第177回:参院選と同じ日に憲法改正国民投票を行うことはできるのか?(南部義典)

 「来年(2022年)の参院選までに憲法改正案を固め、同時に国民投票を実施すべきだ」。日本維新の会・松井一郎代表が2021年11月2日の記者会見で述べたことが、今もわずかに燻っています(動画※22:15くらいから)。
 さすがに、今年7月(10日?)の参院選と同日に国民投票が行われると見る向きはないものの、3年に一度の参院選で、今後2025年夏、2028年夏と国民投票が定期的に実施される可能性があるのでしょうか。ここで、予想される憲法改正案の中身はいったん脇に置いて、手続論をベースに検証しておく必要があると思います。
 結論を先に申し上げると、法律(国民投票法)を改正したり、あるいは議院の慣例を無視したりしながら、相当に器用でアクロバティックな国会運営をしない限り、同日実施は「不可能」です。

発議日から60~180日で定められる投票日

 先の議院で、総議員の3分の2以上の賛成で可決した憲法改正原案を後の議院に送付し、後の議院でも同様に総議員の3分の2以上の賛成で可決すれば、憲法改正の発議となります(憲法96条1項)。ここではごく一般的に、憲法改正原案が衆議院(先)から参議院(後)の順に送られる場合を想定してみます。現在開かれている208回国会(通常国会)の日程に当てはめるとどうなるか、という観点でシミュレートしていきます。

208回国会 2022.1.17~6.15
1月11日 180日前
5月21日 60日前
7月10日 投票日

 国民投票法2条1項は、「国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会の議決した期日に行う」と定めています。この規定に従い、仮に7月10日を投票日とすると、1月11日(180日前)から5月21日(60日前)までの間に憲法改正発議をしなければならないことになります。具体的には、後の議院である参議院で可決をしなければならない期間です。

 まず、投票日までの期間が最長となる1月11日ですが、国会召集前(閉会中)なので、そもそもありえないケースとなります。実現しようと思えば、1月上旬(正月明け)早々に国会を召集し、ただちに衆議院で憲法改正原案を可決し、参議院に送付した上で、その参議院で「超・超スピード審議」を行い、可決しなければなりません。この場合、参議院には1週間の猶予もありません。参議院憲法審査会の定例は「水曜日」ですが、一日(1月6日)だけでは当然、審議時間が足らないということになります。
 休日を返上し、一日7時間どころか、10~15時間程度の審議を連続して行うのであれば、予算案の審議に匹敵する時間が確保できるでしょう。ただし、憲法改正原案に関しては「公聴会」の開催が義務付けられており(参議院憲法審査会規程17条2項)、この超・超窮屈な日程の中で開催することを避けられません。

 次に、投票日までの期間が最短となる5月21日ですが(土曜日に当たるので、もし実現するとすれば前日の20日となります)、先のケースよりは余裕はあるものの、それでも衆議院からいつ憲法改正原案が送られてくるのかが鍵となり、参議院での審議期間の確保(審議はいつ始められるのか)が問題となります。
 何より、例年の予算審議の日程を無視できません。衆議院では1月から2月下旬にかけて、参議院では3月のほぼ一ケ月間をかけて、月曜日から金曜日まで連日、予算委員会が開かれます。「憲法審査会は、予算委員会の開催中は開かない」という慣例があることも昨今知られるようになりましたが、衆議院で予算審議が一段落し、3月上旬に憲法改正原案を可決し、参議院に送付したとしても、3月中はその参議院が動かない(動けない)という事情があるのです。

 衆議院の議員定数は465、参議院の議員定数は245(今回選挙より3増となり248)で、憲法審査会の委員数はそれぞれ50、45です。全体として、参議院は衆議院の半分程度の数なので、憲法審査会の委員数も半分程度でよさそうに思えますが、衆議院に近い45名と定められているのは少数会派の割当てを増やす(確保する)配慮もあります。少数会派が比較的多い、参議院ならではの配慮といえるでしょう。少数会派では予算委員会と掛け持ちをする委員がいるため、予算委員会の開催中に憲法審査会を開こうとすると、物理的に出席できない委員が出てきます。無理に押し進めようとすると、議院全体の運営に影響が及んできます。参議院の3月は、与党側として絶対に波風を立てたくない期間でもあります。

 例年、3月末には予算が成立しますが、それを受けて4月に入って、衆議院が憲法改正原案を可決し、参議院に送付するというシナリオはどうでしょうか。実際のところ、これが最も自然なやり方と感じられますが、それでもGWを挟みつつ、参議院憲法審査会(水曜日定例)は数えられるほどの回数しか審議を行えません。どんなに遅くとも、5月20日には審議を終えて、参議院本会議で可決しなければならないのです。結局、参議院憲法審査会は月曜、金曜など定例日以外の開催を余儀なくされるでしょう(火曜、木曜は他の委員会が開催されるため、物理的に不可能です)。

「継続審議」もリスクが高い

 このような論証を進めていくと、「それでは、一つ、二つ前の国会で衆議院から参議院に憲法改正原案を送って、参議院で会期を跨ぎながら余裕をもって審議し、可決すればいいのではないか」という反論が出てくるでしょう。例えば、一つ前の207回国会(2021年秋の臨時国会)で、参議院が憲法改正原案をいったん継続審議とし、208回国会で審議を続行し、最遅の5月20日までに可決すればよいのではないか、といったシミュレーションです。
 しかし、ここで参議院で可決できたとしても、衆議院でもう一度、可決をしなければならないという問題が発生します。衆議院では207回国会で一度可決をしているにもかかわらず、です。「同一の会期内で、衆参両議院の議決が一致しなければならない」という、国会運営上の不文律にぶち当たるのです。
 しかも、この衆議院の二度目の議決に関しては、一度目と同じく総議員465名の3分の2(310名)以上の賛成が得られるのか、という問題(リスク)もあります。参議院の審議を通じて、「やはり反対した方がいい」と気変わりする衆議院議員が出てくることもあるのです。310名というのは絶対的な要件で、1名でも足りなければ否決、つまり「発議の失敗」となってしまいます。

具体的な投票日など想定しない方がいい

 「国会が発議した日から60日以後180日以内」という法的制約、その他、衆参両院の運営上の制約、慣例があるため、参院選と同一の投票日を念頭に置くこと自体、相当な無理があります。むしろ、後の議院、本稿では参議院を想定していますが、会期末ギリギリまで審議を尽くすということを前提にすれば、投票日はおよそ秋、冬のシーズンになると考えられます。元々、「○月○日を投票日とする」とターゲットを置くこと自体(こういう意向が衆議院側から発せられること自体)、参議院の審議権の侵害に他なりません。現実に、憲法改正原案の審議中に衆議院側の誰かが「出口」の話に触れたら、与党も含めかなりの反発が出ることは容易に想像されます。

 ちなみに、ことし4月3日、ハンガリーでは国会議員の選挙(一院制)と同じ日に、児童保護(反LGBTQ)の賛否を問う国民投票が実施されました。案件は、①親の同意なしに、公立学校で児童に対する性的志向に関する授業が行われることに賛成ですか、②児童に対して性的適合手術を推進することに賛成ですか、③児童の成長に影響するおそれのある、性的に露骨なメディア表現が無制約に行われることに賛成ですか、④性別変更の手順に関するメディアコンテンツを児童に見せることに賛成ですか、の4項目でした。政府の公式サイトでは「Védjük meg a gyerekeket!(子どもを守って!)」と児童保護の意義を大きく謳っていましたが、実際には親国家主義、親ロシア派の立場で、性的自由に係る西側の価値観、制度の浸透を嫌うオルバン・ビクトル首相(与党・フィデス=ハンガリー市民同盟)が、「学校教育における反LGBTQ」を喧伝し、保守層の票の取り込みを狙って行ったプレビシット(恣意的な信任投票)に他なりません。
 政府高官は同日実施にすることで70億フォリント(約26億円)の経費節約になると述べており(Daily News Hungry 2022.1.13)、その面での効果はあったとみられます。しかし、総選挙で与党は圧勝したものの、国民投票は4項目すべてが「不成立」となりました。ハンガリー憲法8条4項は、有権者の過半数が有効投票を行わなければならないルールを定めているところ、政府方針に反対し「無効投票」(賛成・反対の両方にチェックを入れる)を促進するキャンペーンが奏功した形です。単純な比較は許されないものの、総選挙と同一日に国民投票を行っても、その結果が予期せず違えることがあることを証明した例です。

 日本維新の会だけではありませんが、参院選との同日実施を唱える論者は、一体どのような審議スケジュールを想定しているのか、具体的に示すべきです。国会の運営に影響を及ぼさない、全然アクロバティックではない方法があるのであれば、ぜひ教えてもらいたいところです。参院選が近づくにつれ、憲法をめぐって威勢の良い発言がどんどん出てくるでしょうが、賛成、反対のいずれの立場であれ、「妄想」に頼る議論は禁物です。

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南部義典
なんぶよしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任。現在、国民投票総研代表。専門は国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』『図解 超早わかり18歳成人と法律』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)などがある。ポータルサイトhttps://nambu2116.officialblog.jp/ (2021年10月現在)