保存されます。理事会等の会議録は存在しないので、事後的な閲覧、検証はまったく出来ません。

特別国会後の動きに期待

 直前2週間の録画ビデオが存在し、その内容の一部が報じられた以上、「衆参法務委員会で早速、秘密会開催の段取りをすべき」と言いたいところですが、生憎、衆議院解散・総選挙のタイミングとなってしまいました(10月14日解散、31日投開票が確定)。11月中旬には、特別国会が召集されることになるので、新たな議員構成の下、秘密会を速やかに開いてもらいたいと思います。その動機は決して興味本位なものではなく、およそ病院でない場所で、個人が病死していること自体異常なこととして受け止め、国内事件としてもっと真摯に向き合うべきなのです。立法機能だけでなく行政監視機能も国会は十分に果たすべきであり、政府に対する責任(追及)を尽くしたところで、事件の解決とはいえないまでも、ようやく国民の納得が得られます。
 また、情報公開のあり方に関しても、秘密会の場をもっと柔軟に(政局抜きに)活用することができれば、与野党ともに本来抱え込まなくて済むストレスから解放されるという点も、あえて付言しておきます(とくに近年の与野党間の対立の発端は、この点に起因します)。この意味でも、ウィシュマさんの死は、日本という国のあり方、政治・行政の姿勢を大きく問い続けています。

       

南部義典
なんぶよしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任。現在、国民投票総研代表。専門は国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』『図解 超早わかり18歳成人と法律』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)などがある。ポータルサイトhttps://nambu2116.officialblog.jp/ (2021年10月現在)