『香川1区』(2022年日本/大島新監督)

 立憲民主党衆議院議員・小川淳也さんを主人公にしたドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(以下、なぜ君)は、一部の人からはプロパガンダ映画だと言われた。もしそれが本当だとしたら、昨年秋の衆院選を追った続編『香川1区』は、もっと小川さんのかっこいいところを最大限に誇張して描いただろう。ところが本作は小川さんの弱いところ、今さら触れられたくない過去の失点にあえて執拗にフォーカスを当てる。あの維新候補への出馬取り下げ要請騒動である。
 自民党候補平井卓也氏との一騎打ちを想定していたところに、日本維新の会の新人が突如参戦してきたことに激しく動揺する小川さん。立候補取り下げを本人に直接掛け合ったことが問題となり、SNS上でさんざんたたかれた。それを心配して忠告する政治ジャーナリストの田﨑史郎氏に、小川さんは激昂する。その気迫にたじろぐ田﨑氏。でも別れたあと「ちょっと言い過ぎたかなあ」と電話でフォローする小川さん。
 偶然撮れたというこの数分のシーンは、小川さんのあやうい熱血ぶりをみごとに描き出している。それと同時に政権のスポークスマンとしてしか見てこなかった田﨑氏の、まっとうなお人柄にふれて、ちょっと見直した。

 もう一つ感動的なのは、小川さんの娘さんたちの健気な姿だ。選挙戦後半、「娘です」という家父長制的なたすきを名前入りのたすきに替え、ふたりで父の応援に駆け回る。「父は本当に日本の未来を真剣に考え、18年まっすぐに生きてきました。必ず日本をよくしていきます」という選挙カーからの訴えに、「本人」ののぼりを立て、必死に自転車をこぐ小川さんの姿がだぶる演出には、泣かされた。そして当選が決まったときの「これまで父が負けるたびに、正直者は馬鹿を見るというのが社会の現実だと思わされてきたけれど、正直者の気持ちはいつか必ず届くのだと、今日初めてわかりました」というスピーチにも。

 もうひとつ特筆すべきは、制作スタッフの毅然とした覚悟だろう。街頭演説で『なぜ君』を小川陣営のPR映画と決めつけた平井卓也氏を追いかけ抗議する監督、平井陣営のボディーガードにいちゃもんをつけられながらも、カメラを回し続けるプロデューサー。恫喝され思わず後ずさりする自分の足下をとらえた映像に、映画人の矜持を感じた。
 そして平井氏の政治資金規正法違反、公選法違反の疑いが濃厚な、衝撃の事実が明らかにされる……。

 「なぜ自民党はこれほど選挙に強いのかを知りたかった」と制作の動機を語る大島新監督は、行く先々で自民党支持者たちにマイクを向ける。「県議や市議とのつきあいがあるから」「与党さんと仲良くしとかなきゃ、商売にならん」「国からの公共事業を受注する以上、与党を応援するのは当たり前」「中央からの援助がなければ、田舎は橋一つ造れない」「自治会の回覧板のように、自民党後援会への入会申込用紙が回ってくる。名前を書いて判を押して隣に回すことになんの疑問も感じない」。選挙と言えば自民党一択。生活の隅々に、住民の骨の髄までしみ込んでいるこの現実を変えるのは、容易なことではない。それを成し遂げた小川さんと市民ボランティアの快挙に、あらためて拍手を送りたい。

(田端薫)

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