第582回:勢いが止まらない第6波と、昨年から目立ち始めた「コロナ感染による困窮」の巻(雨宮処凛)

 第6波の勢いが止まらない。

 1月22日には、初めて全国の新規感染者が5万人を突破。東京都ではやはり初めて1万人を超える感染者が確認され、第5波をあっという間に凌駕した。

 そんな中、先週は専門家有志の提言が大きな話題となった。このまま感染が拡大した場合、基礎疾患のない若者は検査しなくても症状のみで診断できるようにする方針を打ち出したのだ。オミクロン株では、基礎疾患のない50歳未満は自宅療養で症状が改善している傾向があるためだという。が、「特定の症状だけでの診断は難しい」などの意見を受け、「重症化リスクの低い若者は必ずしも医療機関を受診せず、自宅療養を可能とすることもあり得る」とする提言を21日、公表。医療機関の逼迫を防ぐ狙いだが、「自己判断で自宅療養するってこと?」「検査も受診もせずに症状が軽ければ普通に仕事に行ったりするのでは?」などの疑問の声があちこちから上がっている。

 私自身もこの提言には多くの疑問を感じるが、心配なのは、検査も受診もなく「自宅療養」となった若者たちに、ちゃんとした医療や生活の支援がなされるのかということだ。

 例えば第5波以降、支援団体や電話相談会には、「コロナに感染し、休んでいる間に貯金が尽きて生活に困っている」などの相談が増えている。それだけではない。今まさにコロナ感染して自宅にいるが、食料を買うお金がなく餓死寸前、といったSOSも入っている。

 ただでさえコロナで減収している世帯が多い中、増えているのは貯金が尽きている人だ。今、新規感染者になる中には、そんな人が多いということを行政はまず頭に叩き込んで欲しい。このままでは、コロナ感染をきっかけに餓死、なんて事態が起きてもおかしくない。

 そうして重く受け止めてほしいことは、今回の提言で「受診せず療養も可」とされた若者たちの中には、貯金ゼロの層が多いことだ。例えば「家計の金融行動に関する世論調査2019年」によると、20代の単身世帯の45.2%が貯蓄ゼロ。実に一人暮らしの20代の2人に1人が「感染して自宅療養と言われてしまったら、療養中の食費をまかなうお金もない可能性がある層」である。

 ちなみにこの調査はコロナ以前の2019年のもの。この2年間、どれほどの人が貯金を切り崩しながら生活しているかを考えると、貯蓄ゼロ世帯はさらに増えているはずだ。

 「自治体から食糧支援がある」という声もあるだろう。が、地域によっては遅れているという話もあるし、検査も受診もしていない層にそれは届くのだろうかという疑問もある。

 それだけではない。自宅療養をすれば、少なくとも2週間くらいは働けないわけだが、その間の生活保障などはどうなるのだろうか。例えば若い世代ほど非正規雇用率が高いわけだが、時給制の場合、2週間も休めば給料は半分以下、10万円を平気で切るだろう。これをきっかけにホームレス化してもおかしくないほどの事態である。傷病手当などの制度もあるにはあるが、そういうものから漏れる人を山ほど見てきたし、そもそもフリーランスは対象にならない。

 「自宅療養で休んだ分のお金は国がきっちり保証しますから休んでください」と大々的にアナウンスされていれば、安心して休むことができる。しかし、そうでなければ無理をして働きに行くだろう。

 コロナ対策で不満なのは、こうしてなんらかの方針が打ち出されるたびに、大きな不安ばかりが呼び起こされることである。飲食店に対する要請もしかり。イベントなどへの自粛要請もしかり。最初から補償とセットで打ち出せばいいものの、中途半端な形で「要請」ばかりが繰り返されてきたことに、どれほどの人の心が折れてきただろう。

 今回もそうだ。受診せずに療養という方向を打ち出すのであれば、療養中の食糧支援や医療へのアクセス、休んだ間の生活費の保証などの全面的なバックアップ体制、そして24時間繋がる電話などの確保という安心感とともに提示されればまだいいのに、いつも不安要素ばかりを突きつけられる。

 もちろん、専門家の提言の段階ではもろもろ難しいのかもしれないが、24日、厚労省はこの提言を受け、外来診療が逼迫した場合、重症化リスクが低く軽症の人は受診せず自分で検査して自宅療養できるようにする、と発表している。これについては、また別の不安が頭をもたげたのだった。

 さて、コロナ禍が始まってもう2年。この間、困窮者支援の現場に身を置きながら痛感してきたのは、「多くの人がコロナ禍によって貧困になったわけではない。コロナ禍をきっかけに、この国の雇用破壊や非正規の使い捨てなどが露呈しただけ」ということだった。

 が、第5波以降、「コロナ感染による貧困」も目立ってきている。

 例えば、電話相談には「コロナに感染し、仕事を休んだら月収が数万円になり生活していけない」などの声が複数寄せられている。その他にも、以下のような声がある。「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも電話相談会」に寄せられたものだ。

 「女性。コロナに感染し入院した。コロナは落ち着いたが肺の状態が悪く一般病棟に移ってそのまま1ヶ月ほど入院した。退院したあと、一般病棟に移ってからの分の請求が16万ほどきた。支払いできない」

 「コロナ感染症で1ヶ月入院して退院したが、在宅酸素をつけるようになり、その費用が3万円かかる。年金収入が2ヶ月で18万あるだけなので、負担が大きい」

 「夫がコロナ感染で重症。入院中。妻の収入では子育てできない。このままでは困窮する」(40代女性)

 「夫がコロナ感染で死亡。年金10万円で病気がちなので、預貯金も近々尽きる」(70代女性)

 「同居の娘が感染。私と妻が2週間自宅待機。私は6割の休業補償で5万円。妻も減収」(50代男性)

 新型コロナの入院費、医療費は原則無料だが、紹介したように、一般病棟に移ったあとの医療費を請求されるのであれば大きな負担だ。また、後遺症の医療費も今のところ公費負担にはなっていない。

 一方、昨年からちらほら耳にするのは「ワクチンの副反応で体調が悪くなり、それがきっかけで仕事を失った」という声だ。私自身は副反応は2日ほどで済んだが、周りには不調が長引いた人もいる。が、今のところ、ワクチン副反応による失職に対する保障などはない。

 コロナ禍から、2年。

 第6波まで来たというのに、あるべき保障が整備されていないことに空いた口が塞がらないのは私だけではないだろう。

 その原因は、今の政治はこの国で暮らす一人一人の「生活」が見えていないことに尽きる。だからこそ、いつも生活の面が置き去りになる。

 このような時期だからこそ、庶民の暮らしが見えている人に政治を担ってほしい。それが今の、一番の悲願である。

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 目次
 はじめに

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  • 人生の経験値は、失敗することで上がっていく 元ひきこもり、元醜形恐怖、元アルコール依存症 月乃光司さんに聞く
  • 弱さをさらけ出すことで幸せになれる 〈弱いロボット〉の研究者 岡田美智男さんに聞く
  • 極寒の北極で失敗しても死なない男 探検家 角幡唯介さんに聞く
  • 「迷惑をかける練習」をしよう 臨床心理士 東畑開人さんに聞く
  • 他人の決めた「意味がある」に振り回されない オタク女性ユニット「劇団雌猫」に聞く
  • 一番幸せなことは、死なない程度に「安心して」失敗できること NPO法人「抱樸」代表・奥田知志さんと元野宿のおじさんたちによる座談会

 おわりに

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。